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√真実 -023 ハプニングと飛び火



「は~い、では、ここ嵐山で一時間のお昼休憩になりま~す。バスを間違えないようにお願いしま~す。集合時間は1時45分、出発は50分で~す」

「「「えー!!」」」

「ちょっと待った! もう、あとちょっとで1時だけど? 一時間どころか四十五分しかないじゃん!」

「えっ!? ちょっ! 待っ!」


 天龍寺を出て僅か五分で着いた次の目的地の駐車場に入り込むタイミングで、荷物を用意する生徒たちにバスガイドの美佳が案内するが、バスの真ん中くらいに乗っていた男子が叫んだ。

 だが、学校側の予定を伝えているに過ぎない美佳はそれには上手く返す事が出来なかった。


「ガイドさんに文句を言うのはお門違いだぞ~。もう既に予定より三十分くらい遅れているんだ、ちっとは我慢しろ~」


 尾桟の言う通り、栞にあった予定から随分と遅れが生じていた。西本願寺だけでなく世界遺産に指定されていた天龍寺でも意外と空いていたにも関わらず予定の時間では回りきれなかったのだ。

 では、どこで時間を調整するかと言えば、余分な時間が多い休憩時間を削るしかない。忙しいサラリーマンじゃあるまいしバスを急がせるだなんて無茶を言わなかったところは褒めておこう。


「えー!! 嵐山って言えば、竹林を通る道なんかがフォトアプ映えするから絶対行きたいのに!」

「野宮神社の竹林の道ね。ここからだと片道だけで歩いて十五分くらい掛かるから、結構厳しいと思うわよ~?」


 以前から行きたいと言っていた場所だと往復で三十分掛かるらしく、美佳から言われてぐぬぬと眉を顰める綾乃。

 そうしている間にも後ろに乗っていたみんなが降りていく。


「あ~、腹減ったぁ!」

「昼飯が1時までお預けだなんて無いよな~」

「おい、早く食ってどっか行こうぜ!」


 男子がオチャラケて言えば、女子からは溜め息が漏れる。よくあれで班として行動出来るなと真実は他人事のように見送っていると、それに尾桟が釘を刺す。


「あまり遠くに行くなよ~。それと、ちゃんと班で行動しろよな~。時間までに帰って来れなかったら自費で次の龍安寺までタクシーだからな~」

「えー!! マジでー?」

「キビシー!」

「小遣い無くなっちまうやんけー!」


 本当にそうするのかは不明だが、こうでも言っておかなければちゃんと集まらないだろうと尾桟は思っていた。それは運悪くも過去に経験していたからだ。他の学校でだが、新任でそれを経験したので、ある意味トラウマになっていた程だ。


「なあ、昼飯はどこで食べるつもりだ?」

「てかさぁ、どんな店があるんだ?」

「マクロ行こうや、マクロ!」

「え~? こんなところまで来てマックだなんてツマンナ~イ」

「そうよそうよ! せっかくだから何かおいしいものが食べたいわよ!」

「きゃははは! こんなところでマクロだなんてバカじゃん!」


 最後列に乗っていた壱継たちがチラリと真実たちを睨むように見つつ降りていく。どうやら壱継たちは何処かの店で昼飯を食べるつもりらしいが、弁当は持ってきてないのだろうかと首を傾げていると、当然のように尾桟に止められていた。


「おい、ちょっと待て! お前ら、一体いくら持ってきているんだ! ちゃんと小遣いは額が決まっているんだぞ!」


 あ~、あれは後からチェックを受けるパターンだな、と冷めた目で見つつ最後にバスを降りる真実たち。

 足を手術してまだ間もないが、夏場で蒸れてしまうからと本格的なギプスは外れたものの簡易的なギプス(脱着式装具)を嵌めている祐二は、降りるのに時間が掛かるからとみんなを先に通していたのだ。

 それに新幹線の中で確りとおやつを食べていたので、他の班と比べてそんなに腹ペコにはなっていなかった事もあって大人しく最後まで待っていた。


「あっ! 踏み台を出すからちょっと待ってて~」

「いや、あの踏み台は逆に怖いから無くて良いや」


 美佳が思い付いたように踏み台の入っている物入れの蓋を開けようとするのを、松葉杖を突いて降りようとした祐二が止めた。踏み台はバスのステップと地面との段差が大きい為に、小さい子やお年寄りの乗り降りの為に用意されていた物だが、松葉杖で乗り降りしようとすると杖を突く(スペース)がちょっと心許ないのだ。


