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√真実 -025 アレ、発症?



「やっぱ、大人の包容力だよな。あの匂いや柔らかさはたまらんぜ? それに何と言ってもよ、おっぱいを触っちゃっても怒らずにおれを心配してくれた事! カコだったらあんな場面だとグーで殴ってくるもんな。あんなの女じゃねぇよ」


 グーはいただけないがそんなの照れていただけかも知れないし祐二が助平心をあからさまにしすぎていたのかも知れない。それに、バスガイドなら客が怪我をしない様に気を使っていただろうから多少の事には目を瞑って貰えたのだろうと、熱を帯びている隣の男に冷たい視線を向ける智樹。

 が、その営業スマイルにコロッと堕ちるのは中学生男子なら仕方ないところだろう。


「ミカさん、料理が得意なんだってさ~。バスで弁当食べてたけど、それみんな手作りなんだってよ。一口貰っちゃったけど、それが美味いのなんのって~。やっぱ女は料理とかが上手な方が良いよな。な、トモ」


 中学生女子の大半を敵に回す様な言い回しに、智樹もいい加減相槌を打つのを止めた。適当に同意していたらとばっちりが降り掛かりそうだし。


「女らしくって、あのバカが怪我してから誰が世話を焼いていたと思ってんのよ! ね、そう思わない?」

「あ~うん、そうだね~」

「ふんっ! だいたい部活から帰ったらもう晩御飯出来てる時間だしっ! それでいつ料理なんて覚えるってのよ! ね、そう思わない?」

「あ~うん、そうだね~」

「そもそもアイツ、家でも体をベタベタと触って来てたし……。きっと胸が大きければ女なんて誰でも良かったのよ! ね、そう思わない?」

「あ~うん、そうだね~」


 あっ! そこは否定しておかないと! と耳を傾けていた真実が思うものの、時既に遅し。

 次の目的地である龍安寺まで三十分近く掛かるらしいが、このままだと相槌を打つばかりの綾乃のせいで話が拗れまくってしまいそうだ。


「ふんっ! 分かってねえなあ、大人の魅力ってのを。まあ、何でも暴力で解決しようだなんて女とは認めねえけどな、おれは」

「ふんっ! 当然のように正当防衛が認められるわよ。普段、どんな厭らしい目で見ていたのか写真に撮ってポスターにして貼ってやりたいくらいだわ。女子からだけでなく、男子からも軽蔑されるでしょ!」


 視線を合わせる事なく席に座ったまま繰り広げられる言葉の応酬に、間に挟まれた真実は何も出来ずに小さくなっているしかなかった。

 いつもやっている漫才とは明らかに違うピリピリとした空気が、いつもなら止めに入る光輝までも萎縮させてしまって仲裁に入る事も出来ずにいた。


「あ、あの~、案内を始めても良いでしょうか~?」


 ガイドの美佳もその圧に圧されて仕事を中断していた。周囲も声を殺していたので、車内は随分と静かになっていてさぞ口喧嘩しやすかっただろう。


「あ、すみません、ミカさん。アイツは空気を読めないお子ちゃまだから。無視して進めてください」

「うっわ! すみませんだって。聞いた? ねえ、聞いた? アイツがそんな言葉を使うのなんて今まで聞いた事ないんだけど。うっわ、鳥肌立ったわ~」

「あんだとぉ?」

「なによ~!」

「……あの~。始めますね~?」


 またもや口火を切り掛けた二人に、美佳が思い切って口を挟み無事に仕事を再開させた。

 こうして口を挟む事に成功した美佳ではあったが、昼の休憩時間に祐二と少し話をして多少慣れたのがあった。

 そんな中で智樹は大きな溜息を吐き、身を通路側に乗り出し体を捻って後ろを向く。


「駄目だ、こいつ。麻疹(はしか)に罹かってやがる」

「麻疹?」

「ああ。中学生男子に罹かる麻疹って名の、大人への憧れと好意を混同した恋煩いだな。全く相手にされないって分かりきったものなのに、なぁ」


 智樹の言葉に真実は隣の光輝と顔を見合わせ、二人でぱちぱちと目を瞬かせた。






 祐二が一人バスに戻ってきたのは、みんなが弁当を食べに散ってから二十分少々、集合時間までもほぼ同じ時間という随分と早い時間だった。周辺には見晴らしの良い場所が多いので、当然みんなゆっくりと弁当を食べるか綾乃のように目的地を目指して急ぐかの二択となり、これ程早くバスに帰ってくるのは祐二くらいしかいなかった。

 流石にそこまで想定していなかった美佳と運転手の七五三掛(しめい)は、生徒たちが弁当を食べに散った後バスの中を清掃しバスの外周を点検した後、自前の弁当を車内で食べていた。


「――――みません」

「いや、そんな謝っているばかりじゃ一向に上達はしないぞ? 反省するべき事があるなら、次から同じ過ちをしないようにどうすれば良かったか、これからどうするかを考えないと。さっきの最後の生徒さんが転びそうになった時は今までになく良い判断が出来ていたと思う。出来ていたんだが……あの生徒さんの方がなぁ。まあ、修学旅行ももう何度も経験しているんだから、もう少し慣れろよ」


