表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/122

記録29:カフェ店員の少佐

歴史フィクション解説 EUの勢力

まず、この時代のEUは一枚岩ではなく、いくつかの勢力が混在している。

西部は依然として米国の権威がはびこっているため、米国の勢力下におかれており、中部と南部はどこの勢力下にも属さず、欧州のみの独自の勢力を作ることに日々奮闘している。東部はロシア第二帝国とのつながりが強く、支配とまではいかずとも、かなりの繋がりがある。

日本勢力は依然として存在せず、各地に点々と拠点を作っている。

あれから、アレックスが私の携帯を使って、中峰と連絡を取り、僕は中峰の異動先で匿ってもらうことになった。アナスタシアは捕虜として手枷足枷をして牢屋の中の椅子にくくりつけているらしい。

後ほど会いに行くそうだが、今は僕の療養のほうが先らしく、僕はカフェの裏手のベッドに包帯ぐるぐる状態で寝転された。


幸い全身の軽い骨折で済んでいたので、二ヶ月も療養すれば良くなるらしい。それまでは発砲も禁止、戦闘は以ての外だと言われた。じゃあ何をすれば良いんだと聞けば、中峰はニコっと笑って言った。


「このカフェで探偵業をするくらいしかできないわよ。それもリモートか車椅子かね。どちらにせよ、貴方にはしばらくの休息が必要でしょ?殺されかけた後に、危うくミサイルの餌食になるところだったのよ?」

「ミサイルの発射許可を一瞬で出したのは誰ですか?」


僕の言葉に、中峰はそっぽを向いて、口笛を流暢に吹き始めた。僕のため息と同時に、僕のために色々買い出しに行ってくれていたアレックスが戻ってきた。

買い物袋にはいろんな果物や野菜が入っていて、どれも骨折が早く治りそうな栄養素が入っているものばかりだった。

中身値はそんな彼の姿を見て僕に耳打ちした。


「結婚するなら、彼のような人がいいんじゃない?」


意識の外から体に信号が送られ、僕の腕は彼女のみぞおちにめり込んだ。

骨折の痛みが全身に広がって、僕は悶えた。中身値も悶えていた。アレックスがケラケラ笑いながら中峰に言った。


「明日香の中には、まだムルがいるからな。軽率な言葉は気をつけたほうが良いぜ?」


うずくまる中峰が頷くのが見えた。

システマ呼吸法で痛みを和らげている最中に、アレックスは僕の前に椅子を持ってきてりんごを剥き始めた。やけに手慣れた手つきに、僕は彼に以前にやったことがあるのかと聞いた。

彼は妹に昔やったことがあると言っただけで、そのままりんごを剥き続けた。


妹の話など初めて聞いたので、僕は彼にさらに妹のことについて詳しく聞いた。

アレックスは少し溜めてから言った。


「妹は、俺と違って、病弱だったんだ」


その口ぶりから察するに、もう妹はいないというような話し方だった。僕がもう話さなくてもいいと言う前に、彼は妹のことについて話しだした。



昔っから、アリスは病弱で、ずっとベッドの中にいるような子供だった。病院に行っても同仕様もないので、家の布団の中で過ごしていた。

彼女は頭が良く、妹ながら俺よりも数段賢かった。

俺の家は二階建ての一軒家で、妹は誰も使っていなかった、小さな窓がある隅っこの部屋で過ごしていた。まるで屋根裏のような暗い部屋は、余計に体調を悪化させるものとして俺の目に写ったが、彼女は秘密基地みたいだと言って笑っていた。


そんなある日だった。


妹が重い病気にかかって、余命一ヶ月と宣告された。せめて最後の一ヶ月だけはという医者の思い出、そのまま自宅要療養を続行した。しかし、段々と彼女は衰弱していって、いつしか会話もままならなくなってきた。


