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√トゥルース -002 酷道前哨戦



「え~、いっちゃうの~?」

「やだやだ~! いかないで~!!」


 翌朝、ラバたちに荷物を載せ終わったトゥルースたちに……いや、銀髪の少女(シャイニー)に孤児院の子供たちが群がった。


 昨日教会を訪ねたのは昼下がりの終わり、おやつの時間に差し掛かろうという頃だった。トゥルースたちに近い年頃の子たちがシスターを手伝っていたようで、様子を見にきた子たちの顔は何かの粉で真っ白になっていた。小さい子たちはまだ夢の中の子が多いらしかったが、夢から覚めた子が眠気眼(ねむけまなこ)で義兄姉たちを探して顔を出すと、トゥルースたちを目にして泣き出した。

 寝惚けた状態で見ず知らずの人間を目にすれば怯えるのは仕方ないだろう。しかし、それを宥める大きい子たちに混じったのはシャイニーだ。膝をついて目線を合わせ笑顔を向ければ途端に泣き止んだ。その距離感も絶妙で、大人にありがちないきなり近すぎて逆に怖がらせてしまう事もなく、あっという間に仲良くなり遊び相手になっていった。中には寝起きで愚図る子もいたが、手慣れた感じであやしていく。

 途端に院のアイドルと化したシャイニーに苦笑するトゥルースたちだが、直ぐに慣れるかどうかは別の話だ。

 男のトゥルースはやんちゃ盛りな男の子には直ぐに馴染んで振り回されていたが、大人しい子たちには避けられていた。

 ティナはその整った容姿は大人の男どもには怖いくらいの誘引効果があったが、逆に子供たちにはその高潔さが仇となり、やっとの思いで馴染んだのは大人しい女の子たちと助平心が芽生えてきた男の子たちであった。おい坊主ども、そこ代われ。

 そして見た目に反して料理の腕を振るうフェマに、シスターを初め司祭(神父)や大きな子たちを仰天させた。


 そんな四人をこの村の教会は快く迎え入れ心地よい一晩を過ごしたものの、翌朝出発しようと準備していたところに子供たちが群がったのだ。それまで酷使され蔑まれてきた元の孤児院とは真逆な様相にシャイニーは戸惑うばかりだったが、いつまでも留まる訳にもいかず子供たちも涙ながらに手を振った。


「また近くを通り掛かったらお立ち寄りください」

「ありがとうございます、是非に。どうもお世話になりました」


 何処からか現れた白猫(ミーア)雄ラバ(ミール)の首に乗るのを見届けたトゥルースが、司祭に代表してお礼を言いラバの向きを北に向けると、司祭はウン? と首を傾げてちょっとお待ちを、と止める。


「ここから北方面には何もありませんよ? あるのは小さな集落だけです。西に行くのであれば、少し戻って三叉路を右ですよ」

「ああ、間違ってませんよ。俺たちはこのまま北に向かう予定なんです」

「ええっ!? 北に向かうって、まさかあの道を通って?」


 目を剥いて問い質す司祭に、ちょっと用があってと軽く答えるラバの上のトゥルース。流石に危険のある酷道に未来ある若者たち、それも女子供を引き連れてなのでその目は真剣そのものだ。


「おやめなさい、あの道に踏み入るのは。あれは道と呼べるものではありませんよ! 無事に通れたとしても、何日もの距離に民家は一軒もないし、その先には呪い持ちの世捨て人が点々と住んでいるだけ……、何も良い事はありません!」


 普段見せない司祭の姿に、見送りに出てきていた子供たちの顔が不安色に染まる。


「お姉ちゃんたち、危ないところに行くの?」

「んとね、あっちはウシさんしかいないんだよ?」

庭鳥(ニワトリ)もいたよね~」

「たまごくれるおばちゃん、すき~!」

「卵だけじゃなくて、お肉もときどきくれるんだぞ? しらなかったのか?」

「あのねっ、たまごもおにくもすっごくおいしいんだよ?」


 次第に何の話をしていたのか分からなくなる子供たちの会話だが、トゥルースはこの先に牧場がある事を聞いていたので、多分そこの事だろうと察した。


「ご心配ありがとうございます。取り敢えず牧場までの旧道を通ってみようって話になってるのと、無理せず危ないと感じたら引き返すつもりです」

「……やはり止めても行かれるのですか。では、くれぐれも無理をなさらないよう。神のご加護を」


 旧道の事も知っているとなればいくら止めても行くのだろうと、止めるのを諦めた司祭は神にお祈りして道中の安全を願う。


「安心せい、わしが何度か通っておるから気を付けねばならん所は知っておるからの」

「……おお、神よ。この者たちにご加護があらん事を」


 それが嘘だろうが本当だろうが、フェマの言葉に不安を膨らませ天を仰ぐ司祭。それを見て憤慨するフェマだが、その幼い容姿のせいで説得力は皆無だ。

 それが幼いながらの出任せまみれの嘘なら普段は生暖かい目で見守るところだが、今回は命が懸かっているのでそういう嘘を平気で吐く子を酷く残念に思うところだ。逆にその話が本当であれば、こんな幼児を短期間の内に何度も危険な道に連れ込んだ大人がいるという事に他ならない。この面子では初めてだという事なので別の人物であろうが、未来ある幼い子を危険に曝すなんて実にけしからん者がいたものだ、と。


