√トゥルース -018 かいらんばん?
「書いた、物を?」
「回すって、どういう事なのかな?」
トゥルースに嗜められたにも拘わらず、顔を顰めて聞いてくる二人。
そんな二人をキッと睨み付けたトゥルースは何かを思い付いたようにシャイニーに尋ねる。
「もしかして、伝言板……はみんなが書き込めるものだから違うから……回覧板の事か?」
「!! ……そう、回覧板をみんなに回して貰えば一人一人の負担が少しだけ増えるだけで済むんじゃないかな」
「ほう? かいらんばん、のう。そういや、昔にどこぞで使っとったそんなもんを全国に広げたらどうか言う話があったかのう。掲示板はよう村々に立っとったもんじゃがのう」
今まで会話に参加していなかったフェマまでもがその提案に飛び付くように身を乗り出す。
対して世間の事をよく知らないであろうティナ、研究者、呪い持ちの三人は、意味が分からないらしく首を傾げた。このままでは話が進まないので、回覧板について説明するトゥルース。
「成る程、掲示板は集落毎に立てれば事足りるけど、固まらず分散しているここではそれは使えない。そこでその回覧板の出番と言う訳だね?」
聞いて早々に理解を示す研究者。しかし、反対に呪い持ちは更に首を傾げた。
「違いが分からねぇ。そんな事をしても直ぐに取りに来れる奴は少ないだろ。それにどこまで知らせが行っているのかも分からねぇし、誰に渡せば良いかも分からない。ちゃんと回してくれてるのかも分からねぇんじゃねぇか?」
「そう、この方法は欠点も多いんだ。だから浸透させる必要がある。地道にやっていくしかないけど、順番表と地図、見たかどうかを署名する表も一緒にしておけば、漏れが無くなるんじゃないかな」
ついでに見た日付も入れる様にしておけば心理的に滞留を防ぐ効果も生まれる。そこまでしても全部に行き渡るのは何日も掛かる事になるから、知らせを走らせるよりは日数が掛かってしまうのが欠点と言える。
しかし、この荷物を見る限り何ヶ月も溜め込んでいるようではある。保存の利く物が大半だったが、一部は腐りかけてさえいた。
それが数日で解消できる様になるのなら大きな前進と言えよう。
「こうする事で呪い持ち同士の結束も固まるじゃろうし、人との触れ合いが出来て健全になろう。それに、全ての呪い持ちがここへ足を運ぶようになりゃあ、お主の研究も捗るんじゃあらせんか?」
「あっ!」
話の理解度は高そうだが、その意図やメリットデメリットを察する能力はそれほど高くなさそうだ。よくこんなんで研究者が務まるなとトゥルースは目を細めた。
「てかさ、研究って何をしてるんだ? 話を聞く限り、この人一人だけしか調べてないみたいだけど。それもそれ程大した事までは調べてなさそうだけど」
「むぐっ。ちゃ、ちゃんと研究してるさね。数値化したり図表にして分かりやすくしたり……」
最後の方は言葉尻が下がって聞き取れなかったが、一応は何かをしているようである。しかし、それを一喝したのは幼女姿のフェマだ。
「な~にがちゃんとしてるじゃ! たった一人の呪いにこんなに時間を掛けて、出てきたのが成長記録じゃと? そんなもん他の事をしながら片手間でやる事じゃろう。それだけの事に阿呆みたいに時間を掛けおってからに。そなもん時間の無駄じゃ」
「え? まさか見た目だけの呪いだけを調べていたのか? それも毎日の身体測定だけの事で?」
「ほうじゃ。折角このような人里離れた場所に立派な建物をこさえておいて、くだらない事にうつつをぬかしおってからに」
「確かに、身体測定の為だけにこの施設は勿体ないよな。それも近隣に呪い持ちが何人も住んでいるってのに。どうせなら呪いを解く研究でもすれば良いのに」
軍の協力を得て支給品を得ておきながら、そんな大した事の無い内容しか見ていない事に落胆するトゥルース。自分の呪い以外に呪いを解く手段があれば、世の呪い持ちには朗報になるだろう。そういう研究を期待していたのだが、それは全くの期待外れであった。
「呪いを解くだって? そんな事が出来るのであれば是非とも知りたいものだね。でもそんな話は未だかつて聞いた事がないんだよ。そんな非現実的な事を研究するくらいであれば、呪いがどう蝕んでいくかを数値化して報告していた方が、役人たちには受けが良いんだ。ま、物資の支給はミックティルク様が試政の時に提案してくれたって言うから、あいつらに媚を売っても何も良い事は無いって事だろうしね」
「えっ? ミック様が?」
事情を全く知らない研究者と呪い持ちは、その大きなリアクションに首を傾げる。
