√トゥルース -015 開かずの扉?
「うん? またメーラがヘバッたのか?」
前を行くシャイニーたちが乗るラバが再々度立ち止まると、その後を付いていたトゥルースたちの乗るラバも立ち止まった。ビィ~~ン、ヒェ~~ンと、今では聞き慣れてきた表現し辛い鳴き声で何やら喋っているようだが、その様子を見ていた白猫のミーアは詰まらなさそうに鼻を鳴らして首だけ動かし余所を向くと、再度昼寝を決め込んだ。
ずっと影の薄かったミーアだが、こうして律儀にトゥルースたちに付いて来ている。当然、先日の素っ裸事件など我関知せずとばかりの態度であった。実は本物の猫と入れ替わっているのではないのかと思ってしまいそうだが、時折トゥルースに向けて見せる何か言いたげなジト目が本物のミーアだと物語っている。
「いや、あの……。この先はどうしたら良いのかと思って。この先は馬車が通った跡があるんだけど、その馬車の跡が左手にも延びてるから……。寄ってってみる? それとも真っ直ぐ?」
シャイニーの問い掛けに首を傾げながら道を見てみると、その言葉の通り先に続く道には馬車が通った轍があり、その轍は脇道へと続いていた。
ポツポツと沿道に呪い持ちの住む家が点在しだしてからというもの、先行するミアスキアの手入れも殆ど必要ないくらいに酷道も普段人が通った痕跡が残る様になってはいたが、馬車が通れる程にこの先の道は道らしくなっているようだ。
「……どうするんだ? フェマ」
どうせ立ち寄ると言うんだろうと決め付けながらメーラに同乗するフェマに投げ掛けるトゥルースだったが、今回はちょっと様子が変だ。直ぐ様立ち寄ると返ってくるかと思えば、腕を組んで首を傾げている。
「うむ……前に通った時はこんな道は無かった筈じゃ。馬車を使う程生活に余裕のあるモンは呪い持ちにはおらせなんだからの。誰が好き好んでこんなところに移り住んで来たのやら……。よし、その物好き者の顔を拝みに行くかの」
何年前にここを通ったのかは知らないが、フェマはこの先に何があるのかを知らないらしい。その上で何があるのかを確かめに行こうと言うのだ。何歳になっても好奇心は旺盛らしい。
そんなフェマの決定に、トゥルースとシャイニーは諦めたかのように苦笑いで合意するが、ティナ一人だけが首を傾げる。
「あの。ルース様もシャイニー様も、フェマさんの言う事に素直に従うのは何故でしょう」
歩き出したラバの上で、ティナがトゥルースの肩越しに質問を投げ掛けて来た。だが、それに対してはトゥルースからの明確な回答は得られなかった。
「ああ~。そう言えばニナはフェマの呪いの事をまだ聞いていなかったか。う~ん、呪いの事に関しては本人に直接聞いた方が良いかな? 俺たちが勝手に話して良いものじゃないだろうし」
そう言われればそうだと納得するティナ。呪いは本人が知られたくない場合も多く、他人の呪いを吹聴するような真似はマナー違反だとして嫌われている。折角一緒に旅をしている仲間なのだし、本人がその内話すような事を以前に言っていたなと思い出すティナは、この先でゆっくりと腰を下ろした際にでも聞いてみようと心に決めた。
そして、一行が辿り着いたのは、家屋と言うには飾り気のない殺風景な大きめの建物だった。
いや、全く飾り気がない訳ではない。入口に見た覚えのある物によく似たマークが標してあったからだ。それは、盾の中に剣と槍がクロスし、中央に王城、右に獅子、左に蛇という、帝国の紋章であった。トゥルースたちが貰った外套や首飾りに刻まれた紋章とは少し違うそれだが、その知名度は高いもので大陸中にその名と共に知れ渡っていた。
「帝国の……施設? 何でこんなところに?」
「あ、そう言えば呪いの研究にこの地の奥まで入り込んでいる研究者が見えるって、ミック様が仰ってましたけど、もしかしてここがそうなのでは?」
そんなティナの言葉に、そう言えばとトゥルースたちも思い出す。改めてその建物を見れば、確かに研究施設であれば納得の造りであった。
「それにしても、呪いの研究か……。一体どんな研究をしてるんだろう」
