√真実 -016 テストの後は……
「よっしゃー! 終わったー!」
チャイムが鳴ると共にあちこちから溜め息や体を伸ばす声が漏れる中、誰かの叫び声が切っ掛けで教室内が騒がしくなった。
「おい、マッちゃん! お前んちでゲーム大会やろうぜ!」
「俺んちよかター坊んちだろ! 一日発売の新作を買ったってよ!」
「夏休みに水陸両用のラジコン買ったんだ、公園にやりに行こうぜ!」
「何言ってんだ、今は空だろ。ドローン買えよ、ドローン!」
「あれ? テスト終わったら給食が始まるんだよね。何でみんな帰る支度してるの?」
「馬鹿か太郎! 給食は明日からだ」
「知ってる? ミオンに新しい文房具のお店がオープンしたんだって! 見に行かない?」
「いや、今日は駅ナカの服の店行くから! 昨日秋物の新作が入ってる筈だし!」
「新作って言えば多鍋の駅前にもう冬物も列べ出しているお店があるんだって! 誰か行かない?」
「まだこんなにも暑いのに秋物どころか冬物だなんて……ちょっと考えらんないな~」
「何言ってんのよ、最新の傾向を今から押さえておくのよ! そうすれば秋物も失敗しなくて済むから!」
「わたしは駅前のお店でお母さんに買って貰うからいいや」
「駅と言えばフラッペのお店、今度は何を出すか知ってる人はいない? 毎年違うのを出すから楽しみなのよね!」
まだ帰りの会が終わってないにもかかわらず一気に盛り上がるのは、始業式翌日からあった実力テストが漸く終わったからで、みんな夏休みが終わった直後な事もあって遊ぶ事に頭がイッパイだ。
「なあ、真実。今日も黒生と一緒に昼飯作って食うんか?」
「ああ、そのつもりだよ。ストックもこの数日で殆ど食べちゃったし、昼からこの前買ってきた野菜を使って少し作り溜めしたいし」
「じゃあ帰りは買い物に行かなくても良いのか?」
「いや、買い物には行くよ。野菜が残っているって言っても偏っているし、他の物は殆んど無いから」
「……何かと大変だな、主夫も」
「主夫言うな!」
強ち間違っちゃいないだろ? とニヤつく智樹に、真実はジト目を返す。
すると、買い物という言葉に反応した光輝が真実に今朝のお隣のおばあさん情報を披露する。
「あのね、今日はZストアで鶏肉とお豆腐と胡椒と洗濯洗剤が安くなってるって」
「あっ! そうだった、胡椒と洗濯は買っておかなくちゃ! それに鶏肉か、何を作ろう……」
「ん。今日は時間があるから、鶏肉と野菜の煮物や炒め物の味違いを色々試してみたいかな……」
「あっ! それ良いな。レシピはスマホで調べれば色々出てくるし」
今まで簡単な塩胡椒の炒め物ばかりだった真実は、煮物は勿論炒め物も色んなレパートリーがある事を光輝に教えて貰っていた上、母花苗から貰ったお古のスマホで色々なレシピを光輝と一緒に調べるのが楽しみになっていた。
そんな二人の会話を聞いて、やっぱり主夫だろ、と真実に目を細める一方で、飛弾家の台所事情どころか家事全般を掌握しつつある光輝に目を剥いた智樹。
するとそれを後ろから見ていた祐二が笑いながら身を乗り出し耳打ちしてきた。
「マサたちはまるで新婚だな」
「ホントそれ! ワタシたちなんていつもケンカばかりだし!」
ジトリと祐二に目を向ける華子だが、その二人は真実たちから言わせれば充分に仲の良いリア充だ。
それもその筈、足の手術を受けたばかりの祐二に手を貸して一緒に帰る華子は、毎日迎えに来た祐二の母のクルマに無理矢理乗せられて一緒に昼食を食べ、そのまま夕方まで祐二の部屋で一緒に勉強するのが日課になっていたからだ。既に付き合っている事は祐二の家族公認で、尚且つ華子の母にも母親ネットワークで承認を得ていた。知らぬは華子の父親のみであり、遥か先に血の涙を流す事になるのは別の話である。
「ねぇ、今日は何かおやつは作らないの?」
またいつもの夫婦喧嘩が始まりそうな空気を読み取った綾乃が、体を捩って光輝の机に肘をつき、後ろを向いていた真実に問い掛けると、えっ? と振り返った。昨日の勉強会で、テストの終わる今日は勉強会は休みにしようと相談して決めていたからだ。
「まさか綾乃、今日もうちに来るつもり?」
「はぁ? 飛弾、あたしが行くのそんなに嫌なの? まさか! 光輝に何かイヤらしい事しようとしてるんじゃないでしょうね! 暑いからって光輝と一緒にシャワーを浴びようとしてたりとか……」
