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√トゥルース -014 詰んでね?



「なあ、フェマ。本当に良かったのか? あんな別れ方になって」


 二頭のラバに乗って再び森の中の細道を進む一行。

 後ろを行くラバの上で、トゥルースは浮かない顔を浮かべて同乗者に声を掛ける。


「ええんじゃ、あれで。 いつ呪いが解けて、いつそれに気が付くかは分からんが、そう遅くは無いじゃろう。塩梅よう呪いが解ければ、草木の擦れる音、獣や虫の声、何より自分の発する音に直ぐ気が付くじゃろうからの」

「いや、そう言う事じゃなくて……」



 今朝は起きて朝食を食べると、早々に壊れかけの罠をフェマの指示で修理したトゥルース。

 腐り始めていた部分を新しく木を削って入れ替え、新しい縄で括り付ける。やりながら、これなら女性でもそんなに難しくないよなと感じたトゥルースは、やり方を女性に丁寧に教えようとしたのだが、頑なに首を横に振って覚えようとしない女性。今までは全て亡き母親に丸投げしていたらしく、一人になってからはこういった修理はやってこなかったらしい。見れば家屋も所々傷みが見受けられた。

 一人で生きる道を選んだ女性が、生活に必要な技術を覚えようとしない。それは生きる事を拒んだのも同義である。


 とんでもない(竜化の)呪いのせいで(王室)を追い出されたものの縁もゆかりも無かった(トゥルース)に格好付ける事もなくしがみ付いて生に執着する事を選んだティナは、その女性の選択に顔を顰めた。

 そして、孤児院を着の身着のままで追い出された事で運悪ければそのまま死を待つばかりだった所をトゥルースに助けられたシャイニーは、その命を粗末にしようとしている行いに珍しく腹を立てた。目の前に生きていく方法を伝授しようとしている(トゥルース)の言葉を聞こうとしないのは間違っている、と。

 そんな二人の不穏な空気を抑えさせ、自らが泥を被る言葉を下手な身振り手振りを交えて吐くトゥルース。言葉が通じなくても、その怒りに任せた熱量は表情なり仕草なりで伝わる。とは言え、トゥルースとしては単に聞く耳を持たない女性の態度に立腹して、勢い任せに罵っただけである。


 "そんなだから呪われたんだ。一生耳が聞こえないまま苦労して餓えて死んでいくと良い!"と。


 幾ら何でもそれは言い過ぎだと、ティナとシャイニーがトゥルースに抗議しようとしたが、それをフェマが止めた。(トゥルース)の言う通りだ、と。

 薄ら笑いすら浮かべたフェマのその一言に、二人だけならずトゥルースも目を丸めてそれまでの怒りを収めてしまった。

 そして目を瞬かせる女性をそこに置き去りにして、戸惑う三人を引っ張って旅の続きへと出立させたのだ。いつもなら前を行くシャイニーの乗るメーラに乗って道案内するフェマだが、トゥルースと少し話があるからとティナと代わり、後ろのミールに乗り込んだ。この先はミアスキアがある程度整えてくれていた今までの道とは違って、人が通っていてハッキリとしているだろうから迷う事はあまりないだろうという話だった。



「何じゃ、気になるのか? まあ、あれでええじゃろ。わしの見立てじゃ、無事に坊の呪いが発動しおった筈じゃからの」

「……分かるのか?」

「何となく、じゃがな」


 トゥルースの呪いの発動条件は、恐らく本当にそうなってしまえば良いと心を込めての嫌味、妬み等の言葉を口にする事だと思われている。

 先程の言葉もトゥルースは怒気の勢いで口にしてしまい、後になってシマッタと口を噤んでいた。それを見てフェマは呪いが発動しただろうと判断したらしい。以前にシャイニーがトゥルースの呪いの発動を言い当てていたが、多分同じ理由だろう。現にティナの呪いは今のところ再発する気配は皆無なのだから。


「ふむ。その調子で、この界隈に住まう呪い持ちを治して進もうかの。のう、坊」

「いや、ちょっと待て。まさかそんな理由でこっちの道を勧めたんじゃないだろうな、フェマ」

「そんなもこんなもあらせんわ。他にこんな難儀な道を勧める理由なんぞあらせん」

「なっ!? おいコラ! フェマ!」


 赤の他人の呪いを解く為に、こんな危険な道を進んで来たのかと思わず声を荒げるトゥルース。

 道は先行するミアスキアのお陰で随分と楽に進む事が出来ているが、途中で何度か危ない目に遭っている。特に突然の雨による増水でフェマ以外の三人は命の危機にまで遭った。そのお陰で少女二人との距離が縮まったとフェマは言うが、それとこれとは話は別だ。それにフェマが何やら余計な事を吹き込んだせいで、少女二人の行動が妙に大胆になってしまっている。

 男としては嬉しい反面、二人の人生の責任を取れる自信は今はまだないトゥルース。将来的にはまだ分からないが、そう簡単に決めてはいけないと自分の中の何かが警笛を鳴らすのだ。

