第3話:TVが村にやってくる!?、祭りで仲良し大作戦(Bパート)
アニメだと第3話Bパートに相当
「オー、コレがレースクイーンの衣装なのネ」
マデことマデリーンはMuuChart社のけなから渡された衣装をしげしげと眺めた。
ワンショルダーのアッパーは片方の胸がみかんにデザインされている。ボトムは超ハイレグのアンダーの上に、超ローライズのショートパンツをはいて、さらにみかんの房をデザインした、スカートというよりは腰ミノのようなものを着用するように指示が書いてある。
当然お腹も背中も丸出しだが、幸い今日の陽気なら寒くはないだろう。あと、いわゆる猫耳としっぽが付随していて、レースクイーンというよりはみかんのマスコットのようにも見える。
スリーサイズを聞かれたとき、けなに測定を手伝わせたら、顔を真っ赤にしていたので、彼がこの衣装を用意したとも思えない。きっと、今回のイベントを立案したという彼の友人が用意したのだろう。
「これがいわるゆHENTAIネ、きっと」
もっとも彼女の住むカリフォルニアのビーチには、もっとセクシーな恰好で闊歩する若者が一杯いる。マデもこの程度の露出は日常茶飯事である。ただ、なんというか健全な色気とはなにか違う雰囲気が、この衣装からは滲み出しているように感じられる。
「やはり本場は違いまース」
マデは日本語を勉強するにあたり、大学に留学に来ていた日本人に色々教えてもらったのだが、その時みた資料の中にこの手の、彼曰く「MOE」なる資料も含まれていたた(どうも彼はOTAKUだったらしい)。
一応HENTAIについては、前知識はあったし、描かれてるキャラクターの顔立ちはともかく、衣装の中にはKAWAIIと思える物もあったので、それなりに興味もあったのだが、やはり聞くと見るとでは大違いというか、いざ自分がそれを着ることになると、ちょっと怖い気持ちもなくはない。
「そもそもアメリカ人の私に似合うのですかネー」
KAWAIIはなんとなくわかるものの、日本人留学生のMOEは、正直よくわからなかったので、自分が着た状態がcoolなのかどうかは判断しかねる。
「マ、とにかく着てみて、けなにでも判定してもらいまショー」
とりあえず自分での判断は保留にしてして、まずは自宅の玄関の鏡の前で服を脱ぎ捨て(全身が見える鏡が玄関にしかないから)、一つ一つ衣装を身に着けてみる。アメリカ人であるマデはアンダーの手入れは、当然のように普段からしているので、超ハイレグは問題ない(その上にショートパンツがあるので、どちらにしろ見えないのだが)。
それより尻尾の装着方法の説明が無かったのが問題だったのだが、先端形状とショートパンツにあるガイドからして他の方法は考えられないので、たぶんこれで良いのだろう(HENTAIの国は伊達じゃないかもしれない)。
最後は猫耳をつけて完成、と思ったら、耳と尻尾が猫じゃなくて馬なことに気づいた。おそらく普段からポニーテールなのに合わせたものと思われる。
「Oh!、そいういうことネ」
と一人で納得。そして出来上がった自分の姿を鏡で見て心に浮かんだ感想はというと
「わるくないネ」
というものだった。少なくとも今までの自分にはなかったテイストである。少し上気して赤くなった肌も、なんだかちょっとcoolに見える。これがMOEだろうか。思わず鏡の前でターンしてみたが
「Ah!」
思わず声が出てしまう。尻尾のことを考えると、あまり大きな動きはしない方がよさそうだ。
「でもチョット、これはクセになりそうネ」
さらに上気した自分の顔を鏡でみて、マデは自分の中にも日本のHENTAIが芽生えたような気がしないでもなかった。
自宅を出て会場に着くころには、尻尾の具合にも慣れてきた。すれ違っいざまに挨拶した村民の、特に男性陣の反応を見る限りでは、日本人の目からみてもまんざらではなさそうではあるが、とりあえずは彼に感想を確認するのが確実だろう。
