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記録27:船に乗ったら海兵隊と鉢合わせた件

組織ハンブンフィクションチーム解説 CIA


言わずとしれた世界最大の諜報機関。かつては世界中に浸透して工作活動を行っていたが、大国主導の徹底的な諜報対策により、その数を徐々に減らしていった。

第三次世界大戦後の世界では、二重スパイによる情報漏洩を防ぐため、かなり規模を落として活動しているが、依然としてその権力と勢力は強大で、近衛隊も手を焼いている。

サイボーグ部隊は編成しておらず、基本的にネットワークのハッキングを主な任務としていて、二〇五一年現在、人体とネットの接続を試みる実験が行われている。

あれから、アレックスのマッサージを受けている間に、いつの間にか船は出向していて、気づけば空は暗くなっていた。一体どれだけ僕の方を揉んでいたんだと言いたかったが、揉んでもらっておいてその言い草はないと思って、口を噤んだ。


夕食時になり、僕達は船内の食堂に足を運んだ。これは輸送船であって、客船ではないので、豪勢なもてなしなどは一切存在しない。格安で狭い部屋に止まらせてもらえるが、食べ物は別料金だ。


しかも、この料理は普段は船員用なので、よそ者の僕達には大体高価なものになる。ただ、食堂の利用料金は無料なので、机だけを借りて持ってきた、戦闘糧食をたべる。そのつもりだったのだが...


「日本の戦闘糧食を食べて、アナスタシアにお前が近衛隊の回し者だって気づかれたらどうするんだ?」


アレックスのその一言で、僕は踵を返して狭い客室に向かって歩き始めた。後ろからはアレックスの足音以外、何も聞こえない。二人の足音だけが狭い廊下に響いていた。

廊下の角を曲がった所で、僕は急に向かい側から歩いてきた中年男性に話しかけられた。


中年男性は、黒人で体つきが良く、太い金縁のメガネをかけていて、黒いハットをを被っていた。

黒いスーツに黒いネクタイ。恐らくユダヤ人だろう。


「何でしょうか?」

「ああ、済まないね、ちょっと人探しをしていて...この人なんだが」


男が胸元から手鏡を取り出し、僕に見せつけた。


何がなんだかわからないまま見ていると、アレックスが僕を担いで部屋まで猛ダッシュで帰った。


帰り際に男が他の男と会話しているのが見えた。フルフェイスヘルメット装備のではなかったが、戦闘服を着ていて、胸元には『あの徽章』を付けていた。


海兵隊だ...!


部屋に帰ってすぐに、僕達は荷物を取って部屋を飛び出した。

アレックスが走りながら甲板の方に走っていき、僕達は極寒の中、外に出た。甲板には、何故か完全武装済みのアナスタシアがいた。

防弾繊維のオーバーコートを着ていて、首元には金色の十字架のネックレスをぶら下げていた。

その黄金の輝きは夜の月明かりと、月明かりを反射した海の光に照らされて、十字架は神妙な佇まいでその光を跳ね返している。


アナスタシアは、僕達が来ることがまるで分かっていたかのように微笑みかけて、背負っていた銃を両手で持ち、黒い銃口を僕に向けて言った。


「あなたは、神を信じますか?」


アレックスが僕を突き飛ばした。


それと同時にショットガンの銃口から火が吹いて、地面に空薬莢が一つ転がった。

アレックスには損害はなく、彼はすぐさま自分の銃を出して彼女に向かって撃った。

7.62mmの弾丸の雨に、アナスタシアはコンテナの裏に隠れてしまった。ここでもう一度言っておくが、この船は輸送船だ。だから、甲板が戦場になりうるのだ。


後ろから、海兵隊が階段を登ってくる音が聞こえた。

アレックスに合図を出して、僕は彼と一緒にアナスタシアの隣を駆け抜け、船の先端の方に行った。

周囲に逃げ場はなく、小さいコンテナ一つ。

船の作から一歩でも外れれば、一分程度で意識を失って溺死確定の極寒の海。まさに背水の陣だ。


その時、タンカーの甲板がライトで照らされた。船のライトだった。僕達だけではなく、甲板全体が眩しいライトで照らされている。


「おい!アナスタシア!何してんだ!」


アレックスがそう言って彼女を睨んだ。アナスタシアはライトに目を細め、サングラスを掛けただけで、何も言わなかった。アレックスは舌打ちをしてアナスタシアに向けて銃を構えた。

その時、アレックスの足元を、銃弾が一発かすめた。


幸い彼のサイボーグ化した肉体が弾いていたが、遂に海兵隊が到着したようだ。

僕は慌てて鞄の中からなにか使えるものがないかと弄ってみた。


鞄の中から、アナスタシアからのプレゼントが転がり落ちてきた。振り向くと、アナスタシアが視界に入った。それは至極当然の事柄なのだが、彼女の表情を見てみると、どこか嫌な予感がする。


