√真実 -030 急がば回れ
「あ、カステラ屋さんがある! ちょっと買い食いしてかない?」
「いや、先に昼飯にしようって言ったじゃん! さっきもソフトクリーム食べようとして止められたじゃん!」
もう忘れたのか? と真実が止めると、あからさまに機嫌を悪くする綾乃。
美鈴の力を借りて、だだ混みだった松原通りから直ぐに脇道に逸れた一同は、五条坂を降りていく途中で幾つもの誘惑に足を止めていた。これでは先が思いやられる。
「ここにある店は殆んどが観光客目当ての新しい店なんだ。余程の店でなきゃ立ち寄る価値は低いと思うぞ?」
「ぐぬぬ……」
「それに、使えるお金だって上限が決まってるんだ。ここで使ってしまったら後々お土産も買えなくなるぞ?」
重なる智樹の言葉に、綾乃は口で負けて悔しさを滲ませる。
考え抜いた計画が早くも崩れてストレスになっていた上、普段欲しくなったら迷わず買ってしまう生活に慣れていたのが、ここに来て足を引っ張っていた。だが、既に綾乃の目は次のターゲットをロックオン。仲間たちからの白い目を集めた。
しかし、流石は観光地京都。何も綾乃ばかりがその毒に侵された訳ではない。
「あ、これユージのバアちゃんが好きそう」
「ん。ウチのおばあちゃんもこういうの好きそう」
華子と光輝がザお土産屋の前で立ち止まっていた。
「ここで買うのも良いけど、今買うのは無しな。これから電車で移動するんだから。それにバスの駐車場はすぐそこだから、帰りに買いにこれば良いだろう」
「あっ、そうか!」
こちらはまだ聞き分けが良さそうで、ホッとする智樹だった。
「祐二は足は大丈夫か?」
「ああ、どうやら松葉杖が無くても良さそうだって話だしな」
チラリと華子の方を見る祐二だが、そんな祐二には全く気付かない華子。どうもチグハグなのは昨日の祐二のせいだろう。
あちこちの店に興味を示す綾乃を引き摺って五条坂を下ると、大通りの交差点に出た。一気に都会の様相となり現実へと叩き出されるが、それもまた就学旅行だ。
そのまま歩いて南下する一同。
「なあ、ここをずっと真っ直ぐ行くと、三十三間堂なんだけど……」
「なんだけど? 予定には入って無かったよな、混むからって」
「まあそうなんだけど……」
珍しく歯切れの悪い智樹の様子に、真実は首を傾げる。
「観光バスが直接入るから、いつ行っても混んでるだろうって言ったの智樹だろ? 何でまたそんな話を?」
「いやな、一昨日の夜に何気に調べていたらちょっと興味を引かれてしまってな?」
それで近くにあるのに見られないのがちょっと悔しいという、智樹らしからぬ中学生らしい理由に苦笑いする。
「駄目よ。時間が足りなくなるし」
しかし、それに即ダメ出ししたのは綾乃だ。
ただでさえ予定を入れ替えて時間的な予測が出来なくなっているのだ、これ以上予定を狂わされてなるものかと真っ向から対立の構えであった。
「分かってるよ、言ってみただけだ。まあ、昼飯だって予定外なんだけどな」
今、一同が向かっているのは予定していた駅ではなく、ひとつ先の駅だ。予定の駅だと混雑を突っ切る必要があるのと、一駅先に行くのと五分違うかどうかの距離差だとスマホの検索で出た。加えて検索した昼飯の店が都合よくその駅の近くだった。
まあ、店の方が先だったという話だが。
「でも、目の前を通るんだから立ち寄りたくなるのは心情ってものだろう」
「あたしだって目の前の二寧坂を諦めたんだから!」
「いや、順番を変えただけだろ? そっちは」
普通の町中の歩道を歩いていくと、突然反対の車線側に何かの観光地であろう立派な塀と門扉が見えてきた。その景色の豹変振りに、何だか急に異次元に入り込んだみたいな感覚に陥る。
「あ、この先の交差点を曲がると少しだけショートカット出来るわよ?」
スマホ片手の綾乃が信号のある交差点を指すが、その道を見て見れば結構細そうな道だ。でもよくよく考えれば歩道の方が余程細い。(形だけの)松葉杖を突いた祐二がいる以上は徒歩での移動距離は少ないに越した事はない。
「……とことんオレを邪魔する気だな?」
「……何の事?」
見合う智樹と綾乃。傍から見れば一触即発の状況だが、本人たちにそこまでの気はない。
真っ直ぐ行けば三十三間堂という道から逸れて一般の住宅街の道に踏み込む一同。普通であれば通り過ぎる神社仏閣なども目で楽しむという旅行の醍醐味さえも捨てた蛮行だが、今の六人には昼飯の方が重要だった事が残念なところだろう。
西に向かってすぐ、今度は更に細道を差す綾乃。
「大丈夫か? 結構細い路地だけど」
「大丈夫よ。スマホナビは真っ直ぐだけど、こっちの方が近そうだし」