しばらく歩くと峠の入り口の広場の脇にけなを発見したので、さっそく感想を聞きに行く。
「ハイ、けな。グンモー。衣装着てみたんだけど、どうですカー?」
振り向いた瞬間目を見開くけな。彼の前でゆっくりターンすると、上下に移動した目が、尻尾を二度見したようだが
「あ、えっと、うん。いいんじゃないかな。すごくいいと思うよ」
という返事が返ってくる。本当だろうか。
「cool?」
「うん、クール」
「KAWAII?」
「うん、可愛い、可愛い」
なんというか、単なるオウム返しだ。とはいえ、とりあえず大丈夫な感じである。最後に思いつきで
「MOE?」
と聞くと
「萌え?。あ、うん萌え、萌え。萌え萌えキュン」
なにやら知らない表現が出てきた。おそらくcuteの類だろう。それならば
「じゃあHENTAI?」
と聞くと、ぶっと、思わず吹き出す彼。一度視線を尻尾に向けてから、小刻みに頭を振りながら答えてくる。
「変態って…、あ、あぁ、アレか。日本のアニメを指すHENTAIの方ね。アニメとはチョット違うかな。あと、日本での「変態」っていうのはちょっと違うから、あんまり人前では言わない方がいいかも」
「オー、そうですカ。ちなみに、日本だと、どういう意味になるのデース?」
するとスマホを取り出すけな。彼は英語が得意じゃないので、おそらく調べるのだろう。
「えっと、パバート?、とからしいけど」
パバート。pervertだろうか。なるほど「間違ってる」世界ということらしい。確かにネットで検索に出てくるHENTAIの絵に描かれた絵の中にはprevertな感じの物があった記憶がある。animeの中でもprevertなものがHENTAIなのかもしれない。
「Ok、わかりました。MOEにしておきます」
「あ、うん。それがいいよ。あ、でも老人にはわからないかもしれないから可愛いでいいんじゃないかな」
どうやらMOEは一部にしか通用しない言葉のようだ。
「Oh!、そーなのですカ。じゃ、今日はKAWAIIで頑張りマース」
「うん、よろしくね」
一応の確認はできたので、とりあえずよしとすることにしたのだが、今度は
「ごめん、その衣装を提供してくれた人に、確認用の写真と動画を送るように言われてるんだ」
と逆にけなに呼び止められた。
「ほんとですカー。けなが欲しいんじゃないんですカ」
「ち、違うよ。いや、欲しくないわけじゃないけど、それはそれ、これはこれだよ」
まぁ、彼は嘘を言うタイプじゃないのは、このところの付き合いでわかって来たので、そう言うのならそうなのだろう。ただ、「欲しくない」というのは少々気に入らない。そこで
「ふーん、わかりましタ。じゃぁ、その写真はけなは送ったら消してくださいネ」
と意地悪を言ってみると
「えっ。わ、わかったよ。そのかわり俺にも後で写真とらせてよね」
と返って来た。なんだ、結局欲しいようだ。だったら最初からそう言えばいいのに。
「Okデース。けなはそういうところマジメですネ」
とりあえずこのあたりで許してあげよう。というわけで、近くの桜の前に場所を移動して、ちょっとした撮影会を行うことになった。
なにやら指定があるらしく、読み上げられる指示に基づいてポーズを取りながら360度、上からも下からも何枚もの写真を撮影。動画も歩いたり簡単なステップを踊った上で、最後は「大きくクルっとターンの後、顔をアップ」という指示。上気してしまった顔に、けなは気づいたのかどうかは、彼が最初から恥ずかしそうだったが故に良くわらなかった。
でも、やっぱりこの衣装を作った人はHENTAIなのは、動画の指示からして間違いなさそうだ。あの的確な指示は、この衣装の効果を熟知してないと出せないはずなのだから。
撮影が終わった後は、けなと別れ、上気した体を冷やしながら、屋台のエリアへ向かうことにした。
Oh!、なにやらもうみんなすっかり出来上がってるようにみえます。まだ午前中ですよ?
