記録32:カリスの方舟
翌朝、僕は階段の手すりを伝って、一階のカフェまで降りた。
朝早くから来店している現地の人に軽く挨拶をして、僕は中峰の元まで行った。
彼女なら東京の核攻撃のことについてなにか知っているかと思ったのだ。
「少佐。核攻撃に遭った東京に視察は行きましたか?」
「ん?ああ、行ったわよ。写真も撮影してきたけど、見る?」
「はい。お願いします」
中峰が裏に置いてあった鞄の中から一つの封筒を取り出して僕に渡した。
僕が封筒を中身を見ている間に、中峰は店に戻ってしまった。封を開けて中の写真を数枚めくった。
どれも凄惨なものばかりで、真ん中くらいで真っ二つに折れたままの東京スカイツリーに、どろどろに溶けた東京タワー、コンクリートの骨組みしか残っていない霞が関。
平地になってしまった皇居。
次に、死体の写真が目に飛び込んできた。
子供を抱えたまま炎で癒着してしまった親子、炭になって体が崩れ落ちている人、毛髪が抜け落ち、完全に目の焦点が合っていない軍人、全身大火傷で内蔵がはみ出している人の写真。
そして、一見何もなさそうに眠っている人の写真。
すべてが被爆から一日以内に死んだ人間だ。尋常じゃない量の放射線に、直接被爆していなくても、この人たちは一瞬で致死量の放射線を浴びたのだ。
少なくとも一分、長くても一時間しか持たないらしい。
僕は封筒に写真を戻してアレックスに渡しに行った。彼はまだ部屋でEV本部の上司とオンライン通話をしている。
僕は彼の通話が終わるまで、部屋の前で待っていた。
封筒をポケットに入れて、壁に持たれていると、水谷がやって来た。
「昨日ぶりですね。水谷さん。どうしましたか?」
「今任務の概要を伝えに来ました。ところで、僕は名前を教えていなかったと思いますが...中峰少佐から聞いたのでしょうか?」
「え、ええ。そうよ、貴方のことは聞かせてもらったわ」
とっさの判断で取り繕った言葉に、彼は頷いた。僕が胸をなでおろしていると、彼は僕に一枚の紙を渡した。今回に任務のことだろう。
「僕は他の任務があるので、後はこの紙に書かれています。では」
「はい、さようなら」
そうして水谷はさっそうと去っていき、それとほぼ同時にアレックスの通話も終わったようで部屋から出てきた。
「明日香、中峰から東京のことについて聞けたのか?」
「うん。なんなら写真ももらってきたけど、見る?」
「ああ、見せてくれ」
彼は写真を食い入るように見て、何度も頷いた。
「ありがとう。これ、貰ってても良いか?」
「うん、良いと思う。あ、それから、任務について紙を貰ったんでけど、見る?」
「分かった。見よう」
僕とアレックスは部屋に入って、窓を締め、鍵を締めて紙を見た。
紙には電話番号だけが書かれていて、僕は支給されていた番号を打ち込んで電話をかけた。
プルルルルル...
『もしもし、私だ』
電話の向こうには天菊がいた。しかし、どうやらこれは録音音声のようで、彼女は暗号文を話し始めた。
『■■■■方舟は近いから、ア■■■ンダー■■の■■ビ塔に行ってね』
途中にノイズがかかっていてよく聞こえないところがあった。しかし、なんとなく言わんとしていることは分かった。僕はアレックスの方を向いて言った。
「アレックス、どうやら天菊はカリスの方舟について知っているみたいだよ」
「だろうな」
「へ?」
なんで知ってることを知ってるように話すんだよ。
彼は僕の顔を見て笑い、説明してくれた。
「スーパーブルームーンで歴史が改ざんされて、いつもは『なくなったものを復活させてる』から、後々その着けで文明が壊れるが、今回はその逆だ。つまり、『存在したものを破壊している』んだ。だから、そんな所に新しく東京を作れば、どうなると思う?」
「......あ、文明が生えてくる?」
「そう、だと思う。少なくとも俺達はそう考えている。日本にもそれを知ってるやつがいないと、東京なんてもうとっくに再建しているだろ?なのに、再建すらしていない。存在しない残留放射線を言い訳に、ずっと再建の計画すら立てていないんだ」
「そっか...なるほど。それで、天菊は何かを握ってるの?」
僕の問いかけに、アレックスは肩をすくめて言った。
「さあな。アイツがどれだけ何を知っているのかは、直接会って、聞き出さないといけない。それまでは、任務を進めようぜ」
「分かったよ。じゃあ、まずは天菊の暗号を解読しようか」
僕とアレックスは彼女の言った言葉の意味を考え始めた。アレックスはほんの数秒ですぐに投げ出して僕の答えを待っていた。もう少し考えてほしいものである。
カリスの方舟、ア■■■ンダー、■■ビ塔...塩ビ塔?んなわけ無いか。うーん...テレビ塔か?それなら...ドイツ、ベルリンのアレクサンダー広場のテレビ塔だろうか?
ドイツは、方舟を知らないはず。なら、どうして...
「アレックス、二次大戦の時に、ドイツでなにか大規模な改ざんがおきた記録ってある?」
アレックスはしばらく思い出そうと頭を捻った後、一つだけあったと言って話してくれた。
「昔、ドイツへの核攻撃があったんだ。終戦直前、どこに落とされたかわからないんだが、大規模な謎の地震が周辺諸国で観測されたんだ。多分、それだけだ」
「ありがとう。なら、もう解読はできたよ」
「マジか?どこに行くんだ?」
「ドイツ、ベルリンのアレクサンダー広場のテレビ塔ね」
「マジかぁ...」
落胆して肩を落とすアレックスに、僕は昔何かあったのかと聞いた。彼は嫌々話してくれた。
「ドイツ人と軍事演習をしてたときなんだが、あいつら、無駄にプライドが高いんだよ。だから、昔に喧嘩したことがあってな。それ依頼、ドイツじゃあ、俺は迷惑客扱いさ。ベルリンじゃ、俺と一緒に行動はできねえぞ」
困ったな。アレックスが居ないとなると、僕一人じゃ力不足も否めない。誰か戦力になりそうな人は...
「あ!」
僕はいい人材を思いついた。
早速、僕はその人に、支給こちらまで来て欲しいと連絡を入れた。
お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!
次回『銀腕の乙女、再来!』




