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No.11 作者と読者、あるいは因果の紡ぎ




 No.11 作者と読者、あるいは因果の紡ぎ




 「──問います。あなたはいったい、何者ですか」


 真は一歩も引くことなく、しかし全身の神経を尖らせて目の前の怪僧を見定めた。


 その胸元からは、半透明のまどかが突き出た状態のまま、「べろべろばーっ!」と和尚に向かって全力で変顔を作り、これ見よがしに煽り立てている。


 そんな歪な二人を交互に見つめていた和尚は、やがて、自らの青々とした禿頭をペシペシと、何度も何度も小気味よく叩き──


 「──あっはっはっはっはっはっ!!」


 突如として、天を仰いで豪快に、地響きのような大笑いを弾けさせた。


 「『うおっ!? 何、何で急に笑い出したの、このおしょさん!? ボクの決死の変顔がそんなにツボに入ったの!?』」


 「いやはや、いやはや! まさかまさか……この拙が、ここまで見事に追い詰められるとはなぁ!」


 「……否定はしないのですね。まあ、これだけ突きつけられては、言い逃れのしようもありませんか」


 「うむ、うむ。まさに()()()どのの言う通りだ」


 「──ッ!? あなたは、まさか……! 本当に如是和尚、なのですか? 僕たちの世界にいた、あの……!」


 親しげに自分の名を呼んだ男に、真の脳裏をかつての穏やかな日々がよぎる。


 だが、和尚は笑みを浮かべたまま、掴みどころのない調子で首を横に振った。


 「それは少し違う。拙はどちらの世界の住人でもあり、同時に、どちらの世界の住人でもなしだ」


 「……煙に巻くような禅問答をしたいわけではありません。この歪な十王市を作り出したのは、あなたで間違いないのですね。如是和尚」


 「然り」


 「なぜ、そんなことを……。あなたが『欠落した獣』と契約を交わした想像主であるならば、あなたはいったい、どんな歪んだ望みを持ってこの世界を作り出したと言うのですか」


 真の鋭い糾問に、和尚はふっと目を細め、どこか遠くを見るような、酷く懐かしむような声音で呟いた。


 「……望み、か。それについては、以前にもまことどのに言ったはずなのだがな。覚えてはおらぬか?」


 「以前にも? ──いつの話ですか。少なくとも、僕と如是和尚、あなたと出会ってからは、まだ一年にも満たない間柄のはずですが」


 「あっはっはっ! 忘れてしまうのも無理はないか。何せ、もう十年も昔の出来事だからな」


 「十年前……?」


 その不吉なワードが紡がれた瞬間、真の心臓がドクンと嫌な音を立てた。


 「まことどのと初めて会ったのは、あの綺麗な湖畔であったな」


 「───ッ!!!!」


 真の全身の血の気が、一瞬で引き枯れた。


 「もっとも、あの日、あの時は……突然の不吉な雨雲のせいで、晴れ晴れとした景色などは一望できず。代わりに広がっていたのは、重々しい曇天の空。赤赤と燃え盛る、焼ける木々。そして──」


 (あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ない──!!!!)


 真の視界が激しく明滅する。


 脳内の演算回路が、押し寄せるあまりの恐怖と矛盾に、火花を散らして悲鳴を上げていた。


 ここにいるのが。


 今、僕の目の前でニヤニヤと笑っているこの男が。


 僕の全てを失った、あの日の──アイツだなんて。


 「そう言えば、あの時もまことどのは拙に問うていたな。ならば──あの時の続きと洒落込もうか、まことどの」


 和尚は、いや、和尚の形をした『それ』は、濁った半開きの目を怪しく歪める。


 ──『神』か。と、あの日の幼子が問えば。


 「否。拙は世界を紡ぎ出し、因果を弄ぶ『作者』なり」


 ──『悪魔』か。と、燃え盛る炎の中で泣く子が問えば。 


 「否。拙は配された登場人物の生き様を、世界の終わりを観測する『読者』なり」


 真の身体が、カタカタと音を立てて震え出した。


 眼鏡の奥の瞳が、恐怖によって見たこともないほどに激しく縮小していく。


 胸元でふざけていたまどかも、真の異常な震えと、目の前の男から放たれる圧倒的な『ナニカ』の気配を察し、完全に凍りついていた。


 「拙は無類の作者。そして、無辜の読者である」


 「……お前、は……。お前は、あの日の──『異形のバケモノ』……ッ!!」


 如是和尚──その皮を被った存在の正体。


 それこそが、十年前。真の両親と姉まどかを不慮の災害で失ったあの日。


 真自身も死の淵に瀕していたあの日、燃え盛る湖畔から突然現れ、真と契約を交わした──あの、『異形のバケモノ』そのものだったのだ。











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