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√トゥルース -008 解散の危機!?

お待たせしました。



「……なんじゃ、お主らほんに契りを結ぶつもりなんかや」


 いつの間にか止まっていたラバたち。先行するラバ(メーラ)の上から、幼女(フェマ)がジト目を向ける。

 トゥルースとティナが乗るラバ(ミール)は、雌ラバのメーラの後ろを付いて歩くという駄目な面がある為に、メーラが歩けば歩き、メーラが止まればミールも止まるという癖を持つ。そして前を行くメーラは人見知りが酷くて、シャイニーを乗せた時だけ言う事を聞くので、癖が強く売れなくて残っていたのを、トゥルースが安く分けて貰ったのだ。


「えっ! いや、今のはニナが何か早まって口にしただけで、そんな今直ぐにって話じゃないから!」

「今直ぐには? ほんなら将来的には有り得るのかの、その話は」


 眉間に皺を寄せた幼女は可愛いとは言えず、且つどこか威圧感が滲み出ている。思わぬその様子にトゥルースはたじろいだ。


「のう、その通りなのかや? 姫様(・・)

「!!!」


 続いて幼女からの威圧を受けたティナが言葉に詰まる。

 ティナが本物の王女だという事はトゥルースはおろかシャイニーも知らないところであるが、このフェマには看破され知られてしまっている。時々姫様とか姫と呼ぶのはその為なのだが、トゥルースやシャイニーはそれをフェマのブラックユーモアだとして華麗にスルーしていた。

 しかし、今回はその呼び方は剣となってティナに突き刺さる。そう簡単に結論を急いで良いのかと。


「なんじゃ、やはり戯言じゃったかのぅ。そういう事はよう考えてから口にするんじゃの。(トゥルース)じゃのうなんだ(なかった)ら、それを口実に手込めにされるところじゃ。のう、坊。坊はそんな早まった真似はせえへんじゃろ?」

「う、うん、そうだな。幾ら何でもニナと結婚して夫婦になるだなんて、俺たちには未だ早すぎるしな」


 フェマがほぼ直接的に手出しするなと釘を刺したのに対して、全くではないがどこか的外れなトゥルースの返事。

 ティナ程の美貌の持ち主に言い寄られて、堕ちない男などいないだろう。しかし、そこは臆病な面も持ち合わせるトゥルース。誰もが羨む程の美貌のティナを娶る程の勇気をトゥルースは持ち合わせてなかったのだ。

 だが、それを良しとしないのはティナだ。


「未だ早いという事は、将来的には考えていただけるんですよね? わたくし、これからはあなた様の元を離れられない身なので……」


 言いたい事は分かるが、意外と短絡的なティナ。今までの保証されていた王宮での豊かな生活から一変した事で、焦り戸惑っているのだろう。以前であればそんな事は決して口にはしなかっただろうし、周りもそれを許さなかった。

 しかし、竜化の呪いを唯一解く事の出来る手段を持った者が目の前にいる。当然この期を逃すような事は出来ないし、他の誰も頼りに出来ない状況の今、その者と契りを結ぶ以外に一緒にいる方法が思い付かなかった。幸いにもその異性は同年代で、悪い人でない事はこの一ヶ月で確信している。であれば、と他に選択肢を思い浮かべられなかったティナの行動なのだ。


「と言う訳で、今後ともよろしくお願いいたします、ルース様」


 後ろから背中に向けて頭を下げるものだがら、姿すら全く見えないティナにトゥルースはどう返事をして良いのか戸惑うばかりだ。

 しかし、そんなティナの先走った言動に、黙って見ていたシャイニーがあからさまに狼狽えだした。


「ふえ!? ルー君とティナさんが結婚!? そんな! ウチ、どうしたら!?」


 以前、トゥルースから旅を共にする(・・・・・・)伴侶として、人見知りを治すように言われていたのだが、その意味を広域的なものではなく、人生の(・・・)伴侶とピンポイントな解釈で受けてしまっていた。ティナが前にトゥルースに責任を取れと言っていた頃は、その意味を少女なりのメルヘンチックなものとして軽く受け流すくらいの度量を見せていたのだが、今回ばかりはティナの本気度を伺い知る事となり、自分が蚊帳の外に置かれるのではと急激に心配になったのだ。


「ルース様、今すぐにとは言いません。是非とも良いお返事を!」

「ウチ、ルー君の隣にずっといられると思っていたのに……。ルー君がティナさんと一緒になったら、ウチとの約束は……」


 言い寄る少女とパニックを起こす少女二人に、どうしてこうなったのか理解出来ないトゥルースは困り果て、フェマも溜め息を吐くしかなかった。




「で、ミアスキアさんが何やら意味深な印を?」

「うむ。ここを直進で道は合っておろうが、何やらここを逸れた場所に行けと言う事のようじゃ」


 前を行くメーラ(ラバ)が止まった理由は、先行している筈のミアスキアが残したと思われる印を見付けたからだった。

 深い谷の脇にある道は登り下りを繰り返していたが、いつの間にか直ぐ下を沢が流れる場所を進んでいた。そしてその道は直ぐ先でまた急激に登っていくようだが、ミアスキアが印で示したのは、その沢に降りていく細道だった。