「そうなんですね、ごめんなさい~。って、危なっ!」

「うわっ!」

「ユ、ユージ!」


 杖を突く位置が僅かに手前過ぎたのか、最後のステップから路面に降りようとした祐二がバランスを崩すと、それを美美佳が身を挺して転倒を防いだ。


「「「「「あ……」」」」」


 思いっきり美佳の胸に祐二の顔が埋もれて。

 超お約束のハプニングに、祐二が降りるのを待っていた真実たちが口をポカンと開けてそれを見ていた。いつもなら華子が祐二の補助をするのが当たり前になっていたが、バスの乗り降りに関してはバスガイドの方が専門だからと任せていたのだ。


「あわわ、大丈夫!?」

「ふご、ふごごふふ」


 崩れた体勢は松葉杖が邪魔をして中々直す事が出来ず、美佳の胸に埋もれたまま動こうとする祐二だが、それが余計に体勢を悪くするのだった。


「七夕さん、とりあえずお客様の体勢を戻さないといけないから、前のめりになっているお客様の体を少し後ろに戻して差し上げて!」

「あ、は、はいっ!」


 バスの中に最後までいた運転手の七五三掛(しめい)にそう指示されて、慌てて祐二を支えながら体勢を戻す美佳。

 何とか転倒を免れた祐二の顔は随分と弛みきっていた。不可抗力とは言え、これでは心配する声は誰からも掛けられずに白い目ばかり集める事となった。


 怪我する事なく済んだ祐二とともに駐車場を出て直ぐの河川敷に行くと、そこでは多くの人たちが弁当を食べ終えて寛いでいた。その隙間を狙って同級生たちがあちこちに散らばっているのが見え、中には既に橋を渡って向こう岸をウロウロしている生徒も少なくなかった。

 早速座れそうな場所を探そうとしたところ、目の前の家族連れが片付けを始めたので智樹が声を掛けると、これから散策に行くと言うのでそこを確保させて貰う事になった。祐二の足の事があるので、近場で確保出来た事は行幸だ。場所を譲ってくれた家族連れも近くで場所を探していた集団も祐二の姿を見て快く譲ってくれた。

 早速シートを広げて弁当を広げる一同だが、珍しく祐二と華子が目を合わせない。ニヘラと顔を弛める祐二に対して華子は完全にヘソを曲げているのが分かる表情だ。


「やっぱ大人は違うな~。めっちゃ柔らかくて良い匂いがして……でへへへ」


 その祐二の言葉に、綾乃は眉を顰め、光輝は自らの胸を手で覆ってそこに視線を落とした。真実も何言ってるんだコイツと白い目を向け、智樹は深い溜め息を吐いた。


「ったく……おい、祐二。事故とは言え、謝っておけよな」

「ん? 何がだ?」

「和多野にだよ。今の内に謝っておかないと後で取り返しのつかない事になるぞ?」


 見兼ねた智樹が苦言を呈するが、祐二は聞こえていないのかその顔を崩さなかった。


「……ねぇ、真実くん。真実くんもミサさん相手にしてる時って、あんな事を思っているの?」

「あんな事って……いや、違うからな? 俺はいつも潰されたり失敗されたりしてるからミサさんの相手はどちらかと言えばイヤなんだからな!」

「ホントかなぁ。どちらかと言えば喜んでるんじゃないの? 女のあたしらから見たって、あのミサさんの胸はかなりのモノだもんね」


 普段そんな事は口にしない光輝が突如問い掛けてきて慌てて取り繕う真実だったが、それを綾乃が煽ってきた。

 道場でのミサの相手はかなりの頻度で真実が当たっていたが、それは当時高校生だったミサの相手を師範の欣二がしようとすれば当時男に付き纏われていて男を毛嫌いしていたので、小学生だった真実が適任として相手をしていたからである。同姓同士では危なさそうだったのと、素人相手の受身の練習になるからと真実が宛がわれたのだ。

 それから三年、弟のように可愛がられた真実だったが、当初から大人の体つきだったミサの事は真実は姉のように接していたものの、苦手にさえ思っていたのだった。端からみればブラコンの姉を弟が嫌がる図であった。


 柔らかく良い匂いがするのは否定しないがその分痛い思いもしているので、当然二人の言葉を否定する真実だが、とんだ飛び火だと溜め息しか出ないのであった。





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