√真実 -020 発覚?
「何ぃ? まだ来ていないだとぉ!?」
夏休み明けの実力テストが終わった矢先、僅か一週間もすれば今度は中学生最大のイベント、修学旅行である。
集合場所は学校ではなく電車に乗って二十五分の大きな駅の一角にあるコンコースだ。来年には高校に上がっていく歳で、中には働き出す者もいるのだから、このくらいは出来なくてはならない。そんな意図もあって地元の駅ではなく離れた駅の集合となっていた。移動する電車の時間も体裁上では自分たちで調べるようにしていたのだが、どのクラスでも間に合う電車の時間が事前に伝えられていた。
にも関わらず必ずと言って良い程遅れてくる者は現れる。当然集合時間は余裕を持って設定されているのだが、全員が集まらなければ次の移動が出来ないので次までの時間が圧迫して全体に迷惑が掛かるのだ。
「おい、副級長! あいつらの携帯の番号は知らんか!」
「……ウチ、電話は持ってないので……」
首をプルプルと振って質問に答える光輝。普段であれば纏められたふたつ結びの髪が揺られて可愛らしさが目に入るところだが、残念ながら今はその姿に余裕が感じられずおどおどとしている為、随分と気の毒に映る。その姿は他のクラスの者たちにも入り、ざわめきが一層高まっていた。
「あの馬鹿共めがぁ! 何の為に間に合う電車の時間を教えたと思っているんだ! それも級長までもが一緒になって!! おい、誰か他にあいつらの電話番号を知ってる者はいないのか!」
尾桟がそう叫ぶが、そもそも携帯を持っている者は緊急時の為に学校側に報告するように伝えられていた。
そう、遅れているのは級長になった壱継たち問題児六人組だ。実は六人ともスマホを持っていたが、知らせれば最悪休みの日にも呼び出しが掛かるかも知れないからと学校側には持っていないと嘘の申告をしていたのだ。加えて仲間以外で彼らの番号を知りたがる者もいよう筈はなく、他のクラスの悪仲間ならいざ知らず、クラス内には誰一人として番号を知る者はいよう筈はなかった。
仕方なく自宅に電話を掛けてみる尾桟たち引率の教師だが、何れも問題無さそうな時間に家は出ていると言う。中三にもなって迷子とも思えず、どこかで問題でも起こしてないかと気を揉んでいる最中に六人が姿を現した。
「おいおい。大丈夫だとか言ってたけど、みんなもう集まってんじゃんか!」
「ほれ見ぃや、ニィが腹減った言うもんで遅れたんやで?」
「あ゛? 何だ、俺のせいだって言うんか?」
「何言ってるのよ。コーゾーが牛丼食べてくって店に入っちゃうからでしょ?」
「てかさ~、釣られてみんなも入ったじゃん! みんな同罪よ、ね~」
「きゃははは、朝からガッツリ食べたよね~。まあ、みんなまだいるから良いんじゃな~い?」
遅刻した事を全く悪びれもせず、ワイワイと騒ぎながら歩いてくる。それを見た光輝は尾桟に報告するも、その尾桟も青筋を立てて問題児六人組を睨み付けていた。
「分かってる、黒生。お前は他の先生の指示に従ってみんなをホームに連れてってくれ。ええっと、伊井山先生! ちょっとあいつらを叱ってくるのでうちのクラスをお願い出来ますか」
そう、補助として付いてきていた養護教諭の美鈴に頼むと、碌に返事も聞かずに注目を浴びていた六人組を怒鳴りに走って行った。
そんな中途半端な指示に、クラスの副級長として号令以外は全く慣れていない光輝はどうしたら良いのか分からずにオロオロとするばかりだった。
「大丈夫よ、黒生さん。前のクラスに付いて行くだけだから。あなたも移動が始まるまでは班の人たちとゆっくりしてなさい」
美鈴からそうアドバイスを受けてホッと胸を撫で下ろした光輝は、一番前にいた真実たちの集団にストンと腰を下ろした。
真実たちは智樹がこういう事になるのではという予言めいた言葉に、みんなを誘導しようと早めに地元の駅に集まり移動。結果、学年内ではもっと早くに来ている者はいたが、班としては一番乗りだった。