「マデちゃんこんにちは。今日はよろしくお願いしますね」
「ハイ、こちらこそよろしくでース」
とりあえずは屋台のMuuChart社の人と挨拶。同じ外国人のハズなのに、見事な手さばきで焼き鳥を焼いている。いったいどこで覚えたのだろうか。
ちなみに彼らがどこの国出身なのかは不明だったりする。英語も通じるのだが、あまり上手くない様子。聞いても教えてくれないのは何故なんでしょうか。
「ひゅーひゅー。マデちゃんイロッペー」
さっそく屋台の横で飲んでた「オジサマ」たちが声をかけてくる。
「なんでも今日はレースクイーンなんだって?」
「ってゆーか『萌え』てゆーやつなんじゃねえの?」
おや、萌えが通じてるようです。けなさんが思っている以上に、この国はHENTAIが蔓延しているようですよ。
「そうでース。今日は萌え萌えレースクイーンデース」
とりあえず適当に返しておく。
「マデちゃんの胸のみかん、なかなか美味しそうに実っとるけぇ、わしがもいで調べちゃろうか?」
「ヤスさん、それセクハラっちゅーやつじゃけぇ、言ったらあかんよ」
さすがHENTAIの親はHENTAIです。
「アメリカだったら、禁固100年でース」
「そがいになるかな」
「ヤっさん、でるころには死んでるぞ」
「その前に拳銃で撃たれちょるがよ」
私を含め、みんな適当なこと言って盛り上がってると、今度は奥の方から声がかった。
「マデちゃん、あんな親父たちの相手なんか、する必要ないよ」
「そうそう、こっちきなんさ」
「今焼きそばつくっとるがね、食べてきんさい」
「ちらし寿司もあるがよ」
カエリ村の「オネエサマ」たちだ。もちろん彼女たちも「オジサマ」たちと同じで、かなりの高齢だが「うちらはお婆さんじゃない、オネエサンよ」と言うので、一応本人達には「オネエサマ」を使うようにしている。
「えらい、めんこい衣装やが」
「うちも、あと10年若かったら、がいな衣装も着られたのに」
「テルヨさん、10年でええの?」
「そがいなこと言うかね」
こちらも負けず劣らず口が達者だ。カエリ村の農民は基本みんなpowerfulと言っていい。カリフォルニアの農家も元気だが、ビジュアル的にはこちらの方が何倍もインパクトがある。若者が居ないせいもあるが「生涯現役」というポリシーがより強く感じられる気がする。
さて、レースクイーンの仕事は基本レースの時だけなので、とりあえず出番になるまで、このあたりで時間を過ごすことにした。ただ、一度尻尾の事を忘れて椅子に座ったら、思わず奇声を発してしまって、村人を驚かせてしまったので、木によりかかったり、敷物にうつ伏せになったりして過ごすことにする。
ちなみに、うつ伏せにしてると、時々オジサマ連中が前や後ろに回り込もうとして、そのたびにオネエサマ達に摘まみだされていたのがちょっと面白かった。そっち方面もpowerfulなのかもしれない。
そうこうしてるうちに、いよいよレースの時間になった。レースクイーンとしては、まずは司会として峠の麓でチーム紹介を行わなければならない。
出走4台のうち3台は村民製、残り1台はMuuChart製である。村の3チームは、どうやら班別になっているようだ。
この村の班は運命共同体というか家族みたいな関係性がある。基本は班同士はなかよしなのだが、その一方で自分たちの班に対するプライドのようなものも持っている。
今回もおそらくどこかの時点で班としての闘争心が生まれてしまったのだろう。MuuChart社が単独別チームというのは、けなから聞いている「融和作戦」としては必ずしも成功とは言えないが、新たな別の班だと思えば、それほど悪くないのかもしれない。
「第1枠は1班製『ダンボールギーニ号』でドライバーはユージサン。第2枠は2班製『マッハ596号』でドライバーはミツオサン。第3枠は3班製『サンデーパート号』でドライバーはなんと女性のミツコネエサン。最後の第4枠は本レースのスポンサーのMuuChart社製『無茶苦茶号』でドライバーは現地社員で最年少のけなサンデス。みなさんがんばってくださーイ」
