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√真実 -014 オツム、大丈夫デスカ?



「全く、後先考えず無茶な事を口にするから、こういう事になるんだぞ?」


 しゅんとする光輝を見ながら、下駄箱から下履きを取り出して上履きを突っ込む真実。

 いつもなら何人もの生徒が行き交う昇降口には、真実と光輝、智樹に綾乃の四人の姿しかなかった。それもその筈、つい先程まで級長と副級長の届け出の用紙を書きに職員室入口にまで出向いていたからであった。職員室内へはテスト週間である事から出入り禁止になっているので廊下での記入だったが、それが済めば今日の日程は終わりで帰宅が許される。その間に他の生徒たちは下校してしまっていた。

 そもそも混迷を極めた級長選によって他のクラスは先に帰っていたのだが。加えて松葉杖の祐二にお迎えのクルマが既に到着していたので、祐二と華子はクルマに乗って先に帰っていった。もう華子の事は布田家公認なので、他のクラスの生徒の目も気にする必要もなく一緒に帰っていった事に、この四人はツッコむ気にもならなかった。


「確かに、ね。光輝が手を挙げて立候補した時はビックリしてイスから転げそうになったもんね」

「うぅ……だって……真実くんの役に立ちたかったんだもん」


 真実と綾乃の言葉に光輝が俯いて小さな声で反論するが、広い昇降口の空間に掻き消えていく。

 しかし、それを智樹がフォローに回った。


「まあ、なってしまったのは仕方ないだろ。周りが助けてやれば済む事だし。ま、何かあればオレに聞いてくれて構わないからな」


 席も一番前だから聞き易いだろうと言うが、まさかこの為に一番前の席を選んだんじゃないだろうなと疑いの目が集まる。

 級長選の直前に行われた席替えで、真っ先に前列中央の一番人気の無い一角を選んだのは班長になった智樹だ。これには他の班は歓迎したが、班内の者からは反発を買った。特に綾乃、祐二が猛反対したのだが、その理由がサボれない、寝られないというものだった。しかし綾乃には光輝が、祐二には華子が説得に当たった。折角夏休みに勉強を進めたのに無にするつもりか、と。

 綾乃は口を尖がらせつつも光輝の説得に落ち、祐二は華子に(はた)かれて渋々ながらも従うのだった。


「それにしても、光輝が副級長か……何が起こるか本当に分からないよな」


 靴を履き終えた真実が、しゃがんで靴を履いている光輝に目をやると、やはり靴を履き終えた智樹と綾乃もそれにうんうんと頷いた。


「でもさ、本当に接戦だったよね、級長も副級長も。最後はどちらも一票差だったし」

「ああ、その一票が明暗を分けたが、な! 真実」


 バシッと背中を叩かれてゲホゲホと咳き込む真実に、更に追い打ちを掛ける智樹。


「大事なカノジョを取られないようにな。なんせ級長と副級長、特に三年生の最後はくっつきやすいし、な!」


 ぐぬぬ、と唸る真実だったが、その昇降口に他の生徒の姿が……


「お、新しい級長(・・)のお帰りだな」


 誰かと思えば、教室に最後まで残っていた問題児たち一行だった。


「秦石……テメェ、それは嫌みか?」

「いや、別に嫌みでも何でもないさ。それに、これから名前じゃなく級長ってみんなに呼ばれる事の方が多くなるからな。今から慣れておけ」


 ぐぬぬ、と睨みを智樹に向けるのは、級長選で真実を相手に僅差の一位を勝ち(?)取った壱継(ひとつぐ)修治(しゅうじ)だ。

 問題児たちのリーダー格で、夢の話をしていた真実を気持ち悪いと小学生の頃からイジメの対象として事ある毎に先頭に立って絡んでいた張本人である。だが、中学の二年では別々のクラスになった事で下火になり、三年で一緒になったものの真実に智樹が絡む事でそのイジメもパタリと止まっていた。

