No.165 検体の座、あるいは筋肉と色彩の洗礼
No.165 検体の座、あるいは筋肉と色彩の洗礼
「騒ぐな! とは言わないが、少し声を落とせ。転校生の紹介が出来ない」
教卓の前に立つ九頭見は教室内でざわめく生徒達を諌めた。すると騒がしかった教室内はさざ波が引くように静かになっていく。
その様子を九頭見の隣で見ていた真は、この教室に来るまでの出来事を思い出していた。
応接室での会話が終わると、九頭見は一旦職員室へ戻り、講義に必要なものを脇に抱え教室への案内をしている時の話だ。
「そうだ。君にはひとつ、礼を述べておこう」
「『お礼? なにかしたっけ?』」
まどかが首を傾げる。真はその疑問を表情に出さず、前を歩く九頭見の背中を見つめたままだ。
唐突に『礼』とは一体何の話だと、真は問う。
「なに。週に一度ある、中身も無い。ムダな話を聞かずに済んだ事への礼だよ」
応接室に行く前に朝礼会議がどうとか話していたのを思い出し。
その事であると言うことを理解した。
真は、自分が「転校生」という特例であったがゆえに、彼女を退屈な朝礼会議から救い出したのだと理解した。
「『ボクが何かしたってわけじゃないと思うけど』」
彼女が呟く通り、それは単なる偶然だ。
真は短く「礼には及びません」と首を横に振る。
「そうだとしてもだよ。週の始まりから憂鬱な気分で教鞭を執る教員というのは、私のみならず君たち生徒も嫌だろう」
「『う~ん……それはちょっと、イヤかもね』」
不快な感情の伝染は、効率的な学習の阻害要因でしかない。真は静かに頷いた。
「そういうことだ――おっと、少し追加だが。先ほど話した件だ」
九頭見は何かを思い出したかのように廊下の電子掲示板を指差した。
そこには株価チャートのように目まぐるしく更新されるリストが並んでいる。
「この掲示板には、私達は依頼タスクと呼ぶが、それが表示される。無論ここだけでなく個々の携帯端末にもそれが届く。そうして生徒達は自分が行える依頼タスクを受託し達成する。達成報告後は携帯端末に達成した依頼タスクに応じてポイントが配当される。得たポイントで品と交換すれば後は送られてくると言うシステムだ。他にも色々とあるが、追々自分自身で確認をしてくれ」
「『便利そうだけど、やっぱり学校って感じがしないところだね』」
九頭見の説明を聞きながら、提示されたシステムを反芻するも、その何処か歪さを感じ、不信感めいたことを口にした。
「そうだな。ここは学びの場であると同時に、社会の、合理的な対価の交換場所でもある。……危うく通り過ぎる所だったな。ここが今日から君の教室となる」
九頭見が急に立ち止まった場所には『2ーC』と札に表示されていた。
「それから自己紹介は簡素なもので良いぞ。どうせ物好きな者やつが呼ばれもしないで、言葉通りにすっ飛んでやって来るだろうからな」
それはどう言う意味かと尋ねる前に、九頭見は教室の扉を開け放ち、中へと入ってしまう。
「そこ、端末を仕舞い席に着け。今日の連絡事項は、先ず転校生の紹介からだ。入ってきなさい」
先に教室へと入った九頭見から招きがあり。
教室に足を踏み入れると、数人の生徒が名残惜しそうに携帯端末の画面を消し鞄に仕舞うのが見えた。
真が一歩足を踏み入れると、数十の視線がレーザーサイトのように彼を射抜く。
それは純粋な好奇心というより、新しく投入された『検体』を観察するような、温度の低い熱だと真は感じた。
真が九頭見の隣に立つと、教室内の生徒達の好奇の視線が更に一点に真へと注がれ。
小さなざわめきだったものが大きくなり。
耳を劈つんざく程であった。
そんな耳を塞ぎたくなるような喧騒の中でも微動だにしない真と、耳を塞ぎ、「うひゃー大きい声」と張り合うように声を上げる彼女は、九頭見の横で立ち続けることで話しは冒頭へと戻る。
自己紹介は九頭見が言っていたように簡素なものとした。
