記録52:ソ連の賜物
その日、空から大量のミサイルが降ってきた。現地の将校は私以外がほぼ全滅。そして後からやってきた北朝鮮と中国の特殊部隊により、私自身も致命傷を負った。
なんとか逃げることができたものの、傷が深く、一度眠ってしまえば死んでしまうような傷だった。
そんな時、何処かから声が聞こえたのだ。『助けて』と。
私はその声に導かれるがままに体を引きずり、ついに山間の古びたコンクリート造りのバンカーを発見した。誰も居ないようで、私はそのバンカーに吸い込まれるようにして入っていった。
血を流しながら、私は助けを求めていたものを発見した。
「...みみず?」
鉄製の頑丈そうな球体からはみ出ていたそれは、意思を持っているかのように動いていた。
そして、少し縮こまったかと思うと、私の口に向かって飛び込んで、そのまま胃の中へと入っていった。
突如、急激な意識の低下を認識した。体が誰かに乗っ取られる感覚がした。脳が震えて、脳幹が引きちぎれそうな感覚、体中の細胞が私の言うことを聞かない。視界が暗くなった。手足の感覚がなくなった。
心臓の鼓動が早くなる。乗っ取られる、ということを認識した。
死にたくない。
死にたくない、死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!
「死んで......たまるかぁっっ!!!!」
一瞬制御を取り戻した体で、全力で自分の腹部に拳を入れた。
胃袋が敗れたかのような衝撃とともに、私の口からミミズが飛び出てきた。まだうねうねしている。
「死ね」
靴の裏ですり潰した。
そこで私は何を思ったのか知らないが、その亡骸をもう一度口の中に運び、今度はよく咀嚼してから飲み込んだ。体を乗っ取られる感覚はなく、逆に力がみなぎってきた。傷は全て回復していることに気づいたのもその時だった。
おそらく、体のほうがミミズを取り込めば傷がいえることを先に気づいていたのだろう。
私は落ち着くまで暫く近くの柱によりかかり、目を閉じた。
深呼吸を繰り返してから立ち上がって、近くのテーブルにおいてあったボロボロの書類を見つけた。
ロシア語で書かれていたので、ある程度翻訳した。どうやらソ連時代にこの地区に持ち込まれた秘密兵器だったようで、このエージェントの一部を接種すれば、意識を乗っ取られることなく非常に強い兵士を作ることができたようだ。
具体的には頭が吹き飛ぼうとも数回は復活できると言ったものだ。
私はその全てを取り込んだので、恐らくそれ以上だろう。
私は他にも、初めてカリスの方舟のことについて知った。エージェントの二分の一はもう殆ど生きておらず、その残りはソ連率いた社会主義国の最前線におかれているようだった。後は生き残っているエージェントについても詳しく書かれていた。
後ほど回収することにして、私はとりあえず別の資料を読み漁った。
すると『エージェント専用弾丸』と書かれた書類が見つかった。
この書類によると、弾丸は米国とソ連の共同開発の末、いつか人類が絶滅の危機に瀕した時に世界中にばらまかれる予定だったそうだ。
だが、まだばら撒かれておらず、ソ連の後継国家のロシアでさえこれを知らないようなので、米国も忘れている可能性が高い。つまり実質今この情報を握っているのは日本だけということだ。
私は全ての書類をしまって、一旦外に出た。まだ近くに敵兵士がうろついている。私は銃を取って、処理できるやつから順番に倒していった。だが、銃声を鳴らしていたらバレることは必至なので、私はいくらか銃弾を食らった。致命傷も何度か負ったが、全て瞬く間に回復して先頭が終了することには戦闘服が血で真っ赤に染め上がっていた。
着替えることも出来ないので、私は一度司令部跡に戻った。死にかけの現地将校が隔離されているテントに入って、軍医に自分の無事を確認してもらい、私は新しい戦闘服を受け取った。
そして、ここに来たということはもう一つやることがある。
そう、意識の乗っ取りだ。乗っ取りは先程のミミズもどきにしか出来ない芸当だったので、それを吸収した私なら、ある程度は使えるのではないかと思ったのだ。
「一佐殿。少し失礼しますね」
私は意識のあるの彼の額に手をやった。一瞬手に電流が走ったようにしびれ、彼の思考が手に取るように分かった。今は家族と国のことを考えているようだ。さすがここまで上り詰めた人だ、何処まで言っても国がついてきている。
「一佐殿、私にこの戦場の『全ての』権限を委任してくれませんか?」
一か八かで聞いたが、勿論答えはNOだった。私は彼の記憶の一部を握り、もう一度同じような質問をした。
「私に『全権限』を委任しなさい。さもなければ、あなたの記憶は抹消します」
彼は目を白黒させながらも、現実をかろうじて受け止めきれたようで、頷いた。それから順番に将校たちから指揮権を剥奪し、全権限が私に移行したことを確認し、私は生き残っている全ての部隊に通信した。
「これより、この戦場の全識見は天菊 桜二尉が握りました。まず皆さんには安心して戦争をしたもらうために、一度後方にさ退いて下さい。作戦を伝える者を送っておきます。繰り返します―――」
私は完璧な作戦を持った伝令兵を大量に送った後、壊滅状態となった司令室に、一人で座っていた。空を見上げると、まだ数機の空自のF-3が飛んでいるが、制空権はもう自衛隊が取り返した頃だろう。
そろそろ物資も到着するはずだ。
「これから大変だなぁ...ここに彼がいれば、話し相手になったのにねぇ...」
一人で山原を恋しく思いながら、空を見上げ、ため息をついた。
お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!
次回『爪、再来』




