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√トゥルース -004 廃村?



「あれ? 建物がある……」


 酷道に踏み込んでから既に数日、今日の昼までは意外とすんなりと進んで来られたが、突然鬱蒼と繁った蔦に足を止められた。


「ああ、この辺りは廃村だな。随分と前から人っ子一人住んでない筈だ」


 そしてそこにいたのは牧場の直前で姿を消していたミアスキアだった。

 すんなりと進めていたのはミアスキアが先行して道の草刈りをしていたらしい。道理で入口がすんなりと見付かってここまで迷わずに来れた訳だ。寧ろ刈りながら進んでいたミアスキアに追い付くのが遅すぎた程だが、一人のミアスキアに対してトゥルース以外は女性ばかりなので早めに天幕を張る為、進める距離の差は仕方のないところだろう。


「廃村? て事はこの先に何軒も家が残っているって事?」

「ああ、そうだな。もう少し進むと集落があるから、今日はそこを利用して泊まっていくと良い」

「良いんですか? 人様の家を無断で使う事になるのでしょう?」

「村が放棄されてからもう五十年以上経っているし、道の状態を見て分かる通り人の出入りはほぼ無いと言って良いから、無断で住んだとしても問題はない。一晩や二晩寝床を借りても罰は当たらないさ」


 繁った蔦をミアスキアが後続のラバから降りたトゥルースと共に刈って進む事数時間、林を抜けた所に建っていた古そうな家を見付けたのは先頭のラバに乗ったままだったシャイニーだった。

 トゥルースやティナ(ニナ)の疑問にスラスラと答えていくミアスキアであったが、五十年以上前の出来事を把握しているのは仕事柄なのだろうが、ミアスキアは二十歳前の若者なので違和感が凄い。

 ふと視線を向けるとウンウンとミアスキアの言葉を肯定するように頷いていたフェマだが、違和感が更に加速する。百五十才を遥かに越える歳だとは頭で分かっていても、その幼女の姿では説得力は一気に失せてしまう。


「何人かは村に留まっておったがの。若い衆が出ていったもんで残った者は皆老衰で逝ってしもうたわ」

「……何でそんな事を知っているんだ? 誰に聞いたんだ?」


 流石に何十年も前の知らない情報が出てこれば首を傾げるのは当然だ。しかし幼女を相手に問い詰めるのは気が引けたミアスキアは、それを諦めて知り得る情報で問題ない部分を披露した。

 ミアスキアの話だと、廃村と言ってもそれなりの規模だったらしいが、それが災いして食糧難に陥り村を棄てたのだと言う。


「村の規模に対して農地の広さが充分じゃなかったんだろう。加えて土砂崩れの跡が見られたから、少ない畑が更に減ってしまったのが食糧難を更に加速させたんだろうな」

「その土砂崩れに何軒か呑み込まれておるの。何人かは助け出されたが……あれで村を棄てる者が現れたのじゃ」

「…………」


 微妙な顔をフェマに向けるミアスキアの乗る馬の先導によって進むとその集落が見えてきた。草が伸び放題だったが、背の高いミアスキアの馬によって踏み潰され問題なく進む事が出来た。ミアスキア様さまだ。




「……あら? あちらに見えるのって、教会じゃないかしら」


 流石に五十年以上も人が住んでいない家屋は痛みが激しく、屋根が落ちていたり壁が吹き飛んでいたりとマトモな状態の物は中々見付からなくウロウロとしていると、ティナが風変わりの建物を見付けて指差す。


「おう、あれは教会ではなく神社じゃの」

「「「神社?」」」


 村の中を調べに行くというミアスキアと別れて暫く経ってから見付けた建物を、フェマがそう断定するあたり以前に酷道を通ったのは間違い無さそうで、且つこの村にも滞在していた事を窺わせる。

 改めてその建物を見ると、周りの塀は既に殆んど朽ち果てていたが、何故か真ん中にある社は姿を留めていた。他の建物と比べてもこの社は随分と姿を保っており、トゥルースたちの目には異様に映った。

 更に目を凝らすと、社の前には水溜まり……いや、池が。それも澱んだ感じではなく活きた水の、だ。


「うむ、まだ水は湧いておるの。安心せい、これは飲める水じゃ」


 成る程、村はこの湧水を中心に広がったのかと理解する。

 水場である川からは最初の家屋があった場所あたりから段々と遠く離れていたので、どうしてだろうと首を傾げていたのだ。人の生活には水が欠かせないのに水場から離れて暮らすとなると、別の水場が何処かにあって然るべきなのにと思っていたところに、草に覆われて隠れていた細い水路を発見。それを横目にまともな家屋を探しながら辿ってみたところ、この社に辿り着いたという訳だ。

 よく見てみれば、踏み潰されたばかりの草がある。もしかするとミアスキアが真っ先に確認しに来たのかも知れないが、それにしてはと周りを見渡す。

 周囲と比べて神社の敷地の草の高さが低い。この神社に何らかの力でも働いているのかと思っていると馬に乗ったミアスキアが近付いてきた。


「やっぱりここに辿り着いたんだな。ここなら建物の中を使っても外に天幕張っても問題ないだろう」


 初めてではないのだろう、ミアスキアが社を宿坊として借りる事やこの場での露営を薦めてきた。

 確かに水場は目の前だし、先程散策してみて分かったのだが、放棄された畑に野菜類が自生しているっぽい。少し気が引けるが住民がいないのであればそれらを多少分けてもらっても罰は当たらないだろう。生モノは現地調達が基本の旅において、これはとても有り難い。


