√トゥルース -010 今は男湯の筈なんだけど
「ルース様? お湯加減は如何ですか?」
「ああ、ニナか。ちょうど良いよ。もう少ししたら出るから、後でゆっくり浸ると良いよ」
いつの間にか様子を見に来たティナが岩の向こうから声を掛けて来た。湯と沢の水が流れる音で近寄って来た事も気付かなかった。この大自然の中で入る温泉に、随分とリラックス出来ていたようだ。
……が、そこで思わぬ事態に。
「ルー君、ウチたちも入って良いよね?」
「ん? ニーも一緒か。せっかく作ったんだから、入れば良いよ。足を延ばせるくらいに作ったから、結構気持ち良いぞ」
「……それじゃあ、ちょっと失礼しますね」
「ん? 失礼って……ぬおっ!! ちょっ! ふ、二人とも何でっ!!」
岩陰から出てきたのは衣服を脱いで一糸纏わぬ姿の少女二人。大事なところは手にした手拭いで辛うじて隠れてはいるが、文字通り辛うじてである。トゥルースの持ってきた松明の火に照らされて艶かしい肢体が露わになり、十五歳のトゥルースには何とも目に毒だ。
「……あの、そんなにもじろじろと見ないでください、ルース様」
「……うぇっ!? あ、ごめん!」
ティナに窘められて二人を凝視していた事に気付き、慌てて後ろを向くトゥルース。ジャリジャリと石を踏みしめる音が近付いてくるのを感じて、パニックになるトゥルース。
「ちょっ! 何で!? 俺がまだ入ってるんだけど!!」
「えっと、その……する事が無くなったので」
「時間が勿体なかったから来ちゃった。駄目、かな?」
「来ちゃったって……ええっ!?」
すると、転がしてあった手桶でザザッと掛け湯をする音が聞こえてくる。本当に一緒に入るつもりなのかと驚嘆するトゥルース。何故こうなった!?
先程まで険悪な雰囲気を醸していたティナとシャイニーだったが、今はそんな様子もなく一緒になってこんな大胆な行動に出ている。敵対している様子はなく、寧ろ共闘している雰囲気さえあるのだ。何と戦っているのかは知らないが。
「あの、ルース様。そちらに寄って貰えますか?」
「えっ!?」
「ルー君、もう少しこっちを空けてもらっても良い?」
「ちょっ! ニーまで……っ!」
強度を考えて湯の涌き出ている斜面に沿って横長に造った露天風呂の中央に追いやられるトゥルース。
すると、すらりとした綺麗な足が右から、細っそりとした真っ白な足が左から湯の中へと差し込まれるのを目にしたトゥルースはそのまま固まってしまった。
見ちゃ駄目だ、見ちゃ駄目だ、見ちゃ駄目だ。
そう思ったところで自分の意思に反して目を閉じる事も手で顔を覆う事も出来ないトゥルース。左右に綺麗なお尻が茶褐色の湯の中へと静かに消えていくが、どっちに目を向ければ良いのか迷った挙げ句、どっちも目にする事は出来なかった。
「あ、ティナさん。手縫いをお湯に浸けると色が移って取れなくなるから、入れちゃ駄目」
「え? そうなのですか、ニー様。では、ルース様の手縫いの隣に置いておけば良いですかね」
とんでもない事を言い出したと、トゥルースは睨み付けていた真正面の涌き出てくる湯から茶褐色の湯面に視線を落とし、油汗をだらだらと流す。造った湯槽はそれほど深くはなく、腰上の高さである。一人で横に座って足を曲げて潜り込めば肩まで浸かれはするが、それほど大きくない湯槽に三人も入れば肩まで浸かれる体勢は無理で、精々腰までである。しかも、かなり詰めなければ三人も横並びには入れない訳で……。
「……ん。お湯も温かいけど、ルー君も温かい」
「……本当に。こんなに男性と素肌を合わせた事は初めてかも」
お互いに肩をすぼめあい、ピッタリと身体を……素肌と素肌をくっ付けあう三人。両脇から異性に挟まれたトゥルースは、どうしてこうなったとピクリとも動けず金属製の置物のように固まるしかない。
パシャパシャとお湯を身体に掛けだしたシャイニーを見倣って、ティナもパシャパシャとお湯を浴びるが、慣れてくると二人とも伸ばした片腕に反対の手で湯を掛ける。大きな胸のティナは膝にその胸を押し付けているので、大事なところは見る事はない。しかし、まだ発展途上のシャイニーは上手く隠せていなかった。と言うか、隠す気がないようだ。
「ニー、見える、見える!」
「ふぇ?」
