記録67:ソニックブーム直当て兵器
「ほな、そろそろ行こか」
重い腰を上げて、久保田がようやく立ち上がった。
かれこれ半時間ほど話していたが、ようやく移動できる。
彼の話を聞きながら、私も内心ビクビクしていた。
アレックスがいるとは言っても、私のこの足では数十人の敵から方位を受ければ死ぬ自信がある。
戦闘を行くアレックスの背中を見つめ、ゆっくりとその背中を追った。
「なあ、アナ」
急にアレックスが私に話しかけてきた。
「何でしょうか?」
「もしものことがあれば、お前は俺の背中に乗れ」
「......分かっていますよ。あなた以外、頼れそうにありませんから」
「それなら、良かった」
本当は今すぐにでも引きずってもらいたいくらいに足が痛いが、こんな状況なので私も悠長なことは言ってられない。見捨てられて殺されなかった分まだマシだ。
「そろそろ出るで!気ぃつけや!」
後ろから久保田が叫んだ。
前を見てみると、遠くの穴から星の光が覗いている。
やっと外に出られると思いながらも、Sayga12を握る手に力が入った。
アレックスの警戒している方向と反対方向に銃口を向けて睨んだ。
敵のいる気配は一切ないが、油断はできない。敵の司令官は、先ほどの話が本当なら、知将の部類に入る久保田を追い詰めている人間だ。
掃討頭のキレる相手であることは間違いないだろう。
「出るぞ」
アレックスの掛け声とともに、私も外に出た。どうやら、鉄骨の組まれた廃墟にでたようで、周囲には人影もなかった。
安心したのもつかの間、すぐに久保田が無線機をどこからともなく取り出して中国語でどこかと連絡を取った。その間、博士は持ってきていた自分用の武器をカバンから取り出して弾倉を付けていた。
私も銃の簡易的な点検を済ませて、臨戦態勢に移行した。
「今中国の軍隊と連絡を取った。すぐに来るはずやから、ちょっと待っ―――」
ゴオォォォォォォ
遠くから地響きのような音が聞こえてきた。
何の音かと思った瞬間、私の体は宙に浮いていた。
全身の皮膚が避けそうなほどの衝撃波が体を包み込み、鉄骨に衝突した後、地面に落下した。
何があったのかと周囲を見渡すと、ボロボロになった建物と、全身傷だらけになっている久保田とアレックスが居た。アレックスの方はまだ大丈夫そうだが、久保田の方は結構重傷だ。
「久保田さん!」
私がそう言うと同時に、どこからか銃声が聞こえてきた。まだキーンという音が耳に残っているため全く位置が把握できていない。
まずい、と慌てる中、視界の隅に居たアレックスがひょいと立ち上がったかと思うと、持っていたM250を敵がいると思われる方向に乱射し始めた。
ここは一旦アレックスに任せて、私は久保田と同じくらい重傷の博士を引きずって、物陰に隠れた。
久保田は立ち上がって物陰に隠れたものの、依然として生きているかの確認すらも取れないような状況だ。
そして、遅れて今更痛みがやってきた。全身に力が入らない。
博士も久保田も同じような状況になっている。アレックスは継続して戦っているが、そろそろ限界が近いだろう。
ここは...あまり気が乗らないが仕方ない。
「一本注入」
銀の腕からとある薬品が心臓に流し込まれた。
ドクンッ
心臓が爆音で鳴り響き、目が血走る。血管が視界の邪魔をする。全体的に赤くなる。
「赤色...好きですもんね」
自分にそう言い聞かせながら、ショットガンを持って、物陰から飛び出した。
世界が遅くなる。敵は手前に五人。奥に三人。手前は散弾三発で問題ない。
ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!
