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√真実 -044 級長職、やりたいデスカ?



「よっしゃ! じゃあ行ってくるぜ!」

「はい。じゃあ無理をしないように気を付けてね」


 元気よく登っていく男子二人、女子二人を見送る、真実たち六人と克俊、幸紀、美鈴の三人。

 一度足を止めた事で下の景色を見てしまい登る気力を失ったのか、克俊はこの一重目でお昼を食べようと計画変更を提案したのだが、幸紀を除く四人はまだまだ体を動かし足りないからと言って上を目指す事にした。

 幸いにも男子女子それぞれ一人づつスマホを持っていたのと、先に登っていった班に他の教師の姿があったのを視認していたので、上に到着した時や下りる時等に連絡を密にする事を条件に美鈴が許可したのだ。

 本来は集団行動を身に付けるという目的の自由行動ではあるが、ここを臨時の保健室と見立てての特別対応である。当然、上に行った教師に連絡を入れておく事も忘れない。


「良かったのか? 一緒に行かなくて」

「ははは。折角級長を外されたんだから、ちょっとくらいの我が儘くらい通させて貰っても良いでしょ? 彼らの我が儘を全て聞いてるのも結構疲れるんだよ」


 存外に同じ班のメンバーをディスった克俊に、苦笑で返す智樹。級長経験者同士なので言いたい事はよく分かると、それ以上は何も聞かずとも理解を示す。


「今年のクラスは酷いからな。どうも問題児を集める代わりにオレと麻野(克俊)を組ませたようだし」

「そう言えば秦石と一緒のクラスになったのって何気に初めてなんだよね。四月のクラス分けの表を見た時はビックリしちゃったよ」


 ぐったりと横たわったままの綾乃を放置して、昼の準備の為に平らなところを選んでレジャーシートを並べた真実たち。

 早々に復活した光輝や、克俊と一緒に残った幸紀、一緒に行動していた美鈴もその輪に加わって準備したのであっという間に出来上がった為、今は綾乃が復活するのを待っている状態だ。


「まあ、オレたちは級長要員として真っ先に振り分けられていただろうからな。全く、いい迷惑だよ」

「……何だい、秦石は級長を務めるのはそんなにも嫌だったのかい?」

「まあ、小学校の頃は得意気になってた頃もあったけどな……」


 小学五年の時に親から私立中学の受験を言い渡されてから、級長職が煩わしく感じ始めたと言う智樹。何とか親を説得して私立中の受験は回避できたのだが、高校は流石に偏差値の高い私立を受験しなくてはいけない状況らしい。


「私立……か。偏差値の高い公立高校だってあるだろうに、どうして私立なんだい?」

「ああ、それはただの親の偏見だよ。私立に行った自分たちの同級生が、自分たちより良い大学に入って大きな企業に就職できたからだって。ったく、それに振り回されるオレの身にもなれってんだよ。で、麻野は地元の高校を受験するのか?」

「うん、そうだね。私立なんて滑り止めくらいにしか考えてなかったよ」


 滑り止めと言えど、余程の事が無ければ楽に合格できるであろう成績だ。ここにいる智樹以外の者を含め、大半の同級生と共に確実に地元の公立高校に進学するであろう。


「……なあ、麻野。お前も級長を辞退する気はないか?」

「え!? 何だい突然?」

「だってよ、さっき言ってただろ? あいつらの相手は疲れるって」


 眼下の古都奈良の町並みを見ていると、唐突に口にした智樹の提案に克俊は勿論、他のみんなもギョッと目を剥く。

 級長になるべく振り分けられる智樹と克俊は、その座に就く事を半強請されているようなものだ。特に今のクラス分けはこの二人に頼りきった振り分けなので、他に級長を熟せそうな者は一人もいない。


「それは……確かにそうは言ったけども……。でも、僕が級長をやらなかったら、他に誰がやるのさ。秦石はやる気は全くないんでしょ?」

「いや、だからさ。麻野はもう前期で役を果たしたじゃないか。これ以上内申書の点数稼ぎをしたところで、合格が難しい所なら未だしも地元の高校に行くならそんなに大して変わらないだろ。それに、学校に伝説でも残すつもりか?」


 確かに前期も後期も級長を熟したとなれば、学校に伝説が生まれてしまうだろう。狙って出来なくもないが、それは自ら進む事で得る称号だろう。しかし、克俊はどちらかと言えば智樹が辞退するから仕方なく、である。自らが望んだ事ではないし、学校に伝説を残すつもりもない。

 智樹の提案にう~んと唸る克俊。


「あなたたちが級長を辞退すると、あなたたちのクラスが不味い事になるのは分からなくもないけど……それはクラスのみんなで決める事よ。麻野さんはやっても良いのか、やりたくないのかをハッキリと口にした方が良いわね。教師としては混乱は避けたいところだけど、私個人としては麻野さんがしたいようにする事を応援するわ」

「おれなら卒業しても学校に名前が残るように伝説を残したいけどな!」

「バカユージ! アンタは陸上部に悪い伝説を残した事に気が付いてないの?」

「痛ってぇ! 何するんだよ、カコ! 怪我した足を叩くなよ!」

「フンッ! 足は足でも太股でしょ! それにもう足のギプスは外しても良いんだし!」

「やっぱりそうだったのか! 謀ったな、カコ!」

「最終的には、オバサンと医者の先生が決めたわよ! ワタシはアンタが無理をしないようにギプスを外すのは修学旅行から帰ってからの方が良くないかって口添えしただけよ!」

