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√真実 -047 異常行動の原因

遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。



「やっぱり寄って良かったな。里芋とカボチャが投げ売りされてたから、随分と買い込む事が出来たよ」


 ホクホク顔でパンパンに詰まったエコバッグを掲げる真実に、同じく程々に詰まったエコバッグを自転車のかごに入れて引いていた光輝も顔を綻ばせる。


「ん。出始めのさつま芋とチンゲン菜も今日は手頃なお値段だったし」


 その様子から、師範に指摘された事に尾は引いていないようだ。

 報告を終えた真実と光輝は、瑞穂の勧めで帰りに道場近くの普段行かないスーパーに立ち寄ってみたところ、極一部の野菜類だけだったが相場よりも安かった。その為、修学旅行で三日間留守にしていた事もあって食材が心許なかったので、財布の中身が許す限り二人で買い込んだのだ。他の食材は出直して別のスーパーに買いに行くつもりだ。


「じゃあ、いつものようにうちで半々に分けようか」

「ん。ついでに簡単な里芋の食べ方を教えてあげる。赤味噌か生姜はあったよね?」


 

 もう、既にそうするのが当たり前のような会話だ。聞く人が聞けば、その内どちらかがプロポーズでもして結婚してしまうのではないかと勘違いするかも知れない。

 だが、まだ二人は中学生。当然高校を受験して進学するだろう。大学にだって行くかも知れない事を考えれば、結婚などはまだまだ随分と先の話である。

 それから二人で真実の家へと向かう。行きはそれぞれ別々だった為、真実は走って道場に行った事もあって二人とも歩いてだ。自転車やバスでの移動よりも時間が掛かるのだが、それも今では楽しみにしていたので気にはならなかった。


「ああ、赤味噌はあったけど、生姜はどうだったかな。母さんが冷奴とかで使いきってなければ確かあったような……」

「クスッ。真実くんのおかあさん、放っておくとお酒とおつまみしか食べてなさそう」


 最近はこうして光輝も笑う事が多くなってきた。クラスメイトとして認識したばかりの頃は笑うところは滅多に見る事がなく、一度笑みを漏らせばクラス中の注目を集めた程だ。その頃は真実は、みんな何を騒いでいるんだろうとしか思ってなかった。

 その稀少な笑顔を独り占め出来ている事に満足感を半端なく感じている真実。随分と変わったものである。


「真実くん、荷物重くない?」

「ああ、大丈夫。このくらいなら筋力が付くし」


 なるべく建物等の影を歩くようにしていたが、朝晩涼しくなってきたとは言え、まだ九月の半ばの日中は十分に暑い。二人とも額に汗が滲んでいたが、そこにびゅうと風が吹いた。それまで殆んど吹かなかった風だったので、気持ち良く感じたのだが……。


「ありゃ? 今日の天気予報って雨マーク付いてなかったよな」

「……うん。ずっと晴れマークだった。でも、大気が不安定になるって言ってたような……」


 ふと空を見上げて呟いた真実に、光輝も釣られて空を仰いだ。さっきまでカンカンに照っていた太陽はいつの間にか覆った雲に隠れていた。その雲は随分と厚いようで、まだ日暮れまで数時間あるにも関わらず空を鉛色に染め上げていた。


「これ、ヤバい雲じゃね?」

「う、うん。直ぐにでも降り出しそう」


 そうとなれば急いで帰らねばと駆け出す二人。

 遠くからも雷鳴が聞こえていて、隣町あたりは光が届かないのか真っ暗になっていた。ずっしりとした荷物を持つ真実と、自転車を引く光輝。全力でと言っても高が知れている。光輝なんかは自転車に乗ってしまえば良いのだが、何故か引いて走るものだから走り難いのかスピードが出せない。

 そうこうしている内にポツポツと大粒の雨が落ち初めてきた。雷もどんどん近付いてきているのが分かる。この粒だと一気に土砂降りになるだろうが、真実の家は間近だ。しかし、急ごうとする真実だったが、光輝はもう力尽きようとしていた。


「降り出してきたっ! 急げ、光輝!」

「はぁはぁはぁ。う、ウチ、もうダメ。はぁはぁ。真実くん、先に行って!」

「諦めるな! 諦めたらそこで試合終了だ!」


 諦めて足を緩めようとする光輝。そんな挫けそうになっていた光輝を励ます真実も、余計な荷物のせいか随分と息が切れていた。

 家に辿り着く頃には雨は本降りになってきていて、薄着だった二人の服は色が変わる程雨に濡れていた。しかし、まだずぶ濡れという程ではなかったのが幸いだった、のだが……。