「ほう? 坊も他人の呪いは気になるか。どれ、ちと覗いて行こうかの」
「あっ! フェマ、待っ!」
トゥルースが止める間もなく、ラバから先に降りていたフェマが入口の大きなドアを開けると、カランカランと盛大に鐘の音が鳴った。
「何なんだい、一体誰だよ? 支給の日はまだ先だろうに」
すると、ボサボサになった頭を掻き毟りながら奥から一人面倒そうにゆっくりと出てきた。
「うん? 何でガキんちょがこんなところに……迷子かな。 って、んな訳ないよね。お嬢ちゃん、母ちゃんか父ちゃんが一緒なのかい?」
白衣姿の研究者らしき人物が入口のフェマに目をやった後、外にいたトゥルースたちを見て顔を顰め、首を傾げる。それはそうだろう、普段人の出入りが全くと言って良い程にないこの地に幼女を含む子供にも見える若い男女がいたのだから。
「あらま、ちょっと冒険するには若すぎる面々だねぇ。親子、ではなく兄弟……にも見えないし……」
男性とも女性とも見分けのつかない中性的なその人は、予定外の訪問者を見て首を傾げるばかりだ。が、その視線の大半はティナの胸元に集中しているように感じるところから、恐らく男性なのだろうとアタリを付けたトゥルースはその視線の邪魔になる様にティナの前に立つ。
「……で? 一体何用でこんなところまで入り込んで来たんだい?」
チッと聞こえない程度の舌打ちをしたその研究者は、腰に手を当てて少し怒り気味にムスッとして問い掛けてきた。
「なに、ちょいと呪いの研究とはどんな事をしているのかと興味を持っての。少し見学していってもええかの?」
「は? ちょ、ちょっとぉ! 勝手に入っちゃ駄目だって!」
先に建物の中に入っていたフェマが、同意を得ないまま中の調度品等を見ながら奥へと進んでいく。その行動に面を食らった研究者は、慌てて部屋のドアを開けるフェマを追い掛けた。
取り残されたトゥルースたちも、どうせ秘匿するような物は無いだろうと高を括って、返事を待つ事なく中へと入っていった。
「……何だか、新しいのか古いのかよく分からない建物だな」
中は外から見て感じた以上に広々としていたが、運び込まれた荷物でゴチャっとしていて埃っぽかった。少なくとも暫くの間は掃除をしていないようだ。
フェマの入っていった部屋以外にも幾つかドアがあったが、何室かは入っていないようでノブに埃が溜まっていた。埃の溜まっていなさそうな部屋のドアを開けると、そこはキッチンであったり珍しい室内トイレであったりと生活の跡が見えるのだが、どの部屋もことごとく散らかっており、惨状と呼べる酷い状態だった。ある意味、他事には執着しない研究者らしい納得の散らかり様ではある。
「あれ? 他にも使っている部屋があるな。ここは何だろう」
幾つか並んでいる同じようなドアのひとつだけが綺麗になっているのを見付けたトゥルースは、おもむろにそのドアノブに手を掛けた。しかし、そのドアは鍵が掛かっていて開けようとしても開かなかった。出入りしているのに念入りに鍵が掛かっている事に違和感を感じるトゥルースだったが、何か重要な物でも置いてある部屋なのだろうと直ぐに諦めたトゥルースに、ティナが声を掛ける。
「開かないのですか? 普通のお部屋に見えますが……」
「今、隣の部屋を覗いて見たけど、荷物で一杯だったよ? 食べ物が多いみたいだけど、こんなにたくさんどうするんだろうね」
隣の部屋を見たと言うシャイニーも首を傾げるが、この建物の中に無造作に置かれた荷物の大半が食べ物っぽい。呪いの研究施設だと思ったけど、違うのだろうかと首を傾げたくなる状況だ。
「如何されるのかは分かりませんけど、あのような状態はよろしくないですよね」
「折角のお野菜が勿体ない。うち、ちょっと方付けをしてくる」
「あ、じゃあわたくしも。先ずは厨房からですね。あれではお料理も出来ないでしょうし」
キッチンを使う前提でティナとシャイニーが腕捲りをするのを見て、じゃあ自分も手伝わないとと動こうとしたトゥルースだったが、その時開かなかったドアの内側からガチャっと音がした。