足のギプスは外れたものの本調子ではない祐二がいるので、ラッシュアワーを避けたかったのもあって朝七時半集合のところを七時には着くように出てきていたのだ。人の行き交う駅の中で四十分以上待っていると流石にダレてきて、祐二は華子にもたれて居眠りしていた程であるが、最初は文句を言っていた華子は今では満更でもないようで、そんな二人に慣れていた綾乃と夏休みに何をしていたのか楽しく話をしていた。
真実は智樹と慣れない光輝のサポートをしつつ、隙を見てはいつもの夢の中の話をしていた。
「お疲れさん、光輝。ったく、うちの新しい級長はやる気が全く無いよな」
「全くだ。実際に級長を体験してみればちっとはマシになると思っていたけど、ちょっと甘すぎたか……」
輪の中に入ってきた光輝を労いつつ、壱継の和を乱す行動を非難する真実に智樹も同意して後悔の言葉を口にする。
それにしても副級長としての本格的な仕事が、いきなり中学最大のイベントである修学旅行だとは随分とハードルが高いなと苦笑すれば、そこに綾乃や華子も加わって後ろで叱られている六人組を見やった。
そんな中、他のクラスの方から耳を疑う言葉が……
「なあ、何で秦石みたいな奴が万年厨二病と一緒にいるんだ? 何かの罰ゲームかそれともボランティアか?」
「万年厨二病? って、ああ飛騨の事か。それよりも何であの無口で気持ち悪い女が副級長なんだ? あれこそ罰ゲームなんじゃないのか?」
「何なに? 気持ち悪い女? って黒生か。何あいつ副級長なん? 片親なのに? 嘘やろ?」
自分の事か? と真実が声のした方を向けば、同じ小学校だった奴と別の小学校だった奴たちが話しているのが見えた。本人に聞こえるように話すなよと思うが、周りが騒がしいので自然と声が大きくなっている事にも気付いていないらしい。
とは言うものの、真実は小学校の頃に夢の話を大々的に喋っていたので、同じ小学校出身であれば知っているだろう。しかし、だからと言って今更小学校の頃の話を公表しなくても良いじゃないかと思うが、今もその夢を見ているので何も反論出来ない。
だだ、それだけでなく光輝の事も話題に。それも以前はそうだった無口の事はまだしも、本人にはどうしようもない家庭の事情の事を持ち出すのは卑怯である。だが、真実はそこに★引っ掛かりを★感じた★覚えた。薄々感じていたが、やはり光輝は母子家庭なのかと。
以前に真実が光輝を送っていった時に光輝の母親と思わしき人物とすれ違った事がある。その時にその女性は男の車に乗って行ったのだが、光輝は見られないように隠れた。最初は恥ずかしがったのかなと思ったが、女性をお母さんと呼んだのに男の人は何とも呼ばなかった事に気が付いたのだ。何かあるとは思っても直接聞く程無粋ではないし野暮でも無礼でもないので見なかった事にしていたのだが、こんなところで耳にしてしまうとは……
当の光輝は厨二病の意味が分からないのを気にする余裕もなく、ばつが悪そうに小さくなって真実の方をチラチラと見やっていた為、時折真実と目が合って気まずそうに下を向いていた。
ふと見れば、光輝と小学校が一緒だった智樹や綾乃がアチャ~といった顔で目を背けていたが、真実と一緒だった華子は噂話は愚か他人の事を気にする事はないので、全く話が通じていないといった顔で首を傾げていた。
真実たちだけでなく耳に入っていた周囲の者たちも、その無粋な話題に顔を顰めて視線を向け、更に美鈴が睨みを向けたのでその話題に花を咲かせようとしていた他のクラスの者たちは話をそれっきりにさせるのだった。
「わっ! オコな美鈴ちゃん先生も可愛い!」
「えっ!? 珍しい、マジオコなん?」
「いやいや、そこまで怒ってないでしょ。あれで激オコプンプン丸だったらオコはどんなよ!」
「むか着火ふぁいあー!」
「かむ着火いんふぇるのぉぉぉう!!」
「すーぱーのう゛ぁぎゃらくしーえんじぇるふれいむしんせさいざぁぁぁ!!」
「男子うるさい!」
「騒ぎたいだけでしょ、ほっときなさい」
そんな周囲の生徒たちにすっかりと怒気を緩める美鈴だった。




