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記録33:銀腕の乙女、再来!

しばらくして、中峰のカフェにて...(西暦二〇五一年 二月 二二日)

「―――って訳なんだ。金は一千万円位は出せるよ」


僕はテーブルの向かい側にいる、真っ黒のコートを着ている協力者に向かって言った。一千万円という大金は、すべて天菊から中峰経由で僕達に降りてきている。もちろん極秘で国家財政から支出されているのだ。


「それで、私に依頼したというわけですね?」


僕が頷くと、協力者は首元にぶら下げている小さな十字架をつまんで、僕の顔を見て言った。


「分かりました。私にお任せ下さい」

「ありがとう。ナターシャ」


彼女は、言ってしまえば傭兵だ。金さえ積めば大体の依頼は受けてくれる。僕は金の入ったアタッシュケースを彼女の前に差し出した。


「とりあえず、一千万円。すべて成功すればもう少しは出るはずだから、期待しておいてね」


彼女は金を受け取ったものの、少し困ったような顔をしていた。理由を聞いてみると、彼女は逆に僕に聞いてきた。


「どうして自分を殺そうとした相手をすぐに雇うんですか?」

「べつに、傭兵なら金で雇えば後ろから銃口を向けられることはないでしょ?」

「それは、そうですけど...」


口ごもるアナスタシアに、話題を変える意味も込めて彼女の持ってきた大きな箱を指さして言った。多分中身は銃なのだろうけど、この前の彼女のショットガンはアレックスが破壊してしまったから、何の武器を持ってきたのか気になったのだ。

恐らくアサルトライフルだろうが、今回ばかりは骨董品でないことを祈ろう。


「今回はどんな銃を持ってきたの?」


彼女は少し周りを見渡してから僕に言った。


「ロシア軍最新式小銃のAK-147です。AK-47が出てからちょうど百年後の銃です。つまり二年前の銃ですから、安心して下さい。骨董品ではありませんから」

「そう。良かったよ。それで、性能はどうなの?どんなカスタムしてるかも教えて頂戴」

「分かりました。国家機密に触れない程度に話しますから、よく聞いておいて下さいね」


彼女が話してくれたAK-147の性能は以下の通りだった。


・強化プラスチック材質を多用したため銃本体の重さ2.9kg

・使用弾丸は5.56x45mm nato弾

・六〇発入りボックスマガジン

・以下、カスタム部品一覧

サプレッサー、ホロサイト、フラッシュライト、フォアグリップ


特殊兵装

・コンピューター制御式銃口

・電子トリガー

・無反動ポリマー

・対EMP防御システム

・赤外線レーザー


他にも企業秘密が色々あるらしいが、今のところはこんなところのようだ。

これだけでもなかなかの性能だ。中でも無反動ポリマーとコンピューター制御式銃口は合衆国でも手こずったような技術だ。

無反動ポリマーはその名の通り、機関部後方に詰めることで反動を極度に軽減させるもので、コンピューター制御式銃口はスマホのカメラで言う手ぶれ補正のようなもので、確実に仕留めたいときなどは赤外線レーザーといっしょに使えば良いといったものだ。


「これで満足ですか?私も貴方に聞きたいことがあるのですが、貴女の武器はどこに?この前の戦闘で壊れてしまいましたよね」

「ああ、その事なんだけど、私は私で新しい武器を貰うことになったの」

「貰うのですか?買うのではなくて?」


訝しげな表情をするアナスタシアに、アレックスが近寄ってきて僕の隣りに座って言った。


「ヨーロッパ特殊兵器開発局。知ってるだろ?お前の武器もちょっとばかし改造して貰う予定なんだ。そんで、俺の武器も新調してもらうんだ。サイボーグ技術のある日本でも、20mm弾を使う俺の銃は上手に作れなかったみたいでな」


そりゃそうだと思うと同時に、アレックスの武器が一体どうなるのか、そして僕の武器もどうなるのか、実際よく分かっていない。中峰からは何も知らされていない。何しろ、彼女も武器の発注しかしていないので、どういうタイプの銃か、どんな形かも分かっていない。TKB-022みたいな奴じゃなきゃ良いけど。


