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記録28:世界最強のサイボーグと世界最強の探偵

兵器フィクション・ウェポン解説 零式空対艦誘導弾

二〇四〇年(皇暦二七〇〇年)WW3の開戦により、さらなる攻撃能力と、物量を求めるため、統合幕僚監部がしめした全兵科における抜本的な武器の改良案を示した資料である、【不許可】に示された装備である。基本的戦術としてミサイルやドローンの飽和攻撃を得意とする中国軍の完全な射程外から攻撃することを想定して作られたこのミサイルは、米軍から供与されたステルス爆撃機からの発射を目的として制作された。

爆弾自体にステルス性をもたせることに難航したが、二年後に完成し、実際に戦場に投入されたが、政府の情報秘匿により戦果は不明である。しかし、謎の爆撃から生き残った人は、気づいたら正面に爆弾があったと語っており、比較的遠距離からの発射であると考えられる。

「で、なんで操舵室に?」


色んな方向から聞こえる足音から逃げ回りつつも、僕達は操舵室に向かっていた。多分現代の船なら、対海賊用に『あの装備』が絶対についているはずだ。

ついていなければ、極寒の海の中を脱出用のボートで逃げ回るか、Code:Clawsの奴らと戦うかだ。

どちらも現実的ではない。


それに、万が一逃げ切れたとしても、僕達が近衛隊の回し者だということは米国にはバレている。そして、アナスタシアにも。だから、恐らく僕達は船を襲ったテロ組織の一員とでも報道されるだろう。

そうなれば、海外での活動は愚か、帰国できるかすらも怪しくなる。


「あいつらを全員まとめて海の藻屑にすることができるかもしれないんだ」


僕はアレックスの質問にそう答えた。彼は何故か納得してくれて、そのまま並走してくれた。

物音が聞こえれば物陰に隠れ、静かになればまた動き出す。それを繰り返しながら、操舵室一歩手前までやって来た。


アレックスに操舵室にいる人間は全員抹殺してもいいと言うと、彼にその理由を尋ねられた。


「さっき、私達がライトで照らされた時、警報装置が一切ならなかったでしょ?民間の物なら、ライトをつけたら、警報装置なんて絶対に鳴らす。でも、鳴らなかった。つまり―――」

「この船自体がアメリカと、その準備をしたロシアの息がかかったものってことだな。急にひょっこり大国の中に顔を出してきた日本の出鼻をくじくためか、米露冷戦を後回しにして他の国との冷戦を有利に進める狙いだと考えるのが妥当だな」

「正解。だから、突入したらすぐに全員を殺す。アレックス、グレネード持ってない?」


彼は腰のポーチをまさぐって、一つだけ僕に出してきた。見た目からして、スモークグレネードだ。実戦向きではない。

ということは、二人で操舵室を制圧しなければならないということだ。


僕の心配そうな顔を見て、アレックスは何故かニコニコしていた。何か秘策があるのだろうと思っていると、アレックスはいきなり近くの部屋の換気ダクトをこじ開けた。


「ここは俺が守る。行け」


邪魔になるので、コートとベストは脱いでしまって、アレックスに預けた。そしてテミスを足で挟んで、狭いダクト内に半ば押し込まれるようにして、僕は侵入を開始した。タバコの匂いが充満していて顔をしかめながら少しずつ前進した。

操舵室の換気扇のプロベラが回っていて、これ以上進めないとアレックスに合図すると、アレックスは急に操舵室の扉と配線部分に向かって銃を乱射し始めた。操舵室内の電源が落ち、人間が一斉に騒ぐ様子がうかがえる。

その隙に、僕が急いでプロペラ部分を破壊し、金網を取り外して内部に侵入した。


暗い中、ダクトから転がり落ちる人間に一人も気づくことはなく、彼らは騒ぎ立ていて英語で非常電源をつけろと言っていた。

正直、暗すぎて僕にも何も見えていないが、僕が見えていなくとも、右目は見えている。赤外線を伝って、まずは孤立している人間の背後に回った。


背後から後頭部を一発で撃ち抜いた。倒れる体を支えて近くの壁際に丸めた。

そして、二人目の後ろに行った時、電源が一瞬回復した。全員が腰にライト付きの拳銃を持っていた。


ターゲット以外にその姿を見られた。

素早く二人目を処理した所で電源が再び落ちた。


拳銃の銃声が鳴り響き、僕の足元に一発の銃弾が叩きつけられた。

操舵室を時計回りにグルっと回りながら、僕はフラッシュライトで索敵を続ける乗組員を横から撃ち抜いた。すぐに銃弾が飛んでくるので、それをしゃがんで回避して、そのまま地面を這いずり回って次の乗組員を仕留めた。もう死体の騒音にかまっている余裕はないので次々に銃を撃っていった。

