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√真実 -027 京都名物?



「うっわ、晩飯少な過ぎね?」

「だよな~、何この少しづつのおかずは。よく婆ちゃんが頼むなんちゃら御膳って奴か?」

「でもそんな種類も無いし、これじゃ足りないよな~」

「でもこの台に乗ってるの、火を着ける奴じゃね?」

「お~、ホントだ! 早く火を着けてくれ~」

「でもこれ、肉じゃないじゃんよ~。何か白っぽい液体みたいなのだし。マジ期待外れだわ~」


 予定より三十分遅れての夕食に大広間に集まった男子たちからそんな声が漏れてくると、それを耳にした女子たちが冷ややかな目で見やった。


「うわあ、何だか超恥ずいんですけど~」

「京料理ってのを知らないのね。男子マジサイテ~」

「お子さまランチか安い牛丼でも食べさせておけば良いのよ」

「京都まで来てマッキバーガー食べたいって言ってたのを聞いた時は、何しに来たのって叫びそうになったわよ」

「でもこの白いのって何なの?」

「この色や匂いからして豆乳じゃない?」

「豆乳を温めて飲むの? わざわざ?」

「あら知らないの? 京都と言えば湯葉や湯豆腐じゃない。自分で掬って食べるのよ、きっと」

「「「へぇ~」」」


 情報通の女子が言い当てたように、夕食は湯葉尽くしだった。ご飯はおかわり自由だったが、育ち盛りの中学生男子には少々物足りない夕食となった。


「結構時間が掛かるんだな、これ」

「出来るまでゆっくりと別の物でも食べてれば良いんじゃないかな、智樹」

「もう掬っても良いよね、ね!」

「あともう少しだよ、智下。ま、好みで早めに上げちゃう人もいるらしいけどさ」

「あ、キラリはやっぱり上手ね。何でそんなに綺麗に掬えるの?」

「そっと箸を入れてそっと掬い上げれば良かったんだよ、かこちゃん」


 それが出来ないんだけど、とクシャっと丸まった自分の掬ったそれと、光輝の薄い膜になったそれを見比べる華子。

 すると、下火になってきた固形燃料をそのままに、ホテルの従業員が案内に回ってきた。


「湯葉の後はこちらのにがりをよくかき混ぜながら入れて手応えが重くなってきたら冷めるまで暫く置いてください。出来上がった豆腐は掬ってそちらのつゆや薬味でお召し上がりくださいね」


 そう案内しながら順に隣のテーブルへと進んでいくのを見送った華子はうんざりとした顔をして背もたれに体を預けて足を投げ出した。


「はぁ~~~~、また待たされるんだ。焦れったくて仕方ないな~」

「まあ、普段こうして作りながら食べるって習慣がないと、こう落ち着いて食べる食い物は合わないのかもな」

「てか、これ豆腐になるなんて思わなかった! 豆腐って下町の小さな豆腐屋さんが早朝に水の中で作っていると思ってたよ!」


 華子の悪態に智樹がもう少し辛抱しろと言うと、かき混ぜ終えた綾乃が切り出した。


「ははは、そう言えば豆腐ってそんなイメージがあるな。でもにがりがあればこんなに簡単に出来る物なんだな」

「ん。豆乳なら何処にでも売ってるし、にがりはスーパーのお塩売り場にあったと思う」

「へぇ、そうなんだ……。ねえ、今度みんなで作ってみない? 次はいつが良いかな?」

「それも面白そうだな。でもこんなに時間が掛かると大変じゃないか?」

「ん。それ(時間)もあるけど、ここの味はたぶん再現出来ないと思う。使う豆乳とか全然違うと思うし、つゆもこの味を出すのは難しいかも」

「あ~、つゆなんかお店で食べるのとスーパーで買ってくるのとで全然違うものね。残念」

「そう言えばユージの家のバアちゃんが作った麺つゆは、お店の少し甘いのと違ってしょうゆ辛いのに病みつきになる味なのよね」

「へぇ、そうなんだ。そういうのとはちょっと違う味付けっぽいけど、ちょっと家でもチャレンジしてみたいよな……って、やっぱり俺の家でやるんだ!?」


 それぞれが一口食べて気に入った湯葉の味を帰ってからも再現しようとみんなが乗り気になったところで、やはり集まる場所は自分の家なのか! と今更ながらに気付く真実。

 一方で一人だけいつもと違い、話に加わる事もなく大人しく火の着いた鍋をゆっくりと掻き回す祐二。既に豆乳は固まりかけていてそぼろ風になっていて、慌てて止める智樹。


「おい、ちょっとおかし過ぎるんじゃないか? 祐二」

「……ん? 何がだ? トモ」

「だってよ、あれ程ガイドさんガイドさんって騒いでいたのに、ホテルに着いてからのお前はいつになく大人しいじゃないか。いつもなら暇な時間があれば寝てしまうのに、今日は午前中だけしか寝てなかったしな。」