「あっ! 洗濯物が!」


 玄関の鍵を開けたところで、真実が干してあった三日分の洗濯物の存在を思い出して荷物を玄関先に置き庭先に走る。


「しまった、ずぶ濡れだ。また洗濯のやり直しだこれは」


 干してあった洗濯物から滴り落ちる水滴に、今度は真実が挫けそうになるのだが……。


「真実くん、ウチが半分持つよ」

「えっ、光輝! 何で来たんだよ、光輝まで濡れちゃうじゃないか!」

「ん。もう今更だよ」


 確かに、この土砂降りではパンツまで冷たくなりつつある。この状態で軒下に避難したところで、意味は殆んど無いに等しい。

 それもそうかと諦めの溜め息を吐いて、干してあったタオルを二本手に取り、一本を自分の頭に、もう一本を光輝の頭に被せて他の洗濯物を取り込み三分の一程を光輝に手渡そうとした。が……。


 ズドン!ガラガラガラ……。


「きゃあああ!!」


 近くに雷が落ちたのだろう、凄まじい光と共に大気を震わせる大轟音が鳴り響いた。と共に心臓が跳ね上がる真実。その心臓に響く轟音に驚いただけではなく、小柄な同年代の少女がしがみ付いてきたからだ。

 思った以上に細い細く柔らかな感触に、思わず顔が弛む真実だが、そのくっついた小さな身体が小刻みに震えているのを感じた。


「大丈夫だぞ、光輝。そんなに怖かったのか? それとも、雨に濡れて身体を冷やしたのか? 取り敢えず早く家の中に入ろう」


 酷く鮮明な既視感(デジャヴ)を感じながらも、震える光輝を促して家の中に入る。手にしていた洗濯物を脱衣所にある洗濯機に突っ込むと、その処理は後回しにして風呂の給湯器のスイッチを押す。こうして光輝の為に風呂を用意するのも久し振りだなと思い出しながら、湯張りのボタンを押した。


「光輝、風呂に湯を入れてるから、入って身体を温めろ。走ってきたから汗も掻いてるだろうし、雨に濡れて冷えきってるだろ」


 と、その時、髪から滴り落ちた水滴がポタっと背中を伝った。思わずブルリと震える真実。

 今のは我慢など出来る筈もない。そう、どうしようもなかった。そんな事をすれば、この後に光輝がどんな行動をするのか分かっていても。


「……真実くんが先に入って」

「いや、光輝の方が先だ」

「ウチは後から(・・・)入らせてもらうから。真実くんが風邪をひいちゃう」


 頑なに首を振る光輝に、何時しか似たような事をやり取りした事を思い出す真実。

 仕方なく先に入るかと諦めて、光輝にタオルをもう一本手渡して服を脱いだ。風呂に入るとまだ湯は湯槽の半分までも溜まってなかったが、入れ替わって光輝が入る頃にはちゃんと溜まっているだろう。それまでに温まってサッと出よう。


「……マジか。一瞬そうなるかもとは思ったけど……」


 つい先程まで思っていた事を早々にあっさりと覆す事態が発生した。これは由々しき事態である。

 ガチャリと扉を閉める音が浴室内に響く。口をあんぐり」と開けた真実の目の前にはプリッとした真っ白なおしり(・・・)が。

 先程手渡したタオルを手に、申し訳程度に前を隠した光輝が振り返って真実の方を向くと、それを見た真実が慌てて壁に視線を逸らした。


「ちょっ! 何で入ってくるんだよっ。後から入るって言ってたじゃないか!」

「ウチ、後から(・・)入るって言ったよ?」


 後で(・・)ではなく、後から(・・・)。確かに言葉ではそうだけど、そうじゃないと抗議の声を上げねばならない場面だ。しかし、手桶で湯を掬いザバッと音がした後、スッと湯船に真っ白で細い足が入って来たところで、その言葉を唾と一緒に飲み込んだ。

 律儀にタオルを湯槽に入れない様に光輝は手のタオルを湯槽の縁に置いていた。一男子中学生としては一瞬で猛獣と化してもおかしくない状況であるが、先程のガタガタと震えた小さな身体の感触が残っている真実は辛うじて理性でソレを押し止めた。


「いや、そうじゃなくて……。俺が入っている風呂に、何で光輝も一緒に入ろうとするんだよ!」


 体育座りで膝を抱えて小さくなる真実の隣に、チャポンと音を立てて身を沈めた光輝。お湯の嵩は胸元にまで一気に高くなり、温かさが増す。身体を温めるには好都合だ。既視感(デジャヴ)を激しく感じるのは、この際意識の外に追いやる真実。

