記録59:SAFE HOUSE
私は、振る舞ってもらったコーヒーを一口啜り、カップをテーブルにおいて話しだした。
「少佐、何でここに?」
「天菊からの指示よ。明日香さんはどうせここにいるからセーフハウスでも構えてなさいって。まさか本当に来るとは...明日香さん、何したの?」
「中峰少佐こそ、天菊戦闘郡長が何をしようとしているのかをご存知で?」
「......いえ、知らないわ。一体何をしようとしているの?」
「手法はわかりませんが、世界を終わらせようとしているかもしれません。この前に、天菊と話した時に、それらしきことを言っていました」
中峰はコーヒーを少し飲んで、カップを揺らしながらため息をついて言った。
「天菊さんがそんな事を考えているとは思えないわ......でも、あなたのいうことが嘘だとも思えない。だから、少し私の方で調査をしておくから、この事についてこれ以上のことはなしでお願いね」
「はい。では、別件になるのですが久保田さんに連絡は取れますか?」
空になったカップを置いて、中峰は真剣な顔になって言った。
「あなた、知らないの?」
「何をですか?」
「久保田さんは今、諜報部から粛清命令が出ているのよ?彼の連絡先なら、知っていても教えられるものではないわ」
「...彼がなにかしたのですか?」
「いえ、詳しいことは分からない。でも、反乱を企てているっていう趣旨の話は聞いたわ」
「そうですか。でも、久保田さんの連絡先を知ることは出来るんでしょう?」
僕は彼女に圧力をかけた。後ろにいるアレックスとアナスタシアも怖い顔をしていた。
「駄目なものは駄目よ。これは決定事項なのだから、大人しく従いなさい」
「はぁい」
僕は立ち上がって店の裏手に回った。今日から暫く、ここに泊めてくれるそうだ。
密集した建物群の三階の小さなビルを貸し切っている状態なので、一階がカフェ、二階が作戦会議室と宿舎、三階が武器庫となっているようだ。
階段を上がって二階にまわり、僕の名前の書かれた扉を開けると、そこには久しぶりに見た顔がいた。
「あれ?君...」
「あ、お姉ちゃん。久しぶり」
「えっと、たしか......」
「もう、境時 杏子だよ。ほら、病院で会ったでしょ?えっと、お姉ちゃんの名前は...」
「私は山雁 明日香。久しぶり、ね。境時さん。病院以来、だいたい三ヶ月ぶりね。元気にしてた?」
「うん。お姉さんは...なんだかボロボロだね。何があったの?」
「えっと......船から落ちたり、爆発に巻き込まれたり、サイボーグと戦ったり、かな」
「うわぁ...」
杏子が僕を人間ではない怪物を見るような目で見ていた。
苦笑いだけを浮かべて、僕は荷物袋を自分のベッドの上に置いた。その瞬間、袋から拳銃が転げ落ちた。
急いで拾おうとした所で、杏子がさっと拾い上げ、まじまじと眺めた。
危ないから返してねと言いながら手を伸ばしたとき、杏子は彼女のスーツケースから、おもむろに謎の機械を取り出して拳銃にかざした。機械のランプが赤く点灯した所で、杏子はすぐに僕に拳銃を返して、彼女の持っていたバソコンに文字列を打ち込んで僕に見せた。
『盗聴器とGPS入りです。気をつけて下さい』
危うく声が出そうになるほど驚いたが、僕は一旦取り留めもない話をしながら、ペンと紙を取って急いで『一旦二階の武器庫に保管してくる』と書いて彼女に見せた。
彼女は頷いて一旦、武器は三階に仕舞って来てと言った。
彼女の言葉通り三階に移動し、拳銃を店の一番奥に投げ捨てるように仕舞い、僕は別の武器を取った。
日本製の銃で八菱重工業『YAT2049』だ。9x19mm弾の為、使い勝手が良く、僕の体格でも十分に扱えるのだ。腰のホルスターに拳銃を入れ、特注のコートの内ポケットに弾倉を三つ入れた。
ラシードから貰った剣と合わせて使用することにして、僕は二階に戻った。
杏子は僕が返ってくるなり、さっきの機械をパソコンに接続して何やら作業をしていた。
「何してるの?」
僕が聞くと、彼女は寸分遅れて、ポツリと呟いた。
「データの発信先。そろそろ分かるね」
何やら読込中の文字の後、世界地図が画面に表示された。地図には一点、データの発信先と見られる場所が赤く光っていた。
「アレクサンドリアか...ラシード、君は一体...どっちだ?」
僕が呟くと、杏子は言った。
「敵じゃないの?」
「これだけじゃ、分からないんだ。拳銃を渡したのはファールキーって人だし、ラシードとファールキーは仲が良さそうに見えたんだ。でも、そのやり取りに若干だけどぎこちなさを感じたの。だから、万が一、全部仕組まれていてラシードの命が狙われてるなら...」
「まずいね。一回そのラシードって人を尋問しなきゃだめなの?」
尋問、こんな小さな女の子からそんな言葉が出てくるなんて、と思った矢先、誰かが猛スピードで二階に上がってくる音が聞こえた。
扉を蹴破るように開けたのはラシードで、肩には血が滲んでいる。
後者だったのか...!?
「襲撃が来たんだが、事情は後だ!今は逃げるぞ!明日香とそこの小さい女の子!」
「了解!境時さん!行くよ!」
「はい!」
杏子は自分のパソコン一式のトランクを軽々と抱えて、僕達と一緒に店の裏手から狭い路地を抜けた。
◆
それから、一番安全な所に向かうため、軍閥派本拠地に向かった。
軍閥派本拠地は、広州の少し外れにあり、完全に要塞化された作りになっており、僕達が到着するなり、巡回の兵士が僕達を捕まえ、そのまま内部へと連行された。
取調室には、戸惑っているワンがいて、事情を簡単に話すと、彼はすぐに僕達を釈放して地下にある客間に通してくれた。
お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!
次回『NOT SAFE HOUSE』




