記録53:爪、再来
アレックスとアナスタシアが返ってくるとほぼ同時に、僕達は信じられない来客を迎えていた。
「ウーヴ、一体何しに来たんだい?それも、一個小隊まで引き連れてモスクに空挺降下だよ?アル・ハラータの逆鱗に触れてもおかしくないことをしてまで僕を殺しに来たのかい?」
僕を護衛しているアレックスとアナスタシアが武器を抜いて、今にも彼女たちに襲いかからんとして殺気立っている。ラシードやアブラハムも剣を抜いている。
僕だけだろう、何もしてこないと分かっていてもひたすらに挑発を続けるようなバカは。
「明日香さん。貴女にはお伝えしなければならないことがあります」
「それは、Code:Claws一個小隊を引き連れてまで言いに来ないといけないのかい?また力で征服しようとするんじゃないだろうね?」
「それは承知しています。アル・ハラータとの関係を悪化させるのは私の仕事ではありませんから」
「そう。じゃあ、一体どんな情報を持って来たんだい?」
「天菊は、知っていますよね?彼女が日本に三体いる方舟のエージェントのひと―――」
「知ってる。さっき聞いたよ。いつぞやに取り込んだらしいね。日本にいるあとの二人も大体検討はついているんだ」
「なら、それなら!どうして彼女たちに組みするのですか?」
必至に抗議するウーヴに、僕はため息をついて言った。
「方舟のしようとしている事がわからない以上、私の今の生活に満足しているから、世界の秩序がどうなろうと知ったことじゃない。それに、この前も言った通り、今の秩序なんて、合衆国の権威主義で固めたものじゃないか?」
僕の言葉に、ウーヴの顔が曇った。後ろに控えている隊員も、フルフェイスヘルメットを被っているせいで何も見えないが、武器に若干手が近づいたように見えた。
アレックスは僕の前に立ち、剣を構えた。アナスタシアは回り込むようにして彼らの側面に回り込んだ。
一触即発とは、まさにこのことだろう。
次の一手をウーヴに預け、僕はそれを静かに見守った。
彼女は腕を上げて隊員の臨戦態勢を解除し、落ち着いた声に戻って言った。
「なら、今聞いて下さい。一体何が目的なのかと」
「いいけど、私なんかには多分答えてくれないよ」
「それはそれで貴女に不利益を被ることになると天菊も分かっているのでしょう」
「......はぁ、分かったよ。少し向こうにいってるから、ナターシャとアレックスは見張りをお願い」
「「了解!」」
◆
「天菊戦闘群長殿。先ほどぶりですね。早速ですがお聞きしたいことが」
『何でしょうか。山雁さんの権限の中ならばすべて答えましょう』
「では、天菊戦闘群長殿。あなたの計画の最終目標は一体何でしょうか?」
マイク越しの天菊の声が若干曇った。どうやらなにか来客がいたことは察しているようだ。
『日本のためですよ』
ただ、一言そう言っただけだったので、僕はさらに追及した。
「あなたの思い描く日本のためですか?」
『勿論。それには多少の犠牲がつきまといますよ。私含め、恐らく世界中で数十億人は死ぬでしょうから』
「え!?」
サラッととんでもないことを言った天菊に、僕は耳を疑った。彼女はさも当たり前かのように続けた。
『この世界を浄化し、強化した人類のみを後世に残します。そのための土台はもう整っています。遅かれ早かれ、もう実行されてますから、別に離反しても良いですよ?』
「なら、私の生活は保証されますか?」
『ふふっ、勿論です。大切な人を殺すなんてしません。あなただけは天寿を全うさせてあげます』
「そ、そうですか...もう、通信を切りますね」
『はい、さようなら。また今度、日乃本にも帰ってきてくださいね』
ブツッ...通信終了。
まずい。まずいぞ、これは。案外すんなりと野望を語ってくれたが、もう後戻りできないって...どういうことだ?
まあいい。今は一旦彼女たちには嘘をついて誤魔化しておこう。もしもバレてしまえば人質に取られかねない。そうなれば、余計に動けなくなる。
僕は部屋から出て、ウーヴたちのもとに戻った。
「どうでした?」
「一切教えてもらえなかったね。貴女にはその権限がありませんだってさ」
「...確かに、彼女なら言いかねませんね。なら、することは決まっているでしょう?」
「探る...か。結局こうなるんだね」
僕はため息をついて彼女たちとアレックスたちに言った。
「なら、行く先は中国だ!」
「日本ではないのですか?」
アナスタシアが即座に質問してきた。良い着眼点だ。天菊に探りをいれるなら、一番最初に思い浮かぶ諜報先は日本だろう。しかし、日本に行くとなると、あの国は情報統制が効きすぎていて、ろくな情報も入ってこない。しかも、天菊の本拠地となれば、それだけ手強い敵も出てくるだろう。
もしかしたらミサイルだって打ち込まれるかもしれない。
なら、中国ならばどうか。
あの国は現在、北京一体を支配している旧政府派、旧政府派の西側の高原地帯を支配し、強烈な帝国主義政策を推し進めている中華派、南部に展開する人民解放軍の反乱軍である軍閥派、海岸を緩やかに保持しており、合衆国の指示のもとで強力な兵器を保有している自由派、そしてなぜか北部の突出部分、朝鮮半島北部に発生した満州国だ。
まあ、満州国の発生原因など、分かりきっていることだ。天菊があの国の混乱をさらに進めるために設立したものだろう。現に、満州国の皇帝は中国語の話せる日本人という噂も出回っている。
と、まあ中華人民共和国という国家はいずれも存在しておらず、今は大戦の費用と、その前から引きずっていた不景気のせいで内戦状態だ。国家元首の交代による社会の不安定化もあっただろう。
僕はその旨を皆に伝え、納得してもらった。
さて、次にすることは...
「じゃあ、私と一緒に中国に潜入してくれる人を決めよう。この中から、私含め五人程度だね。じゃ、付いて来たい人、挙手!」
手を上げたのは、ウーヴとアナスタシア、アレックス、それからアブラハムの静止する中、誰よりも高く手を挙げたラシードだった。
お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!
次回『爆速解決、後出発。』




