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トゥルース -009 天然?

お待たせしました

何とか週イチはキープできるように頑張ります

よろしくお願いします



「あ、本当だ。微かに何かモワっとした匂いが……」


 どうやらトゥルースが危惧した事態(女同士の闘い)にはならなさそうだったが……その匂いというか臭いの発生源が危険な物であったら、直ぐにここを離れなければならないところ。

 周囲を見渡すが、視界の範囲に獣の死骸がある訳ではなさそうだ。もしそうなら、近くにいる肉食の害獣を呼び寄せるかも知れない。今、飢えた狼や熊でも来たら、このメンバーで追い払えるのかも怪しい。

 村で師匠(ターラー)からレクチャーを受けていた他、湖畔の王族別荘でもミックティルクから体術だけでなく剣術も稽古を受けていたが、実際に害獣を相手にした事は未だない。せいぜい小動物の狩りをした事があるくらいだ。

 だが、この臭いはそういった獣の死骸が腐ったようなものではないように思うトゥルース。


「う~ん、何だろうこの匂いは。向こうの方から匂う?」

「みゃっ!」

「あっ、こら、ミーア!」


 トゥルースが匂ってくる方向を向くと、白猫のミーアがタタタっとそちらへ駆けていく。

 匂いの発生源次第では、毒ガスという事もあり得る。迂闊に近寄ってはいけないのだが、ミーアはお構いなしにそちらへと走っていき、小高い岩場から覗き込んだ後に呼ぶようにもう一鳴きした。


「みゃ~」

「おい、ミーア。毒ガスだったらどうするんだよ。危ないから勝手に行くなよ……って、湯気?」


 沢の脇から仄かに湯気が出ているのが見えた。もしかして、とトゥルースは慎重に近付いていくと、そこからこんこんとお湯が沢に流れ込んでいた。


「温かい……お湯だ。もしかして……」


 一掬い手に取って匂いを嗅いでみると、いつかどこかで嗅いだ覚えのある匂いがした。いや、正確には|夢の中で≪・・・・≫嗅いだ匂いだ。


「ルース様、大丈夫なんですか? 危ないのでは? 毒ガスかも知れないのでしょう?」

「大丈夫、これは温泉だよ」

「あ、本当。これ温泉ね!」

「ニー様まで!!」

「ほんに、温泉じゃな。ふむ、ちと熱いか」

「……もうっ! 心配させておいて皆さんでそれですか! あっ! 熱っ! でも……ちょっと臭いますけど、気持ち良いですね」


 生臭い|臭い≪・・≫と一様に言っていたのが、温泉と理解して途端にそういう|匂い≪・・≫だと認識してしまう現金なティナ以外の三人。

 一方で、王宮から殆ど出た事がなかったティナは、王都の近辺に温泉が無かった事もあって温泉を実際に手に触れるのは初めてだ。他の三人がするのを真似て恐る恐る湯気を立てて流れるそのお湯に手を浸してみると、ちょっと思っていたより熱かったのか手を一旦引っ込めた後にもう一度手を晒してみてホッと強張っていた顔を弛める。


「この温泉、もしかして含鉄泉じゃないかな?」

「含鉄泉? ああ、そう言われれば流れていく先の周りが茶褐色に染まってるな。あれは成分の鉄が錆びた痕か」

「ふむ、がんてつせんと言うのか。初めて聞く名じゃの。前に入った所じゃと子宝の湯とか言われておったの」

「子、子宝の……ですか?」


 その匂いと流れていく先の状況から察したのか、シャイニーがそう言い当てると、トゥルースが納得しフェマが何処か余所の温泉の話をする。そしてティナはその別の呼び名に顔を紅く染めたのだが……。


「……ルー君はどうして含鉄泉を知ってるの?」「……ニーはどうして含鉄泉を知ってるんだ?」

「えっ!?」「えっ!?」


 声が重なるシャイニーとトゥルース。

 この世界の温泉は長年の経験で効果効能が知られてはいるが、その成分は専門家やそれを扱う職人くらいしか知り様がない。一般の人はそれを知ったところで知識として活かせないし、効果効能さえ分かれば良いという人ばかりであった。交通網がそれほど発達していないので、知ったところでそこまで行けない事が影響しているのだろう。


「なんじゃ、二人ともこの泉質の温泉に入った事があるんか? 王国周辺でこの色の温泉は聞いた事がないがの」

「え? いや……その、小さい頃に村の近くに湧き出てたところに連れて行ってもらった事があって……。もうそこは涸れたのか埋まったのか、今は無いらしい」

「う、うちも小さい頃に連れて行ってもらって……場所も何処だったのか、今どうなっているのかも知らないの……」


 トゥルースが取り繕うようにそれらしく作り話をすると、シャイニーも似たような事を口にした。

 勿論、村の近くに温泉が湧いていたと言うのは嘘で、夢の中で真実が小学校の時の修学旅行で入った温泉での経験からだ。市内の小学校の行き先はみんな同じで日程だけ違った事から、中学でその話題は共有される事となった。違うのは雨に降られたとかハプニングがあったとか程度だ。


「わしが子宝の湯に入ったのは西の方の国に行った時だったのじゃが……バレット村の近くに温泉があったとはの。全然知らなんだぞ」


 フェマの言葉に取り敢えず苦笑いを返しておいたトゥルースだったが、トゥルースも村の近くに温泉があったとは思わなかった。

 シャイニーがいたのはバレット村を下りた先の小さな町の孤児院である。そこから近いのなら、バレット村からもそんなに遠くはなかった事になる。一体何処にあったのだろうとシャイニーの方を見るが、当の本人は目をぱちくりさせてやはりトゥルースの方を見ていた。

