√真実 -015 因果応報の六人
「Dogerにアゲるんか? でもあんなお子様な身体じゃ、そう期待できないだろ?」
「何言うてはるんや。世の中、ロリコンがアホみたいにおるでの、めっちゃ食い付くと思うで?」
「うわぁ、サイテー。でもそれってお金になるの?」
「えっ! 何なに~? お金が貰えるの? それ良いじゃん! やろうよ、やろ、やろ!」
「うわ~、あんたら鬼畜ね。お願いだからクミを巻き込まないでね~」
「とか言ってクミっち、ちゃんとお零れには与かろうってんでしょ~」
壱継以外の五人が、とても冗談とは思えない事を口走ったのを見て、思わず真実と綾乃が光輝の前に出て庇うと、智樹も珍しく目を吊り上げた。
因みにDogerとは人気動画投稿サイトの事で最近は問題投稿も多くなっており、ネットの事をあまり知らない真実でもその名は善くも悪くも知っていた。例え冗談だったとしても、到底見逃せない内容だ。
「おい、冗談は顔だけにしておけよ? もしマジで言ってんなら容赦はしないからな」
「……容赦せぇへんって、どないするつもりなんや。ああ、飛弾に投げ飛ばさせるんか? あん時は相手がキョーキ持ってたけどよ、わいらそんなもん持っとらせん、素手やで? せーとーぼーえーにはならせんでぇ?」
味下が智樹に向かって精一杯反論するが、どうも意味が分からないまま口にしているようだ。何も相手が武器を持っていなくても危害を加えようとしていれば正当防衛は成立する。まあ、その前に脱衣を強要する時点でアウトなのだが。
だが、今のでこの六人が夜祭りに来ていて、あの騒ぎを見ていた事が確定した。一時は見間違いだったのかもと思っていた真実だが、そうではなかった。
「あのなぁ。もうちょっと勉強してからそういう事を口にしろ。勉強してないのが会話でモロバレだぞ」
「なんやと!? バカにするんかこのヤロウ!」
「言っておくけど、黒生には手出しはさせないからな。それに何か問題でもあればオレや真実、祐二に麻野が相手になる。よく覚えておけ」
「そうよそうよ! 光輝に何かあったら絶対に許さないんだからね!」
「ああん!? ならオメェが脱ぐか!?」
味下に突っ掛かれて、ヒィっと小さく悲鳴を上げる綾乃は庇っていた筈の光輝にしがみついた。すると何を勘違いしたのか、光輝が珍しく顔をキリッとさせた。
「ウチ、負けないから! 副級長も頑張るからっ!」
「……光輝、今はそういう事じゃ無いんだけど…… ちょっと、飛弾も何か言いなさいよ!」
「いや、光輝を守るのは当たり前なんだけど……俺、師範から喧嘩は禁止されてるからさ。ここは言わせたいだけ言わせて穏便に……」
「あ……そう言えばそうだったわね。全く面倒で役立たずな……」
今や真実だけでなく綾乃や光輝も道場に通っており、護身術だけで言えば教える側でも通用する腕前の真実であり、加えて道場では別の時間帯に空手や柔道も教えている事もあって真実はその技術も徐々に身に付けていた。
勿論それは身を守る為であり、決して危害を加える側になってはいけない。道場側としてはそうならない為に、真実に一切の喧嘩行為禁止をみんなの前で何度も言い渡していた。喧嘩をしないのは当たり前だが、本人だけにこっそり言うのではなくみんなの前で何度も言う事で、真実にそれを厳守させていた。
その力を揮えないという足枷に文句を言う綾乃。だが、その力に助けられた過去の事を棚に上げた言葉に、真実は苦虫を噛み潰したような顔を曝した。
「なんだ、腰抜けかよ。ビビッて損したわ~」
「ほんまやで、けしかけてみて正解やで」
「何アンタたち、こいつにビビッてたの?」
「うわ~、ダサっ! あんたたちコイツの事、クソ弱いって言ってたじゃん」
「キャハハ、ウケる~! て事はさぁ、さっきまでのもビクビクしながら言ってたワケぇ?」
仁之瀬と味下の漏らした言葉に、世津屋たち女子三人が馬鹿にしたような言葉を投げ掛ける。仲が良さそうでいて、そうでもない様子が垣間見えるが、言っている内容は相変わらずであった。
それを見咎めた智樹は、眉を顰めて苦言を呈した。
「お前らさぁ、モラルって言葉を知ってるか? とっかに棄ててきたんじゃないか?」
「ん? サッカー選手だった?」
「それはモラス」
「じゃあ笑劇王カードの?」
「それはラモール」
「んじゃカタコトで漫才やってる?」
「それはミモール。ってかよ、コレいつまで続けるんや?」
珍しくイラつくのを隠さずに聞いてきた智樹に対して、それに気付いてないのか完全にふざけて返す仁之瀬と味下に、女子三人組みはケタケタと笑う。
そしてテレビを殆ど見ない真実や光輝は何が面白いのか分からずに首を傾げ、その意味が分かる綾乃は不快感を露にした。
「何だよ、その顔は。ま、Dogerにアゲるのは決定だけどな!」
