第3話:TVが村にやってくる!?、祭りで仲良し大作戦(Aパート)
「なに?、TVが来るだと?!」
奴からその連絡を受けたのは3月の頭だった。
「なんか、どこで知ったのか、外資による限界集落でのみかん農家経営が面白そうだって、TV局が」
いやはや、ほんとどこで調べてたどり着いたのやら。
「別に秘密じゃないんだけど」
まぁ、確かにそうだが。しかし、発表にはタイミングというものがある。準備不足の発表はかえってマイナスにもなりかない。
「それで、いつ来るんや?」
「逆にいつが良いかTV局側から聞かれてるんだけど」
ふむ。ある程度融通が利くのか。TV局の中には「今日撮って明日流す」という、自転車操業のようなネタ撮りもあったりするから油断は禁物だ。
しかし、そうなるとどうしたものか。
「なんか、その辺でイベントの予定はないか?。野球大会とか」
イベントがあれば、TV取材を餌にカエリ村の村民を巻き込むことで、一気に親睦が図れるかもしれないのだが。
「野球大会はもう終わったけど、確か来月頭に『峠の桜まつり』とかがあるらしいよ」
そういえば、あの峠の両脇には木が植えてあった気がする。すれ違いで怖かった記憶がある。
「あー、そういえばもうそんな季節か。具体的に何をするイベントかわかるか?」
「詳しくは知らないけど、峠の道路沿いに桜の木が植えてあるから、それを見ながら酒を飲むみたい」
そのまんまだな。単なるいつものどんちゃん騒ぎということか。しかし、これは使えるかもしれない。
「ちょっと企画書かくから1晩待ってくれ。思いついたネタがある」
「またか。お手柔らかに頼むよ」
「ふっふっふ。楽しみにしとけ」
というわけで、美香の家で夕食と入浴を済ませて英気を養ってから、パワーポイントを開いて企画書を一気に書き上げた。
翌日。
「なにこれ?」
送り付けたパワポの奴の感想がそれだった。そんなに難しいことは書いてないはずだが。
「『MuuChart社主催。第1回、手作りみかん箱カーによる峠下りレース@峠の桜まつり』の企画書」
「だから、なにこれ?」
わからない奴だな。みなまで説明しないと駄目か?
「峠の桜まつりで、MuuChart社主催のレースをやって、親睦を深めようって話」
「本当に深まるの? あと、カエリ村の住人ってかなり老人なんだけど」
なかなか疑り深いな。まるで私のようだぞ。
「大丈夫、田舎の老人は都会のもやしっ子よりよっぽどたくましい」
「そもそも、こんなの参加してくれる?」
「商品を酒樽にしとけば、田舎の飲んべぇ親父達は挙って参加するに違いない」
とにかく田舎の老人は大酒のみだ。なぜあんなに強いのか、下戸の私には不思議で仕方ない。受け付けない体質の人も、それなりに居るはずなのだが。
「TVは会社の取材なんだけど」
「どうせ会社だけじゃ尺がもたん。農作業の合間に準備で和気あいあい、って絵の方がディレクターにも好都合のはずや」
宇宙人は感情に乏しいという話だからな。固いインタビューだけだと、最悪没になりかねない。
というわけで、奴に昨晩私の脳内コンピューターがはじき出した完璧なプランを奴に説明していく。田舎の老人は暇を持て余している。きっと食いつくハズだ。根拠はないけど。
「峠の道路って公道だよ? 使えるの?」
「以前TVで『町おこし』とやらで、封鎖して風力自動車走らせとったぞ。あれができるならなんとかなるやろ」
あれが局の実力だとしたら、地方のローカル局だと辛いかもしれないが。
「ほんとかなぁ」
「知らんけど。とりあえずTV局に聞いてみ。知恵の一つもあるやろ」
とりあえず適当に投げる。本当は市長とか巻き込めれば完璧なんだろうが、さすがに村のイベントでそれは無理か。誰か選挙の近い議員でも村に居ないだろうか。
「それでMuuChart社は、当日は屋台をだせと?」
「そや。宇宙人が本気でレースに出たら洒落にならん。それよりも、屋台で村民に愛想振りまいた方が得や」
結局人間、餌付けが最強だ。肉じゃがで落ちるのは、何も男だけではない。
「それで、何の屋台をやればいいの」
「基本飲みのおつまみでいいやろ。焼き鳥とかええんちゃうか」
基本、串に挿して焼いて、市販のタレを付けるだけだから、宇宙人にだって出来るだろう。
「焼き鳥ねぇ。機材はどうするの」
「村に防災用の炊き出しコンロとかあるんとちゃうか?。『点検と使い方の練習を兼ねて』とか言ってみ」
大きな震災以降、そういう備品だけは、どこも充実しているハズだ。なにせ、役人とは物さえ用意すれば良いと考えがちだからな。
「それだと鉄板焼きになる気がするけど」
「ああ、それでもええやん。焼きそばとかも定番やしな」
誰かが指導しないと、宇宙人には作れないかもしれないが。
「ほんと、適当だよね」
「臨機応変というてんか」
そもそも何があるかわからないんだから、適当にやるしかないわけで。叩けない石橋は叩けない。
「それと最後。『レースクイーンはマデ』って何?」
「そりゃレースクイーンやがな。レースなんだから必要やろ?」
いくつになっても男はすけべだからな。
「これ、絶対MuuChart社と村人の親睦に関係ないよね。ぼやの希望でしょ」
「いいや、そこは美香の希望」
実は、薄手のコートでの外出が暑くも寒くもないこの季節、私と美香はよく真夜中の散歩に出かけたりするのだが、その道中、どちらかといえば美香の気を紛らわせるためにする会話として、直前まで書いていたこの企画書の内容を話していたら、上の空でぼーっと聞いてたはずの彼女が、突然興奮気味に提案してきたのだ。