とりあえず「適当でいい」と言われたチーム紹介を、本当に適当に行う。そもそも紹介しなくても、ほとんどの人は知ってるのだが、一応村外のお客さんもちらほら居るし、なんといってもTV局がカメラを回してるので、チーム名とドライバーだけはきっちりと紹介しておいた。
そういえばTV局の人が私の衣装見て「放映できるかなぁ、コレ」って言ってたけど、大丈夫だっただろうか。日本のTV局はアニメではアメリカでは放映できなないような物を流していたり、温泉の入浴シーンも流しているのに、なぜこの程度の衣装が問題になるのか。この国の基準はよくわからないところがある。
紹介が終わると、各マシーンとドライバーは軽トラの荷台に乗せられ、峠の中腹まで運ばれて行くことになる。スタート地点はここから約3kmのところに設定されている。スタート時刻は午後2時10分(県道の封鎖が午後2時丁度なので)。防災無線の合図でスタートすることになっている。
TV局はロケ車で前を走って映像と撮るらしいが、もちろん当日の中継などはないから、ゴールの我々は状況を知る由もない。距離が3kmになったのも「待ってられるギリギリの時間」ということで決まったらしい(あとは閉鎖できる時間)。
予定どおりドライバー達を見送って30分がたった。村に鳴り響くウェストミンスターの鐘の音とともに、いよいよレースがスタートした……はずである。私は、一応チェッカーフラッグを振る役目があるため、ゴールに日本の国旗を持って待機している。日本の国旗なのは、チェッカーフラッグを用意し忘れたので、祝日に掲げる国旗を竿ごと代用にしたからである。
そして、スタート時刻より待つこと10分、峠の先から見えて来た先頭のTV局のロケ車が脇にそれると、待望の先頭車両が見えて来た。なんと第2枠、ミツコネエサンが乗った『マッハ596号』である。これはちょっと予想外である。
早速国旗を構えて待つこと20秒後、見事ミツコネエサンがゴールとなった。そして、遅れること1分。今度は第1枠の『ダンボールギーニ号』と第3枠の『サンデーパート号』がほぼ同時に視界に飛び込んでくる。こちらはなかなかの接戦だが、どうやら『サンデーパート号』の方が少し前のようだ。
さすがに最後の直線ではドラマは起きないようで、そのまま『サンデーパート号』が2着、『ダンボールギーニ号』が3着でゴールインした。
ちなみに『無茶苦茶号』は、さらに15分後、県道の閉鎖解除ギリギリ前に、手押し状態で戻ってきた。途中でタイヤがスムーズに回らなくなったらしい。やはり普段デスクワークをしてると思われるMuuChart社には、最初から勝ち目は無かったのかもしれない。けなもそんなことを言っていたし。
かくしてレースは無事終了。表彰式では、MuuChart社からの盾がとりあえず一番偉いらしい人からミツコネエサンに渡され、ついでに私からほっぺへの熱いキスがプレゼントされた。
レースに出たオジサマたちは「副賞を知っていればもっとやったのに」と悔しがったのだが、けなは逆にほっとしたような顔をしていた。けなは私にキスされたくなかったのだろうか。キスは勝者がミツコネエサンだったからしたのであって、オジサマ方だったらしなかったかもしれない。ただ、けなだったらしても良かったかな、とも思うので、ちょっと複雑な気分である。
そのあとは、優勝賞品の酒樽の鏡割りが第2班によって行われ、お酒はそのまま全員にふるまわれて、宴会に突入となった。
私としては、この衣装は嫌いではないのだが、尻尾を装着したままだと色々不便だし、多くの視線の前では、流石に羞恥心も感じてしまったので、とりあえず自宅で着替えて出直すことにした。
自宅で衣装を脱ぎ、馬耳と尻尾を外すと、謎のと息とともに体の力が抜けてしまったので、とりあえず裸のままベッドで30分ほどクールダウン。そのあとシャワーで汗を流して、普段着に着替えて会場に戻ると、会場は完全な酒宴になっていた。