「『おいっす! みんな、ボクは繭住まゆずみ円。こっちの無愛想な子のお姉ちゃんです! 弟のまこと共々よろしくね!』
まどかが全力の笑顔で手を振る。
しかし、教室の反応はゼロだ。誰もまどかを見ず、誰もその声に反応していない。
まどかと真は一卵性の双子であるが、性別が違っても幼少期は瓜二つであることも珍しくない。
真は一瞬誰も居ない空間に目線を送り、掛けていた眼鏡を押し上げ、背後で束ねた髪の感触を確かめ様に触る。
今の彼が眼鏡をかけて後ろで髪を束ねているのは、そうした『似すぎている姉の影』を消すためなのかもしれない。
手を掲げ教室全体に挨拶をする彼女、まどか。
しかし周りは特に反応することなく真を見続けていた。
美弥が前日に話していた。「きっと挨拶時にみんな質問してくるわよ。返答考えておいた方がいいんじゃない?」と、だが転校生に対しての質問責めのような事はしてこなかった。
こちらに興味がない。
と言うのであれば、それはそれで構わないのだが。
こちらに向けてくる視線は、好奇心のある目であることは察することが出来る。
ならば何故? と、疑問符は浮かぶものの。
この時はそれを解消する材料モノを真は持ち合わせてはいなかった。
「……以上か。繭住真、君の席はあそこの、兎束の隣だ。兎束、手を挙げろ」
九頭見が指したのは、中央列の後ろの方。
ただし完全に後ろでもなく真ん中でもない。何となく微妙な位置。
そちらに目を向けると。空いている席の右隣の女子生徒が手を上げ、後ろの席の男子生徒も、にこやかに手を振っている。
そして、手を振っている男子生徒の方が真に声を掛けてきた。
「ここだぞ。転校生」
九頭見の方に目を向けると、少し溜め息を吐き、そこだと言うように頷いた。
席を教えてくれた男子生徒を改めて見る。
髪は染めているのか。やや明るい短髪のツーブロックな茶髪。
人の良さ、優しさなどがじんわりと出てくるような笑みである。
その手の振りが手招きに変わる頃には、真は席へと足を踏み出していた。
それに続くようにまどかもまた歩き出す。
「俺は宇賀琥太郎。後ろの席のよしみだ。よろしくな」
席の前まで行くと男子生徒、宇賀が軽く挨拶をしてきた。
「『よろしくコタロー』」
こちらも軽く挨拶をしてから着席した。
座る席がないまどかは真の傍らに立っている。
「後ろの方の席なのに前に人防波堤もなく。俺には居眠りも許されない立場なのかと絶望感あったけど…。だけど転校生が来るって聞いた時、俺はお前がマジ神様に思えたぜ」
後ろから真を迎え入れてくれていた笑顔は好意からのものではなく。
ただ単に自分にとって都合の良い出来事だったからと言う言葉が聞こえてくる。
「『なにぃ~ボクが防波堤だと! ならばこの鉄壁のディフェンスを見よ! セイッセイッセイッセイッー!』」
そう口にするまどかは横で反復横跳びをすると。
その動きに反応したかのように、真は少しだけ体をずらして座り直していた。
そして意図して発言なのかは知らないが、そんな宇賀の言葉を耳にしてしまうと、宇賀に対する好感が少し下がると、真はわずかに目を細めていた。
その瞳の温度を読み取ったのか、右隣から呆れた口調の声がした。
「また宇賀はアホなこと言って。カッコつけと、その場のノリで物事言うのやめなさいよ。えっと、まこと、くん、っで、いい? 気にしなくて良いからね。こいつ普段から調子良いことしか言わないから」
声のする方に目を向ける。
そこにはスポーツ少女と言った感じの女子生徒が、やや体を後ろに向けながらこちらを見ていた。
「調子良いとは失礼だな。俺は本当の事しか言わないZA!」
後ろを振り返らずとも宇賀が良い笑顔をしていると言うのは何となく想像が出来た。
「『おお…グッドポーズ』」
言葉を交わしたのは少ないが、女子生徒の言うように宇賀はお調子者なのだろう。
彼の人となりは何となく理解したが、いい加減大きな声で喋るのはどうかと思う。