 弁当のおかずを口に入れながら七五三掛が美佳に苦言を呈しているのがバスの外にまで聞こえてきた。


お前(美佳)ももう三年生なんだろ? ああいったお客さんを軽く往なせなきゃ、これからもっと苦労するぞ。今のままじゃ一年生に相談を受けても恥を掻くだけだ。今回はまだマシな方だけど、今後は席を立つ客や酔って絡んでくる客だって現れるかも知れないんだ。そうなった時にガイドがそういったお客さんを止められなければ、運転手はバスを路上に止めなくてはいけなくなる事だってあり得るんだ。そうならない様にしなくてはいけない事は分かるな? いつまでも今日みたいに他のお客さんに助けて貰えるなんて思ってちゃ、いつまで経っても一人前にはなれないぞ?」

「……はぃ」


 どうやら今日午前中について説教を受けているようだが、結構厳しくお叱りを受けているっぽく、美佳の返事が随分と小さい。


「まあ、ちょっと厳しく言っt――」


 続けて何かを七五三掛が言いかけたところでドンドンドンと入口のドアを叩く音に遮られた。それが最後に送り出した生徒だと分かったので、慌てて弁当を置きドアを開ける。


「おい、ちょっと言い過ぎじゃないか? ガイドさんが泣きそうな顔をしているじゃないかよ!」


 途端に祐二が乗り込んだ。とは言え、松葉杖があるので声だけの勢いであったが。

 突然の闖入者(ちんにゅうしゃ)に困惑する七五三掛と美佳。


「あ、お帰りなさい。お早いお帰りで……」

「誤魔化してんじゃねえよ! そんな頭ごなしに叱ったら萎縮しちまうだろうが! ちょっとは言葉を選べよ!」

「えっ!? ちょっ! 待っ!」


 思ってもない人物に庇われた事で、困惑を重ねる美佳。当然七五三掛も困惑顔だ。


 元々美佳はよく七五三掛に仕事内容の評価をしてもらい、アドバイスを受けていた。この日も午前中のごたごたについて上手く対処出来なかったと感じて美佳の方から意見を伺っていたのだ。

 なので祐二が言うような七五三掛から一方的に叱りを受けている訳ではなく、どうしていけば良いのかを聞いていたのだ。その中で耳の痛いところを指摘されて俯いていたところを祐二に見られたのだ。


「……そうですね、ちょっときつく言い過ぎました。すみません」

「えっ!? ちょっ! 待っ!」

「七夕さん、良いから。それで、お客さんは何か忘れ物でも? まだ時間は早いですよね」


 あっさりと非を認める七五三掛にそれは筋が違うと美佳が口を挟もうとしたのだが、七五三掛はこの場を治める為に自ら泥を被ったのだ。

 そう素直に頭を下げられては引き下がるしかない祐二。同年代の多くは相手が謝ろうが自分の気が済むまで喚き散らす者も多いが、兄弟の多い祐二はそれが自分の立場をより悪くする悪手だと本能的に知っていたので、すんなりと引き下がったのだ。

 当然二手三手先を考えていた七五三掛だったが、ちょっと拍子抜けだった。七五三掛としては丁度良い見本になろうとまで考えていたのだ。だからと言って一度治まった騒ぎを再び蒸し返すような事をする七五三掛でもないので、ここは話題を変えようと祐二に話を振った。


「いや、外も暑いしこの足だから、バスの中で涼もうと思って……」

「そうでしたか。どうぞ、お席に。我々は失礼してお昼をいただきますが宜しいですか?」


 そう言われて駄目だと言う者はそうはいない。どちらかと言えばそれを邪魔した側の祐二はそれを快諾してバスに乗り込み席に座った。

 お昼を食べている間も祐二は積極的に美佳に話し掛けていたが、食べ終わった七五三掛は二人を残して外に出る。何をしているのか気になった祐二は美佳に訊ねてみれば、走行前の点検をしに行ったのだと。専用のハンマーでカンカンと叩きながらホイールナットの緩みやタイヤの異常がないか、ゴミなど巻き込んで引き摺っている物はないか、異音や異臭はないかを見て廻っているのだと言う。今日は高速道路には乗らず京都の街中を移動しているだけなのに、そんな事もするのかと驚いていたが、安全確認は停まる度にしているという。


「それだけ人の命を預かっているという責任感が強い人なのよね~、私も七五三掛さんは尊敬しているし~」

「でも、ミカさんをあんなにも叱っていたじゃん」

「あ~、あれは私が正直に言って欲しいってお願いしたから……。他の人だときつく言えば辞めちゃうかもって言葉を抑えちゃうから、本当のところが分からなくて……。だから七五三掛さんの事は悪く思わないで欲しいの」

「……そう、だったのか」


 敢えてきつい言葉で怒った七五三掛だった事を知って、それでも頭を下げてきた事に、少しばかりの気不味さを感じた祐二だが、美佳と二人で話せた事に浮かれるところはまだ中学生であった。





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