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No.21 価値の暴走、あるいは天空の戦鳥




 No.21 価値の暴走、あるいは天空の戦鳥




 ──ドォォォンッ!!!


 黄金の宮殿を貫くように架けられた空中階段を、真は文字通り飛ぶような速度で駆け下りていた。


 彼のすぐ真横、ほんの数センチメートル先を、超高熱の爆炎と衝撃波が容赦なく掠めていく。


 「『反則! あれは絶対に反則だってばぁぁあ! きゃあぁああああ!!』」


 「叫ぶ暇があるなら、僕に同期して防衛力を上げてください──くっ!」


 濃紺の銀河を纏うローブの障壁を展開しつつ、真は迫り来る死線へ冷徹な視線を向けた。


 爆炎の向こう側から現れたのは、「無明の面」の姿をとなった鳳千鶴。


 純白の翼を戦闘機の推力のように激しく羽ばたかせ、蒼天を恐るべき速度で滑空する彼女の両手には黄金の粒子が収束し、異形の重火器が形作られる。およそ神域には不釣り合いな、巨大なツインバズーカが握られた。


 ──放たれる、光を纏った高速の弾道。


 直撃を避けて真が真下へと跳んだ瞬間、彼がそれまで足場にしていた空中階段が、跡形もなく消滅して弾け飛ぶ。


 「……『価値の操作』。思った以上に、システムとして厄介ですね」


 落下しながら真は、右目の真円を覗くもの(片眼鏡)を介して敵の戦術をスキャンする。


 千鶴の手の中で、撃ち殻となったバズーカが黄金の光の粒子へと変換され、次の瞬間には巨大な「金塊」の束へと姿を変えた。


 そして、彼女がその金塊をさらに別の重火器へと再変換し、銃口をこちらへと狙い定める。


 「あれでは、等価交換の意味を成していません」


 リベレーターの演算は、ヘヴンリー・スケールの欺瞞を即座に見抜いていた。


 等価交換とは、固定された普遍的な価値があってこそ成立する。


 しかし、この世界における価値の基準を決めているのは、他ならぬヘヴンリー自身だ。


 神の胸三寸一つで、路傍の石ころを世界滅亡の兵器に引き上げることもできれば、最高価値の金塊をただの使い捨ての弾丸としても出来る。


 相手の土俵(フィールド)で、相手がルールを握ったまま戦う。


 そのこと自体の不条理。


 「……手がないわけでもありませんが。こうも隙間なく飽和攻撃を仕掛けられては、反撃の演算を完了させる余地(猶予)が作れない……!」


 濃紺の銀河を撒き散らしながら、真は縦横無尽に空中を転がり、神の弾幕を紙一重で回避し続ける。


 攻防の主導権を完全に握られた混沌の戦場で、リベレーターが、真円を覗くもの(片眼鏡)が逆転の「真実」を紡ぐ一瞬の隙を狙っていた──。


 空中階段を爆破されながらも、真は銀河の軌跡を描き、どうにか地上へと滑り降りた。


 だが、着地したアスファルトの感触を確かめた瞬間、右目の真円を覗くもの(片眼鏡)が弾き出した周囲の構造データに、真はさらに眉をひそめることとなる。


 「……街が無人となり、この黄金の都だけが独立したシステムとして起動している。芳しくないですね」


 「『え!? なに!? どういうこと!? 人がみんな消えちゃったってこと!?』」


 パニック寸前のまどかの声に、真は「つまり──」と言葉を紡ぎ、目の前の光景を指し示した。


 ドクン、と不気味な脈動と共に、十王町の美しい黄金のビル群がぐにゃりと融解するように姿を変える。


 それは瞬く間に、真たちを押しつぶさんとする無数の「巨大なクレーンアーム」の形状へと再構成されていった。


 「ああいう質量兵器が、この空間内では『コストゼロ』で作り放題ということです」


 「『チートだもうこんなの! 等価交換の原則を守れ!ハガネ兄弟が暴動起こすぞ!!』」


 凄まじい風切り音を立てて、頭上から次々と容赦なく落下してくる黄金のアーム。


 真はそれらを紙一重のステップで躱し、損壊していく街の残骸を縫うようにして、ある一点を目指して走り出した。


 「『まこと! ライアーやレグルスたちの能力をぶつけるのは!? 彼らの力なら対抗できるんじゃ……!』」


 「無理です。ライアーの能力は『虚飾』──その嘘の価値すらも、ヘヴンリーに基準を書き換えられれば一瞬で霧散します。レグルスの『規律』も同様に、その基準を上書きされる。ヴィクセンの『変質』はただの幻覚に等しい。高速で動く相手と今のこの物理フィールドでは意味を成しません」


 迫り来る黄金の触手のような構造物を魔道書で切り払いながら、真の論理回路は味方の手札を冷酷に仕分けていく。


 「ラビットの『煽動』による肉体組織の限界突破なら、この状況を一時的に打破できるかもしれませんが……僕の肉体が持たず、後が続きません。アビスの『断絶』なら相手の記憶から僕の存在を消すことは出来るでしょうが、そもそも彼が今この状況下で協力的になってくれるかどうかも不明です。無闇に不確定要素へ手を出し、リスクを負うことは避けたい」


 「『だったらクレイドルは!? あの惰眠猫の力はどうなのよ!?』」


 「……彼の『忘却』なら、ヘヴンリーが設定した価値基準そのものを文字通り消し去り、無力化できる可能性があります。ですが──」


 ──ドガァァァン!!!


 真の背後で、先ほどまで彼がいた地面が巨大な黄金の質量によって爆沈した。


 無明の面をつけた千鶴の追撃は、およそ喋る暇すら与えないほどに苛烈さを増していく。


 背後の純白の翼から放たれるのは、一切の慈悲なき絶対的不当等等価交換の弾幕だ。


 「『ちょっと! あのおばあちゃん、現実だとあんなに優しかったのに、全然平和主義じゃないじゃないの!!』」


 「それすらも、ヘヴンリーによる『平和を守るための最適化』……価値の操作による弊害でしょう。──とりあえず、()()に行けば、こちらもシステム的に打てる手があるかもしれません」


 千鶴の猛攻を背に受けながら、真の右目が真円を覗くもの(片眼鏡)の奥の視線を定めた先。


 それは、彼らが通う全ての日常の起点──『北王子学院』の校舎だった。真は濃紺の粒子を爆発させ、見慣れた、しかし黄金に染まった通学路を、一閃の矢のごとく疾走する。













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