√真実 -037 動画
「みんなご免なさいね、聞き分けのない大人だちばかりで」
連行されたのは、相手校が今夜泊まるホテルの一室。
真実たちが泊まったホテルは今夜は泊まらない為、部屋を貸して欲しいと持ち掛けたが断られたそうだ。そうでなくても特別に夕方まで一室を生徒たちの荷物置き場*1に貸して貰っている。これ以上は無理だと。
「はぁ……まさかここまで強引だとは思わなかったな。みっちゃんも苦労するな」
ホテルに着くなり、両校の教師立ち会いの元で行われた事情聴取。
相手校の女子たちが録っていたスマホの動画で、真実たちが途中から止めに入ったものの、真実が一方的に殴られている様子が映っていて信じて貰えたのだが、木林寺以外の二人を伸した鳩尾攻撃には苦言を呈された。しかし、下手だとしても相手はボクシング経験者。無力化する為にはある程度は仕方ないと目を瞑って貰う事が出来た。
しかし、真実が反撃に移った最初の一発以降はまともに動画が撮れておらず、聞き取りでの確認となったのだが。
「一応もう一度聞いておくけれど、どうやって組伏せたのかはハッキリとは覚えていないのね?」
「うん。兎に角、我武者羅に動いていたから、どう動いたのか全然覚えていないね」
「……そう。他のみんなは? 誰か説明出来る人はいない?」
美鈴の問いに、真実以外の五人が首を振る。智樹が真実と口裏を合わせた話を他の四人にも話しておいたのだ。尤も、その場にいなかった華子は勿論、離れた場所まで離れていた光輝、綾乃、祐二には細かいところまではハッキリとは見えていなかったのだが。
嘘にならないので、知らない振りをするのは容易い。
「そう。どうもあちらの生徒さんが、飛弾さんが顔を蹴ったって主張しているんだけど……心当たりある?」
「顔を? いや、流石にそれはないんじゃないかな。あっちのパンチを避けるのにも必死だったのに、顔の高さまで足を上げる隙があったら滅多打ちされてそう」
「……そう。女の子たちはどうも支離滅裂な説明で意味が分からないしね。動画が撮れてなかったのは残念ね」
正確には顎をである。それに真実が蹴ったと言うよりは相手が突っ込んだと言った方がしっくりする。
コンマ何秒という微妙な間ではあったが、それを認識しながら微妙に高さを顎に入るよう調整出来るくらいのタイミングではあったよな、と真実は思い返した。喉に決まると後程声が出せない等の問題が出るので、喉への攻撃は避けたのだ。
教師たちへの説明は完全な嘘にならないようには気を付けていたが、何だか美鈴を騙しているようで心苦しい。
結局、木林寺以外の喧嘩に関わった男子はみんな碌に真実との闘いをハッキリとは見ておらず、女子たちはその事を話そうとすると興奮してしまって説明が上手く出来ない者ばかりで、全く伝わらなかったのだ。他に目撃者もなく教師たちも本人に聞くしかないので、どちらを信じるのかという話になり結果として加害者側確定である木林寺ではなく止めに入った真実側の話を採り入れるしかなかったのだが、そう結論が出るのはまだまだ先の話だった。
「まあ録れてなかった事は仕方ないわ。それにしても飛弾さんは凄いのね。前に言っていた護身術? それ以外にも何か武道を習ってたりするの?」
「いや、護身術のみなんだけど。まあ、道場の師範たちが柔道や空手、合気道をしている人たちだから、その技も取り入れてって形かな?」
「ふぅん。じゃあ今度、その様子を見せて。動画とかでも良いわ」
「ああ、それなら時々自分がどんな動きをしているか確認する為にって撮られてチェックしたりするから、それを借りてこれば良いかも」