僕は彼女のプレゼントを思い切って海の中に投げ捨てた。


アナスタシアの方を見ると、彼女はため息をついてポケットからスイッチを取り出して何のためらいもなく押した。


大きな水柱が隣で上がって、僕の鞄はその衝撃で海の藻屑になった。

幸いにもテミス(僕の銃の名前)と腰の弾倉に入っていた銃弾だけは無事だった。

次から次へと船内から出てくる海兵隊が包囲網を形成しつつある中、アナスタシアは僕達に向かってメガホンで語りかけた。


「ハインリッヒ・アレクサンダー大尉。今すぐ投降して下さい。貴方に危害を加えるつもりはありません」


アレックスの方を向くと、彼は僕の方を向いてニカッと笑って言った。


「だってさ!」


僕は彼のその一言に吹き出し、戦場にもかかわらず笑ってしまった。アナスタシアはメガホンを投げ捨ててショットガンを空に向かって発砲した。


海兵隊の総攻撃が始まる。


「「まだ、死ねないね!」」


僕の声が、ムルの声と被った気がした。アレックスは構わず海兵隊を寄せ付けまいと彼の銃『Wilde Kämpfer』の銃口を振り回していた。


ふと、僕の脳内に電流が走った。


思いついたのではなく、物理的に、だ。右目に、なにか違和感を感じる。

熱い。ちょっと痛い。なんでだ?

目を閉じて考えた。アレックスが色々言っていたが、聞き流した。


目を開けると、そこにはAR世界が広がっていた。

温度、湿度、風量、風向、音量、光量、方角、体温、血圧、心拍を示す半透明のグラフたちが、視界の隅っこに小さく表示されている。

これは、確実に僕の体がサイボーグである証拠だ。


まあ、予測はしていたことだ。ただ、発動条件を教えずにこんな所まで放置していた天菊と中峰、その他諸々の関係者には後で文句を言わねばなるまい。

僕はアレックスの方を向いた。アクロバティックな動きで銃弾を回避しながら撃ち返す彼を見て、僕はこう思った。


...なんでこんな状況なのに嬉々として小銃を撃ってるんだ。


右目の情報から、彼の体温と心拍は上昇しており、明らかに興奮状態だった。数発の銃弾が彼に命中しているが、対人間用の銃火器など、サイボーグであるアレックスには効かなかった。


ここで、僕は一つの疑問にぶち当たった。

なぜ普通の人間しか攻撃してこないんだ?さっきCode:Clawsの構成員なら居たはずなのに......いや、まず、本当にCode:Clawsだったのか?

僕はコンテナの陰からこちらを撃ってきている人間を確認した。


どこにも、さっき見た男は居なかった。なんなら、Code:Clawsの徽章を付けた男も居なかった。一般隊員のみだった。


ということは、目の前の奴らは、囮―――


「アレックス!逃げるぞ!突破口を開いてくれ!」


考えがまとまる前に僕はアレックスに命令した。アレックスは了解とだけ言って指をかけているトリガーを下に付けられているHK417ではなく、上の20mmライフルもどきのトリガーに変更した。

絶対対人用ではない銃弾を、彼は一番端っこに居た海兵隊員に向かって発射した。弾丸は防弾チョッキに命中した。


ドチャッという音と共に、真っ二つになった海兵隊員は地面に崩れ落ちた。

一瞬その姿に気を取られた隣の隊員にも同じくその銃弾をはなった。今度はヘルメットに当たり、弾けたポップコーンのようにいろいろなものが飛散した。海兵隊員が射撃をストップしたタイミングで、アレックスはどこからともなくスモークグレネードを取り出してきて投擲し、海兵隊とアナスタシアの射線を切った。


その瞬間にアレックスは僕を担いで全力でそこを走り抜け、船内へ通ずる階段に突入した。


ハッチを思い切り閉めて外部からなるべく開けられないように、アレックスが扉のハンドルをできる限り強く回した。外からの攻撃はなく、廊下も誰も居なかったのでアレックスは安心してため息をついた。

恐らく彼の頭の回転はここでストップした。


右目のことで、それどころじゃない僕は頭が回っていた。考えた。考えに考えた。まだ、第二ウェーブが来る。Code:Claws本体が出てくる。

僕は、彼らと戦闘するとなった際に自分たちに有利な場所を考えた。


そして、僕はアレックスに向かって言った。


「操舵室に行こう」

操舵室に行く明日香の思惑とは如何に...


お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!


次回『世界最強のサイボーグと世界最強の探偵』

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