「アリス、なにか食べたいものあるか?」


俺の問いかけに、衰弱している妹は口をパクパクさせて何かを伝えようとした。俺は急いで彼女の口元に耳を近づけて、そのかすかな声を聞いた。


りんご


ただ、その一言だけしか聞き取れなかったが、俺は彼女がりんごを所望するたびに何度だってりんごを剥いた。


それから二週間後、妹の病気は完治したのだった。



「ちょっと待って、今のは妹さんが死ぬ流れじゃなかったの?」

「おいおい、ひでえな。誰も死ぬなんて言ってねえだろ?それに、人様の妹に死ぬ流れなんて、言うもんじゃないぜ」

「そりゃぁ...そうだけどさぁ...」


ケラケラと笑うアレックスにため息をついて僕は切られたりんごを頬張った。

甘い果実の風味が鼻から抜けた。

それと同時に顎周辺の骨が軋む感覚がして、アレックスにできればペースト状の食べ物が食べたいと言った。彼は、僕を騙せた愉悦に浸り、気前よくスープを作ってくれた。(と言ってもインスタントのスープだったのだが...作ってくれるだけ有り難いと思っておこう)


「なんで味噌汁?」

「だって明日香は日本人だろ?」

「まあ、そうだけど」


僕はそう言いながら、味噌汁を一口飲んだ。

やっぱ美味い。舌はムルの舌なのに、食の好みが日本人になっている。気持ちの持ちようで好き嫌いって変わるのかなとか思いながら、僕は味噌汁を一瞬で飲み干した。


それから、鎮痛剤を飲んで、僕は自力で車椅子に乗った。

車椅子は最新式で、使用者の脳波を完治して作動するものだった。今の僕にはうってつけの足になるだろう。早速、店の表に車椅子で、ちらっと出てみた。


店の中には僕の探偵事務所のスタッフたちも来ていて、彼らは楽しそうに談笑しているように装っていた。その中の一人と目があった。水谷隼也、懐かしい顔だ。彼は椅子から立ち上がって僕の所までやって来て言った。

水谷くん、と彼の名前を呼ぼうとした時、彼が言った。


「大丈夫ですか?お嬢さん」


そういえば、今の僕の体はムルだ。彼からすれば、初対面の女性ということになるのだろう。

僕は一瞬躊躇ったものの、架空の女性を偽って笑顔を彼に向けた。


「はい、大丈夫です。ご心配ありがとうございます」


僕は車椅子のコントローラを操作して、再び店の裏側に入ろうとした。

それと同時に、みぞおちパンチで悶絶していた中峰が復帰してきたようで、カフェのロゴが入ったエプロンを着て外に出てきた。

具合はまだ悪そうだが、手には携帯電話を持っていて、僕と目が合うなり、天菊から電話だと言って僕に携帯を預けた。


そのまま僕は店の裏側に回って電話に出た。

どうやらビデオ通話のようで、画面の向こうには、椅子に座っている天菊が微笑んでいるのが見えた。

随分と久しぶりに見るその顔に、僕は少し安堵したものの、彼女の言葉に僕は恐怖した。


「山雁さん。次の任務です。骨折が治ったら、ヨーロッパ特別兵器製造局に極秘潜入してください。身分は、ムルさんのものを使用してください。中峰少佐にはもう身分証は渡してあります。頼みましたよ」

「ちょっと待ってくださいよ、戦闘群長」


通話を切ろうとするアレックスが横から割り込んできた。


「俺も一緒について言っちゃ駄目なんですかい?」


彼の言葉に、天菊はきょとんとした顔をしてから、すぐにフフッと笑って言った。


「勿論一緒に行ってください。いや、山雁さんとアレクサンダーさんは一蓮托生だと思っていたので、申し訳ありません。これからの任務についても、基本は二人で行動してください。説得できたなら、捕虜になっているアナスタシアさんも一緒にどうぞ。では、切りますね、また今度」


通話終了。

僕はアレックスに、アナスタシアが今どこにいるのかを聞いた。

彼はなかなか口を割らず、最終手段でムルを出そうとした瞬間に話してくれた。ムルが怖いのかな...


「アナスタシアは、今地下牢にいるんだ。一応サイボーグだから、全身を拘束していて、まあ、その、何ていうか、色々垂れ流しだから、そんなに話せる状態かも分からねえぞ」


彼の言葉を聞いて、僕は安心してしまい、アレックスに追及された。


「なんでそんな顔するんだよ」

「昔、天菊が捕まえた敵の高官から、とんでも無い方法で情報を入手してたらしくて、その手法に比べたら、まだましかなって」

「まじかよ...」


恐れおののくアレックスに、僕はアナスタシアの居場所まで連れて行ってもらうことにした。

彼は、いやいや僕を地下牢まで案内してくれて、分厚い鉄の扉を開くと、そこには有刺鉄線で体を縛られたアナスタシアがいた。

お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!


次回『Go Mon day』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