真実が答えた通りの目的でビデオカメラで撮って直ぐに確認し、悪いところを直していくという事もするのだが、それとは別におねえさまたちが冷やかし半分でスマホで撮っていたりもする。特に真実とミサの絡みなんかはおねえさまたちの酒の肴としてはうってつけなのだ。
「ああ、それならこの前道場に見に行った時に撮ったのがあるな」
「えっ!? いつの間に!?」
ニヤリとしたのは智樹だ。ふらりと道場に現れた智樹の姿に、新しく入った女子たちが騒いでいたのは記憶に新しい。基本的に許可さえ取れば見学も撮影も自由で、いかがわしい目的でなければ特に止める事はない。その代わりにそういった素振りがあれば、たちまちおねえさまたちを初め生徒や師範たちに取り囲まれてしまう。そんなリスクを負ってまで盗撮しに入ろうとする者などはいない。
「へぇ、ちょっと見せて。どんな稽古をしているのか興味があるわ」
「ああ、それなら……ええっと、これだな」
スマホを取り出して美鈴に差し出す智樹。
撮られていた事を知らなかった真実たちもそれを覗き込む。
「あら、結構人が多いのね。あ、この大人と向き合ってるのが飛弾さん? あら、こっちの端は黒生さんかしら。智下さんも一緒なのね。声だけ入ってるわ」
真実が欣二のエキスパートモードを相手としたデモンストレーションの時の動画だ。今では何とか見慣れてきた綾乃や光輝ですら顔を引き攣らせてその動画を見ている程だ、初めて見る美鈴や祐二、華子は、欣二のエキスパートモードでの豹変振りに完全に引いていた。
「おいおい、マサはこんなのを相手に稽古をしてるんか?」
「うわぁ、これはマジで無理! よくこんなのを相手に出来るわね」
祐二や華子から漏れる言葉は尤もだろうが、実際にそれを目にすれば暫くは言葉を発せなくなるかも知れないレベルだ。実際、それを直に見た智樹は暫く向けていたスマホを止めるのを忘れていた程だ。
逆にその経験があったからこそ、今回喧嘩の仲裁に躊躇する事無く挑めたというのもある。
時々クラスメイト達の喧嘩を仲裁しに割って入る事はあったが、所詮子供の喧嘩に過ぎず適当にあしらえていたが、相手がボクシング経験者ともなれば話は違ってくる。そのスピードもだが、迫力は別物なのだから。
「流石にいつもじゃないよ。まあ時々こういうのを経験しておけば、いざって言う時に怯まないようになれるって寸法さ」
「わぁ、飛弾さんも凄いわ。いつもの姿からは想像できない動きね。わあ、こんな大人を投げちゃってる!」
興奮気味に食い入るように見る三人に、まあそうなるよねと苦笑する智樹と綾乃。そしてほうほうとまるで初めて見るかのように後ろから覗き込む光輝と、見られて恥ずかしがる真実。ミサを襲う役の時の動画でなかった事にはちょっとホッとしたようだ。油断しすぎである。
「他にも動画撮ってるんでしょ? ちょっと見させて貰っても良いかしら」
「まあ、良いけど……」
「えっ! ちょっと!」
当然、その前後の稽古内容も撮っていた智樹は、生徒思いとして信頼していた美鈴にそれを許してしまった。それには真実が抗議するが、祐二や華子が面白がって真実を宥める。
それを横目に慣れた手つきでスマホを操作する美鈴だったが、あれ? 行き過ぎちゃったと声が聞こえてきた。人のスマホあるあるである……そう判断した智樹は笑ってそれを見逃してしまった。
「あ、あったあった。これね」
「「「……あ」」」
流れ出す動画。
そこには制服姿の真実と、着崩した制服の木林寺の姿が。相手校の女子たちが撮っていた映像よりも見やすくハッキリと映っている動画だった。
「あら。とても見やすいわね、これ。スマホの性能の差じゃなくて撮る人の腕の差かしら」
*1:荷物はホテルの預かりサービスを利用、午後にバスが回収(実在しない架空のサービスです)




