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√真実 -046 目指すところは?



「えっ!? これをあたしに?」


 翌日の土曜日、午前中は三日間家を空けたので朝から洗濯や掃除に勤しんだ真実。

 修学旅行の翌日が週末になるよう組まれたのは学校側の配慮で、確りと身体を休めて週明けの授業に影響無いようにとの意図が見える。しかし、真実は何時もよりは少々遅かったものの、朝早くに起きる癖は抜けないようで、午前中を使ってやるべき事を済ませていた。

 そして午後一の今は、光輝と示し合わせて道場へと乗り込んでいた。綾乃は今日一日、グダグダとだらけたいらしい。


「これは京都の大蓮寺っていう安産祈願のお寺のお守りで、みんなで出し合ったんだ」


 小さなお守りは二日目の昼食後、綾乃のリクエストで安井金比羅宮に行こうとした時に、京都には安産祈願で有名な所が幾つかあると偶然耳にした光輝が提案した。

 しかし、有名な所は少々遠い所が多く、タクシーの運転手に聞いたところ、目的地の安井金比羅宮から北に行った所にもあると聞いて、真実と光輝が別行動でタクシーを回して貰ったのだ。流石に連絡手段のない真実が一人で行く事は許されず、智樹のスマホを託された光輝がお目付け役として付けられたのだ。

 本来のお目付け役は養護教員の美鈴だったが、ここは松葉杖姿の祐二の傍に付く事を選んだ。真実の別行動を許したのは、生徒(真実)たちの自主性を重んじつつも自分(生徒)たちに責任を持たせようとしての事だった。

 他の教師たちのように頭ごなしに何でも行動を制限していては子供たちが成長できないと考えての美鈴なりの譲歩だった。少なくとも一人で行動するよりは、守るべき(光輝)が一緒ならば行動も慎重になるだろうと見ての判断でもあった。


「そう、なのね。大切にするね、ありがとう」


 春先に出産予定だと言う瑞穂。お腹はまだ言われないと気付かないくらいの大きさではあるが、少し大きくなってきていた。

 瑞穂が襲われかけて助けに入った真実が怪我をした事件から一ヶ月半。それまでは男勝りだった瑞穂は、事件後から角が取れて丸くなり女性らしくなり、一人で歩いて通っていた買い物も事件後からは義母の孝枝と共に行くようになっていた。

 護身術を習った事で自信を持って男勝りな性格に磨きがかかっていた彼女だったが、妊娠して知らず知らずの内に保守的になっていたらしく、それを事件で自覚したらしい。大学を出る前なら余裕で返り討ちにしていたのにと悔しがっていたが、それはそれでどうなのよと実家の父親が微妙な顔をして言っていたらしい。


「それで、修学旅行はどうだったの? 楽しかった?」

「いや、それが……また師範に報告する事が出来ちゃって……」

「えっ!? まさかまた事件に巻き込まれて?」


 見た目は子供、頭脳は大人な迷探偵よりは事件の遭遇率は低いだろうが、それでも一般人としては結構なエンカウント率だろう。

 その後、真実は瑞穂に付き添われて師範(欣二)へ報告しに向かった。悪い事はしていない筈なのだが、めっちゃ叱られた。


「ったく、あれ程ボクサーとはやり合うなと言っておいたのに、お前という奴は……。今回は偶々運が良かっただけだと肝に銘じておけ!」


 師範が目を吊り上げて怒鳴るが、そんな事はボクサー(木林寺)を相手に大立ち回りを繰り広げた真実がよく分かっている。

 実際のところは木林寺が余裕を見せて長く楽しもうとわざと手加減していたから、当てられたパンチも威力が弱く真実は大した怪我にはならなかった。もし木林寺が最初から本気だったのなら、真実はあっさりと負けていただろうと自覚もしていた。


「ちょっとキンちゃん! 何もそんなに声を荒げなくても良いでしょ! マー君はクラスメイトを助けに入ったんだから、寧ろ褒めるところじゃない!?」

「えっ!? いや、そのだなぁ……一応釘を刺しておかないと、こいつは何時まで経っても俺TUEEEと思い込んじまう。そんな危険な状態で今後もいられたら、その内大怪我で済まなくなるかブタ箱に入る事になるから……な、分かってくれよミーちゃん」


