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√真実 -021 バナナはおやつに入りますか?



「ーーでさぁ、そのタイミングでそいつの頭に鳩糞が落ちてきたわけよ!」

「ぎゃはははは! 何それマジださいw」

「そりゃ百年の恋も覚めるわねw ご愁傷さまw」


「ーーそいでよ~、あとワンパンチ決まれば勝てたってのに十一連(コンボ)が偶然出やがってよ~」

「ぎゃはははは! それであっさり負けて帰ってきたんかよ、バカだなぁw」

「それ絶対相手に遊ばれたんだって。実力差が有りすぎたんだろ」


「ーーそんでちょっとムキになって貯めていたお年玉まで突っ込んだってのに、SSRどころかRひとつしか出なくってさ。あれ絶対詐欺だって! しかも母ちゃんにそれがバレておもいっきり叱られてさぁ」

「ぎゃはははは! んな、なんも残らんネトゲなんかでお年玉溶かすなんてアホだろw」

「それでお土産用の小遣いまで減らされたのかw 全財産突っ込んだ奴の末路w」


 貸切りにされた新幹線の車両の中は超絶に騒がしくなっているが、テンションの高くなった中学生に静かにしろと言っても焼け石に水だって事は引率の教師たちも分かっていて、目に余る行動以外には口出しはする事はなかった。中には昨晩充分に睡眠を得られなかった者もいたようだが、この騒がしさの中では仮眠するにも寝られないという状況だ。


「あ゛~、クソうるせ~。なぁ、グリーン車ってあるんだろ? 行って寝ても良いか?」

「良い訳ないでしょ! バカユージ!」


 窓際の壁に凭れて呟く祐二に対面の華子がツッコミを入れるのはもう慣れた光景で、真実たちはそれを遠巻きに見ているだけだった。それよりもコンコースでの他のクラスの者たちが口にした言葉を未だに引き摺っていて言葉少なげだ。


「ええっと、おやつでも食べるか?」

「あ、あたしクッキー食べてみたい!」

「……日保ちするクッキーを真っ先に食べるつもりか?」

「ごめん、やっぱ良いや」


 真実の問い掛けに綾乃が明るく答えるが、智樹がそれを止めた。


「じゃあパンケーキでも出そうか?」

「……それは冷凍してあるから今日のおやつにって話していたろ」

「ごめん、そうだった」


 それならと真実が荷物の中から出そうとするが、またもや智樹がそれを止めた。


 真実たちの班は各自持って来られるおやつに金額の上限が決められているのを逆手に、お金を出し合って手作りおやつを共同で持ち込んでいた。

 事前に担任の尾桟に相談し家庭科の先生や養護教諭の美鈴を巻き込んでプランを示して、最終的にOKを貰っていた。

 ナマ物は冷凍した上で一日目に食べきる事、干物には乾燥剤を入れて日にち別に密封する事など細かい条件が付けられたが、それはいつも真実や光輝が実践していた事であったので、大して問題にはならなかった。

 六人でお金を出し合って材料を買い込んで真実と光輝が主体となって作っていった結果、既存の袋や箱入り菓子ばかりだった他の者たちと比べて異色の、それも大量のおやつを持ち込む事に成功していたのだ。

 朝早く集合場所に向かったのも、それらを正しく処置しているかのチェックをしてもらう為でもあったのだ。そこでダメ出しがあれば食中毒対策の為に全て廃棄となるリスクを負っての賭けであった。


 しかし、それに通ったとしても、こうも雰囲気が良くないと食べる気になれない。その原因の一人である真実は眠そうにしていた祐二と頬杖を立てる智樹の間でどうしようものかと考えあぐね、もう一人の光輝はそれでも寝ようとする祐二を睨む華子と通路の先にぼんやりと視線を向ける綾乃に挟まれ小さくなって俯いていた。