私も右手に持ったリード小刻みに揺らしながら、彼女のななめ前を頭の中で企画を検証しながらオートパイロット状態で歩いていたので、あまりの興奮っぷりに「やりすぎたか」と勘違いしたくらいである。
「なお、衣装は美香が提供するそうだ」
実際彼女は30着くらいコスプレ衣装を持っている。まぁ、半分は私が用意したものだし、彼女自身はコスプレは私の前限定なのだが。体系にコンプレックスがあるので、他の人の前では絶対に披露しないのである。超絶かわいいから勿体ない気もするのだが、独り占めできるのだから文句はない。
「まぁ、とりあえず、この提案書見せて聞いてみるよ」
実は案書の表紙には、レースクイーン姿のマデがチェッカーフラッグを振ってるイラストが入ってる。美香が描いたものだ。明け方ごそごそとベットから抜け出して、俺のパソコンでささっと追加してしまったのだ。大したお絵かきツールはインストールしてないのだが、弘法筆を選ばずとはこの事か。
ちなみに、裸の彼女が時々自分でポーズを取って確認しながら作業する様は、なかなかのビジュアルだったので、ベッドからこっそり携帯で動画撮影しておいた。あとで本人に見せてやろう。
それから数日、最初は「なにを馬鹿な」と冷めた目で見てたらしいカエリ村の村民だが、TV局からのOkが出て、取材が入ることを村民に知らせたあたりで、一気に事態が動き出した。基本ネットには無縁な老人にはTVという印籠はとても威力絶大なようだ。
あと、マデが大はしゃぎで自国の変な祭りの話をしてるのを見て「外国人は変な祭りが好きなようだから、MuuChart社がこんな祭りを言い出すのも自然なんだろう」という認識も生まれたようで、「とりあえずやってみるか」という雰囲気が生まれてきたようだ。マデは日本人と宇宙人の中間を上手い具合に埋めてくれる存在になっている。また旨い物でも送ってやるとしよう。
それからの数週間は、MuuChart社の社員は、けながデザインして用意したお揃いのTシャツを着て、村中を右へ左へと動き回る日々となった。屋台の準備は主に村の女性陣と打ち合わせ、一方レースの準備は村の男性陣との打ち合わせということで、バランスよく多くの村人と接する機会を生んだようだ。
村民が作るカートはこちらの想定を超える高性能で、かつデンジェラスな出来だったため、急遽安全対策を追加する必要に迫られた。自分たちで農機具を直したり作ったりする老人の実力を甘く見過ぎてたということだ。奴によると、そもそも「なぜそんな物まで」と思うくらい、工作・加工機械が倉庫から出てくるらしく「ほんとうにみかん農家なのか」と疑心を抱きそうになるくらいだったとのことである。
もっとも、その対策も村民が網だの藁だのを出してきて積極的に手伝ってくれたため、なんとか怪我人を出さずに済みそうということである。一応乗るのは村の若手(と言っても皆私よりも年上だが)だし、いざとなったら宇宙人のテクノロジーでなんとかしてもらいたいところである。TV取材の映像が、そのまま夜のニュースの事故映像になるのは、さすがに勘弁願いたいところだ。
道路の方も、シゲさんとやらの親戚が議員をやってるとかで、そっちのラインからのプッシュもしてもらって、なんとか許可が取れたらしい。閉鎖できるのは1時間足らずのようだが、出走数4台のようだから問題あるまい。ちなみにそのうち1台はMuuChart社からの出走でドライバーはけなになった。「言い出しっぺが出ないでどうする」と村民に焚きつけられたようだ。
最初は「手加減するように」と私から指示していたのだが、最近の報告によると「本気でやってもビリ確定」らしい。「真夜中にこっそり無許可で練習するような命知らずの村民に勝てるわけがない」とのこと。昭和世代は頭のネジが飛んでるのだろうか。
ちなみにnegi.moe社からMuuChart社への発注がさらに50万円増えた。取りっぱぐれることは無いとは思うが、祭りが終わったらそろそろ回収も始めないと、運転資金口座がからっぽだ。そもそも資金がそんなに必要な会社ではないので、それだけしか入れてなかったのだ。お金がないわけじゃないが、増資の処理なんてやったことないし面倒だから、できれば避けたいところである。
かくして、あわただしい、およそ1ヶ月の準備期間を経て、祭りの当日とあいなった。そういえば、本来のみかん農家としての取材はちゃんと行われたのだろうか。まぁ、どうせ商売相手は宇宙人なのだから、宣伝にならなくても問題はないし、MuuChart社と村民融和作戦は、既にほぼ成功したようなものだから、こっちとしては正直どうでも良かったりする。
とはいえ、さすがに今更放映されないのもバツが悪いので、TV局の頑張りには一応期待しておくこととしよう。
やばい、3日坊主で終わる所だった。実家に帰省してる間に3話を終わらせたかったのだが、間に合わないな。そうそう、途中変更ですが「R15指定」にしました。ぼやと美香がどんどん暴走するので。アニメ化される時は、もっとぼかした表現になるでしょう。で、原作読んで「あ、そういうこと」みたいな。まぁ、されませんけど。さて、次回は3話後半、映像的には盛り上がるところですが、実はノープラン。どうしようかな…