√トゥルース -021 手掛かりの家?
「……あれかな。どうする? 明日にするか?」
早朝にカントの家を出立したトゥルースたちは、カントから聞き出した手掛かりとなる目的地の領堺がある街へと日が暮れる前に入っていた。
街と言っても川に沿って南北に細長く拡がった街で、元々は点在していた町と町の間に自然と家が建っていき、大きな街へと繋がっていった形らしい。
北上するに従ってどんどん道の状態が良くなっていったので、酷道を経験し荷物が減ってきて足取りが軽くなったラバたちはその歩速を自然と速めていたのだが、その事にトゥルースたちは気付く事もなかった。
「それともちょっと寄ってみようか? 折角日がある内に着いたんだし」
着く前までは宿の確保が出来るかどうかとやきもきしていたが、いざ街に来てみると小高い山のふもとに大きな宿があるのを大通りから簡単に見付ける事が出来、その心配が解消された。
流石にあれだけの宿があれば、余程の大きな祭りでもない限り部屋が埋まる事はないだろう。街の様子を見る限り、その心配も無さそうだからと場所だけ覚えておき、目的地探しを続行していた。
「家を訪ねるには少しばかり遅くありませんか? 日を改めた方が……」
「ニナは反対か。でも、今までだって日が暮れるくらいの時間にお邪魔した事は何度もあっただろ?」
「ほうじゃぞ。それにほれ、まだ充分明るい時間じゃ。何の問題もあらせん」
目的地であるカントから聞き出した住所らしき家を前にして、夕方だから間が悪いのではと主張するティナに対し、まだそこまで遅い時間ではないから問題ないと強行を主張するフェマ。
これで一対一……いや、訪ねようとしているトゥルースを入れればニ対一だ。
「ですが……事情が事情ですし、ニー様が……」
メーラの手綱を握って固まってしまっていたシャイニーに視線を向けて訴えるティナ。
確かに、自分の出生の手掛かりが目の前にあるのだと思えば、緊張も高まってしまうのだろう。しかし、先延ばししたところで、その緊張が長く続いてしまうだけである。
「それは分かるけど、このままだとニーが今夜寝られないんじゃないのか? それよりは取り敢えず会うだけ会って、明日じっくりと話をする方が良いと思うけど」
「ほうじゃの。坊の言う通りじゃ。案ずるより産むが易しじゃ」
「うっ。そう言われてしまえば、そうかも知れませんが……。ニー様はどうします?」
「ごめんなさい。ウチ、緊張しちゃって頭が真っ白になっちゃって。どうしたら良いか……」
今日中に突撃する事に反対だったが、二人の意見に圧されて致し方ないと渋々賛成に傾きつつあるティナ。心配そうに前に乗るシャイニーに声を掛けるのだが、その反応は鈍い。
もしかしたら肉親がそこにいるのかも知れないのだ、きっと緊張だけじゃなく怖さも感じているのだろう。
しかし、ずっとこうしている訳にもいかない。明日にしたところで、同じやり取りを繰り返すだけであろう。ここは度胸を据えて会いに行こうという話になった。
その家はやはり周囲の民家よりも少し立派な造りだった。
カントの家はその集落の始祖の家柄だと言う話だったから、周りよりも良い家なのは理解できる。
であればこの家もそのような歴史のある家なのだろうかとも思うかもしれないが、そうではないのかもとも思わせる。と言うのも、ここまで来るまでに街の方々にこの家よりも立派な家が幾つか見られた為だ。
年季の入っている家もあれば比較的新しそうな家もあったので、歴史云々は当て嵌まらないのかも知れない。
では、この家はどうなのだろうか。建物はまだそんなに古くは無さそうに見える。よく見れば、新しそうな家は年代が似た感じであった。
何年か前に集団移民してきたかのようだが、それだけで判断するにはまだ早い。それに、それはこれから会えば分かる事だ。