 瑞穂の一言のせいで師範の貫禄は台無しである。しかし、師範が頭から押さえ付けるような指導に対して、瑞穂は褒めた後に悪いところを嗜める方針のようだ。

 勘違いし易い中学生男子がオイタをした時は師範の指導方法もアリかも知れない。特に壱継たちのような人の話を聞かないタイプや昭和の時代なら……。

 しかし、今はもう平成が終わろうとしている時代である。壱継たちのような者でも時間を掛けて諭していく時代なのだ。それを愛妻に指摘され、声が萎んでいく師範であった。


「……でだな、ちゃんとルールを守るボクサーってのは決して街中で一般人相手に手は出さない。この意味分かるか?」


 仕方なく以前も説明した事をおさらいするようにまた説明する師範。

 ボクシングを嗜む者は喧嘩はご法度だとよく言われるが、それはボクシングのパンチが与える影響が素人相手だと致命傷を与え兼ねない。加害者と被害者の出来上がりだ。どちらにとっても不幸でしかない。

 加えて言えば、師範がボクサーを相手にする事を厳禁としたのには別の理由がある。大半のボクサーは喧嘩はしない。被害者を生み出さない為であると共に、加害者になるのを避ける為だ。だから、真面目なボクサー程、喧嘩になった時に手を出さずにやられっぱなしになってしまう事がある。師範はどんな理由があれ、ボクサーを相手にするなと言ったのはボクサーを被害者にしない為でもある。当然その時は相手(真実)が加害者だ。

 そう、ボクサーは真面目な人こそ被害者となり、一度(ひとたび)牙を剥けば重大事件の加害者にもなるのだ。今回は運が良かったに過ぎない。


「確かに、前半は遊ばれたからなぁ。いきなり本気を出されていたら先ず勝てなかった」


 そりゃ当然だと、真実の漏らした言葉に激しく同意する師範。


「で? その間、光輝君は松葉杖のクラスメイトを安全な所まで誘導し、綾乃君は教師に電話連絡、もう一人のクラスメイトが近くの大人を探しに走ったと……」


 取り敢えず真実に言う事を言って満足したのか、今度は一緒に報告に付いてきていた光輝に目を向ける。


「ふぁ!? は、はい。離れた所まで布田くんを連れてって見てました。あやのちゃんは尾桟先生に電話して、かこちゃんは近くにいた向こうの学校の先生を見付けて連れてきてくれて……。秦石くんは真実くんの手助けまでしていたのに……ウチ、また何も出来なかった……」


 尻窄みする光輝。真実は直後にもやるべき事をしたからと光輝を褒めたのだが、光輝自身は未だに納得出来ていなかった様だ。

 しかし、真実と同様に師範は光輝を褒めた。


「何を言ってるんだ。光輝君がみんなを連れて遠ざかった事で、真実が気兼ねなく腕を振るえたんだろう? ちゃんとやるべき事をやっているじゃないか。大した進歩だとオレは思うぞ?」


 さっきまでの真実相手とは打って変わって、手放しで光輝を褒める師範。でも、と渋る光輝に言葉を続ける。


「君に出来る事をする。逆を言えば、出来ない事には手を出さない、首を突っ込まない。特に今回のような危ない事には関わらない事の方が大事だ。君は喧嘩のけの字も知らない女の子なんだから、自分の安全を優先する。その上で友達の安全も確保出来た今回は満点だと思うぞ? この道場に通っているベテラン勢みたいな、か弱さとは縁の遠い(・・・・・・・・・)、男を投げ飛ばすようなあいつら(・・・・)の方が稀なんだ。光輝君の目指すところはそれとは違うだろう」


 暗に、男を投げ飛ばすような女の子になりたいのかと聞いてくる師範に、光輝は戸惑いの顔を向ける。

 が、師範の隣で一緒に聞いていた瑞穂が僅かに顔を顰め首を傾げる。


「それに、真実だって基本的には逃げる事を優先しているだろう? 思い出して欲しい、最初に君たちを助けた時の事を。相手を行動不能にしたとは言え、君たち二人とその場から逃げてきたのだろ? 今回も他のクラスメイトたちを逃がそうとしたが、そいつらが逃げなかった為に相手と対峙せざるを得なかった。そこにもし光輝君が近付いて行ったら、益々真実はそこから逃げられなくなるじゃないか」