「なんや、お前らもそいつの脱ぐとこ見に来たいんか? 邪魔せえへんなら来てもええで? なあ、ヒィ」
どこまでが本気なのか冗談なのかが分からない仁之瀬と味下、それを煽る女子三人組みに、いよいよ爆発寸前となった真実、智樹、綾乃の三人だったが、声を掛けられた壱継の言葉によって思い止まる事となった。
「んな事をやりたいんなら、お前らだけでやってろ。おれは駅前をぶらついてっからよ」
「ハァ!? 何だよ、俺ら修治の為に面白そうな事を考えていたってのによぉ!」
「ほんまやでぇ。いつもならわいらのやる事ケタケタ笑うて見てるやん」
「るっせぇ。おれはいつもんとこ行くからお前らは勝手にやってろ!」
「何だよ、つれないな~。前やってた狩りを再開するんか?」
「あれか~。あれやるよか、こっちの方が面白そうやのに~」
「え~? シュージ、動画撮りはやんないの~?」
「何よクミ。自分は見てるだけって言っておきながら、実はノリノリだったんじゃない~」
「キャハハ、何それウケる~! ねぇねぇイッチ、動画撮りしないの~? やろうよ~!」
リーダー格の壱継が他の五人と意見を分かつ事で、何やらおかしな雰囲気が漂う。リーダー格と言えど、仲間を引っ張る訳でも仲間に合わせる訳でもないようだ。
だが、どうするんだ? と言い争いが始まろうとしたその時、思わない場所から声が掛かった。
「あなたたち、それはどちらも却下よ」
「げっ! 先生!」
「って、ミッちゃんかよ~。脅かすなよ~」
「え~、何なに~? ミスズセンセもクミたちに混ざりたかったの?」
「バカ、クミ。そんなん面倒じゃない!」
「え~、でも何でミっちこんな時間にこんなとこいるの~?」
そこに現れたのは養護教員、所謂保健室の先生の伊井山美鈴だ。どうやら今の会話をずっと聞いていたらしい。先程、智樹が廊下の方に目を向けた時には既に様子を伺っていたのだった。
「美鈴ちゃんよ~、俺たちに口出ししようってんか?」
「口出しも何も、やってはいけない事やろうとしているのを止めているだけよ」
「やってはいけない事って、わいらは保健体育を勉強しようとしてるだけやで? 生徒の主体性に口出しすんのはええんか?」
「そうだぞ、美鈴ちゃん。止めるってんなら美鈴ちゃんが教えてくれるんか? 保健体育を」
ぐへへと厭らしい笑みを浮かべる仁之瀬と味下に対し、女子三人たちは不快感を示しつつも徐々にそれも面白そうと乗り気になってくる。
が、いつも笑顔を振りまいている美鈴の顔からその笑顔がスッと消えた。いや、笑ってはいるのだが、その目から笑みが消えたのだが、その事には智樹以外は気付けずにいた。
「良いわ、保健体育ね。今からみっちりと授業してあげるから六人とも付いてらっしゃい」
「うおっ! マジか! 言ってみるもんだな!」
「お子ちゃまボディよか、ミッちゃんの大人バディの方が喰い付き良さ気やさかいな! 高鳴るでぇ」
「うわぁ、ミスズセンセって平気な人だったんだ~」
「意外ね~、もしかして経験もスゴかったり?」
「わ~何それ~。ミっちって大っ人~♪」
まさかの美鈴の発言にワッと沸く五人。対して智樹は目を細めて五人を見やり、真実や綾乃は目を剥いた。そして光輝は何が起こったのか理解できずにオロオロと視線を彷徨わせた。
「……おれは良い。帰るから」
「いいえ、壱継さん。あなたも逃げずに付いてらっしゃい。いろいろとお話をしなくちゃいけなさそうだから」
下駄箱の靴に手を掛けた壱継に対して珍しくきつめの口調で言い付ける美鈴の様子に、漸くいつもと違う雰囲気を醸し出している事に気付いた一同は口を噤んだ。
「秦石さんたちは気を付けてお帰りなさいね。ああ、そうそう。黒生さんは何か困った事や分からない事があったら、いつでも保健室に相談にいらっしゃいね」
真実たちにはいつものように笑顔で声を掛ける美鈴。光輝個人に名指しで声を掛けたのは六人に対して遠まわしに警告を発すると共に、光輝が夏休み中の出校日に保健室に運ばれた事を気に掛けているというアピールだ。
「さあ、あなたたちにはじっくりとお話をさせて貰いましょうか。そうそう、保健体育に付いて知りたいのよね。私と体育教師の井蛙先生とでじっくりと教えてあげますからね」
井蛙と言えば体育教師であると共に生徒指導でもある。それを聞いた六人は、途端に顔色を青褪めさせたが時既に遅し。自業自得であった。
その後、動画に付いての過ぎた悪ふざけだけでなく駅前での素行不良が明るみになり、実力テストが終わる日までの四日間は午前中で帰らせて貰えず生徒指導室での試験勉強を強要された挙句、土曜日まで出校する事となった六人。
対応した井蛙と尾桟に最低で散々だったと言わしめた一週間だった。