九頭見からの連絡事項が微妙に聞こえずらい。
それは九頭見も同様であったのか。
「うるさいぞ宇賀。あとで連絡事項を聞いていませんでしたと泣きついてきても、私は二度も説明するつもりはないからな」
「うぇ!? なんで俺だけ注意!? こっちだって――」
宇賀はなんで自分だけ女子生徒も加わっていたと言うように言葉を紡ごうとするも、九頭見はそれを遮り。
「話すなとは言わんが、他人の話を遮るような話し方をするな。何よりもその情報が自分とはまったく関わりがの無い情報モノであったとしても、いついかなる時に必要となる情報とも限らないんだ。全体に対して言い渡されている情報に関しては、最低限聞く耳を持つよう癖をつけておけ」
宇賀と一緒に女子生徒も確かに喋ってはいたが、女子生徒の方は声を落とした上で、九頭見の話を聞く耳は有るようにしていた。
そこの違いを考慮して、九頭見は宇賀の方にだけ指摘し、注意を行った。
「…うぇーい」
宇賀は反論ができないと、項垂れるように机にうつ伏せたのか。
返した返事の声は少し曇っていた。
「『おお…コタロー。テンサゲ?』」
宇賀が大人しくなったことで、九頭見は一息を入れるように軽く息を吸い。
連絡事項の続きを話し始める。
「…次に学生会からだ。明日の午後に行われる予定の定期学外清掃の件だが、人員を募集しているとのことだ。ポイントを稼ぎたいと思うもの。日々なにもすることがなく暇を持て余しているもの。善意や奉仕の精神など無くても構わんから、参加できるものは参加するように」
身も蓋もない言い方をしているが、これが先ほど九頭見が話していた『報酬』に関わるものなのだろう。
周りにいる生徒達も参加をするかどうかの話をしているようだ。
「『うーん…話し声からして、みんな参加するみたいだね』」
強制、ではないと言うことらしいが、クラス内の人間ほぼ全てが参加を決意していると言うのは、九頭見が話していた『依頼タスク』の『仕事』をして貰える『ポイント』の割合が良いからなのか。
その辺りの比較基準がまだ無い故になんとも言いがたかった。
「『せっかくだし。ボクたちも参加してみよう!』」
九頭見の話を聞いている限り。
新入や学年が変わった事へのレクリエーションも兼ねて要るのだろう。
だから明日までは半日授業の様な時間割りが組まれていた。
今日明日は急ぎの予定は…特にない。
どんな感じなものかを知るためにも一度くらいは参加しておくべきなんだろうと、そんなことを考えながら、九頭見からの連絡事項は滞りなく伝えられ、朝のホームルームは終了となる。
それから二年と言うことだからだろうか。
それとも半日授業であるからなのか。
九頭見と入れ替えでやって来た教員。
一時限目の授業の鐘が鳴ると、担当教員の自己紹介などはなく、速やかに授業へと移行されていた。
授業内容はまだ始まったばかりだからか、難解と言うほどでもなく。
然りとて容易と言えるほどでもない。ごく普通に無難と呼べるレベルの授業内容。
「ムフゥ…つまりこのようにしなやかな筋肉を利用するとのによって…ハァー…求める値を表すことが、ふんぬぅ…」
……しかし判りやすい。
教え方が上手いと言う意味では間違いなく優秀な教員と言えるだろう。
ただ…これは予め伝えるが、この教員に対して揶揄しているわけではない事だけは始めに言っておく。
「『……上腕二頭筋、三角筋、僧帽筋から三角関数の求める値を導き出すなんて、なんてアメイジングな方法!』」
自らも力瘤を作り教員の真似をしてみるまどか。
数学教員とは思えない。
寧ろ格闘家かボディビルダーを行っている人と言われた方がまだしっくりくる程の、ガタイの良い体つきをした男性教員。
その教員が何かしらの説明の時に矢鱈と自分の肉体筋肉をアピールしている。
「『おお…なるほど。体力と知力を兼ね揃えた人だ…』」
まどかはこの人は敵に回したくないぜと、顎の汗を拭き取るような仕草をしていた。
