No.143 真円を綴る者、あるいは虚飾の終焉
No.143 真円を綴る者、あるいは虚飾の終焉
【承認を確認しました。……これより『繭住円』の全存在パラメーターとの同期を開始します。……論理と縁の再定義を開始します】
白黒の霧が晴れた世界の中心。
そこに立っていたのは、もはや崩れゆくナニカではない。
真と鏡合わせのように、けれど春の陽だまりのような確かな体温を予感させて立つ、一人の少女。
ようやく自分を『認識』してくれた真を見つめ、まどかの瞳には今にも涙が溢れそうになる。
だが、彼女はそれを堪え、深く、力強く頷いた。
今は言葉を交わす時ではないことを、誰よりも理解している。
彼女は真のすべて――その罪も、欠落も、冷徹なシステムさえも受け入れるように、静かに両手を広げた。
真もまた、無言で彼女に応える。
その掌に、網膜を焼くほどの目映い銀光が凝縮された、一本の巨大な『絆の鍵』が具現化する。
本能が理解していた。大口一子が呼び笛を手にしたときにその全能を知ったように、真もまた、この鍵が何を成すべきものかを「知って」いた。
真は鍵を逆手に握り直し、ためらうことなく、姉、まどかの胸の中央へと真っ直ぐに突き立てた。
「『……ぁ、っ……!』」
まどかが苦悶に表情を歪め、その体から火花のようなノイズが弾ける。
だが真は、その痛みを自身の神経で分かち合うように、震える腕で鍵を深々と押し込み、一気に回した。
カチリ──
世界の理が音を立てて噛み合う、重厚な金属音。
その瞬間、まどかの体が精密な立体パズルが崩れるように光の幾何学模様へと解体され、爆辞的な光の粒子へと変換された。
「『ボクはいつだって───まことを守ってあげる。なんせ、お姉ちゃんだかね!』」
光の奔流となった彼女は、真の周囲を慈しむように、そして守護する障壁となるように激しく旋回する。
まどかが苦悶に表情を歪め、その体から火花のようなノイズが弾ける。
真の衣服が光に呑まれ、粒子が一枚一枚の布を編み上げるように再構成されていく。
それは神聖な儀式であり、同時にかつて失われた半身を取り戻すための、魂の融合だった。
光の柱が天を突き、カテドラルの白黒の空を真っ二つに叩き割る。
やがて光のうねりは真の肉体の中へと、心臓の鼓動と共に吸い込まれていった。
光が収まり、静寂が戻る。
そこに立っていたのは、もはや無機質な『人という形をした器』ではなかった。
右目には情報の奔流を支配し、真実をのみ透過する銀の縁取りの片眼鏡。
漆黒の闇よりも深く、それでいて銀河の如き煌めきを内包した、真実を綴るための濃紺の魔法使いのローブが風にたなびく。
そして左手には、この世界のあらゆる嘘を暴き、改竄された歴史を正しく記録するための、銀の鎖で繋がれた重厚な魔道書が鎮座していた。
【……インテグレーション完了。システムオールグリーン……出力、最大。……個体識別名:『真円を綴る者』の顕在化完了。───あなたの行く道に光があらんことを】
真と円、二つの魂がひとつとなった一人の青年。
彼は、その無機質だった瞳に「意志」という名の火を灯し、静かに魔道書を開いた。
「――大口一子。ここからは、僕たちの言葉でこの世界を綴り直す」