「ああっ! もう! 辛気くさいな! もうあれだ、凍ったままでも食えるもん全部出せ! 何があったか知らんけど、自棄(ヤケ)食いしようぜ!」


 祐二らしい一言が飛び出したのを切っ掛けに、華子や綾乃がそれに同意する。


「うわぁ、ユージらしい思い付きだけど……それもそうね! 食うもん食って、暗い空気は吹き飛ばすに限るわ! たまには良い事言うじゃない、祐二!」

「たまには、は余分だろ?」

「ま、何があったって飛弾は飛弾、光輝は光輝だからね! それにナマ物は早めに食べちゃわないといけないからねっ!」

「……おいおい。まぁ他の奴らと違っておやつの持ち込みは随分と多目だから良いけどよ。昼飯が食えなくなる程は食べるなよ?」


 取り敢えず直ぐに解決出来そうもない問題は先伸ばしに、とばかりに三人からのおやつの要求を認める智樹。真実の夢については以前に触れた事があるので、ここにいる者ならああその事かと内容まで話さなくとも理解はして貰えるだろう。

 しかし、光輝の片親の件はそう気軽に聞く話ではないし、本人にはどうしようもない事だ。そして真実が自分の話をさっさと話してしまうようであれば、次は光輝がしたくない話を話さなければならなくなる。それに真実としてもカノジョが嫌がる話を無理やり聞くような事はしたくはない。

 なので周囲の話さなくても良いんだぜ? という空気は正直有り難かった。


 周囲のクラスメイト達がトランプ等で遊びながらチビチビと既製品のお菓子を頬張る中、席を対面にした六人だけが膝に様々な食べ物を載せてバクバクと食べている光景は自然と注目を集めた。

 砂糖や塩胡椒、醤油などの家庭にある調味料は少量であればおやつの計算に入れなくても良いと言質を取り付けたので、あとは小麦粉やフルーツ等を買い込めば様々なお菓子が作れる。加えて拡大解釈で、冷蔵庫の中に余っていたチョコレート等を溶かしたりまぶしたりしてデコレーションにしたり、炊いたご飯を潰して揚げせんべいを作ってみたりとチェックした美鈴たちを呆れさせた。実際にそれらを計算しようにも計算できないし、六人がお金を出し合えばかなりの量の材料が買えるとあって誤魔化し放題だったのだ。

 座席を対面にしていたので、全席の背もたれ背面にあるテーブルが使えなかったが、荷物をテーブル代わりに足元に置いてそれらを広げ、半ば中年の宴会の様な様相を呈していた。


「……あれってアリなのか?

「朝、美鈴ちゃんに見せてた袋じゃんあれ!」

「て事は公認!?」

「その手があったのか!」

「マジであれ、金額に収まってるんか?」

「あれズルいよな」


 男子がその量を羨むような声を出す一方で、女子からはその内容に首を捻っていた。


「ねえ、あれって饅頭?」

「……じゃないよね、あれ。何か分からないんだけど」

「あれってケーキっぽいよね」

「ケーキにしちゃ、ちょっと固そう……サクサク系?」

「あのフルーツっぽいの、薄切りされてるんだけど、どうやってるの?」

「一枚に何種類もあるよね。ゼリーか何かで固めてあるのかな?」


 見た事のない食べ物の数々に興味津々だが、どれも夏休み中に鍛えられたおやつ作りの腕でアレンジしまくった魔改造品で、真実が母親(花苗)から貰ったお古のスマホで調べたおやつレシピを見て更にみんなの意見を出し合って柔軟な発想で昇華させた創作品だった。

 洗練された既製品とは違って見た目も歯触りも味も粗削りではあったが、そこは手作りの醍醐味であり夏休み中のおやつで慣れていたので問題ないどころか暗くなった空気を吹き飛ばすのに役立っていた。朝が早かった事もあって既に腹が減っていたのも暗い空気を作っていた原因なのかも知れない。


「んぐっ! これ美味いな! オブラートにこんな使い方があったんだ!」

「ああ、オブラートは万能だって光輝が。何でも包めるし、一口サイズにしやすいし、絵も描けるらしいし」

「絵!? 絵って何それkwsk!!」


 祐二が目を輝かせれば真実がそれに答え、更に綾乃がそれに反応した。

 最近のオブラートは本来の使い方に(とど)まらず、食用ペンで絵を描いて食べ物に乗せるというのが密かに流行っているらしい。オブラート愛用者の祖母の影響で夏休み中から真実にオブラートを使った料理を幾つか教えていたが、更にレパートリーを増やすべく真実のスマホで調べた結果、本来の目的と外れたオブラートアートばかりが出てきたのた。