言っていることは至極真面で紳士的な振る舞いもしている人なんたが…どうにもしっくりこないと言う感じがする人だった。
その後も二、三、四時限と教員が代わるのだが。
国語の講義なのに矢鱈と英単語を混ぜてくる。どう見ても外国の女性教員。
「HELLO!!。Boys&Girls。本日の国語のListenはTwelvePageの枕草子。それでは皆さん、私に続いてLet's Speak──」
「『スプリングはあけぼよ、あれ? あげぽよだっけ?』」
覚えがある文とは違う言い方で話す教員に首を傾げるまどか。
教える科目を間違っていないのか? と首を傾げながら授業を受ける真。
痩せ細った化学の男性教員は怪しい魔法使いと言うか…。
「ヒッヒッヒッ…今日はこちらの指定した薬品を使い調合実験を、ヒッヒッヒッ、どんな反応を皆さんがさせるのか楽しみですね~」
「『おおっ!? 発光してるよ!? なんかゲーミング色に液体が発光してるよ!? これ大丈夫やつ!? ねえ、大丈夫なやつなの!?』」
まどかは真の後ろから七色に輝く液体に戦慄していた。
そんなまどかの盾になるように発光している液体を黙って見つめ立っている真。
「良いですね。良いですね。命の輝きを感じますよ。ヒッヒッヒッ…ヒャアハッハッハッハッ!!」
ゲーミング色に明滅する液体を眺め、化学教員が恍惚とした声を漏らし、奇声のような笑い声を上げた。
ある種のマッドサイエンティストにも見えた。
もっともこちらはある意味では化学の教員としは、正しいのかもしれないが。
朝に職員室に入った時にはあんな目立つ教員は居なかった筈だと言えるほど、個性豊かな教員達だったとだけは伝えておく。
……授業内容はどの人も本当に判りやすかったとも、重ねて告げておきたい。
キーンコーンカーンコーン♪
四時限終了の鐘の音が鳴り。
朝同様に九頭見が現れ、ホームルームが行われた。
「席に着け。ホームルームを始める」
と、言ってもさほどの内容があるわけではない。
朝の時に連絡にあった明日の定期清掃の募集を再度呼び掛けをしていたくらいだ。
もっとも朝程のざわつきはなく。
殆どの生徒達からは「はやくホームルームを終えろ」と言う雰囲気が漂っている感じがした。
その事には九頭見も感じていたのだろう。
若干嘆息の様な息を吐くと。
「…昨今ニュースで取り上げられ知っているとは思うが、豹変したような行動を起こす人間者が見受けられるようになっている。この町でも類似した事件が在ったと警察から連絡が寄せられた。お前達もそう言った者が居たら興味本位に近寄らず。速やかに安全な場所へ待避し。可能であれば、最寄りの交番。または警察への連絡をするように、何故ならそんな輩に関わってもお前達の利益になることは一つも無いからだ……以上だ。帰宅する者は気をつけるように」
その言葉を聞くと、ほぼ一斉に生徒達が席から立ち上がり。
教室から退室していく。
「ふふ~ん♪ Igohome 夢を掴むために~♪ ん? あれ? まことは帰んねぇの?」
宇賀が帰ろうとせず、今だに席に座っている真に声を掛けてきた。
「『え? コタローいまの朱巳ちゃん先生の話しちゃんと聞いてた?』」
帰宅することはするが、先程の九頭見の連絡事項で少し疑問に感じ。
それを考えている間に席を立つタイミングがズレてしまっただけだ伝える。
「なんかおかしな事でもあったか?」
これは大小で物事を計る部類のモノではない。と言うことを前提として。
「『だって危ない人がいるって話じゃん。それでもお掃除するの?』」
警察より連絡があって、学院に対して注意喚起をしてきたにも関わらず、明日行われる清掃活動を中止しないことに対してだ。
「あー…それか。まっ、お前は転校してきたばっかで、どこ掃除するやるとか、あいつらが居ることとか知らないからそう言う感じにもなるのか」
九頭見の話では学外、特に通学路周辺との話だったと思うが、違うのだろうか。
