表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/74

√真実 -022 可愛いバスガイド



「よ~し、各班揃っているな? 誰か隣がいない者がいたら手を挙げろ~!」


 尾桟の号令に荷物を頭上に上げていた者たちからブーイングが飛び交う。慌てているとは言え、タイミングが悪い。

 新幹線(こだま)で京都駅に着いた早々、近いからと徒歩で西本願寺に移動したのだが、荷物を持っての約十五分の移動は運動部の者たちからでさえもブーイングが起きた。体をあまり動かしてない者(特に女子)は声を上げる事も出来ずにただ下を向いて歩くしかなかったくらいだ。

 そして約四十五分の所要時間を見込んでいた西本願寺はいきなり十五分遅れの一時間を要して漸くチャーターされたバスに乗る事となったのだ。西本願寺を見て回った者なら分かろうが、四十五分で見て回るのはかなり早い部類で、且つ団体で回るには無理があるのだ。急かされて回った西本願寺は当然真実の記憶には残っていなかった。精々馬鹿デカい平屋だなぁという程度だ。って、おい!!



「なあ、次の天龍寺って、何があるんだ?」

「何がって……お寺?」

「丁度今、ガイドさんが説明しようとしているからちゃんと聞いていろ」


 相変わらずの祐二と華子の夫婦漫才が始まろうとするところを二列も後ろの席から智樹が阻止する。流石にバスの中での夫婦漫才は止めるのが面倒だし、何よりバスの運転手やバスガイドに聞かれて恥ずかしいからと先手を打った形だ。


「皆さん、西本願寺は如何でしたか~?」


 そのバスガイドが席から体を捻って後ろの客席を向いて声を掛ける。

 真実たちはそれが不通だと思っているが、かつてはバスガイドは立って後ろを向き乗客と対面で話すのが普通であったが、今やバスガイドも漏れなくシートベルトに縛られて仕事するのは当たり前になっているのだ。このバスは最新式ではないようでガイドの席は前を向いているが、中にはガイド専用席が横や後ろを向いた車両もあるそうだ。目線が乗客と同じか低くなるので、窓際や後ろの方の乗客は顔が見えなくなってしまい、ちゃんと話を聞いてくれているのか分からない。定型文を喋るだけならテープを流しておけば良いが、やはり乗客の反応を見て話を変えていくのがプロなのである。

 華やかそうでいて見ていても大変そうだが、実際腰痛やらを発症する苛酷な職業である事はここだけの話にしておいて欲しいところだ。


「今向かっている天龍寺は、京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町にある、臨済宗天龍寺派大本山の寺院で~す。山号は霊亀山(れいぎざん)。寺号は正しくは霊亀山天龍資聖禅寺(れいぎざんてんりゅうしせいぜんじ)と称しま~す。本尊は釈迦如来、開基(創立者)は足利尊氏、開山(初代住職)は夢窓疎石で~す。足利将軍家と後醍醐天皇ゆかりの禅寺として京都五山の第一位とされてきましたぁ。古都京都の文化財として世界遺産に登録されていま~す。因みに丸々Wikiからの引用になりま~す」


 何か色々と問題がありそうな言葉が最後に付け加えられていた気がするが、そのふんわりとした柔らかい雰囲気や声に男子たちはメロメロ、女子たちにも可愛いと好感度は爆アゲだ。こういうイベントには欠かせない存在だろう。

 そんな中、真実たちの班だけはそのバスガイドを見て首を傾げていた。


「……なんだか既視感を感じるんだけど」

「ん。ウチも」

「どこかで会った……なんて事はないんだけど……ねぇ」

「そんなにも前じゃないけど……つい最近でもないし……」

「あのゆるふわな感じって……」

「……もしかしたら、ミサさんじゃないか? ほら、カレー対決の日に来てた」

「「「「「あー! そうだ!」」」」」


 土曜日に道場に顔を出して再会していた智樹が、思い付かなかった五人の代わりに当ててみせれば、みんなが声を合わせてそれだ! と叫んだ。当然の様に注目を浴びる事となり、すごすごと席で小さくなる一同であったが、似た年頃にも見えるし語尾を伸ばす様な喋り方も似ていると言えば似ていた。


「はい、自己紹介が遅くなりましたが、このバスは運転手の七五三掛(しめい)雅也とガイドの七夕(たなばた)美佳が担当しま~す。三日間、よろしくお願いしま~す」


 大声を揃えて出した真実たちを首を傾げて見た後に、気を取り直して自己紹介するガイドの美佳。

 その名を聞いて、またええっ!? と声を出す一同。雰囲気だけでなく名前も似ていたのだ。

 それだけではない。よくよく見れば存在感たっぷりの胸なんかもミサに似ており、それに気付かなかったのが不思議なくらいだったが、それも無理はない。ミサとは違っておでこをガッツリと出す髪型であった為に、落ち着いた感じと併せて喋らなければ全くの別人だったのだから。