「あれ、マデちゃん、着替えちゃったの?」
「Yes。あれは夜にはちょっと寒いかなート」
「あぁ、確かにね。春とは言え、この辺りはまだ朝晩は結構冷えるときもあるけぇね」
本当の理由は別にあるのだが、流石にそれを説明するのは恥ずかしい。
なので、ここはとっとと話題を変えることにする。実はこのお祭りで、やりたいことがあったのだ。
「えっと、私もお酒飲んでいいですカ」
そう、お酒を飲みたかったのである。
「あれ、マデちゃん飲めるの」
「アメリカでは1度だけ飲んだことはあるんですケド、それ以降、飲もうとすると皆に止められるのデース」
「へぇ。もしかして酒癖悪いとか?」
「ワカリマセン。誰も何も教えてくれないのデス」
なんというか、その話題はタブーになっているようなのだ。どうやら何かまずいことしたようなのだが、その理由は全くわかってない。
「まぁええが。この村にも酒癖悪い奴はよおけぇ居る。少々暴れてもどーってこたぁないがね」
「そゆぅこった。よし、飲め飲め」
やった。人生2度目のお酒、しかも「日本酒」だ。リベンジ1発目としては悪くない。さっそく近くの1人が「升」という木のカップに日本酒を注いで渡してくれた。
「それじゃぁ、イタダキマス」
一口飲むと、とてものど越しが爽やかで、これならいくらでも飲めそうな感じである。
「おーっ、ええ飲みっぷりや。流石アメリカ娘は違うの。よし、ほれ、もっと飲め飲め」
はい、頂きますとも。
「お父ちゃん、そんなに若い子に飲ませて。悪いことしたらあかんよ」
「アホ抜かせ、だれがそげんことすっか。お、マデ、どうした?」
ただ残念ながら、その後の記憶は私にはなかった。気が付いたら自室のベッドに服を着たまま寝ていたのである。しかも、布団はなぜか四隅がロープでベッドに固定され袋状になっていた。おかげで、そこから這い出すのに少々苦労した。一体だれのいたずらだろう。
とりあえず痛む頭のままシャワーを浴び、服を着替えて村にでると「どんちゃん騒ぎ、ここに究めり」と言う感じで、さまざまな物が散乱していた。
そのまま村を歩くと、会う人会う人「大丈夫なのか」と、まるで何かを恐れるかのように聞いてくる。その一方、昨夜何があったのかは、決して誰も口にしなかった。けななら何か教えてくれるかと思ったのだが、やはり「ぼくは何も見てない」の一点張りである。
そしてこのあと私が村人からお酒を勧められることは1度もなくなったのだった。アメリカ本国と同じように。一体なにがあったのだろうか。誰か教えて欲しいものである。
さて、ここまではマデ視点で話をしてきたが、ここからは、いつもどおりのぼや視点に戻して話を続けさせてもらうことにする。場所は私の家のベッドで、美香と2人で休息中である。
「で、マデちゃんが凄い酒乱だったんだって?」
けなからの報告を読みながら、私は美香にうなずいた。今日は峠の桜まつりから3日後。場所は私の家のベッドの中である。
「暴れまわるマデを押さえつけるのに、けなを含む若手が5人がかりだったそうだ」
「へーすごいね。彼女何かスポーツでもやってるのかな」
「けながさりげなく聞いた限りでは、どうも柔道を習ってたらしい」
なぜこうも世界で柔道が人気なのか、日本人の私にはピンとこない。
「柔道かぁ。本家の日本人がアメリカ人の女の子にコテンパンにやられちゃったのね」
「本家って言っても、日本人だって皆が柔道やるわけじゃないし、若手と言ってもけなを除けば年配だ。若さではかなうはずもないやん」
そう、若手が居ないからこその限界集落。そして、その若手ナンバー1がマデで、ナンバー2がけななのだ。
「でも、5人で抑えられたんでしょ。だったら被害は大したことは無いんじゃない?」
「それが、その5人を集めるのに時間がかかったらしくて。なんとか集まった時には、もう既に周囲は蹂躙されつくしていたらしいで」