 ご無事にと声を掛けつつ、ふと前方のラバの手綱を握っていたシャイニーの首元に目が行くシスター。二本の異なる(チェーン)が目に入ったのだが、その内の一本に見慣れた紋、教会のマークが入っているのが見えたのだ。しかしシャイニーが元孤児院出身だと聞いていたので、きっと敬虔な信者なんだろうなとその時は一人納得した。

 だがしかし、数日後に届いた教会ネットワークの報でそれが守られし首飾りだったのでは! と気付き、司祭にそれとなく話してみたが、確かに顔の痕など当て嵌まる項目が。しかしその報にはバレット村の男と二人(・・)で旅をしているとあったので、その判断が付かないでいた。

 どちらにせよ、今から追っても既に酷道に入っているであろう一行の無事を祈る他なかった司祭とシスターだった。






「よう、遅かったな」


 教会を出て北上すること間もなく、前方に馬に跨った見慣れた男の姿があった。


「ふぁっ!? ミアスキアさん!? どうしてここに?」

「ミック様と一緒に船で帝都に戻ったんじゃ!?」


 何故かこの帝国の第三王子であるミックティルクに従っているミアスキアの姿が。ミックティルクが帝国の軍艦で帝都へ戻っていく前から姿を見た覚えが無かったので不思議には思っていたが、てっきり先にその船に乗っているものだとばかり思っていた一同は思わぬ再会に目を剥いた。

 そんな驚くトゥルースたちを余所に、ミアスキアは飄々と通りから伸びる細い道を指す。


「言ってた旧道はこっちだ。ここは他の道と区別付かないからな」

「え? あ、本当だ。見逃すところだった!」


 あまりにも自然な案内に、思わずありがとうと返すトゥルース。まあ、何か調査でも頼まれているついでに気を利かしてくれたのだろうと理解して、みんなが危ないと言う酷道の前哨戦とも言える旧道へと足を向けた。この旧道がすんなりと通る事が出来なければ酷道に入っていく事は止めておいた方が良いと言われているので、先ずはその旧道にレッツチャレンジだ。




「へぇ……、何だかバレット村への道とその脇道を足して二で割った上で、夏の草むしり前の状態……ってところかなぁ」


 トゥルースの言葉に、バレット村に行った事のあるシャイニーが小さく頷いた。山の斜面に申し訳程度に踏み固められた道らしき跡を辿る様に進んでいく感じが何処となく似ていたからだが、気を抜くと長々と生えた雑草により道を見失ってしまいそうだ。

 そして更に奥へと進んでいくと、今度は土ではなく小石の多い足場の悪そうなところに出た。道の脇はちょっとした崖になっており、下には川が流れていた。サラサラと、そして時には荒々しく流れる様を見ながら進む。これでは流石にスピードを落とさざるを得ないが、ラバたちはそれを気にする事なく進んでいった。


 荒れた道も平気だとは言われていたラバだが、実際にはそれ程の経験はないので実質では初めての様なものの筈なのだが、その荒れた道も思い返せば王国から侯国への峠道に似た感じであった。あの時はティナが気を失っていたのでラバに乗る事はせずに徒歩で制覇したが、それなりの荷物を積んで道ではない所を経験したラバたちにとっては、まだまだ歩き易い方であったようだ。それを経験していたティナ以外の三人も、もしラバに乗ったままが危ないようなら、この小石の道を徒歩で歩く事もやぶさかではないとその当時の事を思い出して考えていたが、ひょひょいと進んでいくラバの様子にその必要はないと判断するのだった。


「さてと、そろそろ泊まる場所を探すとしようか。どこか休めそうなところがあったら頼む」

「ん、すぐそこなんてどうかしら」


 先を進むメーラ(雌ラバ)に乗るシャイニーが、トゥルースの言葉に前を指して伺う。上を見上げれば陽が傾きかけているので、あとどれくらい進めばこの道を出られるのか分からない状態で先を急ぐのは自殺行為に近い。陽が沈んでしまえば料理も天幕(テント)を張るのも難しくなってしまう。陽の高いうちにそれらを済ませて陽が落ちたら寝るだけにした方が良いのだ。

 それに教会の子供たちに聞いた話では、現在の新道を通れば結構直ぐに着くという牧場に出られるらしく、距離的にもそんなに遠くはない筈だが、酷道では間違いなく野営となるのは確定なので、その練習も兼ねて早めに野営の準備に取り掛かった。


 料理担当は言うまでもなく、シャイニーとフェマだ。トゥルースも料理が出来ない訳ではなかったが、慣れた者に任せた方が良いのと天幕を張る場所作りや天幕張りは男の仕事だからと、自然にそう振り分けられた。

 そして宮廷暮らしだったティナ。そんな野性的な経験は皆無だった元王女が慣れない重労働を強いられるとは、と苦笑が漏れずにはいられないティナの仕事はトゥルースの手伝いとなった。



「ところで……そこに天幕を張るつもり?」

「ん? 駄目か?」


 何故か後ろを付いてきたミアスキアに怪訝な顔を向けるトゥルースだった。





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