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√真実 -032 ヤバそうな奴



「……いや、追い打ちはたぶん正当防衛の範囲外だと思うけどな」

「えっ! マジで? ヤバいかな。でも三対一だし、仕方ないって事で」


 相手が反撃してきた時の事を想定して待機していた智樹にツッコまれた真実は、やり過ぎと言われたその自らの行為を弁明する。


「ま、真実がやらなくてもオレがやってただろうから気にするな。てか、今のどうやったんだよ。体がぶつかっただけにしか見えなかったんだけど……」

「え? いや、小外掛けをしただけなんだけど。柔道技の」


 へぇ~と頷く智樹。

 しかし今度は二之瀬の相手をしていた男が二之瀬にボディーブローを一発叩き入れて沈めると、目の色を変えて真実たちの方に向かう。


「テメェやってくれたな! 覚悟はできてんだろうな!」


 半身に構えてステップを踏む第二の男。中々様になっていて、ついさっき崩れ落ちた男よりも出来そうな雰囲気を感じる。

 とはいえ、さっきの男は警戒する程でもなかったなと真実は感じていた。夏休みに大怪我をする程殴られ蹴られて痛み耐性が出来ていた上、欣二(師範)のエキスパートモードや昭一(おまーりさん)の嫌がらせとも言えるマジ稽古を今まで幾度となく経験していたので、その男のジャブは目で追えたのだ。


「智樹!」

「おう!」

「ぉあ? ぶほはっ!」


 二人目の男が頭に血が上って真実を標的にしていた為、横にいた智樹が視界に入っていなかった。大振りのパンチを繰り出そうと踏み込もうとしたタイミングで、その智樹がその男の膝を目掛けてタックルしたのだ。視界の外からボクサーの命とも言える足を狙われてそのままの勢いで倒れ込む男に、またもや真実が追い打ちの鳩尾に一発を入れたのだ。


「よっしゃ、二人目!」

「旨くいったな、真実!」


 普段ボクシングというのは一対一であり、横から攻撃を、しかも足に受ける事なんて有り得ない。想定外の不意討ちでまともにタックルを喰らった男は、真実の追い打ちを喰らわなくても行動不能に陥っていた可能性があったが、真実も智樹もその事までは思い至らなかった。


「あ~あ~、ドン引きだな。弱すぎんだろ、お前らは。そんなんだから試合にもまだ出させて貰えないんだよ」


 離れた場所からは知らない制服の女子たちがケタケタと笑いながらスマホを向けているが、この三人目の男が負けるなんて(つゆ)ほども思ってないらしいところを見ると、この男はかなりの手練れなのだろう。

 警戒を(あらわ)にする真実と智樹。元々ボクシング経験者を相手にするとあって警戒はしてはいたのだが、先の二人については味下や二之瀬をあしらう様を見て対処は困難ではないと睨んでいた。

 結果その通りになったのだが、二人目の男はラッキーな面もあった。頭に血が上って周りが見えていなかったから、智樹の虚を突いたタックルに対処出来なかったという事が挙げられる。スポーツ万能の智樹だからこそ低い姿勢でのタックルをかませられたという面もあるが。


「言っとくけど、そいつらはまだボクシングを始めて日が浅いんだよな。じゃあ問題、オレはどうでしょうか~」


 ヘラヘラと表情を変えずに真実たちの方に視線を向け続けるその三人目の男だが、その相手である壱継はフラフラながらもまだ立っていた。


「あいつはヤバそうだな。このまま逃げようか」

「そうだな、二之瀬と味下を連れて逃げよう。おい、壱継! 女子たちと逃げろ!」


 真実と智樹が相談をして逃げる事を選択する。何もまともにぶつかり合う必要はない。(うずくま)っていた二之瀬と味下を抱き起こして逃げる態勢を整える。

 しかし、声を掛けられた壱継はその提案を聞かずに更に真実たちの方を向いていた男に殴り掛かった。


「おっとぉ。全く見てないとでも思ったのか? 残念~、ちゃんと視界の隅に置いて意識しているってぇ、のっとぉ!」

「ぐぶぉ!」


 今までのお遊びのような軽く見えるジャブから一転、重々しいボディーブローを壱継に与える三人目の男。

 堪らずその場に沈み込む壱継に、世津屋たち女子三人から悲鳴が上がった。その女子三人を見れば、足がガクガクと震えて動けそうもないのが分かる。


「くっ! 智樹、二人を頼む! 流石に世津屋たちには手を上げる事はないと思うけど、あのままにしておいちゃ壱継が何をされるか分からない!」

「おいおい真実、本気か? あいつ、何かヤバそうだぞ?」


 誰か大人たちが通り掛かるのを待つか、綾乃が電話で呼び出している先生たちが駆け付けるのを待った方が良いんじゃないかと智樹が止めるが、真実は首を横に振る。


「ヤバそうだからだよ。あのままだと壱継がタコ殴りにされちゃうかも。あいつ、何となくだけど殴る時に恍惚な目をしてるみたいなんだ。何であんな奴にボクシングなんて教えるんだよ、ジムの人は!」


