第2話:村民の心を開くため、トロイのけなを送り込め!?(Bパート)
アニメだと第2話のBパートに相当します。
翌日、奴から基本すべてOkな返事が来た。ついでに「50万貸して」とも。
昨晩美香と相談しておいたので、とりあえずMuuChart社へのアクセサリー製作依頼ということで、negi.moeから50万振り込む手続きを注文書と共に作成してメールしておく。あとで原本も郵送しないと。
ちなみにnegi.moeは正式には「合同会社negi.moe」という。美香と結婚する前に持ってた私のホームページを「これでいいんじゃない」ってことで、そのまま流用して作ったものである。会社法人の方が都合がいい場合にだけ使うペーパー的会社で、私の会社の副業規定の関係もあって、一応美香が代表社員になっているが、出資はちゃんと半々になっている。
彼女はこの会社を使う場合は、「negi」はそれっぽい英語の頭文字ということしていて、それで名刺も作っているが、そんな努力もトップレベルドメインが「.moe」の時点で台無しな気がしないでもない。
翌日、奴からロゴが届く。「美味しいみかんを世界に届けるMuuChart」と書いてあるが、まさかこの「世界」が「宇宙」のことだとは誰も思わないだろう。
手頃な車も隣の街(と言っても峠の先なので遠いのだが)で見つけたと書かれているので、とりあえず上司にメールでUQ届けを出し、お台場にあるなじみのFab系シェアオフィスに出向いて、使ったことのなかったカッティングマシーンと半日格闘して私の方でラッピングシートを作成する。必要なサイズがサイズなので、シート自体は私の方で作ることにしたのだ。
完成したシートを、餌付け用のお台場土産と一緒に、ビル内の郵便局から速達で送りつけて、この日の作業は終了となった。
3日後、DMで写真が届いた。写真には、俺が作ったロゴシートを張った白のボックスタイプの軽自動車と、その横でピースさいんする金髪ポニテの美少女がへそだし短パンスタイルでピースサインと共に写っていた。
「ほほう。これがマデが。さすが本場もん、ぼっきゅんぼん、やな」
「かなりのものでしょ」
「しかし、なんで車と一緒にきみがマデと写真に写っとんのや?」
どう見ても車でナンパした女の子との記念写真にしか見えない。
「送ってくれたお台場のお菓子あげたら、『なにかお礼したい』というので、『ポニテにして露出多めの衣装の写真を送れば喜ぶよ。変態だから』って言ったらこうなった」
だったらお前が一緒に写る必要はないと思うが。しかし、なるほど。だからまだ2月だというのに、こんな格好なわけだ。どうやらノリのいい子らしい。
とはいえ、変態なのは間違いないないし、ポニテが好きなのもその通りで、足フェチとしては、好みとは違うが、健康的で長い美脚と、日本人とは違う健康的で大きくカーブした腰からヒップを経由してのふともものラインは実に魅力的だが、それでいらぬ誤解を招くのは頂けないな。
「そこまで言っておいて、どこに誤解の余地がある」
いや、本当に好きなのは美香のミニマムなスタイルなのであって、ぼっきゅんぼんは、私の守備範囲外である。まぁ、実用性は高いのかもしれないが。
「何のだよ」
まぁ、それは言わないでおこう。今の時代完全にセクハラ発言になってしまう。
「もう遅いだろう」
確かに。本人には黙っていてもらおう。なにせこっちは金を貸した側だ。多少の無理も通るというものだ。
「はいはい」
「で、AI作戦の方はどないや?」
「うん、一応分析はしてもらってるけど、今の所全然一致しない」
あれま。それでよく宇宙人やってるな。完全に偏見だが。
「まぁ、見た感じ凄さを感じさせない宇宙人ではあるけど。でも、うまくいかない理由は別みたい」
「その心は」
「そもそも彼らには地球人の行動原理がわからないから、予測が上手くいかないみたい。論理的な行動は得意だけど、感情的な行動は今の所上手くいってないみたい」
なるほど。我々地球人ですら、田舎の人付き合いには苦労するからな。モデリングには時間がかかるか。
「しかし、病院など、理屈で分析できそうな行動も多いと思うんやけどな」
「それも天候次第で左右するみたい。都会ほど予約が徹底してないせいもあるかもね」
はぁ。30秒電車が早く出発しただけで新聞記事になるような都会ほど、時間には厳密じゃないってことか。沖縄には「ウチナータイム」なんてのもあるしな。
「まぁ、うまくいかないものはしゃあないな。もう少し走りながら実地でも情報収集してみろや」
