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√真実 -028 カップル



「「えっ!?」」


 ニヤリとした智樹の質問に、聞かれた麻野だけでなく真実も声を上げた。

 以前上の学年では何組かくっついていたという噂は聞いた事があったが、この学年の級長と副級長がくっついたという話は聞いた事はない。もしそれが本当なら自分たちの学年の級長クラス初のケースだ。いや、そういえば夏祭りで見掛けた同じ中学のカップルにそんな組み合わせがいたような気もしなくもない、と真実が思っていると麻野が観念したような顔でみんなには言うなよ? と釘を刺した。


「飛弾の話を聞いておいて僕が答えないのはアンフェアだよな。えっと、六月の中頃からだよ。よく分かったね」

「いや、見てれば分かる。とは言え、麻野だけを見てたら分からなかっただろうけどな。多鍋には気を付ける様に言っておいた方が良いぞ? 特に明日や明後日は自由行動もあるし」


 どちらかと言えば副級長だった多鍋にバレる要素があるらしいが、それも今のところ智樹くらいしか気付いてはいないような僅かなものだった。しかしバレたくなければ気を付けるに越した事はない。麻野は智樹の警告を素直に受け止めた。


「で、秦石はどうなんだい? 南之(みなみの)さんが後期の副級長に秦石と一緒にやろうと立候補を考えていたみたいだけど、最近は修学旅行の班でなのか智下さんとよく行動しているよね」

「あ~、どちらも全く関係ないぞ? てか今は勉強があるから誰とも付き合う気はないし。南之とは最近は全然話してないし、智下とは単にフリー同士だからであいつからは寧ろ嫌われているみたいだし。な、真実。オレは胡散臭いって言われてたよな」


 話を振られて夏休み中にあった会話を思い出し、コクりと頷く真実。それに対して麻野は胡散臭い!? と目を丸めて驚いていた。


「はぁ~、まさか秦石の事をそんな風に言う女子がいるなんて。いや驚いたよ。ところで布田はどうしたんだい? いつもなら騒ぐか寝てるかなのに……。和多野さんと上手くいってないようだけど」


 質問をする麻野に智樹と真実は顔を見合わせるが、未だに聞き出せてないのでその理由はハッキリとは分からない。三人の視線は自然と俯き加減な祐二に集まるのだった。






「はぁ~。何だか落ち着かない風呂だったな~」


 脱衣所でパンツを穿きながら愚痴を吐くのは風呂から出てきたばかりの真実だ。浴室からは未だにクラスメイトたちのはしゃぐ声が聞こえてくるが、真実たちはそれを横目に早々に出てきた。

 耳を澄ませば誰々がまだ皮を被っているやら誰々が半勃ちしているやらと(シモ)な話ばかりか、バッシャンバッシャンと湯面を激しく叩く音が聞こえてくる。

 あまりにも騒ぎすぎるクラスメイトの姿に嫌気が差して、体と頭を洗った後、軽くシャワーを浴びて早々に出てきたのだが、それに追随するように智樹や麻野も出てきていた。


「あれだけはしゃいでいると、その内先生が飛んで来るな。とばっちりを受ける前に退散した方が良さそうだ」


 ジャージに着替え終わった智樹の意見には真実だけでなく麻野も同意のようで、同じくジャージを着ると脱いだ制服を素早く畳んで持ってきていた袋に放り込んだ。これが級長であれば即介入して鎮めなくてはいけないところだが、今の麻野にはそんな事をする義務もなければ首を突っ込む気もなかった。


「この後だけど、ロビーに行かないかい? 多鍋さんと落ち合う約束をしてるんだけど、二人だけだとちょっと……。それに部屋じゃみんなが帰ってくると落ち着けないと思うし」


 成る程、風呂の前に隣の部屋に集まっていたクラスメイトたちが、今度はこちらの部屋に集まらないとも限らない。そうなったところで楽しいのかも知れないが、今まで回避していた夏休み中の出来事を根掘り葉掘り聞いてくるかも知れないし、それが元で新たな憶測を呼んで余計なトラブルの元になるかもと真実はそれの回避の為に麻野の誘いに乗る事にした。

 智樹も然りだ。級長を辞退した理由(家庭の事情)を詮索されていちいち披露しなくてはならない事態には陥りたくはない。ここは麻野の逢い引きの隠れ蓑になってやるのもやぶさかではない。一年間級長を押し付けるのだから、この位はお安いご用である。

 真実たちが補助しながらシャワーを浴びていた祐二も浴室の喧騒を横目に早々に出て来ていたが、一人部屋に戻る事にしたようでフラフラとエレベータの方へと行ってしまった。松葉杖を突く音が何だか弱々しいのは気にはなったが、エレベータがあるから一人でも大丈夫だと付き添いを突っぱねたのだ。