まさかここで第三王子の名が出て来るとは思わなかったトゥルースたちは驚きの声を上げた。どうしてミックティルクが支給品を届けさせたのだろうと。
「……ミック様だなんて、随分と馴れ馴れしく言うね。まあ、第一、第二王子様や第一王女様よりはずっと我々に近しくは感じるけどね」
「あ~、第三王子かぁ。結構こっそりと街に降りてるって聞くしな。第二王女に変装させて一緒に街に降りて大騒ぎになったって話も聞いた事があるぞ」
帝国の中でも一番の辺境の地にもそんな話が届いているところを見ると、ミックティルクは帝国民にも慕われているようだ。次期帝王に一番近いというのもあながち間違いではないのかも知れない。
一方で、目の前に新たな呪い持ち三人と呪いの解けた者一人がいるというのに、てんでそれを察する事が出来ない研究者に呆れるトゥルースたち。本当に何を研究しているのやら、と溜め息が出る。
「まあミック様の事だから、この支給品には何か意図があるんだろうな」
「でも、どうしてみんなに配ってくれるように頼んでくれなかったのかな。一人しかいないの知らないのかな」
「ミック様の事ですから、きっとそこも考えての指示なのでしょうね」
トゥルースの呟きに、シャイニーは首を傾げるがティナはあの人の事だからと理解を示す。
会話に加わらなかったフェマを含めて直接顔を合わせた四人は、ミックティルクの行動には理解出来なくともそれなりの理由があるのだろうと察する事が出来た。しかし、ここに住む二人にはお偉い様の考える事は理解出来ないと首を傾げる。
「ちょっと。どうしてそんなに王子様の考える事が分かるんだい? まさか王子様にお会いした事があるとか?」
「ええっと、まあ……そんなところかな」
「あ、あれか? 街に降りてきていたのを見掛けて追い回したとか。あんまりしつこく付き纏うと官権に捕まって連れていかれるって聞いたけど、大丈夫だったのか?」
「官権には捕まってはいないけど……」
本人に捕まって連れていかれたとは口が裂けても言えないトゥルース。
言い淀んでいると、更に呪い持ちが前のめりになって聞いてくる。
「あ、もしかして噂の姫様が一緒だったのか? どうだった? 姫様は言い表せない程に可愛いって話だけど、それは本当なのか? 一目でも出来たら超幸運だって言う程に姿を表さないって話だけど、見たのか? なあ、どうなんだ?」
目を血走らせて聞いてくる呪い持ち。ちょっと怖いが、どうやら巷では第二王女はスーパーアイドル化しているらしい。益々口が裂けても言えない。
何とか誤魔化したトゥルースは話を戻す。
「で、どうしてミック様はこんな支給品を送ってきているのか、何か聞いてないのか?」
「いや聞こうにも、持ってきた兵士は何かいつも機嫌が悪くてね。何を聞いても睨まれるか文句を言われる始末でね」
「文句を? 文句ってどんな?」
どうも、そういう指示だったとか何も聞いていないとかの問題ではなさそうな雰囲気だ。
「どうやら、道中で何かあったらしいんだけどねぇ、それが何なのかがよく分からないんだよね」
「道中で何かが……一体何が……」
「それは一度だけなのですか?」
「いや、今まで三度来てくれてるんだけどね……その三度共になんだよね」
「え? 三度供に? それって同じ人たちがなのか?」
「いや、別だね」
軍の兵士が運んできたと言っても、御者二人と護衛役二人の四人共にと言う。事情を聞こうにも、その話題になるとみんなが頭に血が上って話にならなかったらしい。
結局その話の詳細については分からず終いで、これ以上聞いても分からないままだろうと諦める事となった。この先の旅は不安が残る事になったのだった。
「まあ、先の事は成るようにしかならないか。でも……何だかその話、呪い絡みっぽいな」
「ええ、確かに。何かがあったとしても、皆さんが揃って話にならなくなるなんて、おかしすぎますしね」
トゥルースとティナの話にシャイニーやフェマも同意して頷くが、研究者と呪い持ちの二人はそういう発想に至ってなかったようで、驚いた顔をした。
「よくそんな事が分かるな。ワイはよっぽど腹の立つ事があったんだろうなとしか思わなかったけど」
「そうだよね。どうしてそんなに理解出来るんだい?」
「どうしても何も、何人も呪い持ちを見たり聞いたりしてれば何となくそうじゃないかなって……。な、そうだろ?」
全く思い浮かばなかったと言う二人に対して、そのくらいは当たり前だろうと同意を求めるトゥルース。当然他の三人もそれには同意見らしく首を縦に振るのだった。