 確かに真実は壱継たちが逃げ出せば自分も逃げ出すつもりでいたが、もしそこに光輝が何かしようと近付いて来ていれば相手である木林寺の目を惹き付けなければならなくなっていただろう。

 今回は壱継たちが逃げなかった為に木林寺の前から逃げ出ぜられなかったが、光輝たちが離れていてくれた為に集中する事が出来た。逆を言えば、光輝が近くにいれば気が紛れて集中出来ずに負けていた可能性さえあったのだ。

 陸上部の智樹は何時でも逃げられるので、当然心配の対象でない事は付け足しておく。


 そんな真実の内情を師範は言い当てたのだ、真実は驚きの顔をその師範に向ける。


 一方で光輝は目を瞬かせた。言われて初めて気が付いたのだ。

 今までの自分は、暗に真実と共に相手を投げ飛ばそうと思い込んでいた。しかし、ちゃんと考えれば四年近くも通っている真実に追い付ける筈がない。今から同じように四年通ったとして、真実と同じ腕前になるとも思えないし、その頃には真実は腕を上げているかも知れないし、道場を去っているかも知れない。では何の為にここに通っているのか……そう自問自答した時に、もしまた危ない目に遭った時に、その危険を回避するなり誰かに助けを求められれば良い事に気が付いた。

 そもそも、光輝は勘違いしていたのだ。何度も真実に助けて貰った上、何度も目の前で真実が怪我をし痛い目に遭っている。

 何か恩返しをしなくては。今度何かあった時は真実を助けなくては。

 そう思うのは良いが、それは別の形で良いのだ。

 実際、真実は夏休み中に光輝から確りと料理を教えて貰っているし、そのおかげか(花苗)からお古だがスマホを与えられた。通話は出来なかったが、これによってネットのレシピを見られるようになり、レパートリーが増えた。この恩恵は光輝も得られていたので、寧ろ光輝は恐縮していたくらいだった。

 しかし真実にとっては、光輝が家に来るようになってから智樹たちも家に来てくれるようになり、その賑やかさが心地好くもあった。それに、何と言っても一人で食べていた家での食事が光輝と一緒に食べるようになり、その美味しさが倍増していたので、それが続けば良いとさえ思っていたのだ。


「もうそのくらいにしといたら? キンちゃん。褒めてあげてた筈なのに、説教になっちゃってるじゃない」

「お、おう。そうだな。まあ、その、何だ。今回は良くやった、と言う事だ。あと、どうなりたいのかは練習内容にも関わるから、ちゃんと考えておくように」


 瑞穂に釘を刺された師範の言葉に小さく頷く光輝。

 道場で声を出す練習と逃げる練習は継続的に行っていたのだが、平行して掴まれた時の対処法も教わっていた。何時しか簡単な技は出来るようになっていたので、今のような勘違いが起きていたのだ。大学生のミサ然り。


「ところでキンちゃん? さっきのはどういう意味かな?」

「え? な、何がだ? ミーちゃん」


 笑顔の瑞穂だが、目が笑っていない。それどころか、その後ろには常連のお姉さま(ベテラン勢)たちの姿も。


「わたしたちベテラン勢が何だって? か弱さの欠片もないメスゴリラとか何とかって聞こえたんだけどぉ?」

「えっ!? いや、オレはそんな事は言ってないぞ? 落ち着け、な? ちょっと落ち着こう、な? な? ちょっ、瑞穂? みんなも……。話せば分かる。話せば……ちょっ、あ゛ーー~~ーー!!」





 カースブレイカーシリーズをお読みいただき、ありがとうございます。

 第一部から追ってお読み頂いていた方だけでなく、そうでない方もこの1年、ありがとうございました。


 第一部の初話投稿が昨年末、丸っと1年続いたこの話ですが、話の中身は3ヶ月も進んでなく、まだ平成……。

 あまりの遅進行に、読者皆様のみならず作者も辟易しております。(オイ

 という事で、来年も引き続き遅進行のカースブレイカーシリーズを見限る事なくお楽しみください。

 第四部はどこで区切ろうか思案中……真実もトゥルースも一波乱あるので、そこが終わったらかな?


 それにしても話が進まない問題は深刻化するばかり……。

(終わらない大掃除も含めてどうしよう……)


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