 どう見てもラバでは降りられそうにない道だし、ちょうどその場が広場のように開けていたので、ラバたちをそこに置いて沢へ降りてみる。


「綺麗な水だな。ここで水を補給しておこう」


 山道での水場は稀少だ。一度汲みそびれると次に汲めるのがどのくらい先になるのか分かったものではない。

 成る程、ミアスキアはこの先水場が暫くない事を知っていて、ここに寄る事を促したらしい。が、フェマは首を傾げる。


「変じゃの。この道で水場に困った記憶はないんじゃが……」

「うん? じゃあ何でここに立ち寄れと印を残してったんだろ。結構新しい印だったから、ミアスキアさんの仕業に間違いないよね」


 まあ、どちらにしてもぼちぼち今夜寝る場所を確保しなくてはならない頃合いだったので、ラバを置いてきた場所で一晩過ごそうと言う結論になった。一旦ラバまでトゥルースが戻り、水袋を取って沢に戻ると、先程まで少々険悪なムードを醸し出していたシャイニーとティナが揃って眉間に皺を寄せていた。

 このほんの少しの間に、まさか自分をめぐって一悶着起こしたのかと顔を強張らせるトゥルース。村では蔑ろにされ追い出された身。お世辞にも自分が人付き合いの上手い人間だとは思えないし、況してや異性にモテた事もないので、そんな事態は全く考えていなかった。

 以前にティナがトゥルースに責任を取れと言った際は、取り返しの付かない(裸を見てしまった)事に対して怒り心頭のあまり出てしまった言葉だとして、本当に結婚しろと迫った訳ではないと解釈していた。その時は恐らくその通りだったのだろうが、あれから一ヶ月が経ち、現実を知り、自らに迫る危機を感じ、将来が全く見えない今、一番良いと思われる選択肢がトゥルースと共に生きるというものだった。

 竜化という想定外過ぎる呪いを持ってしまったティナにとって、それを一時的にも解決出来る手段を持っていると思われるトゥルースは、ティナにとっての救世主であり、命の恩人でもあり、将来を共に生きる相手だと言える。であれば、求婚は自然の流れだとも言えよう。


 しかし、そこにはティナより前から一緒に旅をしていたシャイニーの存在がある。それも伴侶として一緒に、と誤解待ったなしの言葉をトゥルースがシャイニーに捧げているのだ。

 その時はそう受け止められそうな言葉を発してしまった事は自覚していたが、どちらかと言えば弱々しいシャイニーを保護する意味合いの方が強かった。それにシャイニーの出生の手掛かりが得られれば、シャイニーとの旅はそこで終了するかも知れないという打算もあった。それまでの居場所になれば良い。そう思いつつも、素直で従順で自分を慕い持ち上げてくれる異性という存在は、トゥルースにとっては気持ちの良い事だった。


 村に帰れば成人になるのを待ちつつ一緒に旅をしたいと言ってくれた幼馴染みのメルサがいる。顔の怪我はトゥルースの呪いが原因で負ったと村の若い連中が騒ぎ立てるが、当の本人(メルサ)は慌てて足を滑らせた自分のせいだからトゥルースは気にしなくて良いと言ってくれた。

 しかし、その足を滑らせた原因の雨が自分の呪いのせいである可能性が高いという負い目があるトゥルースは、メルサの希望をなるべく叶えてやりたいと思っていた。なので、メルサが一緒に旅に連れていって欲しいと言い出した際は迷う事もなく、快諾したのだった。


 今後シャイニーの親が見付かり、その親と共に暮らすという話になれば、村にメルサを迎えに行って共に商人としての旅を続けるものだと思っていたのはまだ二ヶ月程前の話だ。それまでにシャイニーの呪いを解くという難解な宿題が残っているが、それは何としても実現したい。

 シャイニーの顔にある火傷のような痕はシャイニーの為にも消してあげたいとトゥルースは強く思うのだが、その逆の言葉(・・・・)を強く思いながら口にしなくてはトゥルースの呪いは発動しない。トゥルースの言葉に従順且つ敏感なシャイニーに、態ととは言え酷い言葉を投げ掛けなければいけない事に、トゥルースはずっと二の足を踏んでいたのだ。

 実行すればシャイニーの機嫌を損ねるかも知れない。いや、絶望させるかも知れない。もしかしたらトゥルースの隣にいる事を諦めてしまうかも知れない。そうなれば、シャイニーはたちまちに居場所を失ってしまうかも知れないのだ。間違っても人っ子一人いない山奥のこの場で試してみるべきではない事は理解しているトゥルース。


 しかし、そのシャイニーと後から保護したティナとのわだかまりに発展するとは思ってもみなかったトゥルースは、今の状況をどうしたら良いのか分からないでいた。そもそも、どうしてこうなったのか理解していないトゥルース

 こういう時こそ、年の功でフェマが止めるなり口添えするなりすれば普通なら収まるのだろうが、如何せん幼女の姿では説得力の欠片もない。いや、もしかしたら幼女に止められる事で荒ぶった気を落ち着かせるかも知れないが……フェマの今までの言動で、それこそ失笑しか得られないだろう。


「や、二人とも、ちょっと落ち着こう、な?」


 どう声を掛けて良いのか迷った挙げ句、最も無難な声掛けになってしまったトゥルースだが、どうも様子が変だ。


「……何か、匂う」

「ええ、何かツンとした匂いが……」

「むう、近くに何ぞあるの。どこぞで嗅いだ事のある匂いじゃが……何だったかの」


 ティナとシャイニーだけでなく、フェマまでもが顔を顰めて鼻を鳴らす。

 いや犯人は俺じゃないぞと、尻の穴をキュッと萎めるトゥルースだが、誰も疑ってはいない。





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