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√トゥルース -017 意図不明な荷物



「じゃあ、あの大量の荷物はこの地域に住む呪い持ちの人たちに配る為の?」


 女性陣みんなが作った夕食に舌鼓を打った後、トゥルースたちが持ってきたお茶(紅茶)を飲みながら漸く落ち着いて話をする一同。


「ああ、そうさね。軍の補給部隊が定期的に持って来てくれるようになったのさ。でも、個別に配り歩いてくれる訳じゃなく、ここからは丸投げされてね。こんなの一人じゃ配りきれないに決まっているってもんさね」


 そう言うとまたお茶を一口啜り椅子の背凭れに身体を預ける研究者。

 フェマの言う通り、腹が減っていて怒りやすくなっていたようで、軍の行動に文句を言うもののその怒りの感情は持続する事なく霧散した。


「確かに、一番奥の家だと行くだけで馬でも一日以上掛かるし、そこまでも何軒も家があったから、配るには馬車が必要と。でもここから奥は馬車が通れないくらい狭い道だから馬に積めるだけ積んで何往復もしなくちゃ、だね」

「でしょ? そんな事してたら研究する時間なんて全く取れなくなってしまうってもんさね。分かってくれるだろ?」


 あくまで研究者であって、配達人員ではないと鼻息を荒くする研究者。

 確かに、丸投げはいただけない。しかし、それに異を唱えるのはフェマだ。


「ふんっ! 何が研究する時間が取れなくなるじゃ。研究と呼べる事なぞ何もしておらんかった癖に。呪いの研究と聞いてちっとは期待しておったのにのぅ」

「え、どういう事だ? ここって呪いの研究所じゃなかった、って事はないよな。こうして呪い持ちもいる事だし」


 トゥルースだけでなく、ティナやシャイニーも首を傾げる。

 呪いの研究所でもなければ、好んで呪い持ちを連れてきて住まわせる事などしない。という事はこの研究者が研究をサボっている事を意味する。


「むぐっ。いや、決してサボっている訳ではないからね。さっきも言ったけど、呪い持ちの住んでる家が思いの外散り散りなのだから、一人で配れってのが無理だって言うものだよ」


 言っている事は分かるが、だからと言って荷物を散らかしたままにする理由にはなっていないし、取りに来ている呪い持ちもいるというのだから、呪い持ちの中でも格差が生まれているかも知れない。


「やりようはあるだろうに……。例えば……ええっと、人を雇うとか?」

「そんな予算は無いさね。そんな簡単な方法で解決出来るならとっくに手配してるよ」


 当たり障りのない方法を提案をするトゥルースをバッサリと切り捨てる研究者。人を雇えばお金が掛かる、当然の事ではあるがその資金は全くないと言う。


「何でそんな事に? 持ってきた軍が配っていけば良いと思うんだけど……」

「そもそも、この事業は軍の管轄じゃないからね。ここまで運んできただけでもありがたく思えだなんて言われちゃ、何も言い返せないよね」


 前のめりだった身体を再び背凭れに預けて深い溜め息を吐く研究者。そんな風に頭ごなしに言われてしまえば、この後どうすれば良いのか相談する事も出来ないだろう。


「そう、だよな……う~ん、他に何か良い案は……何かないかな、ニー、ニナ(ティナ)

「ええっと、う~んと……ミールとメーラに運んでもらう?」

「いやそれ、ニーが手伝う事前提になるだろ。ここから離れられなくなるぞ」

「それでしたら、皆様に取りに来ていただくってのは? 実際、お近くの方は取りに来ていただいているんでしょ?」

「取りに来てもらえるのは有難いんだけどね、どうやって知らせるのさ。結局誰かが知らせて回らなきゃ駄目って事になるんじゃないのかい?」

「でも、今でも取りに来る連中はいる訳だろ? そういう人たちにはどうやって知らせてるんだ?」

「まあ、近くの連中は軍が運んでくるのを見て、貰えるんじゃないかと来てるね。そして近隣の呪い持ち仲間に貰える事を教えてやってるようさね」

「へぇ、呪い持ちの人たちは籠りっきりじゃないんだ。それぞれで横の繋がりがあるんだな」


 トゥルースたちの提案に対して研究者は現実的ではないと否定しながらも答えられる範囲で答えていくが、それは予想も交えての回答だった。

 だが、それを聞いてティナが何かを思い付いたように手を顔を上げて手を叩いた。


「あ、それでしたら、呪い持ちのみなさん同士でお知らせを伝え合ってもらうっていうのはどうでしょう」

「住人にって事か……。でも、それだと仲の良い者だけでしか伝え合わないんじゃないか? きっと今でもそうなんだろ」


 それは妙案だとばかりに顔を綻ばせた研究者だったが、トゥルースの一言で再びう~んと考え込んでしまう。


「呪い持ち自ら取りに来て貰う、良い案だと思ったんだけどねえ。となると、やっぱり誰かに配達させるか伝言に走らせるしか……いやそれだとお金の出所が……自分で行けば研究する時間が無くなるし……そうだ、アンタ行ってくれないかい? 毎月お金貰ってるだろ、貰った分は働かなきゃ!」