「やっぱりお前じゃないか!」


 いつの間にか、ぎゃあぎゃあといちゃつきだした祐二と華子に、苦笑する面々。流石にいつも止める役の光輝も苦笑いだ。

 しかし、問題は他にもある。


「ちょっと待って! うちのクラスに級長経験者なんて、二人以外にはいないでしょ? 麻野くんや秦石くんが級長をやらないって言うなら、わたしも副級長は無理よ!?」


 声を上げたのは前期に副級長を務めていた田鍋幸紀。今更級長未経験者と仕事をするにはリスクが大きすぎると顔を青くする。

 幸紀もまた、小学生の頃から副級長要員として真っ先に振り分けられていた中の一人なのだが、その中では比較的大人しく級長(パートナー)のサポートに徹し級長を立てていたので、一緒に就いていた級長たちはさぞや気持ち良く務める事が出来たであろう。云わば自然とツゥカアの形となる訳だ。

 だが、それが(わざわい)して、相手が未経験者だと途端にパニックに陥ってしまう。お互いがそれぞれでやるべき事を分かっているからこその副級長としての動きしか出来ない為だ。相手(級長)がやるべき事を知っていても、それが出来るかどうかは別問題なのだ。


「……だよねぇ。南之(智美)さんも当然、嫌がるよねぇ」


 もう一人の副級長候補の智美も、智樹が辞退した途端に出来ないと言い放っていた。克俊が級長をやるならあるいはやっても良いと言ったかも知れないが、智樹も克俊も、更には幸紀さえも辞退しようものなら、絶対に副級長の座は同じように辞退するだろう。

 後々問題になりそうな話をしていると、唐突にムクリと起き上がる綾乃だが、顰めっ面だ。


「ちょっと、大丈夫なの? 二人が級長を辞退するだなんて、大事じゃない」

「お、やっと復活したか。まあ、これはオッサン(尾桟)たちが無茶なクラス編成を強行した代償だろ。普通ならオレたちが辞退したところで、まだ他にマトモな奴がいて当然なんだ。そういう奴を採らなかったオッサンのせいだろ」


 精々頭を抱えるこったな、と鼻息を荒くする智樹は尾桟に怨みでもあるのだろうか……。いや、智樹は真実を散々悪者に祭り上げようとした事に腹を立てていたので、それを晴らそうとしているのだろうが、その代償は尾桟だけじゃなく自分たち(クラス全体)にも降りかかり兼ねない。

 だが、おどける智樹の言葉に笑みを漏らす


「いや、そうじゃなくて……二人が辞退したら級長選で名指しされた人は同じように辞退するんじゃない? もしそうなったら、級長選自体が成立するのかなって……」


 確かに、自ら進んで手を挙げそうな者は皆無だし、智樹が辞退しても克俊がいるから大丈夫だと思っている者ばかりだろう。その頼りとしていた克俊すら逃げるとすれば、誰もが怖じ気付くに違いない。


「って事は……どうなるんだ?」

「どうなるも何も……級長が決まらないって事は……どうなるんだろ? 祐二、やってみる?」

「やる訳ないだろ、寝る時間が減る。そう言うマサ(真実)は一度は候補に挙がったんだから、マサがやれば良いだろ?」

「いやいやいや、誰が俺の言う事を聞くってのさ! 出来る訳がないだろ?」


 授業の合間や直接関係のない議題の時の学級会で睡眠を貪るのが楽しみな祐二だが、先程におれなら発言をしておきながら掌クルーである。誰も祐二に期待はしていないが。

 対する真実も、夏休み前後で自分へのクラスの評価が変わってきている事は薄々気付いていたが、それでもクラスのみんなが自分の言う事を聞いてくれるとは露程も思ってはいない。寧ろ男子なんかは事件の時の立ち振舞いを聞いてくるなりして余計に騒がしくしそうだ。


「美鈴ちゃん先生、もし級長が決まらなかったらどうなるの?」


 みんなで決めるべき次期級長の座をこの場で押し付け合いになりつつある様子を冷めた目で見ていた綾乃が、敷いていたレジャーシートを片手に美鈴の傍に移動して尋ねる。すると美鈴も頬に手を当てて困った顔をしながら渋々と答える。


「そうね。基本的には担任の先生がどう判断するかだけども……基本的には立候補や指名があっての投票なんだけど、それで決まらないのならクジ引きか担任の先生からの強制的な指名かよね。でも……」


 と、智樹たち級長、副級長経験者をチラリと見た後、その視線を光輝(・・)へと移す美鈴。


「あなたたちのクラスって、後期の級長選は既に終わってるって聞いてるんだけど……」


 あ……。

 すっかりもう一度級長選をやる事前提に考えていたのだが、そもそもそれがイレギュラーであり既に後期の級長、副級長は形上では決まっていたのだ。


「……ふえっ!?」


 そして、仲間たちからの注目を浴びて、ただただ目を瞬かせる現副級長(光輝)だった。





今回は毎週火曜日木曜日の投稿(目標)に間に合いましたが、次回以降はちょっと難しそうです

鋭意努力しますが、皆さんの叱咤激励があると尚頑張れるかもしれません

何卒応援よろしくお願いします

感想や評価も残していただけると嬉しいです

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