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記録58:広州塔

「なあ明日香、広州塔には行かなくても良くなったが、どうする?なにか情報のつてはあるか?」


アレックスの質問に、僕はワンから先ほどもらった紙切れを見せて言った。


「実は知り合いから情報をもらえるかもしれないんだ。この紙によると、今日の夜十一時、広州塔前に集合とのことだ。銃は持ってこないことって書いてるから...ラシード、私と一緒に来てほしい。もちろん、剣は持ってきてね」

「とんだ屁理屈だね、だが、その話、受けよう」


ラシードが僕についてくるということなので、残り三人は外で待機及び周辺での聞き込み任務だ。

ウーヴは死んじゃいけない代表二人が死地に行くといって喚いていた。アレックスが米帝野郎と影で言っていたのは黙っておいた。


◆西暦二〇五一年 三月三日 午後十一時 広州塔前


少し早い春の夜は、広州塔の灯りで遮られている。

僕達は広州塔前にスーツを着て待機していた。そして十一時ぴったりになるとワンが一人で現れ、僕達を広州塔の内部に案内した。

昇降機は電力不足により動いていないため、最上階まで階段を使った。三十分ほど昇った所で屋上に到着した。


本来、ここはただの電波塔だ。盗聴の心配がないからという意味での選択肢かもしれない。

僕は呼吸を整えてから、彼に聞いた。


「なんの用?」

「まぁまぁ、まずは、この中国の、景色を見てご覧よ」


ワンはそう言って両腕を広げて中国の景色を見るように言った。

僕達が目を向けると、そこには小さな都市と、遠くに見える炎の光が見えた。


「これが、今の、広州さ。日夜問わず、戦争ばかり。中央政府に、牙を剥いたって、何も変わらない。このまま負けて、全員処刑だ。だから、僕には、作戦がある!君たちには、それを、手伝って欲しい」


彼は僕の方を向いて言った。目を開いている。赤く、強い目をしていた。この男なら、きっと中国に安寧を取り戻せる、そう思ってしまうほどに。


「良いよ。それで、私達は何をすればいいの?」

「明日香...!?本当に手伝うのかい?」

「彼ならきっとやってくれる。若い頃の大久保と同じ、そういう目だ」

「......君が、そこまで言うんなら、僕達アル・ハラータもある程度は協力しよう」

「「えっ」」


僕とワンは同じことを思った。『どこまで権力強いんだ、この子ども』と。僕は改めて、ワンは初めて彼がかなりの大物であることを認識させられた。


ワンは平静を取り戻してから、言った。


「一体、君は何なんだ?アル・ハラータの、構成員が、なぜ、ここに?」


僕も聞きたかった。聞いたらいけないことと思ってずっと聞いてこなかったことだったのだ。ラシードはまってましたと言わんばかりに胸を張って答えた。


「僕はアル・ハラータ第一少年宣教師隊隊長兼対外政務主席。アブラハム・アル・シャムシール=ラシードだ。公にはアブラハムと名乗って他人の皮を被っている。以後、よろしく。明日香、王」


しばらく声も出なかった。これだけ役職がてんこ盛りな少年なんて見たことがない。


それに、第一少年宣教師隊といえば、ゴリゴリの精鋭部隊だ。布教という名目で強制的に改宗(隠語)させる集団だったはずだ。イスラエルにも外遊と称して何度も突撃していたはず。

そして、対外政務官主席となれば、外務大臣のような役割だ。顔だけ他人に貸していたとなれば、何処にもバレなかったのも納得がいく。


「まあ、中国は、いつも、異民族の、力を借りて統一を、成し遂げてきたから、無問題だ」

「確かに、そうだね。中国らしいやり方だ。なら明日香も日本の力を貸すことは出来ないかい?」

「日本は北に出現した満州国を支援しているんだよ?そんなの、無理だと...無理じゃないね。一つだけ、行ける道があるかもしれない」

「何だ?」


ワンが食い入るように聞いてきた。

しかし、彼が思っているよりも、画期的なものではないだろう。なにせ、元の中華人民共和国よりも随分領土が狭くなってしまうのだから。


「日本と、ロシアに、それぞれの支援している派閥に総攻撃を仕掛けてもらうんだ。もちろんこの軍閥派の事は伏せてだね。その後、どうせ膠着するだろうから、そこで軍閥派が中央政府と和解して合併、自由派は先に潰しておいたほうが良いかもしれないね。それで、残った二つの派閥と戦闘をしてもとの前線まで押し返して、別々の国として条約を結ばせるってやりかたなら、私にも出来るけど...それ以外じゃ、多分近衛隊は読んでくる。合併した瞬間に満州と中華派が同盟を結べば不味いことになるだろうし―――」

「よし、その話。乗った!」


ワンが即決した。危なすぎる橋だと説得を試みたが、彼は喜んでいるような表情を見せて言った。


「実は、人民解放軍の、核爆弾は、全て軍閥派が、保有している。だから同盟は、そう簡単に、結べないだろう?それに、領土が小さくなるなんて、どうでもいい。中元さえ、支配できていれば、満足さ」

「結構謙虚な中華思想だね。明日香、もうこれで良いんじゃない?後の細かい作戦は彼らに任せようよ」


絶対になにか裏があると思いながら、僕は頷いた。



広州塔から降りると、一般人の服装になっているアレックスとアナスタシアがいた。ウーヴはまだ一人で情報収集を行っているようで、明日の朝には合流するそうだ。

さすが米国特殊部隊の小隊長だと感心していると、夜中の閑静な商店街のような道に、一つだけ明かりのついている店があった。わざわざこの時間だけを狙って開けているのだろう。


僕達は客が来ないなんて百も承知のはずなのにと思って覗いてみた。すると、そこには見知った三十路独身女性少佐がいたのだった。

お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!


次回『SAFE HOUSE』

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