「はあ? 何を言ってるんだよっ。あんな少ないお金の為に働けってか? やなこった。そもそもあの金はここでの研究協力への対価だった筈だ。それとこれとは全く別の話じゃないか、何が貰った金の分働けだ」


 飛んできた火の粉を払うように同席していた呪い持ちが声を絞るが、尤もな意見だ。簡単なお仕事という触れ込みで安い給料の仕事に就いたら、給料そのままで超過酷な仕事を押し付けられそうになったのだから。普通であれば賃上げに加えて危険手当を要求するところである。

 そもそもその研究の協力自体も眉唾で、半分は自分の欲求を満たす為に毎日の測定をしている節もある。ここにきてその不満が爆発したのだろう、呪い持ちの鼻息は周りが引く程に荒かった。


「まあまあ。一緒に住んでる二人がいがみ合ってたら今後気不味くなっちゃうから、そのくらいにしとかないと。他に何か良い案が出れば良いんだし」


 トゥルースが二人の間を取りなすが、二人からはそんなに簡単に良い案が出てくるのかと疑問の声が上がる。


「う~ん、じゃあ人を集める為の鐘か何かを鳴らすとか?」

「お、それ良いじゃん!」

「いや……ああいうのは近場にしか聞こえないものだよ。特にこんな山間の場所なんかはね。それに、そもそも馬でも一日以上掛かる所までは音が届かないんじゃないかな」

「な~んだ、それもボツかよ。他に良い案はないんか?」


 そう偉そうな態度で言ってくる呪い持ちにイラッとするトゥルースと研究者。

 そもそも呪い持ちはこれまで何も良い案を出してない。それを指摘すると押し黙ってしまった。


「そっちの小さい方の女だって何も案を出してないやんか。何でワイばかり……」

「ふぁっ!? ええっと、その……。さっきの住人に伝え合って貰うってので良いと思う」


 突然話を振られたシャイニーが小さくなりながらも自分の意見を口にするが、先程却下された意見を推してきた。

 小さい方と言っても、フェマではなくシャイニーだった事に、フェマは静かにお茶を啜っていた。フェマの事は見た目的に頭数には入っていないようだが、特に気にはしていないようだ。


「でもそれだと、みんなに行き渡らないって言ったじゃん」

「うんうん。今までと変わらなけりゃ、やる意味なんて無いさね」


 意見を口にしたシャイニーに、先程いがみ合ってた二人が一緒になって攻撃してくる。

 そもそも文句を言う割に逃げ出していないので、呪い持ちは研究者をそれ程嫌っていないのかも知れない。だが、睨まれたシャイニーは堪ったものじゃない。ビクッとして隣に座るトゥルースの後ろに隠れてしまった。


「なにもそんなに否定しなくても良いだろ? ほら見ろ、ニーが怯えてしまったじゃないか」


 頼られたトゥルースは彼女を庇いつつ、睨み付けた二人に抗議した。

 ここ最近は同姓の仲間二人の存在もあって、ある程度は対人関係に慣れてきていたシャイニーだったが、人見知り癖が久し振りに顔を覗かせたようだ。

 幼い姿で庇護欲を誘いつつ、膨大な経験によってシャイニーを支えるフェマ。特に料理のレパートリーは、それなりにやってきて自信を持っていたシャイニーを遥かに上回っていて思わぬ工夫を幾つも手ほどきされていた。それに止まらず精神的にも実の祖母のように包み込んでくれる大きな存在となっていた。

 同い年であり後輩として接するティナは、知識の偏りがシャイニーとは百八十度逆で家事はからっきりなので、孤児院で一通りをやらされて何でも出来るシャイニーを尊敬していた。対するシャイニーも、自分の知らない事を何でも知っていて王子(ミックティルク)相手にも堂々としていたティナをリスペクトしていた。

 そんなシャイニーを宥めて、シャイニーに続きを話すトゥルース。ここまでシャイニーの信頼を得られた理由は分からないが、悪い気はしないので深くは考えない。


「えっと、取りに来て貰うように書いた物を、住んでる人たちに回して貰えば良いんじゃないかな」





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