 真実の通う道場は護身術だけではなく、夕方に合気道(時々希望者に柔道や空手も)を教えていたが、喧嘩に使う目的で入ろうとする者は昭一のおまーりさんチェックによりとことん矯正させられていた。それはかなりの精度らしく、地元の悪ガキはおろか、引っ越してきたばかりの者、仕返しを考えている者ですら、悪意を持って入ってこればその尽くを徹底して正していた。

 なので、道場なりジムなりでは、そういった者を排除または矯正するのが普通だと思っていた真実は悪態をつくのだった。


「で、勝算はあるんか?」

「……ない。当たって砕けろだ。取り敢えず早く大人を呼ぶか、最悪警察を呼ぶか、だよな。その辺、頼んだ智樹」


 学生同士の喧嘩に警察を呼ぶのは何となく気が引けるけど、相手がボクシングを使ってくるのだから仕方ない。あれは喧嘩に使っては凶器である。

 恐らく相手も同じ中学生っぽいから、騒ぎを大きくはしたくはないのだけど、やむを得ないだろうと智樹も同意する。


「相談は終わったかな~? ま、逃がさないんだけどねぇ。どんだけもってくれるか、楽しみだなぁ」


 よく見れば耳にピアスを付けているその男の顔は、今までのニヤニヤとした表情からネチャッとしたイヤらしい笑みに変わった。ゾクリとする真実だったが、地に沈んだ壱継と世津屋たち女子三人を逃がすのが先決だ。最悪でも大人か誰かが来てくれるまで時間を引き延ばすしかない。


「さぁて、第二ラウンドといきましょうかねぇ。あんたさぁ、さっきのは柔道技なんでしょ? 少なくとも柔道経験者ならちょっとくらいは楽しませてくれるよねぇ。って、悪い悪い、ボクシングの前ではそんなのはクソの役にも立たないんだわなこれが。あいつらがあまりにも弱過ぎて希望を持たせちまったかも知れないけどさぁ、キッチリと沈めてあげるから期待してね」


 何かスイッチが入ったかのように得意気にペラペラと喋ってくるのが何か気持ち悪い。しかし真実が顔を顰めていると、二人を抱えた智樹が足を止めて振り返った。


「気にするな、真実。盛大なフラグを自分で立てたに過ぎない」

「え? フラグって? ナニそれ」


 聞き慣れない言葉に、やはり足を止めて振り返る真実。

 普段は家事が忙しくて本はおろか、テレビもあまり見ていない。況してやネットなんて最近漸くお下がりのスマホでレシピサイトをチェックするようになったばかりだ。知らなくて当然だ。


「な~にをくっちゃべってるのかなぁ? 早くおっ始めようよぉ。ボク、今ちょっと楽しくなってきちゃったんだぁ。こいつは突っ掛かってきた割りに大した事なかったからさぁ。さあ早くボクを楽しませてよ」


 ドカッと蹲っていた壱継を蹴飛ばすと、男は足を止めた真実の方へとゆっくりと歩き出した。一人称がオレからボクに変わった事も、今は些細な事なので聞き流して細道から出たその場で構える真実。


「おい、世津屋たち! 壱継を連れてここから離れろ!」


 目線は男に固定したまま、固まっていた女子三人に声を掛けたのだが、その肝心の女子三人からの返事は真実の期待を裏切るものだった。


「無、無理……足が竦んじゃって動けない」

「あたしも……ヒトがこんなやられっぱなしなんて初めてだし……」

「アンタ、助けに来たんならミックやニノっちだけじゃなくてあたしたちも何とかしてよ!」


 首を横に振る世津屋、顔色が悪い醐島田はまだしも、睦美は今までの自分たちの言動を棚に上げたような発言で、心底呆れてしまう。

 溜め息を吐きながらその三人組の方に目をチラリと向ける真実だったが、その瞬間に相手の男が一気に合間を詰めてきた。


「ぇ……うぉっぷ!」





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