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√トゥルース -012 分水嶺



「あれ? ここの水って、もしかしたら二手に分かれてあっちとこっちに流れているんじゃないか?」


 険しかった岩場の多い坂道を登りきると、その先は景色が一変して畑でも出来そうなちょっとした草原が広がっていた。

 丁度そこに水を汲むのに都合の良さそうな別の沢が脇にあり、水汲みがてら休憩しながらその沢の水を眺めていたトゥルースが気が付いたのだ。その沢は今まで道の脇を流れていた沢に流れ込んでいたのだが、その今まで辿っていた方の沢がそこで水溜まりになっていた。

 何気にその水溜まりに浮かんでいた葉っぱを眺めていたら、その葉っぱが今までの沢の流れる方向とは逆方向に動き出したのだ。見ていたトゥルースは葉っぱが流れに反して遡っていくような錯覚に陥った。

 そもそも、峠を登りきった先の草原が真っ平らもしくは少し勾配の付いた登り坂に感じていたのだが、もしかしたら実際は下り坂になっているのかも知れない。


「うむ。ここは分水嶺だの。随分と登って来た訳じゃが、ここからは徐々に下っていくのじゃ」

「徐々に? じゃあ、もう崖を登ったりしなくても良いのか?」


 フェマの言葉にホッと息を吐くトゥルースたち。ここまで迷いそうな森の中を突っ切り、今にも落ちそうな吊り橋を避けて遠回りしたり、崖を伝うような整備もされてない細道をヒヤヒヤしながら通ったり、時には沢の中を遡ったり……。

 ミックティルクたちが危険だと言っていた理由を身を以て体験してきた。幸いにも、先行しているであろうミアスキアが危険箇所を処理しておいてくれてたり、迷わないように草刈りをしていてくれたりしたお陰であるのだが、それ以上にラバたちの功績も大きい。

 崖沿いの道で何度も足元を掬われたものの、それを何食わぬ顔で踏破してくれたのだ。もし自分たちの足で進んでいれば、ほぼ確実に崖下で見知らぬ獣たちの餌になっていただろう。他にも泥濘(ぬかるみ)や岩場をも難なく踏破してきたのはミールとメーラがいてこそだと言えよう。


「まあ、険しい所は乗り切ったの。じゃが、まだ先は長い。つまらん怪我などせんように気を付けるんじゃぞ」


 釘を刺す事は忘れないフェマ。確かに道がなだらかになった途端怪我なんてすれば、それが気の緩み以外の何物でもない。ここからもラバたちの脚が頼りなのは違いないが、つまらない事で怪我をしたり遭難しないように気を付けたいものだ。

 道の先を確保してくれているミアスキアと、こんな山道に特化した脚を持つミアスキアの馬にも頭が上がらないところだ。


 そんなミアスキアだが、トゥルースたちが突然の雨によってあわやという目に遭った翌夜明け前に、顔を青くして様子を見に来たそうだ。精神年齢が普通の婆様を遥かに越えているフェマだけがそれに気付いていた。

 自分が勧めた温泉が元で危険な目に遭わせたのだ。突然の雨による沢の増水など離れた場所では予見など出来ようもなく、雷鳴が聞こえてきて初めて危険を察知し急いで駆け付けようとしたものの、直ぐに降雨によって行く手を阻まれて結局駆け付けられたのは明朝の夜明け前だった。

 四人が揃って寝ているのをそっと覗き込んだミアスキアは、心底ホッとすると同時にフェマ以外の三人の様子に目を丸くしていたらしい。それはそうだろう、一緒に寝ているとは聞いていたものの、実際に見てみれば男女が抱き付くようにくっついて寝ていたのだから。


 ミアスキアのそんな様子を見て、フェマが苦笑する。心配せんでもこれ以上の事は何も無かったぞ、と。

 前に立ち寄った廃村にあった神社の拝殿で、四人が寝ている様子は目にしていて男女並んで寝ている事は知っていたミアスキア。だが、危ない目に遭った直後のその晩、ティナとシャイニーは皆無事だった事を噛み締めるようにいつも以上にトゥルースにしがみついて寝ていたのだから。

 前に立ち寄った廃村にあった神社の拝殿で、四人が寝ている様子は目にしていて男女並んで寝ている事は知っていたミアスキア。だが、危ない目に遭った直後のその晩、ティナとシャイニーは皆無事だった事を噛み締めるようにいつも以上にトゥルースにしがみついて寝ていたのだから、それを目にしたミアスキアが余計な詮索をしなくてはならなくなった。

