第三話 待つ:夢を待つほど、現実が遠ざかる
第三話「待つ」です。
夢を見ることが、楽しみではなく、待ち続けるものになっていく。
康介は少しずつ、夢と現実の境界に引き込まれていきます。
今回は大きな変化ではなく、静かに広がる違和感を描いた回です。
ぜひ最後までお楽しみください。
寝る前の儀式が、いつのまにか増えていた。
電気を消す。スマートフォンを枕元に置く。目を閉じる。けれど、眠るためではなかった。何を見るかを、待つためだった。
康介は天井を見ながら、今夜はどんな夢が来るのかと考えるようになった。考えること自体が、もう眠りを遠ざけていることに、しばらく気づかなかった。
気づいたのは、土曜の朝だった。布団から出たとき、何の夢を見たのか思い出せなかった。思い出せないことに、康介は妙な焦りを覚えた。覚えていない夢は、当たりも外れも判定できない。判定できないものが、自分の知らないところで動いているような気がした。
その日も河原に寄った。ハルは雨上がりの水たまりを避けながら歩いていた。康介はベンチに座らず、しばらく立ったまま猫の動きを見ていた。
「お前は、夢を見るのか」
聞いても、答えがないことは分かっていた。それでも聞いた。聞かずにいられなかった。
夜、布団に入る前、康介はスマートフォンのメモを開いた。丸のついた項目が、もう二十を超えていた。当たった夢、当たらなかった夢。区別のための丸が、いつからか区別の役目を果たさなくなっていた。
眠りに落ちる直前、康介はふと思った。当たってほしいのか、当たってほしくないのか、自分でも分からなくなっていることに。
その夜は、何も覚えていない夢を見た。
第三話「待つ」を読んでいただき、ありがとうございました。
夢が当たることは、果たして幸運なのか。
未来を知ることは、安心につながるのか。
康介は少しずつ、夢を見ること自体よりも、「次に何が起こるのか」を待つようになっていきます。
便利なものや特別な力も、向き合い方を間違えると、人の心を縛るものになるのかもしれません。
次回も、康介とハルの物語を見守っていただけると嬉しいです。