 智樹が指摘するように、バスを降りるまでは美佳を絶賛していた祐二だったが、バスを降りてホテルに入ってからは珍しく難しい顔をして俯き加減だった。


「オレにだって色々とあるんだよ」


 そう言われて顔を見合わせる智樹と真実だったが、その色々が何かを聞けば面倒な話になりそうなので敢えて何も聞かないようにするのだった。






「うぉりゃーーー!!」

「ぶふぉ! こんのヤロウ、やったな!」

「わっはっはっ! もっとやりゃぶはっ! テメッ! くらえ!」


 夕食から部屋に帰ってから暫くすると、東隣の部屋からドタバタと騒ぐ音が聞こえてきた。どうやら枕投げでもしているのだろうが、対してこの部屋は静かなものだ。それもこれもこの部屋の顔触れによるところが大きいだろう。


「良いのか? 隣の部屋に行かなくて。みんな集まっているんだろ?」

「いや、良いんだ。行っても思わず止めちゃうと思うし、何と言っても止めに入らなくても咎められる事もないだろうし」


 座椅子に深く(もた)れ掛かり足を投げ出す智樹の質問に清々しい笑顔で答えるのは()級長の麻野だ。

 六人部屋のここには今、智樹と真実、祐二に加えて麻野の四人がいるだけで、麻野と同じ班の二人は今騒いでいる隣の部屋に突撃していて居なかった。


「いやあ、こんなにも悠々と修学旅行を楽しめるとは思わなかったよ。少なくともこの修学旅行は僕がみんなを抑えなくてはいけないって、ずっと思っていたからね」


 こういう場で騒いで教師の介入を許せば、最後はそれを止めなかった級長に責任が被せられる。この学校はそういう学校だったが、二学期頭に尾桟の暴走に加えて智樹の悪知恵によって現在は級長職から離れられた麻野は、提案してくれた智樹様さまだよと満面の笑みで返した。


「いや、こっちこそ悪いな。たぶんあとひと月すれば再選になって麻野が選ばれるだろうから。オレが辞退したばかりにお前らには苦労を掛けるな」

「いやいや、それはもう良いって。こっちこそ内申書に前期も後期も級長をしたって実績が加わるんだから。高校の推薦も取りやすくなるよ」


 智樹は真実たちにどうして後期の級長を辞退したのかを話していたが、後期の級長を引き受けて貰えるよう夏休みの間に説得しに行った際に麻野と副級長だった多鍋幸紀(ゆき)には打ち明けていたようだ。その説明もなく、はいそうですかとはすんなりとはいかない事は充分理解している智樹である。


「まあ、黒生(くろはえ)さんには申し訳ない事になったけどね」

「まあそこはオレと真実がサポートするし、麻野も手を貸してくれるんだろ? 一ヶ月半の辛抱さ」


 一時的とは言え、副級長に選ばれてしまった光輝にはどう考えても頭が上がらない二人。級長候補として挙がった真実を庇って自ら名乗り出たのが仇になり、望まぬ形で副級長に抜擢されたのだ。助けてあげたいと思った真実が落選してしまったのは何とも皮肉な結果だが、その茶番を仕立てた元凶が自分たちなのだから陰ながら支えるのはやぶさかではない。


「……なあ、飛弾。もしかして黒生さんと付き合ってるのかい?」

「ぶふぉ! げほげほ。な、な、な、何で!?」


 各部屋に用意されていたお茶請けをかじりながらお茶を啜っていた真実だったが、突然麻野に話を振られて飲みかけていたお茶を吹き出して()せた。


「いや、口数の少ない黒生さんは一学期からずっと気に掛けていたんだけどね。修学旅行の班を決めた頃から少しづつ変わってきたのを感じていたんだ。で、夏休み明けには随分と印象が変わっていたから何かあったんだろうなとは思っていたんだけど、思い返せば夏休みの出校日に黒生さんが保健室に運ばれた事があっただろ? それを思い出してね」


 どうやらこのクラスには名探偵(?)が女子だけでなく男子にもいるらしい、その能力にはかなりの差があるようだが。実際にはその事があった後から付き合いだしたのだが、今となっては訂正する程でもない些細な事だ。

 結局、麻野の名推理を認める真実。幸いこの部屋には麻野以外はその事を知る智樹と祐二しかいなかったのと、麻野はベラベラと周りに喋るような奴ではないと評価したからであった。その信用度があるからこそ智樹が丸一年級長にと推薦しようとしていたのもあった。


「で? 麻野は多鍋といつから付き合ってんだ?」

「「えっ!?」」





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