 だが、今は隣に座った光輝の存在が気になって仕方がない。思わず出てしまって出た、そんな正当な真実の訴えは仕方のない事だ。

 しかし、返ってきた光輝の答えは驚くものだった。


「だって、この方がお湯が少なくて済むし。それに、大事な人となら一緒にお風呂に入るのは当たり前だし」

「えっ!?」


 大事な人となら当たり前、そんな言葉に驚いて思わず光輝の方を向くと、そこにはほんのり顔を紅くした光輝の顔が。

 何とも色っぽいその姿に釘付けになってしまう真実だが、同じように足を抱える光輝もまた素っ裸な事に、露になっている肩から下を見てしまって気付く真実。慌てて顔を背けるのだが、二人の肩だけでなくお湯の中でお尻も肌と肌がくっいていて、嫌でもそれを意識してしまって顔を紅くする真実。

 よく暴走せずにいられるなと思うところだが、そこに光輝が追い打ちをかける。


「大事な人が相手なら恥ずかしくなんてないよって言ってたけど、やっぱりちょっと恥ずかしいねこれ」


 徐々に上がってくるお湯の嵩で、光輝の胸元もお湯に沈んできた。もう少しで給湯器を止めないと溢れてしまいそうだが、真実の意識は光輝の発した言葉に集中していてた。


「言ってた? 言ってたって、誰が?」

「ん、おばあちゃん。おじいちゃんがいた頃はみんな一緒にお風呂に入ってて、三人だとあのお風呂じゃちょっと狭かったから聞いてみたの。そしたら当たり前だよって」

 

 既に他界したという祖父を思い出してか、少し寂しそうな目を上に向けて語る光輝。

 大事な人イコール家族なり夫婦なりを意味するのだろうが、光輝はカレシである真実をおばあさんの言うその大事な人と認識しているようだ。今までの光輝の異常な行動が漸く納得出来た真実。


「いや、それはそうかもだけど、ちょっと意味が違ってると思うんだけど……」


 最初の一緒にシャワー事件は少しそれとは違うように思ったが、あの時は二人とも下着を着けていた。光輝の中ではあれはセーフの判定なのだろうか。判断基準が少し、いや大分おかしいが、そう思ってくれているのはカレシとしては嬉しくもあるところだ。

 そんな事を思い出しつつ、それ以上、信頼してくれている光輝を責める事も出来なくなった真実。そんな信頼してくれている光輝を裏切るような早まった行動をしなくて良かったと心底思う。光輝が大事な人認定してくれたのと同等かそれ以上に、自分だって光輝の事が大切なのだ。


 隣の光輝を見れば、少し恥ずかしそうに膝を抱えて小さくなっていた。最近休日は校則に則ったふたつ結びではなくポニーテールにしていて、露わになったうなじ、目を落とせば男とは明らかに違うまっさらで小さな背中が視線に入る。くっついた肌と肌がお湯よりも温かく感じ、今まで以上に愛おしく感じた真実。自分に対してこれ程にも無防備なカノジョに一抹の不安を抱えつつ、この小柄で可愛いカノジョをこれからも守っていこうと心新たにしつつ、抱きしめたい衝動を必死に堪える。

 ふと溢れそうなお湯に気付いて慌てて給湯器のスイッチを止めると、壁を睨んで一人言ちた。


「ったく、諸悪の根元はあのおばあさんだな。光輝に余計な知識を中途半端に教えやがって!」






 ※自転車を「引いて」の表現、押すじゃね? と思われた方、正解です。

 が、今回は荷物を載せているので自転車を荷車としても見れる訳で、その場合は引くでも合ってると解釈されています。

 特に意図して書いた訳ではありませんが、作者としては「引く」か「牽く」かで迷った(笑)ので引くにしました。



 第56話 √トゥルース -011 を少しだけ加筆・修正しました。

 話の流れは変わってませんが、ちょっとだけ攻め込んでみました。

 と言っても分からないかも(^_^;



 そして、年始早々インフルエンザに罹ってしまいました。

 何が辛いって、冬場に布団の中で大量に汗を掻く事。

 幾分楽になったな~と思って体温計ってみても、まだまだ、38度台だった事。

 寝る以外何も出来ない事。

 今は熱も下がったものの、布団の中で謹慎中です。

 このチャンスに執筆を、と思ったものの、布団に入ると自動的に思考がオフになって瞼が閉じ、Zzz……。

 皆さんもインフルエンザには気を付けて下さいね。


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