ラバから降りると、トゥルースが代表してドアを叩く。とは言っても、扉にはドアノッカーが付いており、それを使う事で大きな音が響いた。
ノッカーなど、付いている家はそんなにも多くはなく、貴族や豪商など限られた家に付いている傾向にある。この家のノッカーもよく見れば精巧な彫刻が施されており、ただならぬ家柄だと主張していた。
「はい。何用ですかな?」
扉を静かに開けたのはこの家の主人だろうか。
オールバックに纏めた白髪に、綺麗に揃えられた口髭の老紳士と呼ぶに相応しい人物だ。その優しそうな目がトゥルースを捉えると、僅かに首を傾げて後ろに控えた老幼女と美少女を見、更にラバたちを見てその目を細めた。
「ええっと、こちらはテッド・アンさんのお宅で良かったですか?」
「……どちらでそのような名を?」
どう切り出せば良いのか分からず、取り敢えずカントから聞き出した宛名を出したトゥルースだったが、その名を口にした途端、その老紳士の顔付きが険しくなった。
最初の柔らかな表情から一転、険しい表情の老紳士に、トゥルースはたじろいだが、ここは退くわけにはいかない。
「あの。人を探しているんです。孤児院にいた子の親を。その手掛かりがこちらのお宅じゃないかと……」
「……孤児の親が、ですか。さて、どうして我が家がそうだと? 何かの間違いではありませんか?」
目を細めたままそう詰め寄られたトゥルースは、徐々に勢いを失っていくが、だからと言って手掛かりを失う訳にはいかないと食い下がる。
「いや、住所を辿ってきたのがここなんで……」
「……住所を辿って、ですか。そもそも、その住所はどうやって?」
「孤児院で働いていた女性に教えて貰った住所が、この奥の集落だったんです。寄付金がその住所から送られて来ていたらしくて……。それでその集落まで行ってここの住所を聞き出したんです」
「……成る程、分かりました。では、あなた方はお金を無心しに、という解釈で宜しいですかな?」
「え? あっ! いや、そうじゃなくって!」
指摘されるまでまるで考えていなかったトゥルース。
この老紳士からお金を毟り盗ろうとしている無法者として警戒されてしまった事に漸く気付いたのだ。そうではないと主張しようが、口達者にも見える若い男に、男を惑わせる美貌を持つ美少女、同情を誘う幼女というメンバーであれば、胡散臭くもなるだろう。しかし、完全に失敗だったと自覚するには遅かった。
老紳士は更に問い質す。それこそ今にも官権を呼びそうな勢いである。
「違うと? では問います。その孤児という方は貴方ですか? それともそちらのお嬢さんのどちらかですかな?」
眉間に皺を寄せる老紳士。文字にすれば丁寧な口調なのだが、逆に迫力を感じる。
しかしその老紳士が指したのは、様子を見守っていたティナとフェマだ。肝心のシャイニーの姿が見えない。
「え? あ、いや。その二人じゃなくて…………ニー、隠れてないでこっちへ……」
「……おや、もう一方おられたので…………っ!!」
おずおずと隠れていたティナの後ろから顔を出した当の本人。
だが化粧で隠してはいるものの、その特長ある火傷のような痕のある顔を見た老紳士が、細めていた目を剥き息を飲むのが分かった。
「…………そちらのお嬢さんがご本人の? 嘘ではなかったのですね……分かりました。ここでは人目が付きますから、中でお話をお伺いしましょう」
周囲を見れば、近所の人たちだろう
態度を一転させた老紳士に、何とか手掛かりが繋ぎ止められたとホッと一息吐くトゥルース。
「ああ、そうそう。最初に言っておきますが、妻は体調が悪いので声は荒げないようにお願いしますよ」
玄関のドアを半開きで止めて振り返る老紳士の言葉に、トゥルースは頷くとその後に入っていく。そしてその後にフェマが続き、更にティナに背中を押されてシャイニーが入っていった。




