第34話 影に問う
危うく命を落とすところであった。
部屋も散らかって、なんなら玄関のドアは吹き飛ばされた。血も飛び散っている。
とりあえず軽く片付けて、血に汚れたカーペットは水場へ、椅子と机を並べ、そして男を倉庫まで連れていった。
……色々聞かないと行けないことがあるからな。
「起きろよ。」
男にデコピンをする。
こいつと会うのはここ以外手もあった。
最後の盗賊の仕事で会った。
そして私の前に立ち塞がり、ヴィヴィリアを蹴り飛ばした。
しかし不思議なところがある。
こいつに大して私はそれ以上の憎悪を感じていた。
男が目を覚ます様子はない。
……死んでないよな?
胸に手を当てるが、心臓は動いている。
私はその辺に置いてあったバケツを取り出し、水を男にぶっかけた。
男が顔を上げる。
「これはこれは……
随分と手荒な歓迎で。」
ヴィヴィリアが鼻を鳴らす。
「フン。
知ったことか。
今にも殺されそうになった相手に敬意は必要ないだろう。」
「で、色々聞きたいことがあるんだが。
まず1つ。だいたい察しはついてるが、誰の差し金だ?」
「黙秘、とさせていただきます。」
私は男を蹴り飛ばし、頭に銃を向ける。
「どうやら自分の立場がよく分かってないみたいだ。
頭に一発受ければスッキリするんじゃないか?
試してみるか?」
「いえ。
結構です。」
……口が堅いな。
一旦出直すか。
私は倉庫を後にした。
ヴィヴィリアが机の上に座り待っていた。
「どうだ?」
「だーめだ。
脅しても質問してもすかされる。」
私は腕を組む。
「さて……どうしたものか。」
「まぁ予測に容易いことを話そうか。
まず、恐らく、というか十中八九領主の刺客で、日記を奪いにきたと言うのが妥当だろう。」
「まて、日記が奪われたことがわかったなら、そもそも私達を公的に取っ捕まえれば良かったのでは?」
ヴィヴィリアはため息をし、私の方を呆れた表情で見つめる。
「犯罪の記録がこと細かにかかれている日記を奪われた、として公的に取っ捕まえると?」
……ダメだ。ヴィヴィリアに反論すると余計なことにならない。
「となると問題点がある。
私達が日記を奪ったとバレたという点である。
しかし、私たちには都合がいいこともある。
それは私達が現在日記を所持していない点だ。
もし、我々が奪ったとして日記を取り返しに家をひっくり返されても日記が出ることはない。
それ即ち我々があの日にあの場所に侵入したという証拠もないということだ。
つまり我々に今できることはない。
ミーアの返答を待つのみだ。」
「で、結局男はどうするんだ?
殺す?」
自分でも驚いてしまった。
当たり前のように都合が悪いから人を殺すという考えが出てきた。
もう私の価値感はあの頃とは変わっているとはいえ、こんな考えがすぐに浮かんだことに対してはえも言われぬ恐怖を覚えるのだった。
「殺さない方が良いだろう。
我々は、なんか家を襲ってきたヤバいやつを撃退しただけ、という体にした方がいい。
悔しいが、縄を解き解放しよう。」
……どうやらそうするしか無さそうだ。
私が倉庫のドアを開けると、男は既にいなかった。
残されていたのは男を括り付けていたはずの椅子と紐だけだった。
手もしっかりと固く結んでいた筈だが、紐は切られていた。
魔法で切断したか、ナイフを上手く使ったのだろう。
たしかに逃がすつもりではあったが、どこか悔しい気持ちを覚えた。
そして、ふたたび散らかった部屋と扉を見てため息をついた。
ナナシの読書記録
魔法学初級
35ページ
魔法とは
魔法とは、元々は自身の体内の魔力を何かしらの形で放出するという意味であった。
しかし、現在では魔力を使った人工的な技術の総称として使われている。
使う分には簡単であるが、新たに生み出すとなるととてもそれは険しい道である。