抜け道の、更に裏道に入ろうとするナビ役の綾乃を止めようとした真実だったが、どう見ても地元民しか通らなさそうな道である。碁盤の目のような道と言われる京都でも、曲がりくねった道も存在するんだと思った矢先ではあったが、ちょっと覗いて見たその道は直ぐに突き当たりかと思ったら直角に曲がっていて、その先の様子は分からない。
不安になった真実は智樹の方にSOSを出すように視線を向けるが、こうなった綾乃は簡単には止まらないだろうと肩を竦めて返された。
その細道はクルマ一台通るのもやっとの細さで、人も見える範囲にはいなかった。というのも曲がった先でも緩やかに曲がっており、その先を見渡せなかったからだ。
旧い家、新しい家が入り乱れた統一性もない町並みだが、それだけで随分と歴史のある道に感じるから不思議な町である。
「祐二は足は大丈夫か?」
「ああ、問題ない。何ならペースを上げても良いくらいだ」
今日だけでも何度目かというやり取りをしながら進む一行。
前を歩く女子三人の会話はと言うと……。
「ホントもうキラリには驚かされてばかりね」
「ああ、ブラの件? よくよく見たら手作りだなんてね。夏休みの前に飛弾やミサさんと下着を買いに行ったってのに、ホントにまさかだったわ」
「ふぇっ!? 二人とも、それ言わないでって言ったのに!」
「いいじゃない、おバアさんの作ってくれた下着なんでしょ? 孝行娘じゃないの」
こそこそと話している女子の話題はトップシークレットな内容なので、ささやく程の小さな声だ。当然後ろを歩いている男子三人の耳には届いていないが、徐々にその話は過激になっていく。
「で、その時に買った勝負下着はいつ着た? まさかもうお役に立ちまくってる、なんて事はないわよね?」
「いやいや、流石にもう使ってるんじゃ? 夏休み中に二人きりで料理とか色々とあったんだし、何か進展はしてるでしょ」
「いやいや、光輝と飛弾だし。何かあったとは思えないんだけど」
「いやいやいや、中学三年にもなって男女二人きりに何度もなっておいて、キスのひとつやふたつ、いやそれ以上の事とか……何もない方がおかしいって!」
「いやいやいやいや、何てったって光輝と飛弾だしっ! そんなの想像がつかないし、何かあれば態度で分かるっしょ!」
「ふぇぇぇぇっ! 二人とも止めてぇぇぇぇっ!」
最初の方は何を言っているのか聞き取れなかったが、途中から声が大きくなってきて後ろを歩く男子三人の耳にも届いてしまっていた。
「……なあ真実、何かあったのか?」
「な、何もないよっ!」
「本当に?」
「本当に本当! 何もなかったって!」
「時々怪しい仕種の時があった覚えがあるんだけどな、真実さんよ」
「なあマサ、何もないなんて嘘だろ? 何があったんだ? どこまでイッたんだ?」
「だ、だから! 俺からは何もしてないって!」
「「俺からはぁ?」」
女子の会話に聞き耳を立てていた智樹だけでなく、いつも通りの雰囲気となっていた祐二まで加わって真実を問い詰めていくのだが、その言い回しに二人とも気付く。
「ちょい詳しく話を聞こうか? 真実さんよぉ」
「おう、超kwsk聞かせてくれ。参考にさせてもらうからよ」
「さあ!」「さあ!!」
「えっ! ちょっ!!」
二人に板挟みになりたじたじになる真実。これは何かちょっとでも白状しなくては納得してくれないだろうと真実が思案していたところ、前を歩いていた女子たちがその足を止めた。
ん? 何だろう、気になる店でもあったのかと周囲を見てみるが、そんな店はなく……。
「ちょっとあれ、ヒトツグたちじゃない?」
「ん、級長の班。みんないる」
「他の学校の人たちと揉めてない? ほら、後ろ向いてるの余所の制服よ、あれ」
明らかに壱継たちと同類かそれよりも質の悪そうな感じだ。ちらりと見えた格好はだらしなく胸元を開いたYシャツに緩められたネクタイ、男なのに長髪でみんな髪を染めている。
女子も同じようにブラウスの胸元を更に開けてリボンを緩めた上、チャラチャラとネックレスをぶら下げ、髪色は更に明るい色でみんなポケットに手を突っ込んでケラケラと笑いながら離れて見ていた。
真実たちの中学ではありえない格好だ。
その内、相手の挑発に乗ったのか壱継が相手の一人に詰め寄って胸と胸がぶつかる寸線で睨むと、更に二之瀬と味下もそれに続いた。
「ちょっと、あれヤバいんじゃない?」
消費税が8%から10%に上がりやがったので、それに反抗して文字数を2%アップの3060文字以上を目安にしていきたいと思います。(嘘)
投稿時間は暫くバラバラになる予定です。
これからもよろしくお願いします。