幸い、外でアレックスが本格的に戦闘を開始していたので、僕の銃声はかき消されていた。


そして最後の一人に、銃弾を叩き込んだ。


―――クリア。


クセでそう言ってしまった。僕のクセじゃない。ムルのクセだ。こんな所でも出てくるのだと思い、全くムルもしぶといものだと僕は鼻で笑った。

そして、無線機の電源をいれると同時に、操舵室の電気が復旧した。

そこで改めて敵の全滅を確認して、作業に戻った。


無線機の機種を確認し、僕は無線の周波数をとある数値に設定して、言った。


「オーダー、零式空対艦誘導弾」


僕はそれだけ言って無線機の電源を切り、操舵室の扉を開けた。アレックスが勢いよく飛び込んできて僕を脇に抱えて操舵室の窓ガラスを破壊して外に飛び出した。

そのまま上へ上へと上がっていき、遂には船のてっぺんまで来てしまった。周囲には陸地が見えており、目的地のストックホルムも見えていた。


僕は空を見渡すと、幾筋もの光が見えた。


「なんだ...意外と近いじゃん。アレックス、船が沈むから急いで救命艇の所まで行って」

「了解!」


弾着まで、残り十秒程度だ。アレックスが必死に走り、飛び降り、残り数メートルで救命艇という所で時間切れだった。


大量のミサイルが着弾し、船が一瞬で大きく傾いた。アレックスは足掻くようにして救命艇に乗り込んで、ワイヤーを銃弾で切断し、落下しながらハッチを閉めた。


水面に衝突すると同時に、ものすごい衝撃で救命艇が揺れた。

アレックスの腕から転がり落ち、僕は救命艇に頭をぶつけて意識を失ってしまった。



ムルの声が聞こえた気がした。


ゆっくりと目を開ける。


なぜかムルがいた。木製の椅子に座りながらムスッとした顔で僕の顔を見つめている。

ここは、どこだ?救命艇の中ではなさそうだ。

コンクリート造りの部屋を見渡しても、アレックスの姿はなく、初めてここが僕の意識の中ということが分かった。


目の前にいるムルは、僕に目の前にある椅子に座るように目で指示した。

彼女の指示に従って椅子に座ると、椅子の軋む音が部屋に響き渡った。椅子が壊れないか心配になっていると、ムルはゆっくりとした口調で言った。


「ねえ、私ね...恭明は、もっと強いと、思うの。でも、まだまだ、発展途上だから...私に、手伝わせてほしい。それで、大丈夫?」


彼女の哀しそうな声に、僕は下を向いてため息をついた。

死人に、しかも年下の女の子に気を使わせるなど、全くみっともないものだ。しかし、僕が弱いのは事実だし、おそらく現状なら彼女に空を明け渡したほうが良い結末を迎えることだろう。

僕は腹を決めて、ムルの方を向いて言った。


「よろしく頼むよ」


彼女の顔が、ぱっと明るくなった。僕は彼女に微笑みかけて、椅子から立ち上がった。彼女も立ち上がって、僕の手を取って言った。


「よろしくね。恭明...」


彼女の言葉の後に、コンクリート造りの部屋に、扉が出現した。

扉の向こう側からはアレックスの声が聞こえる。僕はムルの手を取ったまま外に出ようとした。


扉から出る瞬間、ムルは手をほどいて僕と扉の外に突き飛ばした。


「なんで―――」



「―――香!明日香!おい!大丈夫か!?」


アレックスの顔が至近距離まで迫っていた。彼の必死そうな顔を眺めていると、思いがけず笑ってしまいそうになったが、とりあえず僕は彼の頬をペチペチと叩いて無事を知らせた。


立ち上がろうと体に力を入れた時、経験したことのない頭痛に見舞われ、よろめいたところをアレックスに抱きかかえられた。どうやら頭から出血しているようで、アレックスが傷口にタオルを当ててくれていた。

周囲を見渡すと、何故かアナスタシアも居て、彼女はロープで絶対に動けないように縛られていた。


何があった分からず、しばらく周囲をキョロキョロしていると、窓の外を見たアレックスが言った。


「見えたぞ。陸地ストックホルムだ」


救命艇はゆっくりと無人の浜に近づいていった。

お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!


次回『カフェ店員の少佐』

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