それに『あいつら』と言うのは、それを疑問に思い宇賀に聞くと。
「いや。それもやることはやるぞ。時期が違うだけで。今回やるのはマジで学院周辺のみだ。あー…あいつらに関しては厄介事を起こさなきゃ大丈夫だ。見かけても風景の一部とでも思っておけ。俺はもう関わりたくねぇし。しつけぇんだよ、あの腕章どもは!」
どう言うことだろうか? それは通学路は含まれないと言うことだろうか。
それに『あいつら』『腕章』などと言う以上は人だろうが、それを『風景』と呼ぶとは。
彼らの話の横でまどかは答えはなんだろうと文字通りに頭を捻りながら考えている。
「じゃあちょっとヒントだ、転校生のまこと。この学院だ。そんでここはどこに建ってる」
宇賀は地面を指差すようにして、何処となく楽しんでいる様にも見える。
だがそんな宇賀の事を気にすることもなく、彼が何が言いたいのかすぐに気が付く。
「『ここお山にある学院だから。もしかして明日お掃除するところって――』」
「俺らは一年の時も今回と同じ依頼があったからな。どこやるかわかっている分、それなりの覚悟はあるけど。はじめてのヤツには、ちとキツいぜ」
人の悪そうな『ニヤリっ』とした笑みを浮かべ楽しんでいる表情を見せる。
それも自分が思っていたのと違う事に度肝を抜く様子を見るのが楽しみだと言うような。
ある意味で悪趣味な顔つきで。
「まっ、っうわけでだ。明日の学外清掃がどこやるかは明日その時のお楽しみと言うことで、ばいなら――」
宇賀は時代錯誤な挨拶をしながら扉へと向かい歩いていく。
「『ばいちゃ~』」
その様子を狐につままれたような顔しながらまどかは返事を返していた。
………………………ドドドドドドっ!!
そして宇賀が扉に手を掛ける少し前辺りから、扉の向こう。
つまり廊下の方から誰かが唸るような、叫ぶような。
もしくは奇声を上げながら廊下を爆速で走る様な響きが聞こえ――
――――うにゃらばらー! まだいらっしゃいますかー!!」
宇賀が開けようとしていた次の瞬間。
反対側の扉が勢い良く…いや、開け放たれた扉が吹き飛ぶのではないかと言うくらいの勢いで開いた。
「どうおぉっ!? ――アブねぇじゃねぇか!!」
宇賀の指が挟まれるギロチンになるのを危うく回避し。
その行いをした者を怒鳴るように声を荒げ、睨み付けるが。
そこに居る人物を見るや。
対応が軟化していくように思えた。
「『うにゃっ!? だ、誰!?』」
まどかは突然の乱入者に驚き。
慌てて真の後ろに隠れるように回り込むと、真はまどかを守るような立ち方をしていた。
「って、ワン子かよ!」
「これは琥太郎くん。もしかしてやらかしましたか? それは申し訳ありませんでした」
扉を勢い良く開け放った、背丈からして下の学年の女子生徒なのだろう。
──は、宇賀の荒げた声に、本人は何をしたのか思い当たる節がないと、小首を傾げる。
しかし普段からこの様なやり取りがあるのだろう。素直に自分に非が在ったのだと頭を下げた。
その態度に宇賀の怒りは完全に霧散すると、女子生徒の頭に手を置き。
まるで犬猫をなで回すような、それでいて無遠慮な感じに手を動かした。
「『こら! コタロー女の子の頭を乱暴に扱うな! コタローアウト~♪』」(シュッ シュッ)
まどかは現れた女子生徒に対して乱暴な扱いをしている宇賀に向けて蹴り込んでいる。
だがその威力がまったく無いのか。
宇賀は居に返さずにいた。
会話からして双方知り合いなのだと言うことは理解できる。
しかしだからと言って、いくらなんでも女性の髪をあんなに乱雑に扱うのは、どうかと思うのだが――
「ちょっと、琥太郎くん。髪が乱れるですよ」
されている本人はさして嫌がる素振りを見せていてない。
……もしかして恋仲の関係なのだろうか?
それならばなで回すああした行いをされても平気、なのだろう、と思う。
その辺りは個人の感覚なので、良く判らなかった。