「あ、麻野くん。お待たせ~」


 真実たちがロビーで待つ事、約十分。女子の方が風呂の時間が遅れていた訳ではなく、真実たちがシャワーだけで済ませてきたのが時間のズレの原因であろう。多鍋が視界に入った麻野に向かって控え目に手を振りながら近寄りつつも、真実たちの姿を見てその手を引っ込めた。


「いや、大丈夫だよ。僕たちが早めに風呂から出てきただけだし。それにこの二人にはバレちゃったから、それならとちょっと付き合って貰ったんだ。二人きりだと見られた時に色々と面倒だろ?」


 麻野が多鍋にそう説明すれば、多鍋はバレちゃったのか~と溜め息を吐きつつも仕方ないと苦笑した。しかしその後ろには麻野と同じように三人の姿が。


「何だ、みんなも来たのか」

「だって部屋にいても周りがうるさいだけなんだもん」


 智樹の声掛けに答えたのは綾乃。どうやら女子の方も男子と同じようにうるさいようで、逃げるように付いてきたらしい。修学旅行という特殊な環境に、みんなハイのようだ。


「真実くんたちも来てたんだね」

「あ、ああ……麻野に誘われて。部屋に戻ってもやる事がなかったし」


 声を掛けてきた光輝に真実が答えるが、いつもと違う光輝の雰囲気に目が離せなくなっていた。

 ジャージ姿で着替えが入っていると思われる袋を両手で胸元に抱えているのは事実たちとそんなに変わりはなかったが、普段の学校での二つ結びではなく下ろされた乾ききってない髪、そしてほんのりとピンク色に染まった肌……。夏休み終わりに光輝の祖母の家で一緒に入った風呂の事を彷彿とさせるその姿に、真実は思わず手荷物を両手に持ち股間を隠すのだった。


「……あのバカは?」

「祐二か? 祐二なら一人で部屋に戻って行ったぞ」

「……そう、補助なしで……大丈夫、だよね?」」


 夏休みが終わって以降、事ある毎にいちいち赤くなる真実と光輝の二人の事はすっかり慣れてしまったので放っておいて、華子の質問に答える智樹。何かあったのであろう事は感じてはいたが、キスもまだだと言う二人が顔を赤くする要素が他に思い浮かばずそれ以上の事はまず無いだろうと勝手に結論付けた智樹たちは、きっと何か大事な約束でもしたのではとまるで小学生の恋愛ゴッコの延長線だろうと思う事にしていたのだった。

 一方で誰の手も借りず部屋に戻っていったという祐二を心配する華子。喧嘩をしているにも関わらず相手を気遣うあたり、男勝りながらも華子はオカン要素を併せ持っているのかも知れない。


「布田くんと和多野さんの事は知ってたけど、飛弾くんと黒生さんが付き合ってるのは気付かなかったわ。麻野くん、よく気付いたわね」

「いや、みんなこの二人の事をそういう事に縁がないって思い込み過ぎなんだよ。夏休みの出校日にあった事だけじゃなくて、級長選の時の黒生さんの立候補なんて分かりやすかったのに、誰もその事に思い至らないんだものね。思い込みって怖いよね」


 恋愛事に縁がないとみんなが思い込んでいる真実と光輝の組み合わせが意外だったと、しみじみ感想を言い合う麻野と多鍋。

 対してその真実と光輝も、麻野と多鍋が付き合ってるとは思っていなかった為、二人して目を瞬かせていた。

 人に知られるのはあまり善くは思っていないからと、お互い付き合ってる事は内緒にする事を確認した後、外に出る事にした一行。ロビーには少ないとは言え、同じ学校や他校の生徒がチラホラと探検しに彷徨(うろつ)いていたので、噂になるのを避ける為にフロントにいたホテルの人に声を掛けてから表に出た。


 玄関入口を出た所にはバスが転回出来るだけの広い車寄せがあり、奥には他校が乗ってきたと思われるバスが並んで駐車されているのが見える。自分たちが乗ってきたバスは会社がそれ程遠くない上、明日は日中は別の学校の送迎でこの学校は夕方にしか乗らないので会社に戻ったらしくそこには停まっていなかった。

 敷地から出ないのを条件に外に出たので、車寄せにあった花壇に隠れるように腰掛けようと廻ってみたら既に他校の生徒が端に座っていた。更に向こう端を見れば同校のカップルの姿が。考える事はみんな一緒のようだ。

 幸いこちらは大人数だったのでカップル視はされてはないみたいだ。誰もいなさそうな駐車場の端に行き、腰を下ろすと鈴虫の音が耳を癒やした。喧騒に包まれた部屋を出てきた事が正解だったとホッと一息吐く一同だった。

 夜空には新月が近い事もあって月の姿はないばかりか殆んど星は見えなかったが、単に街の明かりがあって見えないだけのようだ。古都とは言え京都も街中では充分都会なのだと認識する真実だった。





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