√真実 -040 美尻?
「……てか、何で運動部じゃない飛弾がそんな体が引き締まってんだよ」
湯船から出ようとした真実を見たクラスメイトの一人が声を上げると、他の者たちも注目する。
「だよな~。オレなんてバスケやってんのに背も伸びないし筋肉よりも贅肉の方が多い気が……」
「そりゃ食いすぎだろ。てかお前、ちゃんと部活行ってなかったんじゃないのか?」
「うぐっ! 何でバレた?」
「おほっ! 良いケツだな」
「おい太郎、それマジでヤバい発言だぞ? ってかマジで良いケツしてんな飛弾は」
湯槽のへりに置いたタオルを手に取ろうとした真実を見て口々にそう言うクラスメイトたち。マジでシャレにならないと後ろを隠して振り返れば、丸出しのイチモツがみんなの方に向いた。
「お? 何だ、飛弾はまだ少し被っているじゃん。もしかしてホーケーか?」
「カセーだカセー。オレなんてズル剥けだぜ」
「ってか、おっ勃ててナニしとんねん! そういう奴に限って萎えると被るんだよな」
「うっ、うるせえ! そ、そんな事は無いもんね!」
「見ろよ、太郎なんてツルツルで完全に被っちまってるじゃん!」
「ははは、まだまだ子供だな、太郎は」
「み、見るなよ! そのうちオイラだって……」
「知ってっか? 女子なんて小学生の頃にはもう生えかけていて中学の今ならボーボーなんだぞ?」
「えっ!? そ、そうなの? よく知ってるね」
「小四の時に姉ちゃんと風呂入ってて気付いたんだよ。一昨年一緒に入った時なんて吃驚したもんな」
「おま、一昨年って事は……中一になっても姉ちゃんと風呂入ってたんかw」
「って、お前らナニ想像しておっ勃たててんだよw」
「太郎、勃ってても被ってんぞw」
シモの話に花を咲かせるクラスメイトたち。何故かカメラはフレームアウトして天井を撮していた。何だよ、カメラって!
これはチャンスとばかりに体を拭いてその場を離脱しようとしていると、その真実を見た一人が気付いたように声を掛けた。
「そういえば飛弾って、朝はそんな絆創膏は貼ってなかったよな」
「だよな。一体何の怪我だよ、それ?」
「まさか例の喧嘩に巻き込まれて殴られたとか?」
「何だ、ボロカスにやられた方かよ」
「いやいや、飛弾なら撃退する方じゃないのか?」
「まっさか~」
「いや、有り得ない話じゃないんじゃないか?」
「そう言えば、始業式ん時に表彰もされてたし、な」
再び視線が集まる。一部は股間や尻に。
松葉杖を持ち込めない祐二に肩を貸しているので、前も後ろも隠せない真実は、自然とその祐二や反対側で肩を貸している智樹と見比べられる事になった。
「……いや、ないだろ」
「ああ、ないな」
「オトナな秦石や布田と違ってまだ被ってるもんな」
祐二に肩を貸している事もあって、三人共に隠す事が出来ない。それを良い事にクラスメイトたちが容赦なく見比べる。
智樹と祐二は堂々としつつもマナーの成っていないクラスメイトたちに顔を顰めていたが、真実は恥ずかしくなって片足を巧みに折り曲げて隠そうとする。一体ナニで判断してるんだろうか。いや、明らかにナニでだな。
「てか、マジ良いケツしてんよな~」
「秦石や布田は引き締まってるし、飛弾は肉付きが……じゅるり」
「おいおい、何を太郎に感化されてるんだよ。まるで変態だぞ」
「ホモだ! ホモが発生したぞー!」
「いや、でも……まるで女の尻みたいな丸々とした尻で……これはこれで……」
「お、おう。言われてみれば……」
「おい、どうしたんだ! 何で突然ホモが大量発生しているんだ!? お前ら、目を覚ませー!!」
「いや、ちょっとオレ目覚めちゃいそう……」
「俺も。尻だけ切り取って見ると、何かエロ本の尻向けたネェちゃんに見えてくるんだよ」
「おいヤメロ。オレまでそう見えてきてくるじゃないか!」
一人が片目を瞑って手で枠を作り真実の尻に向けて翳す。
まるで画家のような仕草だが、向けるは女の裸を想像しながらの真実の尻。ヤロウの尻である。男のケツを見て興奮する謎の集団の姿に貞操の危機を感じた真実は、智樹と共に祐二を浴室から急いで連れ出していく。