 それと同時に、二人の身は絶対に守らねばという何か強迫観念が働いている。それが何故なのかは分からないが、間違っても二人を危険に曝すような事はしてはいけないと自分の中の何かが叫んでいるのだ。


「そう心配せんでも、他に半日も掛からぬ所に呪い持ちが住んでおる家が点在しておるわ。彼奴は只の出不精で人見知りなだけじゃ。いざとなれば、呪い持ち仲間に縋るじゃろうて」

「そう、か。なら良かった……じゃないっ。俺たちの安全の方が優先だろう、そこはっ」

「何を言うておる。この道を提案したのも決めたのもお主じゃろ。わしは道はちゃんとあると教えただけじゃ。そう人のせいにするでないわ」

「うぐっ、ぐぬぬ……」


 確かに、地図を見て距離的に近いこの酷道を選んだのも、ミックティルクたちに道を確認して最終判断したのもトゥルース自身だ。フェマはそこに道が存在している事を肯定したに過ぎない。フェマに責任を負わすのはお門違いである。


「そ、それでも危険だと知ってるのなら反対すれば、最年長者の意見としてちゃんと聞いていたのに」

「年長者も何もあらせん、こんな成り(幼女の姿)では説得力もへったくれもあらせんやろ。違うか?」


 フェマは見た目は五歳前後の幼女姿ではあるが、呪いのせいで徐々に若返っていっており、本人も把握出来てないようだが実際には齢百七十六なのだ。それを知っていようとも、その幼さ過ぎる容姿では説得力ゼロであった。


「確かに、それはそうかも……。でも、どちらかと言えばフェマは賛成側だったろ。食べきれない程の食糧まで買い込ませて……。さっきの家にも(・・)少しその食糧を置いてきたろ、俺に黙ってコッソリと。もしかして元々配り歩くつもりで買わせたのか?」

「まあ、そう言うでない。彼奴らはどうしても栄養が偏り勝ちじゃ。少しでもそれを解消してやらんとのぅ、頼れる相手が殆んどおらぬ者ばかりじゃから、体調を狂わせてしもうたら後が大変じゃろが」


 何を当たり前な事を聞いてくるのだ、と眉を顰めるフェマ。このままだと剰ってしまうであろう買い込んだ食糧が、こうすれば有効利用される話だとドヤ顔をするフェマに開いた口が塞がらないトゥルース。何か言いくるめられてしまっている感が凄いが、何を言っても言い返される気がして大きく溜め息を吐いた。


「で? この道はあとどれくらいなんだ?」

「うむ。人の足で村まであと三日から四日、寄り道をせんどけば、こやつらに乗ってじゃと一日半日といったところかの」

「寄り道を……しなければ? 寄り道せずに行けるのか?」


 その含みある言葉に引っ掛かって問い質すトゥルースだったが、当のフェマは聞こえない振りをして余所を向いた。

 この事から幾ら言っても無駄だと理解し、道中すんなりと進む事を諦めたトゥルースは、話を変えてずっと聞けなかった先日の素っ裸事件に付いて問い質す事にした。



「ん? ああ、あの二人の事かの。姫様は見て分かろうが元々やんごとなき身分の令嬢じゃろう。そういった身分の令嬢なら元から政略結婚前提に教育を受けておったのじゃろうが、呪いでそれがパアじゃ。頼れる者も誰もおらんようになった。そりゃ、どうして良いのか分からず不安にもなろうて。そこでじゃ、何としても拾ってくれたお主に気に入られようと全力を注いだんじゃろうて、嬢は言わずもがな、じゃな。まあ、あん時は嬢の方が理解が早く積極的じゃったがの」

「……ニーが? でも、だからって、あそこまでしろってけしかけなくても……」


 フェマがティナを姫様呼ばわりするのは、その見た目からのただの渾名だと思っているトゥルース。なので本物の王女だとは流石に思ってはいなかったが、それでも何処かの高貴な貴族の令嬢だとは疑いもしていない。

 そんなティナが身体を張って一般人のトゥルースに迫ってきたのだ。幾ら何でも理解が及ばないトゥルースは、何かフェマが良からぬ事を吹き込んだに違いないと決め込んでいたが、その通りであった。

 そもそも、フェマがティナの内情を王女だという事を伏せて言った事はほぼ言い当てており、それについて否定出来る要素のないトゥルースだったが、だからと言って焚き付ける理由にはならない。


「何じゃ、あれではまだ不満じゃったか。まあ、キチンと契りを結ぶのであれば、後は本人たちの問題じゃ。ヤる事をヤってもわしは止めはせんぞ? その時は姫様と嬢、二人一緒じゃろうがな」