 どうやら似たような事を考えていたらしいが残念、自分の証言は嘘なんだとトゥルースは心の中で詫びる。しかし、シャイニーのその証言もまた嘘だとは誰も知る由も無かった。


「でもこれじゃあ入るのは無理だな」


 程々の湯量が流れてはいるが、それは溜まる事なく沢の流れに混ざっていく。手桶に酌むのは容易そうなので、いつものように体を拭くのは簡単だが、風呂のように浸かるのは勿論、打たせ湯のように浴びるには高さが全く足りない。

 が、そんなトゥルースの言葉に、フェマは何を言っているんだと言うような目を向けて溜め息を吐いた。


「そんなもん、掘るなり囲えばええじゃろ。ほれ、石の大きさも手頃じゃ。退かした石を半円状に積み上げれば簡単じゃろうて」


 確かに、湯が涌き出ている周辺の石はそれほど大きくなく、少し手を加えれば露天風呂が出来そうだった。


「なら頼むぞ? わしらは上では飯の支度と天幕張りをしとるからの」


 いつの間にか手にしていた手頃な木の棒を手渡されたと思ったら、あっという間にティナとシャイニーの手を引いてその場を後にするフェマ。


「……あっ! してやられた!! 謀ったな、フェマ!」


 誰かもう一人残ってやれば作業も捗ろうというものだが、重労働は(トゥルース)に任せて、慣れている飯の支度や天幕張りを女性陣が担当する形に無理矢理仕向けられてしまった。

 仕方なく木の棒を手に、湯が涌き出ている所を中心に石を退かして周囲に積み上げていくトゥルース。中々の重労働で、汗が止まらないので、時々沢で水を掬って飲む事を忘れない。あっという間に脱水症状に陥ってしまう。


「中々に、しんどいな。あちこちから、漏れ出て、くるよ」


 大きな石を積んだ後は小さい石を隙間に詰め詰め詰め……最後に苦肉の策で土を押し込む。広くはないが人一人ゆったり入れるくらいの大きさの露天風呂が完成する頃には空が薄暗くなっていた。ちょっと拘り過ぎたかも知れないが、満足の出来だ。

 湯量も程々にあるので、既に半分程は湯が溜まっている。涌き出ている湯は透明だが、溜まっている湯は茶褐色に染まっていた。泥も混じっているのだろうが、鉄分が酸化して付いた錆色だ。


「それにしても……誰も手伝いに来なかったな」


 後は湯が溜まるのを待つだけだ。その間に夕飯を食ってしまえば良い。夜中に松明(たいまつ)の火で入る温泉も良いかも知れない。

 そう考えながら上の広場に上がっていくと、三人とも夕飯を並べているところだった。食べるにはちょうど良いタイミングだが、準備はちょっと遅かったような。

 その後揃って夕飯を食べたのだが、どうも口数が少ない。やはり先程のが尾を引いているのか……そう危惧するトゥルース。仲違いすると、今後の旅に良からぬ影響が出るやも知れない。出来る限り関係性の修繕を図らねばならないのだが、こんな時にフェマは何をしていたのだろうかと目を向けるが、そんなフェマは知らん顔だ。先程、人の振り分けで二人を引っ張って行ったのは何だったのかと首を傾げる。


「ルース様は汗を掻いたのではありませんか? わたくしたちの事は気にせず、どうぞお先にお入りください」


 いつもよりも物静かな夕飯を済ませると、いよいよ温泉に入ろうかという段階でティナがトゥルースに先に入れと薦めてくる。レディファーストで女性陣に先に入って貰おうとしていたが、フェマは勿論シャイニーもそれには異議はないらしく、トゥルースの顔を見てコクコクと頷いた。

 そう言う事ならばとトゥルースは一人、松明を手に沢に下りていく。岩影の先に光を翳すと、夕飯前に造った露天風呂にはなみなみと茶褐色の湯が湯気を立てていた。風呂作りで使った木の棒で掻き混ぜて手を入れてみると、湧き出していたところでは熱かった湯が、適度に温まって適温となっていた。これならば沢の水で冷ます必要も無さそうだ。

 トゥルースは素早く服を脱いで洗濯用の手桶を使って掛け湯をし、ゆっくり足を入れる。


「はぁ~~。手を入れてみた時はちょうど良いと思ったけど、ちょっと温めかな? でもこのくらいの方が芯まで温まれるから温めで良かったのかも」


 出来上がった手作り露天風呂に満足したトゥルースは湯槽の中で足を伸ばし腕もうんと伸ばした後、湯をパシャパシャと顔に浴びせた。手で腕を撫でてみるが、素肌がしっとりするような事はなかった。ちょっとガッカリしながらも、記憶(・・)では含鉄泉にはそのような効能は無かった筈だと思い出した。

 湯槽は足が伸ばせるくらいの大きさを誇ったが、積み上げた石の高さが少々低かったようで普通に腰掛けると胸元までも浸かれない。しかし、肩まで浸かるより腰まで、所謂半身浴にして長い時間浸かっていた方が温まると夢の中(・・・)で聞いた覚えがあるので、よく温まろうとするなら寧ろこの方が都合が良い。

 ゆったりと湯に浸かり、空を見上げれば満天の星空が。


「こんなところで露天風呂に浸かれるなんて思ってなかったな。何だか贅沢な気分だ」


 改めて、汗水流して造った甲斐があったなと感じながらホッと一息吐いていたところ、岩の向こうから声が掛かった。


「ルース様? 湯加減は如何ですか?」





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