残念な顔をしたクラスメイトたちだが、そんな三人の姿を女子(の一部)が見れば鼻血を噴いて悦んでいたかも知れない。やれ誰が受けで誰が攻めだとの議論を白熱させて。
「あそこまでいくと病気だな」
「全くだ。マサもいちいち反応し過ぎだぞ?」
脱衣室で引き締まった身体に残った水分を拭き取る智樹と祐二の姿は、男の真実が見ても様になっている。強いて言えば、足のギプスに巻かれたホームセンターのロゴが入ったビニール袋が鬼ダサい事くらいであろう。
そのギプスも華子の話振りからすると、外れるのはもう間もなくの筈だ。
「結局、話はどこからでも漏れて噂としておかしな話になるっていう典型的な例だな」
「全く、噂の好きな学校だよ。そのくせ、真相はちゃんと明らかになるまでは聞かないときたもんだ。結局、面白可笑しければ何でも良いって事か」
智樹と祐二が遅れて身体を拭き始めた真実を横目に扇風機に当たりながら愚痴るように溢す。
そう言えば夏休みの出校日や二学期の始業式の日にやたらと注目を集めたものの、智樹にはちゃんと話をしたがみんなが納得するまで説明をした覚えは無いなと、真実は思い返した。
「なんだ、君たちも早めに風呂を出てきたのかい?」
「おう、麻野。ちょっと騒がしくなってきたからな。そう言う麻野も、ちょっと出るの早くないか?」
既に制服からジャージに着替えた姿の克俊。髪が濡れているところを見るに、既に風呂に入って頭を洗っているようだ。
「いや、まあ……この後、ね」
「ああ、多鍋と、か」
歯切れ悪く誤魔化した克俊だったが、直ぐに智樹は察しが付いたようだ。こっそり幸紀と逢うらしく、クラスメイトたちに見付からないようにこっそりと出てきたらしい。智樹は勿論、真実も祐二も昨夜に二人が付き合っている事を知ったので今更隠すような事はしないが、だからと言ってそれを口にする事もしない。
「昨日みたいに外に出られるのかちょっと分からないんだけどね。ほら、このホテルは中庭とか無いし、玄関出たら直ぐ道だから。出られるようならはす向かいに公園が見えたから、そこに行きたいなとは思うんだけどね」
昨日のホテルのように敷地内なら出入りも許されるだろうが、管理しきれない外に出るというのなら話は別だろう。下手をすると玄関に見張りの先生がいるかも知れない。
「……あれ? 飛弾の背中のそれって、怪我? もしかして昼の一件で負った?」
ふと克俊が背を向けて身体を拭いていた真実の背中の異変に気付く。
「ん? 本当だ。背中があちこち赤くなってるぞ? 確か背中には全く当たってなかったように見えたけど?」
克俊に続いて祐二も真実の背中を見て声を上げた。離れた場所から見ていたから気付かなかったのか? と首を傾げる。
だが智樹はその背中を見て、気付いたように真実に聞いた。
「これ、もしかして例の入院した時の怪我か?」
「ああ、たぶんそうだよ。風呂に入って温まると浮いてくるみたいなんだ。俺も夏休みの終わりになってから気が付いたんだけどね」
そう答える真実。夏休みに襲われていた師範の妻の瑞穂を庇って負った怪我はもう完治だと診断されてはいるのだが、風呂で身体を温めると痣が赤くなって浮き出てくるのだ。
それに最初に気付いたのは光輝であった。光輝のおばあさんの家に泊まった日、風呂で色々あって逆上せた真実を介抱した際に気付いたのだ。蒸し返すように項垂れる光輝を励ますのは逆上せた真実には大仕事であった事を思い出す真実。
だが、ん? と首を傾げる。何で克俊が昼の件を知っているのだ? と。
「ああ、聞いたんだよ。伊井山先生に」
「ええっ!? 美鈴先生に!?」
そういった話は、教師たちはひた隠しにするものだと思っていた真実は声を上げた。
しかし既に生徒たちには何かがあった事は知られている。相手校が程近い隣の市の中学とあって、そちらから情報が漏れる可能性だって低くはないのだ。
何れ知られるのは時間の問題であろうが、それがまさか口の固そうな美鈴から漏れたのだ。驚きもする。
しかし、漏れた内容は真実たちが思っていた騒ぎの全てでは無かったようだ。
「で、今度は誰を助けたんだい? それはどうしても教えて貰えなかったんだけど」
「「「…………」」」
言って良いものか困惑する三人だった。