「ええっと、どうしたのかな~? 何かあったの~?」

「あっ、いや。ちょっと知り合いに雰囲気や名前が似てたんで……」


 一番前の通路側の席に座る祐二が頭を掻きながら答えると、美佳はああ、成る程! と一人納得するが、その声はマイクを通しておらず周辺の者にしか聞こえなかった事もあって車内が随分とざわめいていた。


「何だ、お前たちはこんな綺麗なお姉さんに似た人と知り合いなのか?」


 反対側の最前列に陣取った尾桟がその会話を耳にしていたらしく、興味を持って聞いてきた。


「ああ、マサ(真実)と同じ道場に通ってる大学生が雰囲気似てんだよな」

「女子大生、なのか? こんな可愛くておっぱ……いや、うらやま……いや、いかんいかん、今は仕事中……」


 まだ独身である尾桟が美佳をチラリと見て呟いたのは騒がしい車内では周囲に知れ渡る事はなかったものの、バスに酔いやすいからと最前列の尾桟の隣に座っていた女子生徒からは冷たい視線が刺さっていた。


「あら、その方は大学生なの~? じゃあ私と同年代ね~」

「えっ!? じゃあガイドさんってハタチ前後なの!? 若~い!」

「って事は高卒でバスガイドに? それも良いかも~」


 話が聞こえていた別の班の女子たちが、華やかそうなバスガイドに憧れたのか黄色い声を上げた。

 更にそのハタチという言葉が独り歩きを始めてエロい男子たちにも飛び火しだした。


「マジで? 他のクラスなんてオバちゃんだったぞ! 俺ら勝ち組だな!」

「ガイドさん、ガイドさん、付き合っている人はいるんですか~?」

「ガイドさん、ピチピチで胸も大きそうだし、エロいよな~!」

「ガイドさ~ん、俺と付き合って~!」

「えっ!? ちょっ! 待っ!」


 エロい男子たちの言葉攻めにタジタジになる美佳。バスが走り始めて早々にこれだ、先が思いやられる。


「おい、お前ら静かにしろー。ガイドさんが困っているだろー」

「おっ! おっさん(尾桟)、良いとこ見せてガイドさんをオトすつもりか~?」

「ガイドさん、狙われてるぞ~! 気を付けろ~!」

「おっさんは面食いだぞ~! 全力で逃げろ~!」

「えっ!? ちょっ! 待っ!」

「お、お前らぁ……」


 困った顔の美佳を庇おうとした尾桟だったが、逆にそれをネタにされてしまい益々車内が騒がしくなってしまった。


「……あの。みんな静かに……」


 オロオロしながらも、光輝が副級長の責を果たそうと後ろに向かって落ち着かせようと声を上げるが、まだまだその声量は後ろまで届く事はなかった。それを見て智樹が声を上げようとした時、別の声が。


「お前ら煩いぞ! (やかま)し過ぎて寝れねえじゃないか!」


 一番前の席の祐二が吼えた。三十分以上も移動時間があると聞いていつものように寝ようとしていたみたいで、祐二が休み時間の殆どを寝る事に費やしていた事を知るクラスのみんなは一定の理解を示したが、メインで騒いでいた者たちはそれに反発した。


「何だ、布田ぁ。カノジョ(華子)がいるからって余裕見せやがって! 俺らだってカノジョが欲しいんだぞ!」

「そうだそうだ! 少しくらい夢を見させて貰っても良いじゃないか!」

「まあ俺なら女らしさの欠片もない和多野(華子)なんてゴメンだけどな!」

「ああ? 何よ! ワタシだってアンタたちみたいな奴なんてゴメンよ!」


 ガルルと歯を剥き出しに唸る華子。夏休み中にくっついた祐二と華子の関係は早々に知られていた。

 そんな華子にとってはとんだとばっちりだが、そこに祐二が再び吼えた。


「喧しいって言ってんだ! そういう(ひが)みは誰かの家でこっそりしてろ。みっともなくて女子たちから益々嫌われるぞ。少なくとも人のカノジョにダメ出ししたいならおれに直接言えってんだ!」

「「「うぐぐ……」」」

「……ユージ」


 漸く収まった喧騒に満足したのか、祐二は隣に座る華子に凭れて目を瞑る。それがシート越しでも後ろの席からバレバレなのを全く気にする事もなく、だ。


「……え~っと、案内を続けても良いのかな~?」


 最前列で居眠りを決め込む祐二に視線を向けつつ、道中の案内をしても良いのか戸惑う美佳だった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