元々孤児院で育ったシャイニー。普段は仕事を押し付けられて碌にまともに温かい風呂には入れなかったが、町の人の手伝いがあった時等には他の女子や小さい子たちと一緒に入る事もあった。面倒を見ていれば、男だ女だ裸だと言ってはいられなかったのもあって、町の人たちが一緒に入るのを咎めるまでは性については全くの無防備だった。
それが影響しているのか、トゥルースに対しては随分と無防備な姿を晒しているシャイニーだったが、それを言えば今のティナもだ。
王宮では着替えも入浴もお付きの侍女たちが面倒を見ていたので、人前で肌を見せる事には慣れてはいたが、それが異性相手となると話は別だ。男性相手は診察で宮廷医師にしかなく、父親である国王にすら見せた事はなかったが、竜化が解けてからは仕方ないとは言えトゥルース相手に見られている。
しかし、それがあったからと言って、何でも、何度も許せる訳ではない。それには理由が……。
「二人ともどうしちゃったんだよ! こんな事するような二人じゃなかっただろ!?」
「こんな事って……何がです? ルース様」
「ふ、風呂に一緒に入る事だよ! それもこんなにくっついて!」
「いつもルー君とはくっついて寝てるし。家族になるならお風呂に一緒に入るのも普通の事だよね?」
確かに寝る時はみんな一緒にくっついて寝ている。しかしそれは、シャイニーが孤児院を追い出されて直ぐの頃に人の温もりを知らなかったが為トゥルースと離れて寝るのを嫌がったからで、そのままの流れでみんな一緒に寝るようになったに過ぎない。健全な男子のトゥルースとしては、嬉しさ半分、迷惑半分の良くも悪くもな話だったが、それが真っ裸となれば困惑以外の何物でもなかった。しかし……。
「え? 家族に?」
途中から目を瞑っていたのだが、シャイニーの言い様に思わず目を開けて振り向く。
一緒に旅を始めてから約三ヶ月……。出会った頃は骨と皮だけに近かったシャイニーの身体だったが、いつの間にか人並みとまではいかないまでも小柄な子供並みに肉が付いてきたばかりか、最近は少しづつ胸に丸みを帯びてきたシャイニー。自分よりも小柄なシャイニーの顔は腰掛けていても視線を落とさないといけないのだが、その視線の先にある艶かしい成育途中の肢体の上半身が顕になっていて、オトコノコであるトゥルースにとっては劇薬だ。背中からの松明の灯りで影になっているのと、怪奇な動きをする湯気でハッキリとは見えなかったのは幸いだ。海苔先輩の活躍の場は松明先輩と湯気先輩が掻っ攫っていったようだ。
「あら、ルース様はわたくしたち二人を娶ってくださるのではなくて? あ、二人ではなくてフェマさんも含めて三人でしたね。三人も妻を持つなんて、王族男性や貴族、豪商くらいなものですのに……って、そう言えばルース様は今や貴族でしたわね。それに豪商の卵とも言えますし……。何の問題もありませんね」
今度は反対側のティナがシャイニーを擁護するかのような言葉で援護してきた。思わずそちらにも目を向けるトゥルース。
茶褐色の湯に隠れているのは腰下だけで上半身は足を抱えていて前は隠れてはいるが、何も身に纏っていない全裸姿だ。松明に照らされた丸めた背中に浮き出ている背骨や、太腿に押し付けられ息をする度に弾力性を主張する二つの大きな山がトゥルースの目を釘付けにする。
「……ルー君。疲れてない? お湯の中で手足を揉むと良いって聞いた事があるから、してあげようか?」
ティナの方を向いてゴクリとトゥルースが喉を鳴らすと、足を抱えていた腕を掴むシャイニー。影になっていて表情は分かり難いが、確実に何時もとは違う雰囲気だ。
「沐浴の後に揉んでもらうととてもスッキリしましたが……お湯の中で揉んだ方が良いのですか? それは良い事を聞きました。是非ともわたくしも揉んで差し上げますよ、ルース様」
何やら一般人とは縁の遠い事を口走っている辺り、こんな秘境でサバイバルのような生活を、本来はする筈の無い身分であっただろう事を匂わせるティナ。そんなティナがシャイニーを真似てトゥルースに甲斐甲斐しく奉仕しようとする様は、トゥルースにとって我慢が出来ない領域へと引っ張り込んでいく。
空にはいつの間にか雲が流れてきて、風もそよ風から強めの風へと変わってきていた。