重低音が鳴り響き、五人の顔に穴が空き、地面に倒れた。
奥の三人の銃口が私に向いたところを、アレックスがカバーして倒してくれた。
「アナ!まだいけるか!?」
「いけます」
あと持って二十秒と言ったところだが、ここでやらねば全滅してしまう。
私は腹をくくって敵の部隊の音が聞こえる方向に一人で走り出した。
角を曲がったところで接敵した。
ショットガンを撃ちきって、のこり三人。銃を敵に投げて腰のナイフで全員の首を刎ねた。
ナイフをしまったと同時に嘔吐し、地面に倒れた。追いかけてきてくれたアレックスが後続部隊に応戦しながら私を引きずってもとの位置まで運んでくれた。
呼吸を整えてすぐに立ち上がった。まだヨロヨロだが、あと『二本』残っている。まだ、戦える。
そう思っていた時、後ろで博士が叫んだ。
「みんな!これを付けるんだ!」
博士がガスマスクを私達に投げた。手早く装着したのを確認するなり、博士は地面にガス弾を撃ち込んだ。
敵勢力の一人が顔を見せた瞬間に眠るように地面に倒れ、後続の隊員は撤退を開始した。 ひとまず敵は押し返したが、久保田の様子が心配だ。
もう意識の飛びかけで立てる様子でもない。
アレックスが久保田を抱えた所で、遠くから古めかしい車のエンジン音が聞こえてきた。
「やっと...きたか......」
久保田がそう言って意識を失った。
どうやら到着したのは彼の作った私兵のようで、これから応急手当をしてくれる場所に向かうということだ。
「あとは頼むぞ」
アレックスが彼らのうちの一人に久保田を預け、私達は急いで博士とその場から離れて中峰のいるカフェまで戻った。
◆
「水原隊長。本当に彼奴等を逃してよかったのですか?」
「問題ない。それに、あの久保田を重傷に持ち込めただけでもこちらの勝ちだ。万が一そのまま追撃戦をしたら、世界最強のサイボーグと名高いアレックスとロシア暗殺代理委員会のアナスタシアの全力を同時に相手しなきゃならなくなる。そうなればこちらがさらに痛手を被る。今回派遣した部隊は、懲罰部隊だから、犯罪者が減るし、まあ国益にも繋がるだろう」
「そうですか。なら、次は―――」
プルルルルルル
「電話だ。後で頼む」
「了解」
ガチャッ
「もしもし、水原です」
『お元気ですか。水原さん』
「天菊戦闘郡長殿!?どうして電話を?」
『簡潔に話すのでよく聞いて下さい』
「はい」
『あなたはもう必要ありません。代わりの者を派遣しましたので、すぐに国に帰ってきてください』
「し、しかし...久保田は...重傷です!暫くは、復帰すらも―――」
『では、どれほどの期間でしょうか?』
「少なくとも、三ヶ月程度は...ですが、それで十分です!また出てきたら倒せば」
『はぁ...全く、あなたを信頼していたのですが、少々期待外れだったようですね』
「くっ......」
『では、あなたを国家近衛隊から除隊処分の後、日本空軍の名古屋空軍基地の管制員に中尉として任命しますから、早急に帰ってきてください。帰ってきたら担当の者が居ますので、詳しく聞いて下さいね』
「......了解」
ガチャッ
樹を器を置くと同時に、扉が開いた。
誰が報告に来たかと思って扉の方を見ると、そこには見慣れない黒コートの男が居た。
「誰―――」
その瞬間、何故か僕の首が飛んだ。
◆
「任務終了」
無線でそうポツリと告げて、後ろを見た。
俺の背中には近衛隊の人間が整列している。新しい指揮官をそろそろ到着するから、昔の司令官は死んでも問題ないという思想を持った人間だ。
全く、気味が悪い。
俺はため息をついて空軍基地から撤退するヘリコプターに乗った。
「出してくれ」
ヘリコプターが離陸すると同時に、通話でもしていたのだろうか、ディスプレイ越しにとある男が俺に声をかけてきた。
「相変わらずだなぁ。ハル」
「ええ、問題ありませんよ。大統領閣下」
俺の目に映る米国大統領、ダニエル・ブラックバードは元気そうに俺に手を振った。
俺はため息を付きながらも、彼に手を振り返して言った。
「これからもどうぞご贔屓に」
お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!
次回『桜花・改』