 だが、一緒に寝ていたフェマがそれをすっとぼけて否定した事で、その心配は杞憂に終わったのだ。


 実際には色々と問題な行動はあった。

 素っ裸の三人が抱き合うようにくっついて逃げてきたのだが、天幕の傍まで近付くと焚き火の明かりで自分たちのあられもない姿が丸見えとなり、ティナとシャイニーが自分たちの状況を漸く理解し慌てて天幕に逃げ込んだ。結果、素っ裸のトゥルースが火の番であるフェマと共に雨の降る外に取り残されたのは仕方のないところだろう。大きな樹の下なので直接雨に当たる事が無かったのが幸いだが、裸で火の近くに立たされたトゥルースは熱いのか寒いのか、よく分からない状態に曝されたのだった。

 お互いに恥ずかしい思いをした三人だったが、一歩間違えれば命を落としていたかも知れなかったのだ、四人揃って寝る頃にはお互いの無事を歓び、いつも以上にくっついて寝たというのが真実であった。




「あれ? あれってもしかして次の(・・)家じゃないか?」


 休憩が終わり、登り続けているように感じる草原を下って行くと、次の森が見えてきたところで細く煙が立っている建物を見付けた。


 そう、ここに来るまでに既に一軒、人の住んでいる家を見付けて立ち寄っていたのだ。その家には一人静かに暮らす良い歳のオジさんが住んでいたのだが……。

 そのオジさんは兎に角口が悪かった。家を見付けて近付いただけでボロカスに言われ、フェマが満載していた食糧を分けてやってもボロカスに言われ。

 流石にカチンときたトゥルースが嫌みを口にしてそこを後にしてきたのだが、ラバの上でフェマが後々教えてくれた。あのオジさんの口の悪さは呪いのせいだと。何処でもあの口の悪さが災いして居場所が無くなり、あの場所にまで逃げ込んできたそうだ。もう三十年近くも前からあの場に引き隠っているらしい。

 それを聞いて、オジさんに対してちょっと言い過ぎたかとトゥルースが反省の言葉を口にすると、フェマはそれを鼻で笑った。お主の呪いは何じゃった?と。恐らくトゥルースの吐いた苦言は呪いの力が働いて、オジさんの呪いを解いたかも知れないと。


 トゥルースの呪いは嫌みを口にすれば、その言葉の反対の事が起こるというものだ。そのせいで、村では嘘つき呼ばわりされて随分と苦労してきた。

 だが、成人して村を出てからというもの、何人かの呪いを解いてきたのだ。王都にあるザール商会の商会長アガペーネ然り、フェマが世話になっていたお婆さん然り、竜に姿を変えていたティナ然り、女の尻を追い掛け始めていたミアスキア然り。

 更にトゥルースたちは結果を確認してないのだが、何人かの呪いを解いて歩いていたのだ。今回もその力が働いて、オジさんを救ったかも知れないとフェマは言う。


「うむ。あそこには母娘が住んでおった筈じゃ。もう随分立ち寄っとらんから、母親の方が生きとるか分からんがの」


 フェマが言う前回とは何時の事だろうと目を細めるトゥルース。だが、フェマはそれを意に介さず、前を行くシャイニーにその家に立ち寄る事を指示する。

 ラバから降りたトゥルースが早速玄関先で声を掛けるが、住人はさっぱり出てくる様子はない。窓からは炊事で火を使っているだろう煙が立ち上がっているし、耳を澄ませば生活音が聞こえてくるので居ない事は無さそうだ。

 声が届いていないのかと首を傾げる一同。再び声を張って呼び掛けようと息を吸ったトゥルースを尻目に、フェマが問答無用に玄関を開けて中に入っていく。


「お、おい。勝手に入って行っちゃ駄目だろ」

「ふん。いくら声を掛けたっても、ここの者は気付かんわ。ほれ、お主らも入ってこい」


 その言い様に、フェマは住人の事を知っているようだ。トゥルースは後ろに控えていたティナやシャイニーと顔を見合わせると、フェマの後を追うように遠慮気味に入っていった。

 奥へと入っていくと、台所で女性が一人料理をしていたが、先に入っていったフェマが背中を叩いて初めて気付いたのか、酷く驚く女性。


「覚えておるか? わしじゃ、わし」





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