 クラスの中でも浮いていた問題児たちの中の壱継が級長なんてものに決まった時はクラスが騒然とし、掃除の時間となっていた他のクラスの者たちが様子を見に来た程だ。

 そう、席替えの後に行われた級長選は時間内に終わらず、その後の掃除の時間まで食い込んでしまい、帰る時間が校内で一番遅くなってしまったのだ。そんな背景があって、真実の表彰された件がすっかりと吹き飛んでしまった形だ。

 ホッとする一方で、やはり条件付きの立候補は問題があるだろうからと、光輝は通常の立候補として扱われる事となった。他の立候補がない中で投票が行われた結果、女子の票が割れる一方で男子の票が集まった結果だった。光輝が副級長になれば自分たちの立場が光輝より下と見られ兼ねないからと問題児たちに投じた女子たちに対して、男子たちは誰が一番まともかで選んでいたのだ。

 だが、級長の方はまた別の力が働いた。


「そもそもテメェが余計な事を言ったのが悪いんだろうがっ!」

「いや、オレはいろんな考え方があるぞ、とみんなに教えてやっただけだぞ」


 智樹は投票に移る前にみんなにある事を進言していた。それは、誰が一番相応しいかで選ぶ方法の他に、相応しくない者に敢えてやらせてみる、というものだ。それ以上は言わなくとも、ある程度頭の回る者なら何が言いたいのかはピンとくるだろう。

 敢えてやらせる事で大変さを身に染み込ませ改心を促す。そんな博打のような事も、半年間ではなく駄目なら直ぐにでも再選出来る見通しがあるからこそ現実味があった。

 ならばどうせつまらない真実よりも問題児たちに投じてみるのも悪くはない、と。勿論、多くの女子はそんな博打には乗らなかったが、男子の大半がより面白そうな方を選んだ結果、当選したのは女子票を集めた真実ではなく、男子票と智樹の言葉に従った一部の女子の票を集めた壱継だった。


「まあ、一度は級長の大変さを味わって見た方が良いんじゃないか? 特に誰かさんは」

「秦石、テメェ!!」


 会話を誰かに聞かれていないか気にしたのか廊下の方に一瞬目を走らせた智樹の言葉に、声を荒げてイキる壱継だったが、その後ろからからかうような声が。


「じゃあさ、じゃあさ。おもいっきり引っ掻き回しちゃえば? 級長なら何でも出来ちゃうんでしょ?」

「お、それは良いな。クラスの奴らには散々と馬鹿にされたんだから、やり返せば良いじゃん、な!」

「やりたい放題にやっちゃえば? あいつらが壱継に押し付けたんだから、何か言われてもあいつらのせいにしちゃえば良いんだし、ね~♪」

「例えば、強制的に持ち物検査やってゲームや金目の物は全部没収、とかか?」

「イイね~、やっちゃえ、やっちゃえ~!」


 煽る様に言ってきたのは、世津屋(よつや)久美(くみ)仁之瀬(にのせ)耕造(こうぞう)醐島田(ごとうだ)沙耶(さや)味下(みくだり)史郎(しろう)睦美(むつみ)菜々子(ななこ)といったいつも一緒の問題児たちだ。

 だが、言っている内容はとても幼稚で溜め息の出るものだ。今時小学生でも駄目だと思うような事を軽々しく口にする一同だが……


「あ~、それもえぇけどよ。級長なら副級長にだって何でも言う事を聞かせる事が出来はるんやろ? 何でも、なぁ」

「何だ、史朗。良い事でも思い付いたんか?」


 仁之瀬がニヤッとする味下に首を傾げて問うが、それには真実たちも良くない想像しか出来ず、顔を顰めて耳を傾ける。

 しかし、味下が口にしたのは最低な言葉だった。


「そいつにヒィが命令して脱がさせて、その様子を動画をネットにアゲればバズるんちゃうか?」





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