「なっ、なななな何を言ってるんだよ! あの二人はちゃんと俺が守らないといけないんだ。それをフェマが引っ掻き回してどうしようってんだよ!」

「どうもこうもあらせんわ。二人とも行く宛がないんじゃから、お主が二人とも娶れば丸く収まる。そうなるように口添えしたまでじゃ」

「ちょっと待てよ。行く宛がないって、二人ともミック様からお声が掛かっているんだぞ? それに、シャイニーは今向かっている先に親がいるかも知れないんだ。この先どうなるかはまだ分からないんだぞ?」

「何じゃ、坊は二人を娶る気は全くないのかや? それとも単に尻込みしておるだけかや? 男らしゅうあらせんぞ、わしは二人がよう知らん男の元へ嫁ぐよりは、気心知れたお主の方が安心じゃろうと思ったまでじゃ。ほんで二人もそう望みおった……ちゃうか?」


 話が聞こえているのだろうか、前を行く二人がチラチラと後ろを見てくる中、フェマは近い将来の事を考えて少女たちを焚き付けたのだ。

 なのに、フェマが指摘するように自分が思った以上に女々しい事はトゥルースも重々自覚した。女であるティナとシャイニーが大胆にも身体を張って距離を縮めてきたのだ。そうまでされて男であるトゥルースが尻込みしていては、女の二人には失礼に当たる。

 だが、トゥルースは二人の行動に疑問を持っていた。

 三人ともまだ十五歳である。それも出会ってから数ヶ月しか経っていない。まだまだ結婚するには性急過ぎる話じゃないか、と。


 シャイニーは孤児院を追い出されたところをトゥルースが拾った形である。そのまま誰にも気に留められなければ餓えて命を落としていたかも知れない。それ以降ずっと捨てられる事なく養って貰っているのだ、シャイニーとしてはトゥルースに感謝しかない。いや、トゥルースに対してそれ以上の感情を持っていてもおかしくはないが、それは少し歪な気もする。

 対するティナも、普通ではない(竜化の)呪いを解いて貰い、同じく養って貰っている恩がある。そして何より、その呪いが再発した時に再び救う事が出来るのはトゥルースしかいないだろうと言われている為、トゥルースから離れるに離れられない。どちらかと言えばトゥルースに娶って貰うのが責務に思っているのかも知れない。


 そんな背景があってのあの行動では、自ら望んだと言うよりは強迫観念があっての行動とも取れる。そんな状態で言い寄られたところで嬉しくはない。

 フェマの言う通り、ティナが家の決めた嫁ぎ先の当てが無くなっての行動であれば尚更だ。妥協してだなんて、惨めな気持ちになってしまう。ミックティルクに正直に話した上で娶って貰う方が幸せになれるだろう、ミックティルクが了承すればだが。

 しかし、それも問題がある。どうやって呪いが解けたのかを話す必要があるからだ。そうなればトゥルースの呪い()も必然と欲しがられるに違いない。そうなればどんな無理難題を迫られるか……。


 途端にミックティルクに再会するのが嫌になるトゥルース。

 しかし、このまま姿を眩ませようにも来た道を戻るには危険が多いし、進めば手を揉んだミアスキアが出口で待ってるだろう。そのミアスキアを振り解けたとしても、ミアスキア以外にも多くいるであろうミックティルクの部下の諜報員にあっという間に捕捉されるに違いない。何しろこちらには非常に目立つ女性二人がいるし、その二人と別れれば自ずと移動の足(ラバ)まで失われるのだから。

 ラバたちは二頭一緒でないと動こうとしない。更に必ず前を行くメーラ(雌ラバ)はシャイニーの言う事しか聞かないからだ。トゥルース一人でラバを走らせようとしても動かないのである。ラバ二頭とシャイニーはセットなのである。

 それに、自分が姿を消せば間違いなく前を行く二人は探し回るだろう。あの目立つ二人が困り顔で街中を歩けば、下心の有無関係なく人々は協力を惜しまないだろう。容姿の良いティナは当然、教会の後ろ楯を持つシャイニーがその教会を頼れば尚更……。

 どちらにせよ、逃げられないには違いないのだが、そうなれば少女二人から追われるだけでなく、帝国からも教会からも逃れなければならない立場になってしまう未来しか見えない事に戦慄する。


「……なあ、フェマ。俺、色々と詰んでないか?」


 いつもよりも随分とゆっくり進んでいた前を行くメーラが立ち止まり、乗っていた二人が降りる。やはりフェマからティナに代わった分だけ重くなり、少しバテたみたいだ。

 降り立った二人は息の粗いメーラ(雌ラバ)を労わりつつ、苦笑いした顔をこちらに向ける。出会ったばかりの頃には見せなかったそんなちょっとした表情の変化を警戒心もなく向けてくる二人の仕草に、トゥルースは思わずドキリと胸を高鳴らせる。

 そんなトゥルースにフェマは、この坊にはまだまだ性急だったかと溜め息を吐いた。


「何を今更……。まあ、二人を娶る娶らぬはよう考えるとして、今後の事はなる様にしかならんじゃろう。諦めるこったの」





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