記録66:別班出身の男
現地民と中国陸軍の正規兵の戦いを眺めながら、ワイは近くの丸太に腰掛けた。
戦況は現地民の圧倒的不利。まあ、それが普通だ。
まわりを着々と陸上自衛隊が囲んでいるのにもかかわらず、まだ気づいている様子はない。きっと現地民の後ろにワイがいると思い込んで、憎しみだけで戦っているのだろう。
彼らには悪いが、ここで現世から退場してもらう。
「総員、砲撃開始」
各地域に配備された迫撃砲部隊が一斉に火を吹いた。大きな音を立てながら、次々に戦闘区域に榴弾が撃ち込まれている。中国軍は慌てふためきながら撤退を開始した。
しかし、それは出来るはずもない。完全に包囲され、撤退すれば背後から猛烈な追撃がやってくるのだ。
そんなことはいざ知らず、彼らはただひたすらに迫撃砲と、背後と側面からやってきては攻撃を繰り返すワイの部隊にずるずると撤退していった。
しばらくすると、戦場跡には現地民の死体と中国軍の死体が転がっているのみであった。
ワイは無線機を取って言った。
「総員、撤退。これにて第一次沖縄奪還作戦を終了とする」
そして、その日の夜、昼間に熾烈な攻撃を繰り出した陸上自衛隊の影は沖縄本島から消え去っていった。
陸自死者五百名、中国軍死者三千名で、中国軍の辛勝であった。
◆数週間後、鹿児島県某所の基地にて。
「なぜ沖縄を放棄した!?」
政府高官に詰め寄られる中、ワイは大きくため息をついて言った。
「せやかて、何回も言うとりますやろ...?ワイらは少なすぎるんや。もっと軍拡を推し進めな―――」
「それはできない!憲法があるだろう!?」
いつも同じことを言う高官に、ワイはついに頭にきてしまった。
「あんな!この際やから言わせてもらうで!この国はいつまでこの憲法を引きずるんや!?もう、そろそろ百年になるで?民意が〜とか決まりやから〜とか......誰も他の国に占領されることなんか望んどらんやろ?」
「そうだ。だが、決まりは決まりだ。いつだって覆してはならない」
「......ワイがもうチョット上に立ってたら、クーデター起こしてるで」
「それは......反逆か?」
「ああ、反逆や。正々堂々、真っ向から国をひっくり返す」
「そうか......残念だったな。あとで警察を呼んでおこう」
高官が吐き捨てるようにそう言って部屋を出ようとしたときだった。防衛省職員が慌てて部屋に駆け込んできて、叫ぶように言った。
「と、東京が...核ミサイルと思しきもので攻撃されました!」
「何だと!?被害は...それに天皇陛下や大臣たちは?」
「そ、それが、インフラも何もかも停止してしまっているせいで一切連絡がつかず......」
「戦略核やな。さっさと情報統制するんや。前線の兵士の士気に関わる」
「わ、分かっている!だが―――」
この国の今際の際になっても、まだ生き残ろうという意思を見せずに決定事項などというくだらないものにすがりついている高官を見て、ワイはため息を付きながら部屋を出た。
急いで建物を出て、ワイは感情に任せてとある人物に電話をかけた。
「もしもし。大久保さん、駄目でした。すんません」
『君が謝ることではない。それに、私の夢が叶うのだ。それで良い』
「何日後ですか?」
『明後日だ』
「部隊は?」
『もう配備している。精鋭揃いだから、きっと一日で政府は倒れるだろう。気がかりなのは―――』
「警察は抑えてます」
『フッ、なら問題ないな。そちらでも最終調整を頼む』
「了解」
通話を終了して、休憩がてら近くのベンチに腰掛けた。
曇天を見ながら、また大きなため息が出た。いまごろ東京は悲惨な状況になっているのだろうかと、現地に思いを馳せながら目を閉じた。
するとポケットに入れていた携帯に、今度は別の人間から電話がかかってきた。
「もしもし。ワイや」
『報告します。最終プロトコルの終了。近衛隊本部、完成です。こちらにいらしますか?』
「分かった。別班も大変やけど、頑張ってな」
『はい。では失礼します』
携帯電話をポケットにしまい込み、大きく深呼吸をした。
目を閉じて瞑想しようと思った時、またもや電話がかかってきた。
「誰や?」
知らない番号だ。出て良いのか分からなかったが、ワイの番号を知れるほどの人間なので、一応、と思って出た。思えば、これが天菊との出会いだったのだ。
「こんにちは、電話越しですいませんね。久保田さん、私は第二次朝鮮戦争最高司令官の天菊桜と申します」
「そうか......で、その司令官がワイに何用で?」
随分と若い女の声だった。顔に出ているだろうが、まあ見られていないだろうから、声だけは一般人を偽っておこう。
『久保田さんには国家近衛隊の総合作戦司令長官を努めてもらいたいのです。詳しいことは近衛隊本部でお話し致します。是非、いらしてください』
「考えとくわ」
今度こそ電話が終了し、ワイは大きいため息をついた。
空を見て、呟いた。
「なんか、雨降りそやな」
◆一週間後、日乃本 国家近衛隊本部
「いらしてくれたのですね」
丁重に出迎えてくれた天菊は、ワイの顔を見て微笑んだ。
しかし、周囲の護衛はワイに銃口を向けていた。
「何のつもりや?」
「こっちのセリフですよ。あなたの情報をあさっても、何もでてきません。家族関係、交友関係、年齢や生い立ちさえも。どこに隠したのですか?」
「それは―――」
「僕が抹消しておきました」
天菊の傍から、一人の男がひょっこり出てきた。
「山原が......なるほど、それならもう深追いはしません」
天菊がそう言うと同時に、ワイに向けられていた銃口は山原の方向を向いた。
「さ、久保田さん。ここに来たということは、あの話、飲んでくれたのですね」
「まあ、試験的にな」
「では、行きましょうか」
山原は彼女の護衛に連れられ、どこかに行ってしまい、それとは反対方向、近衛隊の第一戦闘郡長執務室にワイは通されたのだった。
お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!
次回『ソニックブーム直当て兵器』