今度は綾乃がジト目を真実に投げ掛けるが、え゛!? と固まる真実。その隣では光輝も、ふぁっ!? と目を瞬かせた。
「あんた、まさか本当にそんな事をしようとしてるんじゃないでしょうね!?」
綾乃の厳しい目に真実は勿論、光輝もブンブンと首を横に振った。
二人は付き合う前に既に一緒にシャワーを浴びていたし、数日前には二人で同じ湯船に浸かってもいるだなんて間違っても言えない。どちらも何故か光輝から誘っていたが、光輝の祖母のせいでお互いに裸を見てしまっていた(謎の光が発生して大事なところは見えなかったが!)ので、勿論じっくりとは見ていないとはいえ後ろめたい真実はダラダラと脂汗を垂らし目を逸らした。
「午後から行こうかどうか迷ってたけど、これは監視しに行かなくちゃ!」
「それなら……オレも行くか。勿論、オレは勉強しにだけどな」
「……やっぱり来るんだ。はぁ、分かったよ。帰りに何かおやつを考えて買い物していくか」
おやつ代はみんなで出し合うが、既製品は殆ど買わずに自分たちで作って食べる。とはいえ作るのは主に光輝だったが、何気にみんなそれが楽しみになっていた。そのレシピは主に光輝の祖母のものであり、懐かしさを覚える物が多かったが、最近では真実が手にしたスマホによりそのレパートリーが一気に増えていた。
「よし、じゃあ真実の家集合で決まりな」
「って、秦石君また勉強~? テストが終わったんだし宿題もないんだから、別にやらなくても良いんじゃないの?」
「何言ってんだ、智下。勉強ってのは継続的にしておかないと頭に入らないぞ?」
元々勉強嫌いだったらしい綾乃が、智樹の言葉にうげぇと嫌な顔をする。
他の女子では先ずやらない行為で、一部の智樹ファンクラブ会員から反感を買っている節があったが、当の本人はそれに対して笑って返していたので彼女らが牙を剥くまでは至ってなかった。これがもし、綾乃が智樹に媚びへつらっていたり、智樹が嫌な顔を返していれば、途端に綾乃は女子グループからの陰湿な嫌がらせを受けていただろう。
「お~い、帰りの会を始めるぞ~」
掃除の時間が終わり担任の尾桟が教室に入ってくると、教室内の方々に固まっていたクラスメイトたちが慌てて自分の席に着く。
「ん? 級長、号令はどうした」
「……あ、俺か。きりっつ」
尾桟の声に遅れて号令を掛ける壱継。
珍しく威張った声は成りを潜めていて、どことなく疲れた表情を見せる。それは壱継をリーダーとする六人のグループ全員に見られたが、それもその筈だ。
始業式の日の帰りに、壱継と共に副級長に選ばれてしまった光輝を貶めようとした会話を養護教員の美鈴に聞かれてしまい、生徒指導室送りになった六人。そこでその暴言だけでなく素行不良も明らかになった事で謹慎処分にまではならなかったものの、土曜日までの一週間生徒指導室での勉強が課せられたのだ。
周りの生徒がテスト週間の為に午前中で帰る中、同じように帰る事を許されず夕方まで生徒指導室に監禁されるのだが、夏休みの宿題を提出しきれていない事が発覚して今週中に提出する事を強要された。生徒指導室で宿題をする事は禁止されたので、家に帰った後に残した宿題をやるしかない六人は勉強漬けの一週間となる事が確定していた。
尾桟からは、翌日から通常の授業になる事の他、来週に行く修学旅行については金曜日の六時間目に最後の時間を取る事や前日は給食を食べたら帰る事が伝えられた。
「よし、今日はこれまでだな。じゃあ号令……は壱継はちょっと元気が無さすぎだから、副級長! 号令!」
尾桟の突然の振りに教室内のみんなの目が中央の前の方に集まる。
「おい、副級長! 黒生、お前だ。出来るな? 頑張って声を出してみろ」
「ふぁっ!? う、ウチが!? え、ええっと……き、起立……礼! って、あれ?」
今まで滅多に声を出さなかった光輝は、学年一の無口な影薄な小声キャラとして認識されていたのだが……。
いきなりの尾桟の無茶振りに慌てた光輝だったが、通っている護身術の道場での声出し練習の成果なのか、少なからずクラスメイトたちの驚く顔を引き出す事に意図せず成功……となったのだが、光輝の号令に反応出来たのは事実たち夏休みを共にしていた五人だけで、他の者は起立すら反応出来なかったのだった。