「いいけど、なんか不審者だよね」
まぁ、限界集落に来た都会の人間なんて、不審者以外の何者でもないのだが。
「みかん畑を見て回ればいいだろう。地権者が自分の畑を見て回るのは問題ないだろうし、畑に人が居たら、それこそ挨拶してマードレーヌを配ればいい」
「いや、マードレーヌは最初に偶然作っただけなんだけど」
「そんなの、なんでもええねん。ついでにMuuChart社のパンフでも渡せば完璧や」
「そんなものないし」
しまった。下準備が足りてなかったか。
「仕方ない。キミが作れ。そのための社員だろう。得意分野やろが」
「作るのは得意だけど、内容は得意じゃないよ」
「A4片面で十分だ。キャッチコピーと所在地、連絡先、スタッフ紹介とか載せておけばばっちしや」
どうせ細かい事は書いても見ないだろう。
「とりあえず頑張って作ってみる」
「うむ。完成したら私にも送っといてや。あと、車は任意保険にしっかり入らなあかんで」
「あ、忘れてた」
いかんいかん。奴はA型のくせに、そういうところは無頓着な奴だった。今ここで事故でも起こしたら、融和作戦も簡単に吹っ飛んでしまう。しかも、宇宙人側にまで捜査の手が伸びようものなら、どんなボロが出るかわかったもんじゃない。
「とりあえずネットの保険でええから、すぐに申し込んでおけや。社用車だから法人で取るべきやけど、難しいようなら、とりあえずキミ個人で契約しとけばええやろ。対人は同乗者も含めて無制限にしとくんやで」
「やってみる」
とりあえずこんなものか。
「それじゃぁ、引き続き作戦を続行して、レポートを送ってくれ。マデの写真を添えるのを忘れずにな」
「やっぱり変態じゃん。美香さんに言うぞ」
「別にええよ。どうせ美香に見せるし。というか、あいつ俺より好きだぞ」
「時々お前らの事がわからなくなるわ」
ふっふっふ。我ら夫婦の変態っぷりは、そうそう他人に理解はできまい。そうでもなければ、あんな可愛い嫁が俺になつくわけないだろうが。本当のなれそめがそのあたりにあるのは二人だけの秘密だが、言っても誰も信じないだろう。嫁は表では素振りもみせないからな。
それからしばらくはマデの写真が増えるだけの日々だったのだが(美香はかなりマデが気に入ったらしく、会えるのを楽しみしている)、そうこうしているうちに状況が変化してきた。
結局、宇宙人のAI予想は上手く行かなかったのだが、マデが素で言いふらして回った結果、最初は彼女経由で買い物や同乗希望が入るようになり、そのうち彼女抜きでも普通に声をかけられるようになってきたらしいのだ。
残念ながらMuuChart社の宇宙人自体はまだ警戒されているようだが、同乗中に奴が説明したのもあって、出所不明のデマのような誤解はかなり解けたらしい。
人の事はあまり言えないが、奴は童顔で大人っぽくみえないから、接点さえ持てればそんなに警戒されないのは予想できたかなら。そのあたりは、私とは全然違うところである。私の場合、違う意味で逆に警戒されかねない。そういう意味では美香は凄いと思う。最初から気にしなかったからな、彼女は。
さて、そんな日々がしばらく続いたのだが
「なんか、来週野球に誘われた」
という報告が、不意にけなから届いた。
素晴らしい。ついにそこまで来たか、という感じである。
「そこまで?」
「田舎では、野球に誘われたり、ゲートボールに誘われれば一人前なんだよ」
「へー」
どちらもチーム競技だからな。仲間と認められなければお誘いはこないスポーツだ。
「なんなら、以前うちの会社で何を血迷ったか発売した『ゲートボールスティック』を送ってやろうか?」
「え、ぼやさん、あれ買ったの?」
「ああ、面白そうだからつい」
そう、何故かわからないがゲーム会社のくせにゲートボールスティックを発売したことがあるのだ。あれはいったい何本売れたのやら。まぁ、周囲は町工場だから、そのへんの繋がりなのかもしれんが。
「今はいらないけど、必要になったら頼むわ」
「了解」
そしてさらに後日、奴から野球大会の写真が送られてきた。大量のマデの写真に美香が大喜びだったのは説明するまでもない。
かくして「カエリ村の心を開け大作戦」は、マデがトロイの木馬として機能することで、一応の成功をみたのだった。まぁ、予定とは違うが結果オーライである。
なんというか。相変わらず地味なまま終わった第2話。このスタイルだと、ずっと地味なまま終わりそう。一応話が進めば現地での話になるはずですけど。でも第3話もこのスタイルの予定です。