 これを聞いた綾乃はこっそりスマホで検索した結果食用ペンを買い込む気満々となっていたが、家で自分で作ってみるのかなと目をパチクリさせる真実に対してそんな訳あるまいと溜息を吐く智樹だった。


「美味しいよコレ! 凍らせてあったのが半分解けてスポンジやクリームのシャリシャリ感も良いし!」

「安売りしていたカステラの使い道としては大正解よねコレ。カステラが甘い分、クリームの甘さを抑えてあるのもくどくなくて良いしっ♪」

「凍らせるのはどうかと思ったけど、まだまだ外は暑いからこれもありだったね。昼まで食べずにとっておいたらすっかり解けていたかも」


 華子が興奮気味にケーキの様な物を絶賛すると、同じく綾乃もそれに同意した。作った真実はその日に食べるつもりで作ったのだが、それもオブラートで保護するように包んで凍らせれば持って行けそうだと光輝に言われ凍らせてみたのだ。


「縁にあったこれなんて溶けかけているからか、透き通っていて綺麗よね。思わずフォトアプに載せちゃった♪」

「……ん。ゼラチンだと夏は常温で溶けちゃうから、寒天にしようかアガーにしようかオブラートを溶かして使おうか迷ったんだけど、寒天は凍らせると水分が分離しちゃうしオブラートはそこまで量が無かったから、今回はアガーを使ったの。アガーは溶かすのに時間が掛かるし直ぐに固まっちゃうから難しかったけど、ちょうど味久さんが用意していた物が余ってたから……」

「アガーって何? って、味久さんは何を作るつもりだったのよ……」

「フルーツゼリーを凍らせた上でそれを薄切りにしてオブラートで包むなんて……これもネットに載っていたのか?」

「いや、これはオリジナルだな。ゼリーを大きいまま凍らせると溶け難いから時間は保つだろうけど、凍ったままだと大きいままじゃ食べ難いと思ってスライスしてみたんだ。でもそれだとまた凍ってくっついちゃうからオブラートでくっついちゃうのを防いでるんだよ」


 最近、料理の事になると饒舌になってきた光輝が綾乃の言葉に反応して聞いてもいない事を説明するが、固めるのに使ったアガーは透明度が高いので見栄えが良い事を言おうとして脱線したのだろう、首をしきりに傾げていた。

 それを横目に智樹も感心しながら薄くスライスされたそれをパクリと口にすると、それには真実が答えた。軽く冷やした程度だと柔らかすぎてブロック状にしか切れないフルーツゼリーだが、凍りかけの物なら薄く切る事が出来た。これがカチカチに凍っていれば切ると言うよりもノコギリの様に削る事になっていただろう。朝イチで作ったゼリーを冷凍庫に入れて午後に手早く切り、再度冷凍庫に入れたのだ。


 土曜の午後にみんなで買い物をした後、いつものように真実の家に集まっておやつ作りをしたのだが、それだけでは時間が足らずに日曜日も集まっておやつ作りをしていた一同。規定額いっぱいに材料を買い込んできた上、真実の家にストックされていた今までのおやつの残りや調味料、封の開いた材料もかき集めて精を出しておやつ作りをした結果チェックした美鈴以下教師陣を呆れさせたものであったが、その成果もあってこうして宴会さながらの自棄食いをしようと残り二日半のおやつは充分に確保される程の量を誇っていた。教師陣が呆れるのも頷ける。


「うっぷ。ちょっと食い過ぎたかも……。何か飲むもんくれ、カコ」

「この馬鹿ユージ! ハタイシが食べ過ぎるなって釘を刺したってのに! 人の言う事をちゃんと聞かないと、また足を怪我するわよ!」


 いや、そこは腹を下す、だろと心の中でツッコミを入れて苦笑する一同。腹を満たして笑えば大抵の事は忘れる事が出来る程に智樹以外の五人は単純であったのだ、先程までの暗い空気はもうそこには影もなかったのだった。





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