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No.80 必然の籤(くじ)、あるいは役割の産声




 No.80 必然の(くじ)、あるいは役割の産声




 翌日。2ーCの教室は、学芸祭に向けた熱を帯びた議論の渦中にあった。


 黒板には、チョークの粉を撒き散らしながら書き殴られた多種多様な出し物の案が並んでいる。


 「……えーと。模擬店希望が十人。そのうち六人が飲食関係で、残りの四人がお化け屋敷みたいなアトラクション系。あとはステージパフォーマンス希望が、ダンス、歌、劇、それから……大喜利」


 教壇に立つ真は、手元のメモと黒板を見比べながら、眉間を軽く揉んだ。


 「主導する」と決めた以上、リーダーとして皆の意見を尊重したいと考えていたが、蓋を開けてみれば案は見事なまでにバラバラだった。


 「『まあ、どれもクラス全員で取り組めそうなものばかりだけど……ちょっと! 合コンなんて意見出したのは誰よ! 高校生が学校行事でするもんじゃないでしょう!』」


 真の隣で、まどかが黒板の隅に書かれた「異彩」を指差して吠える。


 真は聞こえないふりを貫くことにした。


 触れれば、この場が別の混沌に飲み込まれるのは目に見えている。


 「……ここから更に絞り込むとなると、時間が足りないね。もし効率重視でいいなら、この中から『くじ引き』で決めてしまおうと思うんだけど、みんなはどうかな?」


 真がクラスメイトたちに問いかけると、意外なほどあっさりと、肯定的な声が四方八方から飛び交った。 


 「いいんじゃねぇのか。今のこいつらのやる気なら、どれに決まってもサボる奴なんて出ねぇだろうしよ」


 最後列で椅子を揺らしながら、宇賀が太鼓判を押した。


 その言葉に引きずられるように、他の生徒たちも「まことが決めるなら文句はない」と口々に賛成する。


 真は頷くと、問題の「合コン」案だけを密かに除外し、他の意見を丁寧に紙に書き写した。


 それを、チョーク箱を流用した簡易的な箱の中に収める。


 「……それじゃ、引くよ」


  教室の空気が、ふっと静まった。


 真は箱の中に手を入れ、中を見ずに一枚の紙を選び取った。


 指先に触れる紙の感触が、なぜか運命の重みを持っているように感じられる。


 ゆっくりと、それを広げた。


「……なるほど。僕たち2ーCの学芸祭での出し物が決まりました。それは──」


 真の静かに告げられる言葉にクラスメイトたちは息を飲んだ。


 「『演劇』だ」


 真が掲げた紙に記された二文字に、教室がドッと沸く。


 出し物の方向性が決まれば、次は「何を演じるか」という議題へと移る。


 童話、古典、現代劇、はたまたミュージカルか。多種多様な意見が飛び交う中、一人の女子生徒がおずおずと、しかし強い意志を秘めた瞳で手を挙げた。


 「……あの、私に脚本をやらせてもらってもいいですか?」


 「脚本? 構わないけど、既存の話をベースにするのかな。それともオリジナル?」


 「オリジナルを……書きたいんです。ダメ、でしょうか?」


 真が問い返すと、彼女は縋るような、それでいてどこか陶酔したような表情で食い下がった。


 「ダメなんてことはないよ。規定では上演時間は三十分から五十分。その枠に収まるなら、ぜひお願いしたいな」


 「あ、はい! 大丈夫です、やれます。……いえ、やらせてください!」


 彼女の異常なまでの熱意に圧されつつも、真がクラスに諮ると、反対する者は一人もいなかった。


 それどころか、流れるような手際で舞台班、大道具班、雑用班と、パズルのピースが埋まるように役割が割り振られていく。


 「……あの、僕が『舞台班|(役者)』に入るのはどうかな? 指揮に回った方がいいんじゃ――」


 「そんなことありません! 演技をしながら全体を統括する方もいます。何より、まことくんは絶対に『舞台映え』しますから。私の頭の中には、もう主役を張るあなたのイメージが出来上がっています!」


 脚本担当の彼女の断言に、真は「そ、そうなんだ……お手柔らかによろしくね」と苦笑いするしかなかった。


 「というわけで、今日の決め事はこれくらいかな。期間は二ヶ月近くあるけど、夏休みを挟むから実質一ヶ月あるかどうかだ。みんな、濃密なスケジュールになると思うけど、学芸祭に向けて頑張っていこう!」



 「「「「おおおおおおおおっ!!」」」」



 真の掛け声に呼応し、地響きのような怒号が教室を揺らした。


 「……いや、マジで怖ぇよお前ら。妙な薬でもキメてんのかってレベルだぞ、これ」


 「『コタローの言い分もわかるけど、これがあれよ。学祭のノリってやつよ。毒食わばお皿まで、踊る阿呆に見る阿呆って言うじゃない』」


 引き気味の宇賀に、まどかがどこか楽しげに、けれど釘を刺すように付け加えた。


 こうして、真を主役とした『舞台』の幕が、否応なしに上がり始めたのである。










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