「話を整理すると、私は主に明日香さんをドイツ国内で護衛すればよいのですね?」

「ああ、そうだけど、これでは少し戦力不足だろう?だから、二人ほど応援を日本から呼んでいるんだ」

「誰でしょうか。名前を教えてください」

「水原って言う人と、もう一人はベルリンで落ち合う予定の久保田って人だよ。どっちもいい人だから、そこまで警戒はしなくてもいいんじゃないかな」

「...分かりました。では、私はしばらく貴方達と行動をともにすればよいのですね?」

「そうだよ」


まだなにか言いたげな顔をしている彼女に、僕は他に聞きたいことがあるのかと聞いた。

彼女は少し口ごもった後、はっきりと言った。


「今回の作戦の目的は何でしょうか?それだけが知らされていませんが、なにか重要な機密でもあるのでしょうか」

「いや、ただ単純に天菊が教えてくれなかったんだよ。それだけだから、安心して...って出来ないよね。ごめんね、もうちょっと聞いたら良かったね」

「いえ、わからないのなら、結構です」


彼女はそう言って手元にあったコーヒーを飲んだ。カウンターに居た中峰がエプロンを脱いで、僕達の所にやってくるのを見計らって、アナスタシアは席を立ち、中峰とすれ違いざまにとある封筒を受け取った。

封筒の中には偽造書類が入っていて、これさえあれば、大体どこの国でも行ける。


「で、どうでした?遠くから見ている限りでは、成功しているように見えましたが」


僕の対面に座った中峰が言った。アレックスは成功しただろうと言ったが、僕は首を横に振った。

なぜだと問い詰める二人に、僕は渋々答えた。


「アレックスはともかく、少佐はもうちょっと考えて下さいよ。アナスタシアの顔、見ましたか?私達のこと、全く信用していませんよ。私には大丈夫そうですが、アレックスや少佐、その他の近衛隊の人には敵意むき出しです。あんな状態じゃ、任務の中心には置けませんよ」


僕は席を立って今度は天菊に連絡を取るために二階に向かった。一番奥の突き当りの部屋に入って大きな無線機を前にして一旦心を落ち着かせた。

受話器を手にとった。ダイヤルを回して、指定の周波数にセットした。交信を開始するための赤いボタンを押して、カチッという音の後に、若干のノイズが流れた。


「こちらスウェーデン、繰り返す、こちらスウェーデン。応答願う」


いつもなら、ここで天菊の声が聞こえるのだが、今日は忙しいのかその声は聞こえなかった。まあ、よくあることだ。


僕は受話器を戻して部屋の外に出た。部屋の外にはアレックスが居て、僕に一つのコインを渡した。


彼は何も言わずに部屋に入っていった。


邪魔するのも悪いと思って僕は階段を下って一階に降りた。

一階では、アレックスと中峰が楽しそうに談笑していた。


「お、明日香。天菊と通信してたのか?」

「え?アレックス?何でここに?」

「おいおい、俺はずっとここに居るぜ?」

「いや、そうじゃなくって―――」


轟音と閃光が僕の耳と目を覆い尽くした。衝撃波が背中にあたって、体が宙に投げ出される。アレックスにキャッチされたが、それと同時に嫌な匂いが鼻を突いた。


「神経ガスだ!アレックス!息を止めろ!」


僕の忠告が一歩遅く、僕を抱えたまま彼は倒れ込んでしまった。

タオルを口元に当てていた僕はかろうじて動くことが出来たので、彼の腕の中から這い出て周囲の状況を確認した。

中峰は地面に血まみれで倒れている。助かるかどうか微妙なラインだ。


かく言う僕も体中に痛みが走っていて動けそうにない。事務所のスタッフ達や近衛隊員はすべて死んでいる。どうやら爆弾は一つではなかったらしい。


段々意識が遠のいていく中、僕の視界に米海兵隊の特殊サイボーグ部隊『Code:Claws』のマークが見えた。重そうなフルフェイスヘルメットを被っていたので、間違いないはずだ。

彼らは僕の両脇を抱え、丁寧に車に運び込んだ。

そして、体になにかの注射を打つと、僕はすぐに眠りこけてしまった。

お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!


次回『ヨーロッパ特殊兵器開発局』

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