第35話 フロンティア
男が逃げた後、もう外も暗くなっていた。
ぶっ壊れたドアをとりあえず軽く修復し、疲れたので私は眠りについた。
窓から差し込む光で目が覚める。
健やかな眠りとはいかなかった。
また夜襲があれば……そう思えば、背中に冷や汗をかいたということは言うまでもないだろう。
……そういえば昨日色々なことがあったから忘れていたが、今日は酒場のマスターから紹介してもらった仲介屋に会うんだったな。
日記のことも気になるが、ミーアが上手くやってくれると信じよう。
というか、今日記関係でできることは私にはほぼない。
だからそこ彼女に依頼したのである。
「ヴィヴィリア、俺は昨日話した仲介屋と会ってくる。
お前はほかの仕事を探しといてくれ。
刺客が来るかもしれない。
お前も気をつけてくれ。」
ヴィヴィリアは頷く。
それを確認し、私は酒場へと向かった。
まだ朝に近いからか、空いていた。
カウンターに眼帯のスキンヘッドの男が座っている。
その男はマスターと会話をしていた。
そして私が入ってきたのを一瞥する。
「お前が、例の紹介を求めてるって奴か?」
ドスの効いた声が響く。
「あぁ。
そうだ。」
「そうか。
じゃあお互いに、まずは自己紹介だな。
俺の名前はベスティ・ベルモンドだ。
みんなからは、ベスって呼ばれてる。お前も呼んでくれて構わん。
俺はフロンティア元々現役だったんだが、今は引退してフロンティアの職員として働いている。」
ベスティが私をじっくりと見る。
恐らく私のことをさりげなく観察しているのだろう。
使えるやつかどうか。
「俺はナナシだ。」
「名前が無いのか?」
私は慌てて手を振る。
「いや、そうじゃなくてだな。
そういう名前だ。」
ベスティは高笑いする。
「ガッハッハッ。
そりゃ少々変わったお名前だな。」
「それはそうとして、フロンティアってなんだ?」
「おっと、説明してなかったな。
フロンティアってのは元々辺境を開拓する人達の集まりだったんだが、今は色んな依頼を斡旋する組織になってる。
まぁ何でも屋集団みたいなものだ。」
「依頼の内容は?
どんなものがある?」
ベスティは顎に手を当てて考える。
「そうだな……
例えば、村の近辺に現れた魔物の討伐から、
商人の護衛、あとは行方不明者の捜索、
まぁそんなところだ。」
こりゃあ、今までやってきたコソ泥よりよっぽどいい。
「で、そのフロンティアってやつに俺を入れてくれるって訳か?」
ベスティは手を振る。
「いや、まだだな。
お前の実力をまず測りたい。
そこで、だ。
訓練として、実際の依頼を持ってきた。」
「それって大丈夫なのか?フロンティアにも所属してない、いわば外部に任せるって依頼主は納得するのか?」
「俺が着いていく。
そして、いざとなりゃサポートしてやる。
それでいいか?」
……それなら、問題はないか。
ただし、サポートするということは、テストとしては不合格。そう捉えるのが正しいだろう。
「で、依頼の内容は?」
首を傾け、骨を鳴らす。
「ハーッ。
話が早くて助かるぜ。
なぁに。
難しいことじゃない。
指定の荷物を指定の場所まで運ぶ仕事だ。」
「あー……。
ええと、それはだな、衛兵に見つかっちゃいけないタイプのものか?」
ベスティは紙を取り出し、それを確認する。
依頼の内容が書いてあるのだろう。
「できるだけ、誰にも見つからないように、とのことだ。 」
……なるほど。
フロンティアのことが少しわかった気がする。
おもっきりグレーだが、私が今までしたことはグレーを通り越して完璧にブラックだ。
私が言えたことじゃないな。
「わかった。それで構わない。
今夜でいいか?」
「あぁ。
今夜ここで集合だ。
俺は遠くから様子を見る。
大事がありそうなら、顔を出す。」
「分かった。
それじゃあ、今夜また。」
ベスティは大きく腕を振る。