それぞれが村内のそれぞれの場所で飲んでいたのだ。彼らは携帯を持ってるわけではないので、連絡が取れなかったのも無理はない。実際も最後は、非常手段ということで防災無線を使ったらしい。
「じゃあ、今回の融和作戦は失敗なの?」
「いや、そんなこたぁない。今回は祭り開催までの間に、既にそれなりに融和が進んどったし、それに加えて今回の事件や。これが最後の決め手になったちゅうこっちゃな」
「というと?」
「なんでも、マデを取り押さえるために、それまでにないほど、村の人とMuuChart社が一致団結したらしいで」
さすがの展開に、あきれる美香。私も最初は耳ならぬ目を疑ったくらいだ。ただ吊り橋効果というべきか。マデを取り押さえるために、全員で事に当たった結果、なんとかマデを自室のベッドに抑え込んだ際には、村民とMuuChart社の社員がハイタッチして喜び合ったとのこと。
「ふーん。じゃぁ、とりあえず今回もぼやさんの作戦は上手くいったんだ」
まぁ、計画とはかなり違う気もするが、結果オーライということにしておこう。
「ところでさ」
美香は我が家のベッドルームの天井に設置された液晶画面を指して言う。私が一日中ベッドで過ごせるようにと、昔天井にPCのモニターを取り付けたのが今でも現役なのだ。今はけなから送られてきたマデのコスプレ、もといレースクイーンの衣装をまとった動画が映し出されている。
「これ、絶対ちゃんと装着してるよね、尻尾」
「ああ、この表情、たぶんな。あえて装着方法は説明しなかったんだがな」
さすがにあれを直接指示するのはためらわれたのだ。
「いや、誰でもあの端の形状みたらわかるって」
「そうかな。あの手の物見たことない奴には、案外わからないかとも思うんだが」
「じゃぁ、マデちゃんも、きっと使ったことあったんだね」
ニタっと笑う美香。このままだと、美香のコレクションがまた増えるな。というか、既に今回の写真で増えているが。
「まぁ、私と結婚したんだから、ほどほどにしておけよ」
「なに、嫉妬?。大丈夫、私が好きなのは男性ではぼやさんだけだから。一生離れないし、離さないから安心して」
そう言われると悪い気はしないし、いっそ嬉しくさえあるのだが。
「でもお前、最初俺を女の子だと思ってたじゃん」
そうなのだ。SNSで最初知り合った時、美香は私を女だと思っていたのだ。
「だって、ぼやさん一人称『私』だし、喋りの口調も内容も、どこかなよなよしてたもん」
それでも、途中で誤解を解いたはずなのだ。しかし、美香は初めてリアルで会うときですら、可能性は半々だと思ってたらしい。
「それに、今でもベッドでは女の子っぽいところもあるし。いいじゃん、写真は全部見せてあげてるし、もし相手の子が良いっていったら、一緒に相手してあげるから」
そう、美香は小学生の時からの写真のコレクション(相手だけの写真や、自分と一緒に写ってる写真など)を俺に全て見せてくれている。見せつけている、と言ってもいいかもしれない。他人に見せたらまずい写真も多くあるというのに(というか殆どがそうかもしれない)。ありがたい反面、相手に申し訳ない気もする。
「いいじゃん、私とぼやさんは一心同体なんだから。今みたいに」
私が女の子っぽいというより、美香がおやじくさいのかもしれない。口には絶対ださないけどな。
アニメだと最初の山場の第3話。一応盛り上がるイベントを設定したはずなのに。なぜこうなった。盛り上がるベクトルが全然違い過ぎる。これ、まだR15で通るのかな。
ちなみにBパートはマデ視点にしてみました。ちょっとしゃべり口調が型通りでしかも適当ですけど。一応最後にぼや視点にもどりますけどね。マデ視点で書き始めた瞬間、指が暴走して妙な描写を初めまして…。こんなキャラの予定じゃなかったハズなんですけどね。たぶん全て美香の餌食になると思います。今後も。
ぼやの一人称が「私」な理由も明らかになりましたが、これも全くの予定外です。いやぁ、フィクションですよ、フィクション。一人称が主に「私」なのは本当ですが