「でも良いのかな。何だかここだけ草の高さが低いんだけど。神社のせいなら神様に祟られたりしないかな」

「ははは。その心配はないだろ。草が低いのはこの先の住民が時々手入れに来ているからだと思うからな」


 草の丈が短いのは神様の力ではなくて人の手によるものだと聞いてホッとする一同。神社という神聖な領域なので、もしかしたら未知の力が働いているのでは? と。もしそうであったならおいそれと神社の敷地内を使う事は気が引けただろう。

 話を聞けば、この先進む方向の道の草が少し前に踏み潰された痕跡があると言う。酷道の奥の方から人がここまで通っている証拠だが、ミアスキアは僅かな時間でそこまで確認してきたようだ。


「そういう事なら……って、社の中に寝られる場所はあるのかな?」

「ああ、あるぞ。どうも他の旅人も使っている節があるから、気にせず使っちまえば良いだろ。そもそも何の神様を祀っているのかも分からない社だし」


 一応ここに通ずる道は酷道と揶揄されてはいるが、人が通る形を成してはいる。であれば、水場であるここは旅人にとっては絶好の宿泊施設であろう。周囲には食べ物も欠かす心配も少ないし。

 ふうん、そうなのか……と納得して中を確認しに一歩踏み入れると、溜まった埃が舞い上がった。


「ケホケホ。こりゃ、使うにしても掃除から始めないと。てか、本当に寝泊まりできるの? ここは」

「その右奥の方にある筈だ。まあ、寝場所は誰かが改造したっぽい簡易的なものだけどな。前にこの廃村を調査して回った時はここを拠点としたし。と言っても中で寝たのは団長で、おれたちは外に天幕を張って寝泊まりしてたんだけどな」


 成る程、ミアスキアが前に来た時は一人ではなく多人数だったんだなと理解した。

 その上で中を見れば、決して大きくない社の中には中央に本殿と見られる小さな社があって人を寄せ付けない何かが漂っている感じがするが、数段下の舞台には俗っぽい物があちこちに無造作に置かれていた。いや、一応は方付けられているのか、系統別に固められていた。

 入口に近い所には草刈り鎌や熊手、その隣には鍬が。更に奥には鉈や木槌に鋸、(ノミ)等の道具が。反対の右側には箒の他に小さなテーブルや皿等の食器類、桶、更に鍋まであった。

 道具類は社を保全する為の物と思えば納得もいくが、その他はどちらかと言えば快適グッズに当て嵌まると言える。流石に置きっぱなしで年月が経っているらしく、どれもそのまま使うのは難しい状態であるが、その様子からして本殿の周囲以外の社殿内には厳かな雰囲気が欠如していた。


「この神社の手入れをしに来ている人がいるらしいって話だけど、なんかちぐはぐで拍子抜けだなぁ」

「そうですよね、教会とは造りが違って信者が座る椅子もないし建物の中にまた建物があるし……」


 トゥルースの意見に同意するティナは教会へは出入りしていたようだが、流石に神社は立ち入った事はなかったらしい。鎮座している本殿を珍しそうに眺めていた。

 対してシャイニーはその特徴ある造りの本殿に興味を示したもののティナ程ではなく、少し楽しんで見ているようにも見えた。


「でも、神社は教会とは全く違うよ? 教会は普段から中に入れるけど、神社は本当はお祓いを受ける時とか以外にこの拝殿の中にまでは入っちゃいけないの」

「……そんな事をよう知っておるな、(シャイニー)は」

「ホント、それな。神社なんてもう残っているところは殆ど無いって言うのにな。てか、それって本当にそうなのか?」


 じっとみんなに見られてオロオロとするシャイニー。どこで知ったのかを聞けば孤児院にいた頃に聞いたと言うが、ずっと虐げられていたという話だったので教えて貰える機会がいつあったのか、教えてくれる人がいたのか、疑問だ。


 そもそもこの世界では神様を祀る神社は衰退している。その理由として呪いの存在がある。神様がまともな存在であれば、人々が抱える呪いを解くなり和らげるなりしてくれても良さそうだし、そもそも試練でしかない呪いを人々に与える筈もない。

 しかし実際はそのような事は一切ないのだ。大半の人々が大なり小なりの呪いを持っている。そんな背景があるので神様を信仰する人はほぼ皆無となっていった。そんな状態が既に何十年と続いている。

 対してこの世界の教会は過去に蔓延る呪いに負けず強く生きていく事を説いた偉人がルーツにある。それが人々の心を掴んで拡がっていったのだ。いつ誰に発現するか分からない呪いにビクビクする人々には、その説法は心に響いたのだった。


 それなのになぜシャイニーが知っているのだろうとミアスキアを先頭に首を傾げる一同だが、その中でトゥルースはその言葉が合っている事を知っていた。それは夢の中(・・・)で真実が修学旅行の道中にガイドの美佳から説明を披露されて知った内容だったからだ。


「で、(ミーア)も中に入ってきちゃってるけど、今更だし良いよな」


 駄目だったとしても誰もそれを咎める者はいない。ホント今更だな、と溜め息を吐いてトゥルースの言葉に返すミアスキアだった。





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